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「俺は行くぜ」
フリードが全く迷う色を見せず即断した。「迷いは弱さにつながる」ことを信条とする彼は常に即断即決である。そして己の下した決断に後悔したことは一度も無い。
「竜王を倒して竜殺しとなり、このフリードの名は千年後まで語り継がれることは確実となった。だが、もうこれ以上武名を高めようがない、残りの人生は退屈と言う名の敵と戦いながら過ごすしかないと諦めていたが」
フリードの琥珀色の瞳に凄まじい光が煌めいていた。それは野心であり、決して尽きることの無い功名への渇望であった。
「未知なる敵である天使を滅ぼし、さらに竜教徒やらが崇める聖なるドラゴンとやらも討つことが出来れば、このフリードの武名は永遠不滅のものとなるはずだ。行かないはずが無いだろう。俺は誰が何と言おう行くぞ。例え俺一人であってもな」
「お前って奴は……」
一同は呆れと同時に怖れも少し感じていた。
常に一瞬も迷うことなく決断を下すことが出来るフリードの金剛石のような意志の強さに一同は敬服し、リーダーと認めその判断に従ってきたからこそ、様々な試練を乗り越え、竜王を討つことが出来たのは確かである。
だがフリードの常軌を逸した功名心の強さ、執着は到底理解し難く時にはついていけないものを感じる。
「私は今回は無理だな」
ヴァレリウスが言った。
「私は既に騎士として叙任を受けた身だ。武者修行の一環として冒険者のように自由に旅をすることはもはや許されない。金羊騎士団の騎士として、エトルリアを守る為にここに残って天使と戦おう」
「そうか。まあ、お前はそうだろうな。精々頑張ることだ」
フリードはあっさりと言った。「俺一人でも行く」という言葉ははったりでも何でもなく、旅に同行しないという決断を下した仲間を説得する気は皆無なのだろう。
「己の決定を他者に強要しない」というのもフリードの信条の一つであった。
「わしは行くぞ」
ラルゴはその見事な顎鬚を震わせながら言った。
「天使とドラゴン、それぞれの頂点に立つ存在を討つ武器を鍛えねばならん。その為には直接そ奴らをこの目で見ねばならぬからな。そうでなければ本物の武具は打てん」
「助かるぜ。やっぱりあんたが鍛えてくれた剣でなけりゃ駄目だからな」
フリードは嬉しそうに言った。フリードとラルゴは気が合う。フリードは武名を輝かせる、ラルゴは武具職人としての道を究めるという単純な生き方を己に課しているが故だろう。
「僕は無理かなー」
クォーツが言った。
「親父の病気が重くてね……。白銀天秤商会の代表を継いでしまった以上、僕ももう冒険者には戻れない。商人としてのやり方で天使と戦っていくさ。騎士団や冒険者の支援という形でね」
「はいはーい。じゃあ、代わりにパールが皆さまの旅に同行するよ」
パールが手を上げた。
「はあ?何言ってんだお前」
「いいじゃん。もう決めたから」
兄を睨み付けながらパールは言った。そして勢いよく椅子から立ち上がり、一同に己の存在を誇示するように胸を張った。
「パールは役に立ちますよ。馬鹿兄貴以上に確実丁寧に偵察調査などの、斥候としての仕事を務めてみせます。そして何より……出ておいで!」
パールの声と同時に二体の奇妙な生き物が現れた。掌の上に乗る程の小さな少年、少女で、その髪は緑の葉のようである。
「ドリアードですか」
エリアがほんのわずか感嘆したように言った。
「ノービットは大地の精霊の力を借りて動物や一部の魔物と意思を疎通できると言いますがドリアードを操れるのはかなり珍しいですね」
「そうでしょー」
パールは誇らしげに応じた。
「馬鹿兄貴は鳥を操ることが出来るけど、所詮鳥は鳥でしかないからねー。出来ることは限られてるでしょ。その点、この子達はいろんなことが出来るから。連絡、伝達、に戦闘補助。皆さまの冒険の大いなる助けとなることをお約束いたします」
「お前、要するに売名が目的なんだろう」
クォーツが厳しい表情で言った。
「英雄として名高い彼らに付いて行けば楽して有名になり、僕以上に大きな商売ができるとか、単純に考えてるんじゃないか?あのな、世の中そう甘くは……」
「売名目的、大いに結構じゃないか」
眉を吊り上げて反論しようとしたパールに代わってフリードが言った。
「冒険に出るには充分立派な理由だ。俺もそうだからな。気に入った、歓迎するぜ、パール」
「ありがとうございます!皆様よろしくお願いしますね」
「おい、フリード……」
「別にいいだろう。本人の好きにさせてやれ。それにどのみち危険な任務を果たすにはノービットの力は絶対に必要だ。お前がこれない以上、代わりの者がいるんだ。その点お前の妹なら信用できる」
「ったく、どうなっても知らないからな。全く」
クォーツがしぶしぶ了承した。
「無論俺も行くよ」
微笑みを浮かべながらハスバールが言った。
「ドラゴンを信仰する東方の国の女性を是非愛でてみたいからね」
ハスバールは女好きを公言している。事実その性的魅力で女性を引き付けて止まず、常に大勢の女がいるようである。
しかし実際は口で言う程女性や快楽に対して執着をもっていないようであり、実際彼が何を考えているのか、本当は何を欲しているのか定かではない。
そう言う意味では得体の知れない男であるが、常に陽気で前向き、和を重んずるハスバールが一行の精神的支柱であることは疑いなかった。
「ではこれで決まりましたね」
エリアが一同を見回しながら言った。
「フリード、ラルゴ、ハスバール、それにパール、そして私。この五人でドラゴンを信仰する東方の国へ向かいましょう。天使の正体と目的を突き止める為に。危険な旅となるでしょうが、皆覚悟はよろしいですね?」
四人は力強く頷いた。