テラーノベル
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付き合い始めて、一週間。
りうらは、まだ慣れていなかった。
手をつなぐ距離。
隣を歩く速度。
名前を呼ばれるときの、声の温度。
「りうら」
それだけで、心臓が一段飛ばしする。
(……冷静に)
そう思うたび、無理だと悟る。
⸻
「でさー、その新人がさ、マジでさぁ」
ないこは、いつものテンションで話していた。
カフェ。
平日の昼。
大学の休み時間。
「聞いてる?」
「……聞いてます」
「目、泳いでるけど?」
ないこがにやっと笑う。
「……だって」
りうらは、少し声を落とす。
「ここ、人多いです」
「なに、今さら」
ないこは、ストローをくわえたまま言った。
「堂々としな?」
「……無理です」
だって。
ないこは、平気で距離が近い。
ひじが当たる。
笑うと顔が近い。
(周りにバレる……)
そう思った瞬間。
「え?」
隣の席から、声がした。
「……ないこ?」
二人同時に、びくっとする。
⸻
振り向くと、そこにいたのは――
ないこの友達。
ギャル仲間の、まゆ。
「なにこの組み合わせ」
目を細めて、じっと見る。
「弟?」
「……ちがう」
ないこが即答した。
「いとこ?」
「ちがう」
「じゃあ……」
まゆの目が、きらっと光る。
「彼氏?」
「……」
沈黙。
りうらは、固まった。
(終わった)
ないこは、一瞬だけ考えてから。
「……うん」
さらっと言った。
「彼氏」
「は????」
まゆの声が、店内に響いた。
「ちょ、ちょっと待って! 年下すぎん!?」
「大丈夫だから」
「なにが!?」
りうらは、思わず頭を下げた。
「は、初めまして……」
「礼儀よすぎて逆に怖いんだけど!?」
ないこは、けらけら笑う。
「昔から知ってる子だから」
「それが一番怖いわ!」
周囲の視線が、集まる。
(……やっぱり)
⸻
その日の夜。
「……ねぇ」
家の前。
「やっぱり、言うの早すぎましたよね」
りうらが言うと、ないこは首を横に振った。
「いいじゃん」
「よくないです」
「どっちみち、バレるって」
「……それは、そうですけど」
ないこは、少しだけ真面目な顔になる。
「隠すつもり、ないよ」
「……」
「ちゃんと好きなんだもん」
その一言で、文句が消える。
「……ずるいです」
「今さら?」
⸻
数日後。
今度は、りうらの番だった。
大学の友達と、駅前。
「りうら、今日彼女と会うんだっけ?」
「……はい」
「年上なんだよな?」
「……はい」
「何歳?」
一瞬、間。
「……秘密です」
「怪しすぎ!」
そこへ。
「りうらー!」
聞き覚えのある声。
振り向いた瞬間、友達全員が固まった。
「……え?」
「……え??」
ないこは、手を振って近づいてくる。
「ごめーん、待った?」
「い、いえ」
友達の視線が、交互に行き来する。
「……彼女?」
「はい」
即答。
「……大人じゃん」
「失礼だな」
ないこが笑う。
「ちゃんと彼氏です」
りうらの肩に、ぽん、と手を置く。
「この子」
友達Aが、ぽつり。
「……ロリコンじゃないよな?」
「逆だ」
りうらが真顔で言う。
「ずっと待った」
「重っ」
「純愛すぎて引くわ」
ないこは、腹を抱えて笑った。
「でしょ?」
⸻
それから。
驚かれた。
突っ込まれた。
からかわれた。
「8歳からって何!? 漫画!?」
「時を超えた恋かよ」
「逆に尊敬する」
でも。
否定されることは、なかった。
りうらが、ちゃんと大人で。
ないこが、ちゃんと向き合っているのが、伝わるから。
⸻
夜。
二人で並んで歩く。
「大変ですね」
「まぁね」
ないこは肩をすくめる。
「でもさ」
りうらを見る。
「胸張りな?」
「……はい」
「世界一長い片想い、成就させた男なんだから」
「それ、恥ずかしいです」
「事実じゃん」
ないこは、ぎゅっと手を握った。
「バレても、平気」
「……はい」
「だって」
にっと笑う。
「あたしが選んだ人だもん」
りうらは、静かに笑った。
8歳の恋は、
もう秘密じゃない。
堂々と、
少し笑われながら、
ちゃんと――幸せだった。
――続く。
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