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夏が迫る前に預金を使って着物を買った。
言い出したのは京之介くんだった。
私が京都へ来た最初の頃、祇園で着物姿の女性たちを羨ましそうに見ていたのを、覚えていてくれたらしい。
今後のことなんて何も考えず、後期の学費を払う余裕がないくらい引っ張り出して、なかなかに良い色合いのものを選んだ。
白を基調としその上に牡丹の花が咲き誇っている美しいものだ。
「花嫁さんが着る白無垢みたいやな」と京之介くんが言った。
「え、こんな可愛いの着るなら俺も着飾らなきゃじゃん」と鞍馬は不満を言った。
家族に向けて遺書も書いた。
お姉ちゃんの書いた切羽詰まった様子の窺える内容とはまた違う、穏やかな内容のものだった。
日頃の感謝と、これまでの感謝と、これからのことを少しだけ。
鞍馬は書く相手がいないと言っていたが、大学の友人には軽くLINEを送っていた。
残された時間の中で、三人で何度もセックスをした。
「ぁ……っあ、京之介くん、」
「瑚都はいっつも京之介ばっかだね。今腰振ってんの誰だと思ってるの?」
自分の下にいる京之介くんにキスばかりしていると、後ろの鞍馬の打ち付けが激しくなる。
体を震わせて達する私を抱き締めて撫でた京之介くんが、鞍馬に「おい、もうちょっと加減せえよ」と注意する。
「別にいつもこんな感じなんですけどね。“京之介くん”がいると感じやすくなるみたいで。……あ、俺まだイってないから。ごめんね?」
謝りながらも容赦ない動きを繰り返す鞍馬にまたおかしくなりそうになる私の顔を京之介くんが上げさせた。
「可愛い。イク顔見して」
「~~~っ」
私が再度達するのと同時に、中に鞍馬のものが吐き出される。
「好きな人の前で中出しされてどんな気持ち?」
鞍馬が肩で息をする私を見下ろして笑った。
もうそれに言い返す気力もない。
「瑚都ちゃん、次、俺」
京之介くんが私を横に倒し、指で丁寧に私の中の鞍馬の精液を掻き出すと、今度は自分のものを後ろから入れてきた。
「え~。俺まだいけるのにぃ」と鞍馬はぶすくれたが、私の横に寝転がると、「じゃあ今度は俺とちゅーしよ」と唇を食んでくる。
この部屋で三人で生活するようになってから、セックスとセックスの間に休憩時間が入るのは、連続で何度もやれる鞍馬としては面倒だろうなと思った。
「何締めてるん、瑚都ちゃん」
「ぁ、違う、」
「キスされて感じたん?俺以外の男に?」
散々開発された奥をぐりぐり刺激されて意識が飛びそうになる。
「……あかん子やなぁ」
京之介くんが私の体を抱き締めたままうつ伏せにさせ、体重をかけて自分のものを押し込めてきた。
もうシーツはぐしょぐしょで、自分から漏れ出る声もどんどん大きくなる。
すると京之介くんの手が後ろから回ってきて私の首を締めた。
私の声が出なくなった代わりにベッドの軋む音だけが部屋に大きく響く。
苦しくなってきたところでぱっと手が離れ、悲鳴のような喘ぎ声が漏れた。
「ごめんなさいは?」
「……っぅ、ごめんなさ、ごめんなさい……っ」
「俺のこと好きやんな?」
「好き、好きッ」
「鞍馬くんより?」
「……ッ」
「何黙ってるん?痛いことするで?」
「好き、ぁ、あ、」
「あーええ子。誰より?」
「鞍馬より好き、……ッもうだめだめだめだめ死ぬ、死んじゃう、」
「ほなええよ、死んで。死ね」
さっきからずっとイきっぱなしで本当に死ぬんじゃないかというほど身悶えている私の奥をとどめとばかりに圧迫し、甘い声で死ねと言う京之介くん。
その声と共に大きな波が押し寄せてきて、びくんびくんと体が揺れる。
「絶対今の俺への仕返しでしょ」
鞍馬がクスクス笑っている。
京之介くんはそれを無視して私のうなじに噛み付き、ぢゅっと痛いくらいそこを吸ってキスマークを付けた。
「なんだかんだオニーサンが一番鬼畜ですよねぇ」
仄かに煙草の匂いがして、鞍馬が吸い始めたのだとぼんやり思う。
「今日は気絶させないでくださいよ?瑚都に構ってもらえないとつまんないんで」
「ここで煙草吸うなや」
「はいはい。あ、今日晩飯どーします?」
二人が日常会話をしている下で、私は意識を保つので精一杯だった。
――この生活を始めて一ヶ月ほどが経とうとしている。
こちらも言い出したのは京之介くんで、自分の見ていないところで鞍馬とされるのが嫌だから、せめて自分の前でしてくれと要求してきた。
だから私はあの日から鞍馬と二人きりのセックスはしていない。鞍馬もそれを了承している。
面白がってこっそり手を出してこようとする時はあるけど、それは私が全力で抵抗して何とかしている。
ふとカレンダーが目に入った。
もうすぐ七月が終わろうとしている。
七月分のバイト代の確認しなきゃ……なんてぼんやり思っていると、京之介くんが無理矢理キスをしてきて、そんなことを考える余裕はなくなった。
三人のうちの誰のものだか分からない体液がシーツをぐしょりと濡らしている。
朦朧とする意識の中、喘ぎすぎて声を嗄らしながら、きっと私たちの関係性は他の人から見ればどうかしているのだろうなと思った。
私が生活費出すからバーテンはやめていいと言ったのに、鞍馬は結局最後まで働いていた。
鞍馬は結構ブランドものに興味があるタイプで、私が稼ぐ程度のお金じゃ最後の時を楽しめないらしい。それに、バーでの仕事や出会いもそれなりに嫌いじゃないらしかった。
鞍馬の女の子へのプレゼント代やホテル代を考慮すると確かに足りないなと思ったし、“体売れ”と言われるかもしれないと構えていたのに、鞍馬には「別にお金の問題じゃないからいいよ」と言われたので黙ってしまった。
ある日、京之介くんの帰りが遅くなる日に、鞍馬は晩ご飯を食べに行くついでに私をドライブに連れていってくれた。
急ブレーキをかけた時、車内に置いてあるTomFord香水の瓶が床に落ちた。それを拾いながら鞍馬が言った。
「これまだ結構あるのに、残すの勿体ないな」
そしてふと思い付いたように「じっとして」と言って私の首にタバコバニラをふりかけた。
「今俺たち同じ匂いしてるね」
鞍馬が私の髪に指を通す。同じトリートメントと同じ香水と同じ煙草。確かに、同じ香りがしているだろう。
もうこの匂いを嗅ぐだけでじゅくりと体の奥が疼くのだから、随分と躾けられたものだと思った。
また車が発進して、やってきたのは嵐山デートで来たことのある夜景スポットだった。
あの時は性的なことばかりしていてゆっくり味わう暇がなかったが、改めて見ても絶景だった。
「鞍馬は何で私と死のうと思ったの?」
景色を眺めながら、頬杖をついて聞く。
「俺もう戻れないからさ」
「お姉ちゃんを殺したから?」
「うん。だから瑚都に復讐して、一人で死のうと思ってた」
「何で私と死のうって心変わりしたの」
少しの間があって、鞍馬の方を見上げると、鞍馬は薄く笑っていた。
「言わせたいの?」
本当は気付いていた。いつからか鞍馬の触れ方が変わったことも、僅かに熱を帯びた視線にも。その感情が恋でなかったとしても、好意的なものであることは。
「愛情が憎悪になりやすいように、憎悪も愛情に転びやすいのかもね」
口を結んでしまった私に、鞍馬は意味深な発言をして会話を終わらせた。
京之介くんが一番好きだ。
でも鞍馬と京之介くんのどちらが一番大切かと言われれば、答えられない。
“ 私の一番大切な人が幸せになりますように ”
あの日赤色の玉に書いた願い事を思い出す。
私は一番を決めきれなかった。
だから。
絵に描いたような幸せになれなくていい、誰かの不幸を踏み台にしてどちらか一方だけを幸せにするくらいなら全員で不幸になりたい。
それが私の幸せだ、なんてそんなこと誰にも今は、
口が裂けても言えない。