テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
陽向がカフェの前を走って通り抜けたと同時に唯月は華恋を連れてカフェの中に入って行った。
カランカランと音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
店長は唯月と華恋の方を向き、丁寧に挨拶をする。
お昼時のピークも終わり、店内はとても空いていた。
「あら、とても良いお店ですね///唯月さん……?」
華恋は店長の挨拶を無視し唯月に話しかける。
それなのに唯月はその話し声に聞き耳をたてず、何か探している様子だった。
その様子は誰から見てもおかしいと感じるようなものだった。
「唯月さん…?どうされたのですかぁ?」
「………ああ、すまない」
「もう!唯月さんたら私と一緒にいるのに他のことを考えるのですかぁ?」
華恋は自慢の胸を押し付けながら言葉を続ける。
「唯月さん、私だけのことを考えてくださいよぉ」
唯月の頭は困惑と苛立ちで溢れていた。
どうしてもこの状況から逃げたい、
その思いは華恋の声を聞く度に増えていった。
「お客様、もしかして香水をつけてらっしゃいますか?」
「…はい?それがどうしたのですか?」
突然、店長に話しかけられ華恋はとても驚いた表情をしていた。
「このカフェは香水や匂いがするものをつけての入店はお断りしているのですよ」
「はぁ?なんでよっ!」
「コーヒーの香りを楽しんでいただくためなんです。香水などはコーヒーの香りを消してしまいますから、みなさまお断りさせていただいているのですよ」
華恋は店長の余裕の笑みで話す姿を見て、苛立ちが湧いてきた。
(なんでよっ!なんで、こんな平凡ベータに話しかけられなきゃいけないのっ!)
「いやよっ!帰らないわ!」
「申し訳ございません。ですが、他のお客様にもご迷惑なのでお帰りを願います」
店長は手に持っていたりハンカチをポケットにしまい、深々とお辞儀をする。
「唯月さんっ!おかしいですわっ!このお店っ!」
華恋は唯月のスーツの袖をを掴んでそう言う。
唯月のスーツはどう見ても高級ブランドのものだ。そのようなスーツを掴むことから常識が全く感じられず、唯月は飽き飽きとしていた。
「華恋さん、帰りましょう」
「えぇっ!なんでですかっ!華恋はこのお店がいいんですっ!」
「お店のルールには従いましょう。ほら、行きますよ」
唯月はカランカランと音をたてながら扉を開ける。
だが、華恋はそのエスコートに受けることなく、その場に立っていた。
「華恋さん…?行きますよ」
華恋は俯き、顔を手で覆った。
何かブツブツと言っているが、小声で聞こえず、唯月は扉を閉め華恋の元へと寄った。
ブワッ、近付き感じた感覚はそのような音を出しているようだった。
「唯月さんっ、華恋っ」
「…お前っ、まさかっ」
華恋は唯月にゆっくりと近付き、体を擦り寄せる。
華恋からは甘い匂いが漂っていた。
そう、華恋はヒートに陥ってしまったのだ。
「唯月さんっ、華恋っ、あなたしかっ」
いくら華恋のことが嫌いだと言っても、アルファの本能には抗えない。
唯月は一度閉めた扉にまた手をかける。
「唯月さんっ……」
「お客様、熱があるようですが大丈夫ですか?」
「………唯月さんっ」
店長が華恋に声をかけても、何も返事はしない。
ずっと『唯月さん』と名前を呼んでいるだけ、
(くそっ、なんでだっこんな迷惑事に巻き込まれてんだっ、俺には番になりたい人がいるんだ………)
唯月は今思った言葉にハッとする。
番になりたい人、そんな人がいるだろうか、
そう疑問に思った時に思い浮かんだのはあの人の顔だった。
その顔を思い出すと、唯月の体に力がみなぎる感覚があった。
「華恋さん、帰りましょう。送るので帰りますよ」
「……ぇっ///送ってくださるの?」
華恋の頬は赤く染まる。
だが、唯月はその顔を見て見ぬ振りし、店長の方を向いた。
「お騒がせ申し訳ございませんでした。また後日、謝罪に行かせてください」
「うふふ、大丈夫ですよ。またお待ちしております」
店長は少し寂しそうな顔をして言った。
唯月はその表情の変化に気付きはしたものの、これ以上騒ぎを大きくするにもいかず、扉を開け店の外へと出ていった。