「遥だよ」
彼が目を閉じるの眺めながら、僕は自分の胸に銃を撃ち込んだ。とても暖かい太陽に当たっているかのような感じだ。心地が良くて、苦しくなくて、気持ちがとても楽になる。あぁこういうことか。
昔から食べ物なんてまともに食べれてない。家庭は貧しかったわけじゃない。そんな感じがする。とても居心地が悪かったことだけは覚えている。もう記憶はこれ以上残っていない。何も思い出せない。何回目かな記憶について考えるの。
寝よう、明日もまた早い、毎日が戦いなんだから。 この国は戦争をしているのだ。僕は兵士で、戦うだけ。別に何かを目指していた訳ではない。気づいたらここに居て、司令官に言われて、銃を撃つようになった。そこからの記憶は一切ない。いつぐらいからここに来たのだろう。結局、どうでもよいことを考えすぎる。中々寝れず、朝になってしまった。
僕は衣類を着替え、指定された場所へ向かった。
新しく入る子が来たそうだ。僕と同じ歳ぐらいの子だ。「僕は透 よろしくね」いきなり喋りかけてきた。何故こっちへ来たのだろう。動揺した僕は目を丸くし、立ち去ってしまった。僕は無視をした。普段なら何も思わないのに、いまはあの子の声がもう一度聞きたいと思ってしまう。何故かは僕にもわからない。なんだか懐かしい声だった。
影の方で一人うずくまっている僕の方に透くんが来た。「何してるの」透くんはニコッと笑い、僕に声をかけた。「わからない、何がしたいんだろ僕」 いつも通り何も考えずに答えてしまった。透くんは少し考えて話し始めた。「なんで皆必死に生きようとするのかな」いきなりの事で少し驚いた。なんでそんなこと聞くんだろう。そう思いながらも、僕はパッと思い浮かんだこと適当に話した。「死にたくないから」誰でも考えるようなことを言ってしまった。何も考えず喋るのは僕の悪い癖だ。
「死ぬのは痛いと思う?」
「痛いと思う、よくわからないけど」
「でも、僕は痛く無いと思う」
「暖かく感じて、気持ちが楽になるかも」
「君は死にたいの?」
「死にたいわけじゃない、ただ楽になりたい」
「暖かい太陽の光に当たってゆっくり目を閉じて」
「そのままぐっすりと眠りたい」
「そっか」
その後は少し沈黙が続いた。何か喋った方が良いかなと、僕も透くんに質問をしてみた。「透くんは幸せってなんだと思う?」僕から質問した事に驚いたのか、透くんは少し目を丸くして言った。「多分、大切な人と居るときとかに幸せって感じるんじゃない?」「なんなんだろうね、僕もよくわかんないや」透くんは少し不自然に笑ってみせた。僕は透くんのことが気になった。少しでも他人に興味が湧くのは初めてだ。「最後に一つ教えて、なんで人は他人を知ろうとしたり、無理に笑顔をつくったりするの、他人に対して罪悪感や憎しみの感情はないのかな、透くんは何故そんなに笑顔で笑えるの?」 坦々と自分の疑問を透くんにぶつけてしまった。 別にそこまで気になる訳でもなかった。 今考えると、むしろ聞いた瞬間に、どうでもよくなっていた。
透くんの表情はが少し暗くなった。
「僕には憎しみがある、自分への憎しみが、だけど僕はいつも笑ってる、苦しくないから笑うんじゃない、苦しくても笑うんだ」透くんはまた不自然に笑った。どこかで見たことあるような表情だけど、少し違う。なんだろう、よくわからないけど多分この人は僕にとって「大切な人」だったんだ。だって今の透くんの言葉は、昔僕が話していた事だから。
少し記憶が蘇った。僕が、昔誰かに伝えた言葉、それを伝えた時、相手は今の僕みたいな反応をしていた。でも分からない、何故透くんが、昔僕の話したことを、今日僕に喋ったのか、偶然なのか、奇跡なのか、僕には考える必要はなかった。
「撃て‼︎」
鼓膜が破れそうな程大きな声で司令官が叫んだ。 戦いが始まった。皆が勢いよく前へ出ていく中、僕は後ろの方で適当に銃を構えて加勢をするだけだ。 僕達の役目は撃って、撃って、撃ちまくるだけだ、でも僕は弱い、だからあまり役に立たない、それでもこれが俺の役目、とか思えばいいのかな。僕の目の前の人が勢い良く敵に突っ込んで行って倒れてしまった。僕はその人を死んだ魚のような目をして見見つめていた。なにかどうでもよくなってしまったのか、僕はそこに立ち止まってしまった。
「撃て‼︎」僕はその声にハッとし、少しずつ動き始めた。
加勢ばかりをして、自分の仲間がだいぶ倒れてしまった頃、僕は力尽きていた。人がバタバタ倒れていくのを見て、いっそ倒された方が楽かもしれないと血迷っていた。飛んでくる弾ご足にあたり、力が緩み大きく倒れ込んでしまった。「あぁこれダメなやつだ」そう思い立つのを諦めていた。丁度そのタイミングに僕の方へ多くの弾が飛んできた。「死んだ」僕はそう確信して目をつぶった。別に今更なんとも思わなかった。いずれこうなる事ぐらい分かっていた。別に死にたいとか、死にたくないとか僕はそんなことは気にしなかった。いや、気にする意味がなかった。別に幸せでもないし、ここでの生活が 特別楽しくて、幸せで、ずっとこのままで居たい、 とか思っていたり、大好きな家族、大切な友人、そんな人が僕には1人もいない。唯一考えていたことは、今死んだら透くんが言ってたみたいに、暖かく感じるのかな。その時ふと思い浮かんだのが透くんの顔だった。「楽になる」そうだといいな。
「バン バン 」
僕に向かって銃が撃たれた。僕は少しの希望を見出し、自分の死を受け入れ、最後に体の力を抜いた。
痛くない、なんでだろ。体に違和感がなかった。 俺が目を開けて前を見ると、そこには透くんが僕を庇って体を丸めていた。血が出ている、背中の方から少しづつ垂れている。頭が真っ白になった。何故庇ったのか、本当に意味がわからない。僕がおかしいのかな。今そんな事を考えようとするのがとてつもなくめんどくさいた思ってしまった。 「撃て!」司令官がまた叫ぶ。俺はそれどころじゃなかった。目の前に倒れ込んでいる透くんを見つめながら透くんに対してどうしてという感情しか頭になかった。「撃て!」頭の中に鳴り響く「撃て」という声が自分の思考を歪ませる。「自分ってなんなんだろ」次はそんな事を考えてしまったら、僕に喋りかけてくれた子が、今僕を庇って倒れてる。それなのに僕は何も思わない。それどころかめんどくさい、なんで態々、そんな感情ばかりが押し寄せてくる。虚しいとか悲しいとか悔しいとか辛いとか大切とか。
「遥にとって大切って何?」
「僕にとって大切はにいちゃんだよ」
記憶が少し蘇った。今の記憶は一体なんなんだ。「僕にとっての「大切」って何」僕がそう呟くと、倒れ込んでいた透くんが顔を上げ、震えた声で言った。「僕にとって大切なのは遥だよ」涙を流しながら震えた声でそう言った。透くんはそのまま目を閉じて、何も喋らなくなった。その時透くんは笑顔だった。まるで僕があの時君にしたような笑顔、、
僕は全て思い出した。僕は捨てられ、そして司令官に拾われた、なんにも分からなかった僕は銃を持たされ、必死で練習していたこと。そして初めての戦いの時、勝敗がつき、僕たちの国が勝った時、倒れ込み気づいたら記憶が飛んでいたこと。そして僕みたいに記憶喪失になっていた人が居た。僕はその人と真逆だったんだ、感情移入が激しく、いつもニコニコ笑っていた。君と立場が変わっていたんだ。
無理に僕の真似していたんだ。僕の大切な人って、 君だったんだね。「兄さん」
僕には銃を手に取り、自分の胸に撃ち込んだ。
「バン」銃声の中、自分の撃った銃の音がとても大きく聞こえた。一度目を閉じ次開けたときには、隣に透くんいや、兄さんがいた。「複雑だなぁ、僕の大切な人はすぐそばにいだなんて、それにしても兄さん記憶戻ったんだね、次は僕が記憶喪失になってたんだ、そんなの分かる訳ないよね、兄さんもそう思わない?」僕は出しにくい声を振り絞って、泣きながら、目を瞑っている兄さんに問いかける。「懐かしいな、いつ振りだろう、こんなに心地よくて、楽だって思えるのは、あぁ幸せだな」最期こそ僕は上手に笑えたのだろうか。銃声は収まり、日が照り始じめ、太陽の温かさに浸りながら、僕はそっと目を閉じた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!