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次の日、私はポエール商会の建物を訪れた。
彼の部下のクラークさんに調整をお願いしたところ、早速会う準備を整えてくれたのだ。
この辺りのフットワークの軽さは流石だ。何かをお願いするにも、基本的な部分で安心感が増してしまう。
「いらっしゃいませ、ご足労ありがとうございます!
一昨日の歓迎会もありがとうございました。他の者から、とても羨ましいと散々言われてしまいましたよ」
「あはは、ありがとうございます。
機会があれば、商会のみなさんとも何かしたいですね」
「そう言って頂けると、他の者もきっと喜ぶことでしょう。
アイナ様のことを悪くいう者も街にはおりますが、この商会の者はアイナ様の味方ですから!」
ポエール商会の皆さんは、賑やかな王都から辺境の街までわざわざやって来た人たちだ。
仕事上の繋がりではあるものの、少なくても最低限の好感度はあってくれるのだろう。
「こちらこそ、その期待に応えなければいけませんね。
……それで今日は、私たちがやろうとしていることをお伝えにきました。
大きな話になりますので、是非ポエールさんと商会の皆さんにもお手伝いをお願いしたいと考えています」
「おお……!
ついに動かれるのですね。伺います、伺いましょうとも!!」
ポエールさんはソファーに座り直して、私をまっすぐに見た。
「――実は、国を作ろうと思っています」
「……ほ……、ほう!!!!」
一瞬驚きの表情を見せたものの、しかしすぐにポエールさんの表情は輝きに包まれた。
ジェラードのように予想していなかったのだとすれば、頭の切り替えが早いというか、適応力が高いというか。
「ポエールさんにはそのための人材の斡旋と、物流などの方面で――
……ちょぇ!?」
話している最中、私は変な声を出してしまった。
ポエールさんが顔を輝かせながら、涙と鼻水を大量に流し始めたのだ。
「アイナ様……! その大役、私にお任せ頂けるのですね……!!
あなたを信じて、ここまで来て良かった、本当に良かった!!
……このポエール、一生を賭してあなたにお仕えいたしましょう!!!!」
「え、えー……っと。
とりあえず、ハンカチ使います……?」
「こ、これは申し訳ないっ!
いえいえ、アイナ様のハンカチだなんて、恐れ多いですから!!」
そう言うと、ポエールさんは自分のハンカチを取り出して涙と鼻水を拭い始めた。
「そんなに感動して頂けるなんて、こちらとしても嬉しい限りです。
問題はいろいろありますし、実現するのは大変なことでしょう。
だからこそ皆の力を借りて、しっかり進めていきたいと思います」
「なるほど、なるほど!
その謙虚な気持ちも流石です! 人間、一人一人の力なんて、とても小さいものですからね……!」
「場所としては、クレントスの北東部で考えています。
まずはそこに街を作って、経済圏を作ってから国としての宣言を行おうかなと」
「北東部ですか……。
確かにあの一帯は広大な土地がありますからね。土地も枯れている場所なので、人はあまりいませんし……。
漁業で暮らす者が多少いる、といったくらいでしょうか」
「外国と交易も出来たら良いんですけど、海を渡れないって話ですから。
でもクレントスの周辺で考えると、その場所が一番良いと思うんです」
「その前提であれば、そうですね。
……ちなみに、ヴェルダクレス王国の承認は得ないで建国をするおつもりですよね?」
「もちろんです。だから当然のことながら、危険なこともあるでしょう。
もしかしたら、ヴェルダクレス王国と直接戦うことになるかもしれません。
ポエールさんだって、ピエールさんと――」
私が話を続けていると、ポエールさんがそれを遮ってきた。
「……兄のことは大丈夫です。
私はそれなりの覚悟をしてクレントスに来ましたし、兄ともそんな話をしたことがあります。
ですので心配は無用ですし、私のことを考えて頂けるのであれば、アイナ様の成したいことを全力で進めて頂ければと思います」
「……ありがとうございます。要らぬお節介でした」
「いえいえ。そんなところまで考えて頂き、誠にありがとうございます。
商売、経済を通じての関係となりますが、私だってアイナ様の仲間のつもりなんです。……勝手にではありますが」
そう言いながら、ポエールさんは優しい顔で微笑んだ。
……うん、私も良い人に巡り合えたものだ。
「――それで、ですね。
先ほどもお伝えしましたが、まずは街を作ろうと思うんです。
さすがに私もそこまでのお金は持っていないので、私の錬金術を売りにして人を集めようかなって」
「錬金術を、ですか……?」
「私にしか作れないものもありますし、仮に他の人が作れたとしても、私しか出せない品質があります。
例えば、一昨日の『竜の秘宝』なんかもそうですね」
「……ッ!!
あ、あのお酒はとても美味しかったです……!
なるほど、私もあのお酒の味は忘れられなくて、夢に出てきたくらいなんですよ!!」
「そ、そんなにでしたか?
お酒が好きな方は、そうかもしれませんね……」
私はさすがに夢までは見なかったけど、しっかり味わっていたアドルフさんあたりは……大丈夫かな。
依存症にするような効果は無いはずだけど、いわゆる『病みつき』になってしまう可能性は否定できないわけで……。
「力仕事をする男性などは、酒好きも多いですから。
そういった人たちに協力を要請したり、無理を言ったりするときにも使えそうですね……!」
「ああ、それはグリゼルダも言っていました。
交渉の席では『竜の秘宝』を自由に振る舞って良い、って話にもしてきましたよ」
「それはありがたいです! やはり手土産があるのと無いのとでは大違いですから……。
それに『酒』という尺度で、アイナ様のことを理解してもらうことができますし」
『神器の魔女』はどれだけ凄いのか?
例えば、お酒を作らせたら世界一のものができるよ!
――つまり、こう言うことかな?
確かに酒飲みからしても、具体的に分かりやすいような気はする。
……せめて私は、『神酒の魔女』などと呼ばれないように注意しておこう。
「他には、アイーシャさんの身体の悪いところを治したことがあります。
貴族や富豪の方には、身体の悪い方も多いですよね?」
「はい。それに加えて、長命を望む方も多いです。
たまに不老不死だなんて物騒なことを言い始める方もおられますが……」
「不老不死、ですか。
その分野はまさに錬金術の範疇ですね。……できるかどうかは置いておきますが」
「ま、まさかそれすらも……!?」
ポエールさんは驚きの眼差しを私に向けた。
不老不死の薬を、私は作ったことがある。
しかしその薬はすでに無く、そのとき使った素材の入手方法は分からない。
他の素材を使った作り方も『英知接続』で調べたことはあるものの、途方もないほどの素材が必要になるようだった。
作れないことは無い。しかしそれは、『賢者の石』よりも遠い遠い道のりなのだ。
「できないことは、ありません。
ただ、私にはその素材が途方もないものに思えるのです。
莫大な財力を投入して頂ければ届くかもしれませんが、私にはお約束ができません」
「おぉ……。できなくはない――
……その話だけでも、興味を示す者はたくさんおりましょう。
何せ世界に名高い、神器の魔女様の話なのですから……!!」
「そのふたつ名、役に立つことがあれば何よりです。
それと、私の国には誰でも入れるというものではありません。
悪政を敷くつもりはありませんが、私たちに敵対する人は排除するつもりです」
「……かしこまりました。
アイナ様たちは王都で酷い目に遭っていますから、それも当然のことでしょう。
加えまして、周りには特別な方もおられますし……」
「はい、リリーもグリゼルダも大切な人です。それに、大切な仲間もたくさんいます。
私の大切な人たちを守れる国にしたいんです。……我儘なんですけどね」
「ははは、国を作ろうなんて人は我儘でなくてはいけませんよ。
自分の利益だけを考えるのは、勘弁して頂きたいところですが」
私は自分たちの価値観を押し付けた上で、その国に暮らす人たちには幸せになってもらいたい。
しかし前提となるのは、あくまでも私たちの幸せだ。
……これくらいなら、我儘としては許容してもらえるよね?
今さら建国を諦めるなんて、考えられはしないけど。
「それでは私は、私の思うように進めたいと思います。
でも何かあったら指摘してくださいね。ポエールさんのことは、本当に頼りにしていますから」
「はい! その期待に応えるべく、全身全霊で仕事をさせて頂きます!!
……それで、具体的には何から始めましょう?」
「そうですねぇ……」
国を作ることは決まった。
色々な問題は起きるだろうけど、それでも何とかやっていけそうな気はする。
しかし、ここで最初の難題だ。
まずは最初に何をするのか――
……実際、何かを始めるときって、それを決めるのが一番大変だったりするよね……。