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見合いの相手は、カンジュ国でも指折りの名門に生まれた貴族の令嬢だった。
王家の遠縁にあたる家柄であり、政治的にも無視できない存在であるという。
以前からセイカの名と容姿に想いを寄せていた——-そんな話も耳に入っていた。
「ユイ、いるのか?」
部屋に入ると、ユイは背を向けて座っていた。
怒ったり、拗ねたりしたとき、ユイはよくこうして黙り込む。
「急に広間にも庭にもいなくなるから、探したじゃないか」
返事はない。
「…ユイ?」
セイカは静かに近づく。
「見合いのことを気にしているのか?
心配するな。当日、きっぱり断るに決まっているだろ」
その言葉に、ユイの肩が小さく震えた。
「こっちを向け。俺を見ろ」
振り向いたユイの瞳から、涙がこぼれていた。
声を殺し、ただ静かに泣いている。
セイカは迷わず腕を伸ばし、強く抱きしめる。
「何も心配するな。
一度会うのは、王の顔を立てるためだ。
会いもせず断れば、あの方はきっと機嫌を損ねる」
「……でも」
ユイは小さく呟いた。
「すごく……すごく綺麗な女だって聞いた」
セイカは一瞬きょとんとし、それから堪えきれないように笑った。
「何を言っている。
この世に、お前より美しい男も女も存在しない。
何度言えば分かるんだ」
セイカはユイの頬に触れ、真っ直ぐに言葉を重ねる。
「仮に、どれほど美しい人間がいようとも、
俺が愛しているのはお前だけだ。
血も、魂も、心も…すべてで愛している。
お前以外に、女も男も、何一ついらない。
お前さえ、そばにいてくれればいい」
長い黒い睫毛が、涙に濡れて震えた。
「ほら……来い」
セイカは優しく、包み込むようにユイを抱いた。
言葉よりも深く、どれほど大切に想っているかを伝えるように。
想いを確かめ合ったあとも、ユイはセイカにしがみつき、離れようとしなかった。
その温もりの中で、セイカはふと幼い頃を思い出す。
(……そういえば、昔もこうして俺の手を、ぎゅっと握って離さなかったな)
「ユイ」
静かに呼びかける。
「見合いの日は、お前も同席しろ」
「…え。いいの……?」
「当たり前だ」
ユイはセイカの胸元に頭を預ける。
そこから伝わる、確かな心の鼓動。
その音を子守歌のように聞きながら、
ユイは安心したように、静かに眠りについた。
セイカはその頭を抱き、揺るがぬ決意を胸に刻んでいた。