全部偽ってる。
-ホストという職業柄、自分を偽らないと生きていけない。姫という客の全てを受け入れて好きにならなくてはならない。姫の甘い声も、可愛いと思う服も、キツい香水の匂いも、全部。ただ、ホストの「不破湊」を偽るだけ。
「不破くん、最近笑わないよね」
姫から言われた言葉。ガラスの破片が深く心臓に刺さった気分になった。ホストの不破湊は、姫に優しく笑っているのではないのか。俺は笑ってなくても不破湊が笑ってるんじゃないのか?なんで?
「……ごめん、ちょっと俺トイレ行ってくるね」
飲みかけのシャンパングラスを机に置きその場から離れてトイレへ向かう。
鏡を見ると、俺……ホストの「不破湊」がちゃんと映っていた。ただ、目は死んでいて顔は青白く死人みたいだ。蛇口を捻り、水で顔を洗う。
「……なんで」
-なんで笑ってねぇの?
アンタは、笑ってろよ。いつもみたいに。なぁ、
「……」
笑顔の練習を鏡の前でする。なんとなく笑った顔はぎこちなく、口元はひきつっていてこれでは愛想笑いなのがバレてしまう。
-笑え
-笑え
_笑えよ‼︎
「。。。んははっ、なんかもうどーでもいいや」
自分の今の現状に解決策が見当たらなくて、諦めたように笑う。頭で考えるのがめんどくさくて、頭の中が真っ白になって、考えることができない。
俺って何者なんだ?
鏡に手を伸ばす。すると虚像もこちらに手を伸ばしてくる。触ると、とても冷たくて手の体温が奪われていく。まるで徐々にあっちの世界と入れ替わってるみたいな。
「……俺ってなに」
「。。。知らないよ」
瞬きをする。今、鏡の中の虚像が答えた気がした。あくまで、気だけど。
「。。。仕事戻らなきゃ」
俺はトイレから出て姫のところへ戻った。
「……」=俺「。。。」=不破湊
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