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金曜の夜。
会社の飲み会の帰り、なぜか稜雅が秀哉に「もう一軒行くぞ」と腕を掴んできた。
「お前、酔ってんだろ」
「全然酔ってねぇよ。」
(いや、絶対酔ってるだろ)と思いながらも、秀哉は付き合った。
小さなカウンターの居酒屋で、ふたり向かい合って飲む。
「……で、なんで俺を誘ったん?」
「なんでって……」
稜雅はグラスをいじりながら、目線を合わせない。
「他のやつらとは騒がしいだけで、落ち着かねぇんだよ」
「俺なら落ち着くってこと?」
「……黙れ」
ツンとした返しなのに、耳が赤い。
炭酸のはじける音だけが、間を満たす。
しばらくして、稜雅がぽつりと呟いた。
「……今日、褒められなかったんだよ。仕事でさ」
「稜雅、あの仕事大変だったでしょ。俺はよくやったと思うけど」
その瞬間、稜雅の動きが止まった。
俯いたまま、低く呟く。
「……だから優しくすんなって言ってんだよ」
「嫌か?」
「……嫌じゃねぇけど。調子狂う」
酔ってるのに、声だけは真面目だった。
店を出て、稜雅の家まで送る途中。
突然、稜雅が袖をつかんだ。
「……帰りたくねぇ」
「ん?」
「今日は……誰かの隣にいたかったんだよ」
その“誰か”が自分だと気づいた瞬間、秀哉は背筋が熱くなる。
「じゃあ、もう少し歩くか」
「……うん」
稜雅はツンデレのくせに、
その手を離そうとはしなかった。