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「わぷっ!!!」
信じられないほど舞い上がった炎を見て、俺は思わず目を閉じた。
だが、いつまで経っても炎は俺のところまでやってこない。
恐る恐る目を開くと、そこには透明な壁が出現。
炎上した炎が、そこで止まっていた。
その壁を作っているのは、目の前にいる父親。
髪の毛を入れてから爆発するまでの短い間に魔法を使って、俺たちを護ってくれたんだ……!
「む? イツキ、いまパパと言ったか?」
「ううん……」
言ってないが。
「そうか、聞き間違いか。しかし……」
父親は未だに燃えあがる炎を見上げた。
「一体、どれだけの魔力を持っているのだ……」
首が痛くなるほど天高く炎の柱は上がっており、皐月さつき家や霜月しもつき家のお嬢様たちと違って、時間が経っても火は落ち着く気配を見せない。
これは完全に予想外だった。
いや、そりゃさ? 確かに俺だって1歳のときから頑張ったんだから、人より魔力量が多いとは思ってたよ? むしろ、増えてなかったら落ち込むレベルには毎日鍛えてたんだよ??
でもさ、これは流石に予想外というか。
こんなことになるなんて考えたことも無かったっていうか。
俺が呆然と炎を見ていると、次の瞬間、水でもかけたかのように炎が消えた。
「意地が悪いのぅ、如月きさらぎの。お主、これが分かっていて最後にやってきたな?」
「い、いえ。そんなまさか……」
『神在月かみありづき』家の金髪の女性に敬語で答える父親。
もしかして、目の前にいるこの人めっちゃ偉いんじゃ……?
俺が戦々恐々としていると、彼女は口角をにやりと釣り上げて言った。
「問答無用で『第七階位』じゃ。今年は豊作じゃのう。いや、豊作ではとどまらんか。まさか数百年に一度の天才と対面できるとはの」
その言葉を聞いた皐月家と霜月家の家族はそれぞれ息を呑んだ。
「な……ッ!? 第七階位なんて伝説でしょう!」
「……いや。たしかに見れば分かる。規格外だ」
男たちは既に消えた炎の幻想を見るように、どこか上ずった声でそう言うと、
「とんでもないものを隠してたな。宗一郎」
「俺ぁ、お前のことをただの親バカだと思ってたぜ……」
笑いながら父親の肩を軽く叩いた。
どうやら第七階位、というのが俺の魔力量らしい。
全く量の基準が分からん。
というか、皐月さつき家のリンちゃんが第四階位でしょ?
あれだけ炎の量が違うのに、3つしか階位が違わないの??
そこら辺がどうなっているのか全く分からないので、俺は未だに心ここにあらずといった母親の腕を引いた。
「ママ。第七階位だいななかいいって何?」
「おう、如月きさらぎの。お主、まだ子供に教えておらんのか?」
母親に聞いたのだが、返ってきたのは神在月かみありづき家の金髪女性から。
俺がその問いかけに、こくりと首を縦に振ると彼女は笑った。
「しょうがない、教えてやろう。良いか。魔力の総量は祓魔師の力量に直結する。故に、第一階位から第・六・階・位・という6段階の評価で魔力量を図る」
「……6?」
俺は7だよな?
「そうじゃ。生まれてから死ぬまで魔力量は変わらぬということは知っておるか? 故に祓魔師たちは、この六つの階位と死ぬまで付き合うことになる。測定量は人にもよるが……階位が1つ上がるたびに、約30倍になると思え」
「…………ん???」
第二階位って、第一階位の30倍の魔力量持ってるってこと?
じゃあ、第三階位は第一階位の900倍……???
「普通は第一階位か第二階位まで。稀に第三階位や、第四階位という天・才・が生まれる」
第三階位や第四階位で天才……ということは、俺より先に測定したリンちゃんやアヤちゃんも天才ってことか。なるほど。だから全部の測定が終わったタイミングで『今年は豊作』なんて言葉が出てきたんだ。
てか、俺の父親はどれくらいの魔力量なんだろう?
そう思って俺が父親の方を見ると、彼は胸を張った。
「パパは第五階位だぞ!」
「その通り。宗一郎は第五階位。これですら十数年に一人の逸材じゃ」
そういって金髪の女性は笑うと、続けた。
「じゃが……極稀に、数百年に一度。信じられぬほどの魔力を持って生まれる者がおる。神在月の技を持ってしてもその総量を測れぬ規格外の化け物たち。そういった者たちのために用意されたのが『第七階位』。しかし、わしも本物は初めて見たぞ。うむ。眼福眼福」
「僕、そんなにたくさん……」
俺はそういって、ぎゅっと手を握りしめた。
どんな感情よりも最初に俺の心を貫いたのは、言葉にできないほどの達成感だった。
2年間。2年間だ!
どんなときも休まずにトレーニングをやってきたことが、報われたのだ。
嬉しくないわけがなかった。
確かにちょっとやりすぎたかも知れないが、魔力の量は祓魔師としての力に直結するって金髪の巫女さんも言ってたからこれくらいでちょうど良い。
何しろ俺は今の今までモンスターはおろか、戦いから無縁の生活を送っていたのだ。
それが修行やら魔法の力を借りたとて、かなり高い死亡率のある祓魔師として生きていくなら、やりすぎなくらい強くなる必要がある。そうしないと、俺なんかはすぐに死ぬ。
少なくとも、俺はそう思っている。
だから、まずは第一関門ファーストステップ突破だ。
「この逸材、亡くすには惜しいの。しかと守れよ、宗一郎」
「はッ! この生命に代えても!」
「うむ。よき返事じゃ」
未だに敬語で喋る父親に慣れないなぁ、と思っていると金髪の女性は腰を落として俺と視線を合わせると、
「小僧、名は?」
「イツキ!」
「そうか、イツキ。この札を持っておけ」
白い巫女装束っぽい服装の胸元から一枚の札を取り出すと、俺に手渡してきた。
「なにこれ?」
「これはな、破魔札と呼ぶ。弱い“魔”であれば一撃で殺せる。強い魔術の込められた札じゃ。それをな、肌見離さず持っておけ」
「分かった!」
俺がうなずくと、後ろにいた母親がちょんと肩をつついた。
「イツキ。人からものをもらった時はなんていうの?」
む!
「ありがとうございます!」
「良き返事じゃ」
しまった。
良い歳して感謝の言葉を忘れるとは。
「良いか、イツキ。その札は何があっても一度はお主を守る。死にたくなければ、くれぐれもな」
……なんか不穏な言葉が聞こえたぞ??
「あ、あの!」
「なんじゃ」
「なんで、札もってないと死んじゃうの?」
「普通の結界であれば第六階位までの魔力は隠し通せる。しかしの、第七階位なんていう魔力は普通の結界では隠せん。じゃから、これからお前は家にいようと外にいようと多くの“魔”に狙われることになる」
「えっ?」
「そりゃそうじゃろう。“魔”は人の魔力に集まる。それだけ多い魔力を持っておるんじゃから、“魔”に狙われるのは道理」
ちょ、ちょっと!?
え? せっかく死なないために魔力量を増やしたのに、それが原因で“魔”に狙われるの!? 本末転倒じゃん!!!
「じゃから、その札がお前の命を守る生命線。良いか。何があっても捨てるなよ」
「う、うん……」
俺は顔を真っ青にして、父親の元に駆け寄った。
「パパ!」
「そう不安がるな。パパは何があってもイツキを守るぞ!」
父親は俺を笑顔で抱きかかえた。
いや、それはありがたいんだがそれじゃダメだ。
いつまでも守られる立場だと、何かあった時に戦えない。
なにしろ俺は前世で大人だったのに通り魔に刺されて死んでいるのだ。
まずは何よりも自分の力で身を守る力を着けないと!!
だから俺は父親の胸元で言った。
「パパ! 魔法教えて!!!」