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木の葉のように軽い身のこなしで無駄なく敵を倒すその人に、一目惚れしたように惹かれた。
「小僧、怪我はないか?」
青みがかった髪、襟口を広げた変わった服。黒く塗りつぶされた目に顔の右半分が潰れたような引き攣った皮膚。目線を合わせてしゃがんでくれたその人に何処か行かせないよう裾を掴んだ。
「?おい」
「俺を弟子にしてくれ!!」
後に師になるうちはオビトとの出会い。
クソガキだった俺の、目標となる英雄ヒーローの出会い。
「お前の目は飾りか?相手の姿から目を離すな。隙だらけだぞ」
「ぐっ、うらぁ!」
遅い。足に接着剤でもついてるのか。突っ立っているだけなら畑のカカシで十分だ。さっさと次の行動を移せノロマ。攻撃の手を緩めるな、相手に時間を作らせるな、思考を動かし続けろ。いつになったら俺を倒せる」
「クッソが」
一般人には目で追えない速さで蹴りと拳が飛び交う。重い打撃音が轟く中ピピピッと軽快なアラームが鳴りだし、ピタリと二人はその場で動きを止めた。
「終いだ。前より随分いい動きだったんじゃないか?勝己」
「多少はだろ。動きが甘かったし、重心ズレて拳に力を入れれなかった。それと受け身をちゃんとできてたら2秒早く起き上がれた。まだまだ改善点山積みだわ」
「まぁお前は飲み込み早いしセンスもいい。あとは経験だな」
「アンタの身につけてるもん全部吸収して叩き潰してやる」
「イキがるなクソガキ。俺に勝ちたいなら全世界の総兵力を持ってくることだな」
鳴り続けるアラームを消して二人は日本家屋に入った。
電車に揺られて1時間、バスで50分、徒歩で30分。人気ない山中に立派な日本家屋があるのが師であるうちはオビトの家。根気よくオビトに強くしてくれと色んな手を使って懇願した結果、2年の月日を得て弟子入りを果たした。オビトの元で師事を仰いで早3年、俺は中学3年になってもなおオビトに一度も勝てない。オビトはそこらのヒーローと違い、死線を掻い潜ってきた本物の強者だった。独学や学校じゃ習わないことや体の使い方を学んだ。オールマイトかそれ以上の力を持っているのにヒーローじゃないらしい。深く聞くつもりはない。俺は誰よりも強くなれればそれだけでよかったからだ。
「風呂上がった」
「おう。ならさっさと席に着いて食ってろ」
「ん」
砂埃を洗い落として用意された甚平を着て席に着けば卓上には用意された料理の山。向かい側の席には水のコップが一つ。黙々と飯を口に入れる俺と水しか飲まないオビト。これもいつも通り。
「次の夏休み入ったらまたアンタん家に泊まるわ」
「もうそんな時期か、早いものだな。どうせ来んなっつってもお前は無理矢理上がってくるだろ」
「当たり前だ」
「当然みたいな顔するな砂利が。母君に何か用意しねぇと」
「ババアに気ぃ使う必要ねぇっていつも言ってんだろ。俺がオビトん家に泊まると食費浮くしクソ親父とデートできるしで大喜びしてるぞ」
「未成年預かるんだ。預かる身として責任もある。勝己の面倒見るんだから親に挨拶するのが当然だろ」
相変わらず真面目だがやってること結婚の挨拶みてぇだっていつ気付くんだ。オビトは時代錯誤してんのかたまにジジイ相手してるみてぇな時がある。まぁこんな山の奥に家構えてる時点で人との交流なさそうだしな。
長期の休みになると俺はオビトん家に居座る。より強くなるため、よりオビトに近ずくため。オビトは渋々でも面倒見てくれるし鍛錬の相手をしてくれる。ババアは逆に手放しで大喜びするほどGOサインしてくる。なんならオビトの顔気に入ってるからなんでも許してるんだけどなあの面食いババア。
「あと、来年ヒーロー科がある高校に受験しに行くから鍛錬の時間伸ばしてほしい」
「ヒーロー科?なんだ、また新しい学舎に行くのか」
「雄英高校っつう誰もが知る名門校だ。ヒーロー科で3年間在籍すれば卒業すると同時にヒーローになれる。雄英高校の肩書きだけでも箔がつくし、今のトップヒーローと呼ばれる奴等は大抵そこ出身だ。受験で筆記試験と実技試験がある。実技試験の内容は伏せられてるが、ヒーローになるんだったら個性使った戦闘になるのがセオリーだろ」
「ほぅ、そういえばお前は将来ヒーローになる」
「おう。誰よりも負けねぇ一番のヒーローになる。溢れかえるアマチュアなヒーローを土台にしてNo. 1であるオールマイトを押さえつける。そんためにアンタの全てを学んで一番になってやる」
「ふむ……そこまで覚悟があるのならこの1年間で俺はお前に仕上げるとしよう。俺の持ちうる知識と力、それこそ汚いやり方も本気で叩きつけるが死ぬ覚悟はあるか?」
ピリッと肌がさすような痛みが襲いかかる。何もしていないはずなのに、首に鋭利がかけられたような錯覚を起こす。殺気が込められた目を向けられるが俺は逆に口角を上げた。
「上等だ。やってやるよ」
ガキの頃は走り込みと柔軟、武器の扱い方。中学に上がれば個性なしの組み手のみ。どれもオビトの本当の実力を出してくれなかった。俺は正統派のオールマイト達のやり方じゃ合わない。オビトのような俊敏でどんな手を使ってでも勝つやり方の方が性に合っていた。なにより俺は、アンタの力に惚れ込んでここまできたんだ。今更引き返すわけねぇだろ。
ガキの頃は走り込みと柔軟、武器の扱い方。中学に上がれば個性なしの組み手のみ。どれもオビトの本当の実力を出してくれなかった。俺は正統派のオールマイト達のやり方じゃ合わない。オビトのような俊敏でどんな手を使ってでも勝つやり方の方が性に合っていた。なにより俺は、アンタの力に惚れ込んでここまできたんだ。今更引き返すわけねぇだろ。
「ならばお前の期待に応えるとしよう。準備に時間がかかるため、夏休みが入るまでこの家に来るな。その間に平穏な日常を送ることだ。次にここに来た時は地獄を見ることになるだろうからな」
「覚悟はできてるか?」
「元から覚悟はできてる」
「いいだろう。期限は高校の入試まで。死ぬ気で鍛えてやる」
ニヤリ、とお互い似たような笑みを浮かべた。
「っっ!」
「手を休めるな。休めた途端お前の手足が吹き飛ぶことになるぞ」
「っふ」
「その調子だ。相手の姿を一瞬たりとも目を離すな。無駄な感情を捨てろ、常に心を沈めろ。殺す気で来い」
今までの組み手が嘘のように意識刈り取られる地獄のような日々が続いた。常に殺気を向けられ、武器と個性ありの組み手は一歩間違えれば死ぬほど過激さが増した。刃物は掠っただけでも血が出るほど切れ味が良く、拳は地面割れるほど強力になっている。実際血は噴き出たし骨は何本か折れた。応急処置やオビトの治癒能力で治るが血反吐吐くぐらい厳しかった。体術に武器術、心理学や軍略、人体の仕組みや急所、応急処置に危険物取り扱いなどオビトの持つあらゆる知識と戦闘力を死に物狂いで学んだ。休み明けに痣と包帯巻いて登校するとクラスの奴らにドン引きされた。
「か、かっちゃん…どうしたのその傷」
「どうでもいいだろ」
横目でデクを見る。こいつ、体鍛え始めたのか。筋肉をつけるのは誰にだってできるがこの短期間で仕上がるもんか?独学じゃ意味ない。ジムに通い始めた?いや、ジムに通っても学生の身で金がねぇ。誰かに鍛えてもらっているのか。思い浮かぶのは、あの日意味不明な言葉を言っていたオールマイト。
『君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!!プロはいつだって命懸け!!!!』
「……どけ、邪魔だ」
「ご、ごめん!」
「チッ」
いや、無駄なこと考えんな。今は自分に集中しろ。
休みが明けても家に帰らず、学校以外の時間をオビトの家で過ごした。地獄のような鍛錬でも弱音を吐かずに。そして雄英高校入試が一週間切った頃、とうとうこの日がやってきた。
「最終試験だ。お前の実力改めて見せてもらう」
ちりん、と鈴が揺れる。
「お前が最初に来た時にやった鈴取り演習だ。ルールは覚えてるか?」
「時間制限内に鈴を取ることだろ」
「そうだ。今から1時間内に俺から鈴を奪ったったら合格だ」
帯に鈴を括り付け、切り株にセットした時計が置かれる。弟子入りしてから初めてした鈴取りは散々な結果で終わった。あれから4年越しのリベンジ。変わったのは本気を出した師と、力をつけた俺の2点のみ。全てを出し切って、実力を認めてもらう。
「俺を殺す気で来い。では……始め!」
合図と同時にその場から去った。
ちりん、と爆豪の手の中で鈴が鳴る。
「合格だ」
個性使いすぎた影響か、震える手を鈴越しに強く握る。合格、合格したんだ。あの、オビトから鈴を取れた。
「うっし!」
心が歓喜で満ち溢れる。長かった。化け物じみた強さを持つオビトに何度も死にかけた。絶対に勝つんだと諦めず鍛錬に打ち込んで、やっとオビトに勝つことができた。
「もうお前に教えることはない。おめでとう勝己」
ぽん、と温度を感じさせない右手が頭の上に乗る。そのことに驚きを隠せない。鍛錬以外で触れることはなかった。ましてや右手なんて。オビトは人に触れるのを嫌がっていたのに。
「お前は俺に勝つことができた。だからお別れ」
「な、なんで」
「俺は言ったはずだ。全てを教えると。だからもうお前に教えることは一つもない。それに、俺には時間がない」
昼間なのに霧が立ち込めてきた。段々と濃くなっていく。
「俺はかつて大犯罪を犯した。野望のために何万もの人を殺め、戦争を起こした。俺に戦い方を教えた奴も化け物じみた強さで恐れられた。滅ぶことを望まれ、忌み嫌われた血筋だ」
黒い目が赤く光る。
「お前は俺のようになるなよ。立派なヒーローになれ、勝己」
頭に乗せられた重みがなくなり、オビトの姿が遠ざかっていく。駆け寄りたくても足が鉛のように重い。突然の別れ。なぜ、どうしてだと喚き散らしたかった。霧がお互いの姿を隠すように濃くなっていく。ぐっと力一杯吠えるように声を荒げた。
俺はっ!アンタから教わったことに後悔はしてねぇ!!俺はアンタに惚れ込んで、弟子になったんだ!!」
届け、届け、届け!
俺の師匠は頑固者で分からず屋だ。言葉が足りず、自己評価が低い師匠だっただろ。
「大犯罪者だろうが嫌われてようがどうでもいい!アンタの弟子である俺が、世界に認められるヒーローになってやる!」
かろうじて見える、赤い光。まだそこにオビトがいる。
「ちゃんと見とけよ!俺が強いってことはアンタも強ぇてことだ!俺がNo. 1ヒーローになる姿を見とけよオビト!!!」
視界が揺れる。本当は知っていた。オビトが消えるってことを心のどこかで感じてた。もう2度と会えることは、ない。
「あぁ、ちゃんと見てる」
優しい音色に溜まっていたものが爆発した。今までぶっきらぼうだったのに、こん時だけ優しくすんなバカ師匠。霧が晴れた時には、オビトの姿もさっきまであった日本家屋もなかった。
雄英高校入試試験当日。冷たい風に吹かれ、マフラーに顔を埋める。オビトの卒業試験受けてから通っていた山に日本家屋もオビトも居なかった。けど投擲用の的当てや傷をつけた木、罅が入った地面、二人でバカみてぇに更地にした砂山は残ってた。夢じゃなかったと安堵した。今でも意味なくオビトがいた山に行って鍛錬している。またいつか、会えるんじゃないかって期待して。会えないと分かっているくせに。
雄英高校に着くと門前に突っ立ている迷惑極まりない邪魔な存在がいた。
「どけデク」
「かっちゃん!!」
「俺の前に立つな殺すぞ」
「おっお早う。がんバ張ろうねお互ががい…」
無視して会場に入る。あいつも受験しに来たのか。どこか自信に満ち溢れた顔つきをしていた。落ちろと呪いをかけたいぐらいだ。
ヒーローになるにはまず入試を合格すること。
俺ならできる。他のモブより受かる自信だってある。俺はオビトの弟子だ。受からない理由なんてねぇだろ。
「今日は俺のライブにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」
シーン
「こいつあシヴィー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHH!!!」
2度目のコールを今度は自分でやるプレゼント・マイク。すげぇなあのヒーロー。俺も見習いたいわ鋼メンタル。それにしてもこんだけの人数を相手に拡声器なしで遠くまで聞こえる音量。自分の個性使いこなしてんな。
「ボイスヒーロープレゼント・マイクだすごい…!!ラジオ毎週聞いてるよ感激だなぁ雄英の講師は皆プロのヒーローなんだ」
「うるせぇ」
同じ中学のせいか隣からブツブツうるせぇ。こいつとの間に何かほしい。ノイズキャンセラー持ってくるべきだったか。
「入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!!持ち込みは自由!プレゼン後は各自、指定の演習会場へ向かってくれよな!!O.K!?」
同校同士で協力させないってことか。個人の力を見たいのか、何か狙ってんのか。持ち込み自由は個性のこともあるからか。模擬市街地演習……街あんのかこの高校。
「受験番号連番なのに会場が違うね」
「見んな殺すぞ」
「演習場には仮想敵を三種・多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!!各々なりの個性で仮想敵を行動不能にし、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ!!もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?」
三種、ねぇ。紙には四種と記載されてる。言い間違い、違う、プロがそんなことするわけねぇ。ハッタリ?ポイント稼げって言われてんだ。四種目のポイントが0だから含まなかった可能性がある。
「質問、よろしいでしょうか!?」
「!」
「プリントには四種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!我々受験者は規範となるご指導を求めてこの場に座しているのです!!」
いかにも優等生な真面目君。こんな大人数でプロの説明に質問するなんてある意味バカだ。最高峰のプロが間違えるわけねぇだろ。自分で考えろや。
「ついでに、そこの縮れ毛の君。先ほどからボソボソと……気が散る!!物見遊山のつもりなら即刻雄英から去りたまえ!」
「すみません…」
同意見だがてめぇも去れ。気が散る。
「オーケーオーケー。受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!四種目の敵は0P!そいつはいわばお邪魔虫!スーパーマリオブラザーズやったことあるか!?レトロゲーの。あれのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体所一体所狭しと大暴れしているギミックよ!」
市街地なのに所狭しで大暴れ、それぐらい大きいってことか。クソ真面目君はお手本の最敬礼して席に着いた。にしても腑に落ちねぇ。なんでお邪魔虫で0Pの仮想敵を配置するんだ。倒しても意味がないのに。
「俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と!!Puls Ultra!!それでは皆良い受難を!!」
やってやるよ。ここにいる奴らを蹴落として一位になってやる。
《はい、スタート 》
やる気ない開始宣言に、つま先に力を込めて一気に駆け出す。他の奴らは突然の合図に反応出来ずにその場で固まっていた。
はっ、おめでたい頭だ。説明はさっきの試験で受けただろうにまた説明あると思ったのか。それとも咄嗟に動くことに慣れてないのか。まぁどでもいい。ポイント制でも数に限りがある。さっさと潰して他の奴らより1Pでも多く稼ぐ。
【標的補足!!ブッ殺ス!!】
「こっちの台詞だ。さっさと死ねや!」
打ち込まれた拳にメキョリと変形する。散らばる破片、初めて倒したロボットに目もくれず次の標的に向かって駆け出した。
紙付きのクナイを仮想敵に向かって投擲する。カン、と金属同士が当たった途端爆発。爆炎も散らばる破片も気にせず駆け出す。体術で壊し、腰つけ袋から起爆札を取り出して爆発させる。1Pは見た目に反して脆い。2Pは1Pより少し硬いがまだ体術で倒せる。3Pは硬いが爆発させれば一緒だ。限られた時間、限られた仮想、無駄な力を使わずいかに早くポイントを稼ぐか。足を止めるな、思考を止めるな、敵から目を離すな、無駄な力を使うな。オビトの組み手に比べればどうってことないだろ。
「お前やりすぎだろ!」
ピタリと動きを止めてしまう。声がした方向に顔を向ければアホ面したモブども。
「強個性だからってそこまでする必要ないだろ!?」
「次々倒しちゃうから私達のポイント取れないじゃない!」
「勝ち組はいいよな!」
言ってることが分からず首を傾げる。足を少し動かせばガラガラと崩れる鉄のガラクタ。爆豪が今まで倒した仮想敵の山だ。
「……てめぇらは何しに来た」
「試験に受けに決まってるだろ!」
「そうかよ。じゃあ質問だ。ここはどこだ」
「雄英高校の試験会場じゃない」
「何寝ぼけたこと言ってやがる。ここは模擬市街地演習、仮想敵と俺達しかいねぇ街だ」
「!」
「敵しかいねぇこの街に、てめぇらの存在はなんだ。一般人か?違う、ヒーローだ。ヒーローならさっさと敵を倒せ」
血のような赤い目が無機物を見るような感情ない目で見下ろす。ビクッとその場にいるものが肩を跳ねた。心なしか冷たい空気が肌を撫でる。
「っ…お前が全部倒すから出来ないんだろ!?」
「呆れた。お前、ヒーロー向いてねぇよ」
「はぁ?!」
「今日までにお前らは何をしてきた。個性の強化?受かる為に沢山の勉強をした?そんなの誰にだってできる。ガキの頃から変わらずにやってきたことだろ。俺は寛大だからな。お前らみたいな脳内花畑に無駄な時間割いて耳を傾けてやる。今日ここで、胸を張って、周りに自慢できること言ってみろ。なぁ?雄英ここで、ヒーロー見習い俺に、自分の大義を言ってみろよ!」
「っっ」
「大口叩いてまで言えないならその程度。いつまでモブ気取りになってるつもりだ。ヒーローごっこなら他所でやれ。ここは本気でヒーローになる為の試験だ。生半可な気持ちで受けにくるな。記念受験だったら時間の無駄だ。夢を見るのは構わねぇがそれ相応の努力してから出直せ砂利どもが」
正論をぶつけられて言い返す言葉が出ない。中には歯を食いしばって泣いている子までいる。そんな嫌な空気を断ち切るかのように地面が揺れた。ビルを次々と倒壊して現れたのは高層ビルよりもデカい巨大ロボ。受講生に用済みと言わんばかりに爆豪は視線を外して巨大ロボに空中爆破しながら向かった。
《終了〜〜〜!!!!》
「………案外呆気ないものだったな」
大きな鉄の塊の上で、爆豪はつまんなそうに呟いた。
「実技総合出ました」
「今日は面白い奴が多かったな」
「何よりメインはあの二人でしょう」
「今までアレに立ち向かったのは過去にもいたけど…ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」
「緑谷出久、敵P0で7位。救助Pだけでこの順位とは恐れ入ったな」
「しかし自身の衝撃で甚大な負傷…まるで発現したての幼児だ」
「妙な奴だよ。あそこ以外はずっと典型的な不合格者だった」
「細けぇことはいんだよ!俺はあいつを気に入ったよ!!」
「思わずYEAR!って言っちゃったからなー」
「対照的に爆豪勝己、救助P0で1位。仮想敵は標的を捕捉し近寄ってくる。彼は終始無駄のない動きで仮想敵を倒し続けた」
「本当に15歳か。プロヒーローの動きだったぞ。軽い身のこなし、正確に投擲する腕、判断能力、戦闘力共に他の子らよりズバ抜けて高い」
「確かにすごかったがあの言動は頂けない。トラウマもんだぞ」
「あの子、所々敵思想あったじゃないですか。怖いですね」
「そうですか?私は痺れましたけどね。15歳なのにヒーローとして現実を理解している。娯楽化してるヒーローに、絶対プロヒーローになるんだという強い意志を感じました。彼はいいヒーローになりますよ」
「何にせよ彼らは合格者だ。言動がどうであれここに入学資格を持つ。何も問題ない」
「ふむ」
「あら、校長どうされました?」
「よし決めた。相澤君、君に爆豪君をお願いしてもいいかい?」
「俺、ですか?」
「彼のセンスはズバ抜けて高い。まるで死地の最前線で生き残ったみたいにね。なにより彼の戦い方は人を殺めるのに適したものだ。彼が過ちを犯さないように見てもらいたいのさ」
「はぁ、善処します」
「爆豪勝己……ね」
爆豪勝己と書かれた志願書を手に、めんどくさいことになったとため息吐いた。
2
「オビト、俺、今日から雄英生になる」
空が白みはじめ、冷えた空気が葉に水滴となって張り出す。まだ日が出ていない時間帯に爆豪は消えた師と過ごした山に来ていた。爆豪はいつものように切り株に向かって師に報告する。
「オビトと出会って6年。ようやくスタートラインに立てた。ここからだ、ここから俺は一番になってトップヒーローになってやる。ちゃんと見とけよオビト」
不敵に笑い、新しい制服を身にまとった爆豪は踵を返す。微かな陽光が照らし、鞄に付けていた鈴が軽やかに鳴った。
無駄にデカすぎる扉を開けると、教室の中はチラホラと人がいた。黒板で指定された席に座り、足を机の上で組んで目を閉じる。毎年倍率300を超える雄英高校。ヒーロー科の一般入試定員36名。1クラス18名の2クラスのみという狭き門。ヒーローになる決意をし、オビトに師事を仰いで誰にも負けない強さを身につけた。そこらのモブどもより強ぇって自負している。雄英で足りない部分を補ってヒーローになってやる。
「!……?!、!」
素通りするなら気にかけなったのに、さっきから同じ所に突っ立ているうるさい気配に嫌気がさす。渋々瞼を開くといつかの優等生が鯉のように口を開け閉めしていた。耳に嵌め込んだイヤホンを抜く。
「うるせぇな何のようだよ」
「なっ!?話聞いてなかったのか!!」
「てめぇみたいなうるせぇ野郎用にノイズキャンセラーつけてたもんでな。で?何のようだ」
「失礼だな!君に机に足をかけるなと言っているんだ!雄英の先輩方や机の先輩者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよ。ただの消耗品に伝統もクソもあるか。てめーどこ中だよ端役」
「ボ…俺は私立聡明中学出身。飯田天哉だ」
「聡明?くそエリートじゃねえか。ぶっ殺し甲斐がありそうだな」
「君ひどいな本当にヒーロー志望か!?ブッコロシガイ!?」
受験にいた口うるせぇ優等生。こんなクソ真面目な野郎のエリート精神ズタズタにして叩き潰したらさぞ気持ちいいだろうな。
いい子ちゃんが嫌いな爆豪の危ない思想に気づかず、飯田は扉にいる緑谷に気づいて扉の方へ向かった。爆豪は緑谷を一目見て不機嫌になる。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」
廊下にいた芋虫が動き出して、寝袋から出てきたのは3Kのおっさん。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。担任の相澤消太だ。よろしくね」
担任!!?とクラス一同が驚く。相澤は気にせずに寝袋に手を突っ込んだ。
「早速だが体操服来てグラウンドに出ろ」
出てきたのは指定の体操服。手渡された体操服を手に、各々更衣室へ向かった。
「あれ、お前何してんの?」
「ファブリーズ」
シュッシュッと体操服に吹きかける爆豪。なんだか手にある温もりに自分もしようかと考えてしまった上鳴であった。
「「「個性把握…テストォ!?」」」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側も然り」
「「「………………?」」」
「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は未だに画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ。爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「67m」
「じゃあ個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」
促されるまま円に入る。なんで俺を指名したんだこの教師。
「思いっきりな」
軽くストレッチしてからボールをもらう。ソフトボール投げのコツは肩を引きボールは耳より少し高く、三角形になるように構えること。そこから肘を前に出すように意識して投げ、ボールが頭の上から飛び出すイメージ。そこに球威に爆風をのせる。
「んじゃま、死ねぇぇえええええ!!!!」
FABOOOM!!
ピピッと判定された結果は705m。いまいちな結果に爆豪は舌打ちした。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーロー素地を形成する合理的手段」
今まで個性使用禁止の法があったから個性を使う機会がなく鍛えれない奴が多い。だから個性把握テスト。よく考えてたな。
「すげー!!おもしろそう」
「705mってまじかよ!!」
「個性思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」
「……面白そう…か。ヒーローになる為の3年間そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」
「「はぁっ!!?!」」
担任の言葉に爆豪の目がギラついた。
「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
蹴落としてやる。
誰よりも心躍っているのは彼一人だけ。
各々体力測定で自分の個性を使う中、爆豪は静かにその様子を見ていた。オビトのノウハウを受け継いだ彼は染み付いてしまったクセで人の動き、個性を把握するようにしている。いつかの戦闘に、いつかの弱点になるかもしれない。そんなもしもの備え。自分の持ちうる情報が多ければ多いほど有利になり、弱点や弱みがあればあるほど脅しに使える。分からないもの、未知の力を把握できなければ死ぬとその身で散々受けている爆豪にとって自然なことかもしれない。オビトの組み手は目を離した瞬間に死ぬと経験と耳にタコできるぐらい言われていたからだ。そんな経緯でジッとクラスメイトを観察する爆豪に、生徒の結果を書き込んでいた相澤は眉を顰めていた。
体力測定が後半に差し掛かったハンドボール投げ。最初に投げたことで感覚が掴め、それなりの距離を伸ばせた。クラスの奴らが面白い個性を使って結果を残している。ただ問題なのは次に投げる奴。
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ…?」
無個性なのに受験に合格し、入学できたのにも関わらずこの体力測定で一度も個性を使っていない。このまま除籍処分になっちまえ。最初の投球は46m。妥当かと思っているとあいつの顔は青ざめていた。
「な…今確かに使おうって……」
「個性を消した」
「!?」
「つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」
「消した…!!あのゴーグル…そうか………!抹消ヒーローイレイザーヘッド!!!」
「イレイザー?俺…知らない」
「名前だけは見たことある!アングラ系ヒーローだよ!」
ざわざわと騒ぎ出すクラスメイト。爆豪だけは緑谷から目を離さなかった。ボソボソ二人で話し、2球目を投げる時に目を疑うような出来事が起きた。1球目より弾丸のように突っ切る球は倍以上の距離に着地した。結果は705m。
「先生……!まだ…動けます」
「こいつ………!」
緑谷の投げ方に爆豪は目を細めた。
「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
デジタルスクリーンに出た結果は2位。見た目が派手な爆破の個性は万能じゃない。身体能力なら負けないが、万能個性持ちの1位じゃ負ける。持久走でバイク走ってんの見た時ずりぃって思った。
「ちなみに除籍はウソな」
「「「!?」」」
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「「はーーーーー!!!!??」」」
「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えれば分かりますわ」
「そゆこと」
違う。あのセンコウは本気だった。雄英高校のクラスは全部で11クラス。毎年テレビで放送される雄英体育祭で時々クラスが足りないことがある。営業科、サポート科は自由参加だが、ヒーロー科だけ足りない。絶対にあのセンコウが除籍処分したんだろう。
「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
終わりならいいかと更衣室に向かって歩き出す。横目で相澤が歩いて行った方向を見た。
「結局何しに来たんだオールマイト」
雄英高校2日目。初日は入学式だけだったが個性把握テストで潰れ、2日目はどうなんのかと思っていたが。
「んじゃ次の英文のうち間違っているのは?おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれーー!!!」
さすがラジオするほど声はいい。耳に入る本場並みのネイティブなのが評価高い。ただ授業はくそつまんねぇ。教える教師がヒーローってだけで英語等の必須科目は普通の授業。たが午後にヒーロー科ならではの教科が入っている。
「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」
「オールマイトだ…!すげぇや、本当に先生やってるんだな…!!!」
「銀時代のコスチュームだ………!風格違いすぎて鳥肌が……」
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!!単位数も最も多いぞ。早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」
「戦闘…訓練…!」
「そしてそいつに伴って…こちら!!!」
ガコッと何もない壁がスライドする。中には数字が書かれた箱。
「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた…戦闘服!!!」
「「「おおお!!!!」」」
「コスチューム…!!」
「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」
「「「はーい!!!」」」
「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女。自覚するのが今日から自分はヒーローなんだと!!」
身軽さ重点に爆破で破けないようにしてもらっている着衣。近接戦闘のために膝と、人体急所の首を防ぐための金具。汗を溜めるための籠手。ベルトに空の手榴弾と腰付け袋。
「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練開始だ!!!」
ちゃんと要望通りだな。爆破で破れることも燃えることもないのは有り難い。けど道具に限りあるから申請すれば作ってくれんのか。作ってくれんならオビトにもらった道具一式生産してくんねぇかな。
「いいじゃないかみんなカッコイイぜ!!ムム!?ぶふっ」
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか」
「いいや!もう2歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!敵退治は主に屋外で見られるが、統計でいえば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ。監禁、軟禁、裏商売…このヒーロー飽和社会ゲフン…真に小賢しい敵は屋内に潜む!!君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行なってもらう!!」
「「「!?」」」
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知るための実践さ!ただし今度はブッ壊せばOKじゃないのがミソだ」
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ潰せばいいんスか」
「また相澤先生みたい除籍とかあるんですか?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」
「このマントやばくない?」
「んんん〜聖徳太子ィィ!!!」
そう言ってポケットから小さい紙を取り出したオールマイトは読み上げた。
「いいかい!?状況設定は敵がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしてる! ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか、核兵器を回収する事。敵は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事。コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすること多いし、そういうことじゃないかな…」
「そうか…!先を見据えた計らい…失礼致しました!」
「いいよ!!早くやろ!!」
くじ引きの結果D。最悪なことに優等生でいい子ちゃんなクソ眼鏡とチーム。
「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!Aコンビがヒーロー!!Dコンビが敵だ!!」
あぁ、本当に最悪だわ。
「ここでいいのか?」
「あぁ」
外からギリ見えないとこにハリボテを設置する。ハリボテを設置した場所は4階の窓側フロア。
「それにしても何故ここに」
「それにしても何故ここに」
「お前、最上階の侵入率知ってっか?」
「いや…」
「高層立てで空き巣に狙われやすいのは断然3階以下、約9割が侵入しやすい。対して4階以上の侵入は約5割。だが屋上がある最上階は1階と同じ狙われやすさはダントツ。外壁の段差を利用すれば最上階の部屋に入れるからな」
「なるほど。だから4階に核置いたのか」
「それとハリボテでも一応核だ。窓から侵入しようものなら、ガラスの当たりどころ悪けりゃアウトだわな」
「くっ、俺はそこまで考えれなかった!流石だ」
「時間は有限。この部屋の物どかしながら作戦会議だ」
「分かった。爆豪くんの言うことに従うとしよう」
「てめぇの頭でっかちでもついてこれる作戦だ。負けることはねーよ」
屋内で向かない邪魔な籠手を外し、クソ眼鏡に手榴弾を渡す。
「コレ持っとけ」
「も、持っとけと言われても手榴弾だぞ!危険だろ!?」
「あ?栓抜かなきゃただの置き物だわ。安心しろ。ただ持っとくだけでいい」
「まぁ君の作戦に従うと決めたのは俺だ。使うことないはないと祈る」
『 屋内対人戦闘訓練スタート! 』
「作戦通りにしろクソ眼鏡」
「飯田だ!分かってる」
「潜入成功!」
「死角が多いから気をつけよう…」
麗日と緑谷は窓から潜入し、周りに警戒しながら核のある部屋を探す。緊張感を持つ2人に右の通路から影が飛び出す。
「見つけたぞヒーロー!!」
「飯田くん!?」
「かっちゃんじゃない…!?」
捕縛テープを手に接近する飯田に2人は戦闘体制に入ったが、飯田はそのまま2人を通り過ぎた。
「え!?」
「ふはははは!バカめ!俺はただこっちの方に用があっただけだ!!」
「ど、どうするデクくん」
「作戦通り麗日さんは飯田くんのを。それと飯田くんが何かする気だから気をつけて!」
「うん!」
2人はそこで分かれる。緑谷は核探しとまだ見ぬ爆豪に警戒し、麗日は飯田の相手を。緑谷が知る爆豪ならば最初に奇襲するのは彼だっただろう。だがもう、緑谷の知る爆豪はいない。もしここで2人で飯田を捕まえていたら話は違っていたのかもしれない。暗躍時代が長いオビトに師事を仰いだ弟子は、ヒーローの立ち回りより暗躍技術の方が高い。
「フハハハハ!!」
「早いっ!」
キレッキレの走りをする飯田に麗日は必死で追いかける。ぐるぐると同じ階の廊下を回る。逆方向で待ち伏せれば?と思うだろうが、小賢しいことに飯田は狙っているのかギリギリ麗日に追いつくようにしたり、立ち止まっている時がある。それを必死に捕まえようとしてる麗日に飯田はおちょくるように笑う。人間の心理として、逃げられれば追いかけたくなる心理が働く。そこに敵を捕まえなきゃいけないヒーローの立場である麗日はまさに的を得ている。だから飯田が窓側のフロアに入ったことに対して視野が狭まっている麗日は疑問を抱かない。
「ここまで追いかけてくるとは!しつこいぞヒーロー!!」
「飯田くん、覚悟!」
物が異常に多いフロアに麗日の個性にとって最適な場所。すぐそばにある物に手を触れようとした。
「まずは、1人」
背後で聞き慣れない低い声が聞こえた途端、麗日は強い衝撃と共に気を失った。
ガチャッと扉を開ける。4階窓側のフロア。緑谷は綺麗に片付いているフロアに警戒しながら入る。
「麗日さん!飯田くん!?」
ハリボテの核にロープで括り付けられている気絶してる麗日。そんな麗日のそばに立つのは何故か戦闘服を脱いでいる飯田の姿。手の中にはピンに指をかけている手榴弾。
「お、俺は…俺はっ」
「飯田くん!落ち着いて!」
「俺はっっ」
どこか様子がおかしい飯田にすぐに捕獲テープを持って近づこうとした。
「待て、それ以上近づくな」
聞き覚えのない威圧感のある声に背筋がゾッとする。核の背後から白い仮面をつけた爆豪が姿を現した。
「かっちゃん……?」
「それ以上近づくとコイツらの命はない。俺の個性は爆破だ。核と共に貴様も道連れにしたっていい」
爆豪は核に手を当て爆破するぞと脅す。緑谷は悔しげに唇を噛んだ。
「貴様に与えられた選択肢は3つ。ヒーローとして役目を果たすか、降参するか、爆死だ」
「そんなのっ!」
「おっと。いいのか?下手に近づくとコイツの手榴弾が発動するぞ?」
「!」
「考えろよヒーロー。この部屋で爆発すればどうなる?俺達は爆死した後建物の下敷きになる。二次被害で周りの建物や人間を巻き込んで死者数が増える。もし貴様が生き残れたとして、風評被害があるだろうな。何もなし得なかったヒーローだと」
緑谷は信じられない目で爆豪を見た。こんな凶悪敵みたいな行動に信じられない。画面の向こ音声聞いてるオールマイトさえドン引きするほど完璧な敵だった。
「俺は気が短いんでな。選択できないならそれまで。おい眼鏡、ピンを抜いて投げろ」
「え!?」
「今っ」
戸惑う飯田に、隙をついて緑谷は爆豪に近付いた。
「そうするだろうと思っていた」
「うわ!」
横から急に何かを引っ張られ、気づけば捕縛テープに巻かれていた。
『 敵チームWIIIN!!! 』
「ギリギリセーフだったな」
「あそこで捕縛テープはいいタイミングだ」
「俺の個性は速さが1番だからな!それに2人を最初から捕縛テープで捕まえる作戦だったじゃないか」
「無駄なことするわけねぇだろ」
「かっちゃん………なんで………………」
「核さえ触ればヒーローの勝ち。実にシンプルだ。爆破はハッタリ、クソ眼鏡は常識があるからピンは引かない、俺の性格的にてめぇを狙う。そう考えてたんだろ?あぁ、俺もてめぇならそう考るだろうと思ってた。クソ眼鏡の手榴弾はなんも発動しねぇただの玩具。こんな狭い屋内で、俺もてめぇも個性つかえねぇもんなぁ緑谷」
白い仮面から、冷めた赤い目が緑谷を見下ろす。
「爆豪少年、カウセリング受けてみないか?」
「頓珍漢なのは見た目だけにしろ」
MVPは囮として活躍していた飯田。爆豪はオールマイトに何故かカウセリングを勧められた。
3
昨日は変な日だった。朝から迷惑記者が門前で群がって邪魔だったし、学級委員長決めでクソナード選ばれるし、昼休憩に何故か記者が押し寄せて食堂がパニクったらしいし。そのあとクソナードの推薦でクソ眼鏡が学級委員長になったりととにかく変な日だった。入学からそんな経ってねぇのに1日が濃い。授業は退屈だけど、まぁ過ごす分には退屈しねぇなって思う。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
午後のヒーロー基礎学。担任の言葉に疑問浮かべる爆豪だったが追求はせず、そのまま話が続く。
「ハーイ!何するんですか!?」
「災害水難なんでもござれ人命救助だ!!」
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場ケロケロ」
「おいまだ途中」
「「「……………」」」
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
人命救助なんて、オビトは教えてくれなかったな
騒ぎ始めたクラスメイトを尻目に、爆豪は戦闘服が入った箱に力なく握った。戦闘服に着替え、集合場所に向かえばすでに半分以上が集まっていた。
「爆豪、あの不気味な仮面つけねーの?」
「人の仮面にケチつけんじゃねぇ。あれはあの一回かぎりだ。もうつけねぇ」
「まぁ今してるやつも結構イケてて漢らしいぜ!」
「っはん」
クソ眼鏡が張り切るようにバスの席順を指示していたが旅行者や学生向けのバスじゃなく、街中を走るバスタイプだった。
「こういうタイプだったくそう!!!」
「イミなかったなー」
くっだらね。対面席を避けて2人席の窓際に座る。
「隣いい?」
「静かにしてろ」
耳女が隣に座り、ノイズキャンセラーを装着して目を閉じる。しばらくして出発したのかバスの振動で体が少し揺れた。対人戦で使った白い仮面はオビトから貰ったもの。入試の1日前に家に届いた。消えたはずのオビトから気が早い入学祝い。新品の忍具と手入れ道具、あの家で着ていた数着の着物、俺がオビトに強請ってもくれなかった欲しかった物たち。あの日、オビ前へ1 / 6 ページ次へ
昨日は変な日だった。朝から迷惑記者が門前で群がって邪魔だったし、学級委員長決めでクソナード選ばれるし、昼休憩に何故か記者が押し寄せて食堂がパニクったらしいし。そのあとクソナードの推薦でクソ眼鏡が学級委員長になったりととにかく変な日だった。入学からそんな経ってねぇのに1日が濃い。授業は退屈だけど、まぁ過ごす分には退屈しねぇなって思う。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
午後のヒーロー基礎学。担任の言葉に疑問浮かべる爆豪だったが追求はせず、そのまま話が続く。
「ハーイ!何するんですか!?」
「災害水難なんでもござれ人命救助だ!!」
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場ケロケロ」
「おいまだ途中」
「「「……………」」」
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
人命救助なんて、オビトは教えてくれなかったな
騒ぎ始めたクラスメイトを尻目に、爆豪は戦闘服が入った箱に力なく握った。戦闘服に着替え、集合場所に向かえばすでに半分以上が集まっていた。
「爆豪、あの不気味な仮面つけねーの?」
「人の仮面にケチつけんじゃねぇ。あれはあの一回かぎりだ。もうつけねぇ」
「まぁ今してるやつも結構イケてて漢らしいぜ!」
「っはん」
クソ眼鏡が張り切るようにバスの席順を指示していたが旅行者や学生向けのバスじゃなく、街中を走るバスタイプだった。
「こういうタイプだったくそう!!!」
「イミなかったなー」
くっだらね。対面席を避けて2人席の窓際に座る。
「隣いい?」
「静かにしてろ」
耳女が隣に座り、ノイズキャンセラーを装着して目を閉じる。しばらくして出発したのかバスの振動で体が少し揺れた。対人戦で使った白い仮面はオビトから貰ったもの。入試の1日前に家に届いた。消えたはずのオビトから気が早い入学祝い。新品の忍具と手入れ道具、あの家で着ていた数着の着物、俺がオビトに強請ってもくれなかった欲しかった物たち。あの日、オビトから気が早い入学祝いが家に届いた時見慣れた字を見て嬉しかった。オビトの存在があったこと、形あるものが手元にあることが嬉しかったんだ。だから対人戦で白い仮面を使った。オビトが使っていたという仮面で、仮面越しでも俺の成長を見て欲しかったから。まぁそんなんで消えたオビトが見てくれるなんて絵空事だ。けどちゃんとヒーローらしいことしてるって伝えたかった。その一回きりで仮面は部屋に飾った。頑丈な物だって分かってはいるが、オビトの物は極力汚したくなかったから。
「すっげーー!!USJかよ!!?」
「水難事故、土砂災害、火事……etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……ウソの災害や事故ルーム!!」
さすが雄英、金の掛け方違ぇな。
「以上!ご静聴ありがとうございました」
「ステキー!」
「ブラボー!!ブラーボー!!」
スペースヒーロー13号による有り難いお言葉を右から左へ聞き流しているとピリッと肌を刺す痛みが襲った。少し痛む程度でなんともないが、これは。
「そんじゃあまずは………………?」
殺気
「一かたまりになって動くな!!!」
「え?」
「13号、生徒を守れ!!!」
黒いモヤが噴水広場を埋め尽くす。黒いモヤから次々とガラの悪い人が出てくる。
「何だアリャ!?また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」
「動くな、あれは敵だ!!!!」
手をいっぱいつけた男、異形型、脳みそ剥き出しなバケモンなどなど。どいつもこいつも目をギラつかせていやがる。
「13号に…イレイザーヘッドですか…。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが…」
「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか」
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…」
手を顔と体中につけてる敵が爆豪達に増悪をぶつける。
「子供を殺せば来るのかな?」
かちり、と爆豪のスイッチが入った。
BOOOM!!
「かっちゃん!?」
「爆豪!?何やってんだ!下がれ!」
外野の言葉を遮断し、噴水広場にいる敵の頭上目掛けて爆破で飛ぶ。敵の中心地点で空中に留まる。
「射撃隊いくぞぉ!」
「情報じゃ13号とオールマイトだけじゃなかったのか!?ありゃ誰だ!?」
「知らねぇ!!が、1人で突っ込んでくるとは大まぬけ!!!」
密集具合、距離感、汗のため具合完璧。右手を真下に向け、汗が溜まった籠手のピンを抜く。
「ぶっ飛べ」
BOOOOOOM!!!
大規模な爆破が敵目がけて放たれた。コンクリートが割れるほどの振動。モクモクと粉塵が上がる。今ので半分。弱々しい気配、なんともない奴も何人かいるな。相手は敵、ヒーローが所属している雄英だと知っての不法侵入。圧倒的な力でねじ伏せて相手の心を折れ。殺される前に殺るのが俺流だわ。ピンを籠手に戻して煙の中へ落下する。足が地に着いた途端身を屈ませて地を蹴る。身近にいた奴らから骨を折る勢いで殴り蹴る。向かってきた相手の腕を掴んで捻らせてから服に起爆札を貼り付け、2人ほど向かってきたモブどもに向かって起爆札を貼り付けたモブを蹴り飛ばす。小規模な粉塵が起きるが次のターゲットに向けて足を向けた。首、鼻に目がけてて拳を振るい、手だけ動かす奴に足払いして体制崩させてから何かを投げつけてきた方向に壁役として防御。起爆札付きのクナイを密集してる場所へ大量に投擲して起爆。向かってくる奴を最小限に避けてから腕の骨を折って回転して向かいに投げ飛ばす。足下からくる奴をジャンプでかわし、武器を振りおろすモブに身を捩らせて下にいた奴に刺させる。その武器を握って回転しながら頭に向けて蹴り飛ばす。結構な数減らしたはずなのに丈夫な奴が多いなと舌打ちしてからまだ動けてる敵目がけて連打で爆破する。足は地面に着いた時から止めないまま。目指すは手をいっぱいつけていた男。
「お前が、親玉か?」
BOOM!!
黒いモヤが広がる。手応えは、なし。風を切る音と共に視界に大きな拳が見えた。打撃と爆発音が止み、粉塵が晴れる。そこには4分の1に減った敵と距離をとっている爆豪。頬が切れたのか血が流れている。
脳みそ野郎から爆破して距離をとったおかげで頬の傷だけで済んだ。狙っていた手の男は随分と距離がある。そばには黒いモヤと脳みそ剥き出しのバケモノ。
「大丈夫ですか死柄木」
「あれがヒーローの卵?冗談じゃない…あのガキ1人に半分以上潰されたぞ………」
捉えたと思ったのに別のとこに、あの黒いモヤの仕業か。手袋で血を拭う。
「今のヒーローの卵は随分と優秀ですね」
「すごい…!多対一なのにかっちゃんの戦闘センスと広範囲な爆破で押してる」
「分析してる場合じゃない!早く避難を!!」
「させませんよ」
黒いモヤが一瞬で避難しようとした生徒達の道を阻む。
「初めまして、我々は敵連合。せんえつながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは…平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…。ですが何か変更があったのでしょうか?まぁ…それとは関係なく…私の役目はこれ」
爆破して黒いモヤの背後を取る。転送の個性は後々厄介な敵。狙うは、首。
SKLIT!
BOOOOM!
「その前に俺達にやられることは考えてなかったのか!?」
「危ない危ない………そう…生徒といえど優秀な金の卵、爆破の君は特にね」
避けんのか。モヤのくせに。
「ダメだ、どきなさい2人とも!」
ブラックホールの構え。転送の個性にそれは得策じゃない。
「散らして」
黒いモヤが視界に広がる。
「嬲り」
無意識に近くにいたクソ髪を引っ掴む。
「殺す」
暗闇に包まれたと思ったら、晴れた先は倒壊ゾーン。
「邪魔だ」
「ちょっ、お前ぇ!!」
邪魔なクソ髪を放り投げる。気配が多い建物から外に出て、建物の真上に移動する。
「消し飛べ」
左の籠手のピンを真下の建物に向けて放つ。
BOOOOM!!
ガラガラと崩壊した瓦礫の上に立つ。よし、動く気配がないな。
「戻るか」
「戻るかじゃねぇよ!何してんだお前!」
「あ?敵倒しただけだろ」
「え?!俺おかしいのか!?ただでさえ壊れてんのに瓦礫になったぞ!敵!瓦礫の下敷き!!」
「未成年の俺らを殺しにきてる奴らをなんで情けかけなきゃなんねぇんだよ。この程度生きてるだろ敵なら」
「それもそうか!」
馬鹿でよかったわコイツ。
「っし!早くみんなの助けに行こうぜ!俺らがここにいることからしてみんなUSJ内にいるんだろうし!攻撃手段少ねぇ奴らが心配だ!俺らが先走ったせいで13号先生が後手に回った。先生があのモヤ吸っちまえばこんなことになっていなかったんだ。男として責任取らなきゃ…」
「行きてぇなら1人で行け。俺はワープゲートぶっ殺す」
「はぁ!!?この期に及んでガキみてぇな…それにアイツに攻撃は…」
「うっせ!時間ねぇんだ。自分で考えろ」
人差し指を曲げて第二関節を口に当てる。
ピュイ、ピィィィィ
「指笛?」
《カァ、カァ!クァクァ♪》
「ぐるぐる、おめぇに仕事だ」
《カァ!》
「烏!?しっろ!!」
腕を前に出して留ませる。片方しかない目は渦巻き状になっていて、本来黒いはずなのに真っ白な羽毛。陽気な性格の烏らしくない烏。オビトがぐるぐるって呼んでたから俺もぐるくるって呼んでる。
「俺以外のクラスの奴ら見てこい」
《クァア?》
「すっとぼけんな。どうせ顔見たことあんだろ。報酬は目玉な」
《クァ?!カァ!カァア!!》
「行け」
腕を振った同時にぐるぐるが羽ばたく。俺も行くか、と噴水広場に行く道に体を向けるとクソ髪がいきなり掴み掛かられた。
「待て待て待て待て!なんだあの烏!?目玉ってどういうことだ!!」
「あぁぁあもう鬱陶しい!!黙れクソ髪!!あとで説明してやっから離せや!!」
「絶対だかんな!」
「ッチ!じゃあな行っちまえ」
「待て待て。俺はオメェについていくぜ!走りながら話聞けんだろ」
「勝手にしやがれ」
クソ髪と共にワープ野郎がいる所へ向かった。
「で、目玉って本物の目玉のことか?」
「目玉型のグミ以外なんかあんのか」
水に浸かってるクソナードどもとその近くに手の男。奥に脳みそ野郎とボロボロのセンコウ。少し離れたとこにワープ野郎。まずは親玉と思わしき近い奴から。手の男に殴りかかろうとするクソナードの姿。
「どけ、邪魔だ!!」
BOOOM!
今度は手応えあり。
「危ない危ない。ほんといい動きするなぁ…お前から先に潰してやるよ」
爆破を受けたのは脳みそ野郎。効いてねぇ上に頑丈で硬い。
「脳無、このガキを殺せ」
巨体から考えられない速さで腕を振るわれる。けど、オビトほどじゃない。
BOOM!BOOM!BOOM!
「すごい、かっちゃんがあの敵相手にできてる」
「なんだよアイツ。先生でも手こずってたのに」
「ケロ」
視線の先で凄まじいスピードで攻防する爆豪。個性だけだと思っていたら忍者が使うような道具を使って投擲したり、斬りかかったりと。人間技じゃない戦闘スキルで渡り合っていた。
「あんなに投げてどうするのかしら。わざと外させてるのもあるものね」
「視線誘導なんじゃねぇの?ほら、わざと隙を作るてきな」
「かっちゃんはもうやってるんじゃないかな。別方向に飛ばすことで意味があるんじゃ」
緑谷達が考察する中、爆豪の内心は穏やかじゃない。いくら爆破させても斬りつけても効いておらず、すぐに切り傷が治る脳無に苦戦していた。だが表に出さず、無表情でジッと脳無を捉え続ける。
あの担任が血だらけになるぐらいの敵。油断は禁物。焦るな、隙を作るな、攻撃をまともに受けんな。一度でも攻撃を受けたら動かなくなる。粘れ、敵の視線を引き続けろ。ひゅるり、と俺と脳みそ野郎の間に紐付きクナイが投げ込まれた。
「やっとか」
無表情だった爆豪がニヤリと口角を上げ、紐付きクナイを取って紐を伸ばす。既に何十本も飛ばしていたクナイから透明な紐がピンと張り、脳無を拘束する。
「爆」
仕込んでいた起爆札を引火させ、紐を伝っていく。爆豪は相澤を起こしてその場から去る。途端、ひどい怒号と爆炎が脳無を中心に上がった。
「すっげぇ!爆豪の奴やりやがった!」
「そうか。初めっからかっちゃんはあの敵の拘束と薄い導火線で起爆させるつもりだったんだ」
早くセンコウを安全な場所に行かせねぇと。
「それで脳無を倒したつもりか?」
飛び出てきた無傷の脳みそ野郎がこちらに向かって腕を振り下ろす。センコウをクソナードに向かって投げ飛ばし、せめてものの抵抗で両腕の籠手のピンを外した。
BOOM!!
2度目の爆炎。晴れた先に煤で汚れた超再生で治す脳無と、壁に叩きつけられている頭から血を流す爆豪の姿。
「かっちゃん!!!!」
相澤と爆豪が倒れ、再び絶望する緑谷達。だが危機的状況でこの男が現れた。
「もう大丈夫、私が来た」
「オールマイトォォ!!!!」
「あー…コンデューだ」
オールマイトは笑っていなかった。オールマイトと脳無の戦闘。もう大丈夫だと安堵する2人だが、緑谷だけが知っているオールマイトの秘密。もう限界だと知っているから、脳無の爪が脇腹に刺されているオールマイトを助けようと飛び出した。
「オールマイトォ!!!!」
「浅はか」
緑谷と進行に妨害しようとした黒霧の間に手榴弾が一つ。カッ!と眩い光が襲う。
「グッ!」
「やっと捕まえたぞワープ野郎」
爆豪が黒霧の首を掴んだまま地に埋め込ませる。逃亡しないよう背中に体重を乗せ、クナイを心臓の上に当てる。また脳無の下半身が凍り、死柄木に攻撃しようと影が動く。
「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
「だぁー!!くっそ!!いいとこねー!」
「スカしてんじゃねぇぞモヤモブが」
切島の攻撃は簡単に避けられ、オールマイトは氷結で手が緩んだ脳無から離れることに成功した。
「平和の象徴はてめぇら如きに殺れねぇよ」
「かっちゃん…!みんな…!!」
「出入り口を押さえられた…………こりゃあ…ピンチだなぁ…」
籠手を外した両手が軽い。首とクナイを持つ手に力を入れる。目はずっとワープ野郎を捉えたまま。
「動くなよワープ野郎。怪しい動きをしたと俺が判断したらすぐてめぇの心臓刺す」
「ヒーローらしかぬ言動…」
「クソ髪、俺の背中にいんなら真面目に警戒しろや。あとさっきの投擲雑だ。もっと正確に投げろ」
「投擲初だったから勘弁してくれよ。それより怪我大丈夫なのかよ」
「この程度怪我のうちにはいんねぇわ」
「攻略された上にほぼ無傷…すごいなぁ最近の子どもは…恥ずかしくなってくるぜ敵連合…!脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」
体制を戻し、氷結で崩れてもなお動く脳無。割れた所から肉が迫り上がって何事もなかったかのように戻っていく。
「身体が割れてるのに…動いてる…!?」
「みんな下がれ!!なんだ!?ショック吸収の個性じゃないのか」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは超再生だな」
「!?」
「脳無はお前の100%にも耐えれるよう改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」
爆豪に向かって目に見えぬ速度で突進する脳無に、オールマイトは庇おうとした。が、それを止めたのは爆豪本人。
「そこで少しじってしてろオールマイト」
目に見えない何かにぶつかって止まる。見覚えのある細い糸が脳無の動きを止めた。壁と地面に何十本も刺さったクナイの紐の壁が脳無が動きを止めた。だが何も仕込んでない紐のためすぐに切れる。オールマイトはその一瞬の隙を見逃さず脳無を1発入れて後退する。
「やられたフリして準備したかいあったわ」
「半分は俺だけどな!」
「だぁてろクソ髪。爆破したい所だがちょうど切らしててな。一瞬だけ止めんのが精一杯だ」
「3対5だ」
「モヤはかっちゃんが押さえてる!」
「とんでもねぇ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ…撃退できる!!」
「ダメだ!!!逃げなさい」
「………さっきのは俺がサポート入らなけりゃやばかったでしょう」
「オールマイト、血………それに時間だってないはずじゃ…あ…」
「それはそれだ轟少年!!ありがとな!!しかし大丈夫!!プロの本気を見ていなさい!!」
あっちは任せて、こっちに集中するか。激しい打撃音をBGMにワープ野郎に視線を落とす。
「てめぇに聞てぇことが山ほどある」
「何をされようと話しませんよ」
「言葉は一つの手段だ。どうにでもなる」
「………?」
クナイを持ち替えて手を心臓の上に乗せる。
「まず一つ、ここに来たのはオールマイトの殺害だけか?」
「………」
「あの手の野郎が親玉か?」
「………」
「あのバケモノがテメェらの勝利の鍵か?」
「………」
「他に、仲間はいるか?」
「………」
「だんまりか、当たり前だわな。まぁあんな甘ちゃんのヒョロガリを仮リーダーしてる時点で、てめぇら今日が初陣か」
「!な、何故」
「作戦の詰めが甘すぎる。目先にヒーロが多く所属する雄英の侵入、初っ端から目的を宣言、情報力のなさ、連携皆無。この作戦での勝機があのバケモンのみ。誰が考えたんだ?幼稚なお遊戯の、つまらねぇ作戦」
ドクン、ドクン、ドクン。激しく鳴る鼓動を手の感触を通じて動揺してるのが分かる。犯罪者の思考と戦争を起こす経緯、何かを成すための暗躍に知識ある俺としちゃあまりに稚拙で打算がない作戦。全員切り捨てる駒だったらまだ利点はあったのに。
「口が軽すぎんのも問題だぜ?てめぇら敵に向いてねぇよ」
まぁオビトの前じゃ、殆どの敵はチンピラだけどな。
なんだこの子どもは。私を押さえるこの子ども。私達を恐れず、脳無と闘い、頭が良く切れるヒーローの卵。
「てめぇの個性、どうせ知ってる場所じゃねぇとワープ出来ねぇだろ。不便だよなぁ転送。視察しなきゃどこも行けねぇんだから。モヤのくせに全身物理無効じゃないの残念で仕方ねぇもんな?」
いや、こんな子供がヒーローの器じゃない。
「あのヒョロガリ、もしかして育て中か?ヒーローの増悪を煮詰めた新たな指導者芽か。悪くねぇが戦闘経験ねぇだろ。殺気もあめぇ。子どもの面倒は大変だなワープ野郎」
どちらかといえば私達と同じ、敵の器じゃないか。
「敵よ、こんな言葉を知ってるか!!?Puls Ultra!!」
脳無をドームを突き抜けて吹っ飛ばす。雲まで裂けるデタラメな力、再生も間に合わねぇ程のラッシュ。これがNo. 1トップヒーロー、オールマイト。
「……漫画かよ。ショック吸収をないことにしちまった…究極の脳筋だぜ」
「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに。300発以上も撃ってしまった」
人じゃありえないほどの蒸気が、オールマイトの体から噴き出る。あれは、なんだ。
「さてと敵、お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!」
首を異常に掻く手の男。煙がオールマイトを中心に立ち込める。
「衰えた?嘘だろ…完全に気圧されたよ。よく前へ4 / 6 ページ次へ
「敵よ、こんな言葉を知ってるか!!?Puls Ultra!!」
脳無をドームを突き抜けて吹っ飛ばす。雲まで裂けるデタラメな力、再生も間に合わねぇ程のラッシュ。これがNo. 1トップヒーロー、オールマイト。
「……漫画かよ。ショック吸収をないことにしちまった…究極の脳筋だぜ」
「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに。300発以上も撃ってしまった」
人じゃありえないほどの蒸気が、オールマイトの体から噴き出る。あれは、なんだ。
「さてと敵、お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!」
首を異常に掻く手の男。煙がオールマイトを中心に立ち込める。
「衰えた?嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を…チートがぁ…!全っ然弱ってないじゃないか!!あいつ…俺に嘘を教えたのか!?」
「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんもな言ってたが…出来るものならしてみろよ!!」
「うぅうぉおおぉおおぉおおぉお…!!」
オールマイトの威圧に、手の男が後退りするほど気圧された。だっせ。あれが、リーダーの器か。
「口が軽い。ペラペラ情報吐いてくれんぞてめぇのリーダー。あいつって?」
「っ何も話しません」
「さぁどうした!?」
「脳無さえいれば!!奴なら!!何も感じず立ち向かえるのに………!」
「っ…死柄木弔!」
「へぇ…」
自分の命を脅かされてると分かっていながらモヤを広げる。まぁ聞きたい情報吐いてくれたし、潮時だったからいいか。ワープ野郎からすぐさま離れる。
「死柄木弔…落ち着いてください。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている。どうやら子どもらは棒立ちの様子…あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが、死柄木と私で連携すればまだヤれるチャンスは充分にあるかと…」
あの子どものせいで勝算は低いが、と内心で黒霧は思う。赤い目が静かにこちらを捉える。佇んでいるだけなのに隙がない。本当にヒーローの卵かと疑ってしまう。
「…….うん…うんうん…そうだな…そうだよ…そうだ…やるっきゃないぜ…目の前にラスボスがいるんだもの…」
どうかオールマイトだけはと切に願う。
「主犯格はオールマイトが何とかしてくれる!俺達は他の連中を助けに…」
「緑谷」
まだ言ってんのかクソ髪。ヒーロー志望なら自分の力でやれんだろうが。そう悪態つけようとしたら何かが風が切った。クソナードが敵本陣に突っ込んでいる。
「な…緑谷!!?」
何やってんだあのクソナード!!足が変な方向に折れてるし、これで2度目だぞ自殺志願者が。
「オールマイトから離れろ!!」
「2度目はありませんよ!!」
ワープで距離も関係ない。相澤の肘を崩壊させた5本指が緑谷の顔に迫る。崩れて消えてしまう個性と歪な笑い声が、緑谷の恐怖心を増加させる。もうダメだと思った時、ズドン!とパーク内に響き渡る銃声音。死柄木の手に銃弾が当たる。
「「「!!!!」」」
「来たか!!」
「ごめんよみんな、遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めて来た」
「1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」
手短に、ハキハキと通る声でみんなに知らせる。連絡役の飯田が戻って来た。頼れる雄英教師陣を連れて。
「あーあ来ちゃったな…ゲームオーバーだ。帰って出直すか黒霧…」
ワープゲートで去ろうとする死柄木に銃弾の嵐が襲う。いくつかの銃弾が死柄木の体に当たる。モヤが死柄木を守って去ろうとしたが、それを13号のブラックホールで阻止する。
「今回は失敗だったけど今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」
モヤと共に脅威が消え去る。人命救助から一転、敵の襲撃。途方もない悪意、プロが戦っていた世界。ヒーローの卵でも早すぎる経験。爆豪だけはなんともないように頭から流れる血を拭う。穴の空いたドームから空を見上げ、旋回する白い烏に目を細めた。
「ってぇ…両腕両足撃たれた…完敗だ…脳無もやられた。手下どもは瞬殺だ…子どもも強かった…平和の象徴は健在だった…!話が違うぞ先生………」
《違わないよ》
液晶テレビから不気味な声が返事をする。
《ただ見通しが甘かったね》
《うむ…なめすぎたな。敵連合なんちうチープな団体名で良かったわい。ところで、ワシと先生の共作脳無は?回収してないのかい?》
「吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握できなければ、いくらワープとはいえ探せないのです。そのような時間は取れなかった」
《せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに…》
《まぁ…仕方ないか…残念》
「パワー…そうだ……1人…オールマイト並みの早さを持つ子どもがいたな……それと…渡り合えてた子どももいた……」
「私も1人、危険だと思った子どもがいます。彼は私達の計画を見透かしたように、幼稚なお遊戯だと嘲笑されました」
《………へぇ》
「あの邪魔がなければ、オールマイトを殺せたかもしれない…ガキがっ…ガキ……!」
「死柄木、落ち着いて」
その時、黒霧からジリジリと嫌な音が鳴り出す。
「っまさか!」
黒霧は死柄木から離れた瞬間、背中が爆発する。突然の衝撃で床に倒れ、言葉にでない痛みが襲う。
「……!」
《なんだ?いきなり爆発したぞ》
「っっ……あの、子ども……初めっから、これが狙いだったのか…………」
爆破で浮かぶのはあの子ども。
『爆破したい所だがちょうど切らしててな。一だけ止めんのが精一杯だ』
脳無の動きを止めたあの言葉。1回目は起爆札付きのクナイを投擲し、大規模な爆破をしたせいでなくなっていたんだと思い込ませられた。2回目は一瞬でも脳無動きを止めることしかできなかったのは黒霧の背中に起爆札を忍ばるため。黒霧を、アジトに戻ると予測して爆破するように。できれば周りの人間を巻き込んで大怪我を負わせるために。言葉選び、誘導、貼られたと気づかせない手先の器用さ。どれも完璧すぎて気持ち悪い。
《してやられたね。悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ。先鋭を集めよう!じっくり時間をかけて!我々は自由に動けない!だから、君のようなシンボルが必要なんだ死柄木弔!!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!》
黒霧の脳内にニヤリと笑う子どもが容易に想像できた。
真っ白い紙に名前と名前を囲む輪っか。ぐるぐるの情報で、余ったスペースには箇条書きの補足。
《カァ!》
「ん、これで最後な」
《カァア!!》
おねだりしてきたぐるぐるに、最後の目玉のグミを渡す。嘴で目玉を遊ぶぐるぐるを他所に改めて紙を見る。各所のゾーンに飛ばされたクラスメイト。これまでの発言、言動、情報を照らし合わせる。記者が警備が厳重の雄英に入ったのと、敵が襲撃したのは偶然じゃねぇ。
『先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが…』
情報を、敵に流した奴がいる。人命救助というピンポイントの授業。オールマイトを殺すのにわざわざ学生である俺らのカリキュラムに襲撃する必要ない。一箇所に止まらず、何処にいるか分からないオールマイトを狙うより雄英の教師ついたから狙いやすいが、ヒーローが多い雄英高校に乗り込むのは得策じゃない。オールマイトの担当はヒーロー基礎学。ヒーロー科でしかない授業。俺らのカリキュラムを渡したのは誰だ。外部、記者?違う。職員室に入る必要があるし、教師の目がある。教師陣。カリキュラムなら教師が詳しい。可能性あり。あとはヒーロー科所属の生徒。3学年分のカリキュラムを渡せるのか。いや、入学して間もない1年のカリキュラム手に入るか?違う。簡単に手に入るじゃねぇか。
『全っ然弱ってないじゃないか!!あいつ…俺に嘘を教えたのか!?』
A組の中に、スパイがいる。
『13号、生徒を守れ!!!』
『俺らが先走ったせいで13号先生が後手に回った。先生があのモヤ吸っちまえばこんなことになっていなかったんだ。男として責任取らなきゃ…』
『………さっきのは俺がサポート入らなけりゃやばかったでしょう』
『オールマイトから離れろ!!』
『ごめんよみんな、遅くなったね。すぐ動ける者をかき集めて来た』
『1-Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!』
「……………」
《クゥア?》
「……なんでもねぇよぐるぐる」
誰も信用するな。教師も、生徒も、全員疑え。
「濃いのは、こいつらか………」
何重にもペンで名前を囲む。考えることが多い。オールマイトとクソナード、記者の警備システムの突破、敵連合、スパイ。俺が敵だったらどうする。詰め込まれた知識を、敵の行動を読み解け。俺は、オビトの弟子だろ。
目の光が消え、思考を深く沈んだ爆豪に白い烏が楽しげに見ていた。
4
敵襲撃で臨時休校になり、今日は何もなく登校する。
「みんなーー!朝のHRが始まる。私語を謹んで席につけーー!!」
「ついてるだろー」
「ついてねーのおめーだけだ」
「っく、しまったぁ!」
「どんまい」
だいぶ躾けられたなコイツら。3Kな見た目してんのにしっかりしてるセンコー。こういうビシッとした教師だから慕われんだろう。中3の時の口が軽いハゲに見せてやりてぇ。
「お早う」
「「「相澤先生復帰早ぇぇぇ!!!!」」」
「プロすぎる」
「先生無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
包帯ぐるぐる巻きの担任がヨロヨロと教壇に立つ。どう見ても痩せ我慢だ。
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ、戦いは終わってねぇ」
「「「!?」」」
「戦い?」
「まさか…」
「まだ敵が!!!?」
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「クソ学校っぽいの来たぁぁぁ!!」」」
あぁ、あったな、そんなもん。ガキん頃は見てたのにオビトと出会ってからあんまテレビ見なくなった。モブに興味なかったし。
「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」
「待て待て!」
「敵に侵入されたばっかなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか!?」
「また襲撃されたりしたら」
「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねぇ」
そう、雄英の体育祭はプロヒーローがスカウト目的で観戦する。見込みあるもの、ヒーローになりうるものを見つけ出して事務所にスカウトする。だから体育祭はチャンス。この体育祭で俺の力を知らしめさせてモブどもを唸らせてやる。
「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が拓けるわけだ。年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!その気があるなら準備は怠るな!」
「「「はい!!」」」
「HRは以上だ。爆豪、放課後職員室に来い」
「?…分かった」
なんかした覚えねぇが、まぁいいか。次の授業が始まるまでノイズキャンセラーを耳につける。最小限に抑えたチャイムが鳴った。
「うぉぉぉ…何ごとだぁ!!!?」
A組の扉前に群がる顔も知らない人、人、人。放課後で騒ぐのは分かるが、いかせん人が多すぎる。
「君達、A組に何か用が」
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
「邪魔だ、どけ」
峰田を押し退けて教室から出ようとする爆豪。峰田はそんな爆豪に指差して、行き場のない怒りに言葉が出ず震える。緑谷はそんな峰田にフォローに入った。
扉で行き道を防ぐ邪魔なクソモブどもを見下す。
「こちとらセンコーに呼ばれてんだ。どけモブども。俺の前にカカシみてえに突っ立ってんじゃねぇぞ」
「知らない人の事を、とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
職員室どの方角だったかな、と脳内で図案を広前へ1 / 2 ページ次へ
敵襲撃で臨時休校になり、今日は何もなく登校する。
「みんなーー!朝のHRが始まる。私語を謹んで席につけーー!!」
「ついてるだろー」
「ついてねーのおめーだけだ」
「っく、しまったぁ!」
「どんまい」
だいぶ躾けられたなコイツら。3Kな見た目してんのにしっかりしてるセンコー。こういうビシッとした教師だから慕われんだろう。中3の時の口が軽いハゲに見せてやりてぇ。
「お早う」
「「「相澤先生復帰早ぇぇぇ!!!!」」」
「プロすぎる」
「先生無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ……」
包帯ぐるぐる巻きの担任がヨロヨロと教壇に立つ。どう見ても痩せ我慢だ。
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ、戦いは終わってねぇ」
「「「!?」」」
「戦い?」
「まさか…」
「まだ敵が!!!?」
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「クソ学校っぽいの来たぁぁぁ!!」」」
あぁ、あったな、そんなもん。ガキん頃は見てたのにオビトと出会ってからあんまテレビ見なくなった。モブに興味なかったし。
「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」
「待て待て!」
「敵に侵入されたばっかなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか!?」
「また襲撃されたりしたら」
「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵ごときで中止していい催しじゃねぇ」
そう、雄英の体育祭はプロヒーローがスカウト目的で観戦する。見込みあるもの、ヒーローになりうるものを見つけ出して事務所にスカウトする。だから体育祭はチャンス。この体育祭で俺の力を知らしめさせてモブどもを唸らせてやる。
「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれれば、その場で将来が拓けるわけだ。年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!その気があるなら準備は怠るな!」
「「「はい!!」」」
「HRは以上だ。爆豪、放課後職員室に来い」
「?…分かった」
なんかした覚えねぇが、まぁいいか。次の授業が始まるまでノイズキャンセラーを耳につける。最小限に抑えたチャイムが鳴った。
「うぉぉぉ…何ごとだぁ!!!?」
A組の扉前に群がる顔も知らない人、人、人。放課後で騒ぐのは分かるが、いかせん人が多すぎる。
「君達、A組に何か用が」
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
「邪魔だ、どけ」
峰田を押し退けて教室から出ようとする爆豪。峰田はそんな爆豪に指差して、行き場のない怒りに言葉が出ず震える。緑谷はそんな峰田にフォローに入った。
扉で行き道を防ぐ邪魔なクソモブどもを見下す。
「こちとらセンコーに呼ばれてんだ。どけモブども。俺の前にカカシみてえに突っ立ってんじゃねぇぞ」
「知らない人の事を、とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
職員室どの方角だったかな、と脳内で図案を広げる。無駄にデケェし広い雄英は最初に渡される校内図見ないと迷う。実際迷ってヒーローに届けられてるモブを何度か見たことがある。
「どんなもんかと見に来たが、ずいぶんと偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」
「ぁあ?」
なんか言ってんな。読唇術で何言ってるか分かるんだが、一応音楽切っとくか。
珍しく優しさを見せた爆豪は片手でスマホ操作して音楽を切る。しかしその様子にお前に興味ねぇと言われてるみたいで紫髪の男はイラッとした。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴けっこういるんだ。知ってた?」
「だから?」
「そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって…その逆もまた然りらしいよ……敵情視察? 少なくとも俺は、いくらヒーロー科とはいえ調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」
へぇ、いい度胸してんなこいつ。他のモブどもより目つきが違ぇ。クソナードよりかはマシだな。
「おうおう!隣のB組のモンだけどよぅ!!敵と戦ったっつぅから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!」
うるせぇ奴来た。こんなうるさい奴がいるんならやっぱ音楽つけたままの方がよかったわ。なにより時間無駄だ。
「本番で恥ずかしい事んなっぞ!!無視かテメェ!!」
「待てコラ爆豪」
「あ?触んなクソ髪」
肩に手を置かれて振り払う。なんだよ。話終わっつた。職員室に行かせろ。
「おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか。どうしてくれんだ」
「関係ねぇよ………」
「はぁ!?」
「上に上がりゃ関係ねぇ」
勝てば官軍、負ければ賊軍。勝てば正義なんだからモブの意見なんて聞く必要ねぇだろ。
「く………!!シンプルで男らしいじゃねぇか」
「言うね」
「上か…一理ある」
「いやいや!騙されんな!無駄に敵増やしただけだぞ!」
「そうだそうだ!体育祭オイラ達が不利になるだけじゃんか!!」
「そこにかけろ。楽にしてかまわねぇ」
応接室に通され、対面のソファに腰を下ろすと何故か茶を出された。反対側にセンコーが座る。
「率直に聞く。敵襲撃のさい、真っ先に突っ込んで行ったのは何故だ」
あぁ、そのことか。センコーは教師として、ヒーローとして飛び出した俺に思うことあったんだろ。まぁプロからしたら俺の行動は自殺行為。だが結果として俺が取った行動は最善だってことをこのセンコーは分かってる。
「イレイザーヘッド、個性抹消。得意な戦術スタイルは奇襲からの短期決戦。13号、個性ブラックホール。主に災害救助で活躍するヒーローで戦闘経験がほぼない。あの多対一の状況で広範囲かつ意気消沈させるのにアンタらの個性じゃ向いていなかった。俺なら広範囲で敵ぶっ飛ばせれるし、あの場にいる誰よりも先陣切った方がスムーズだと判断した。ただそれだけだ」
「一芸だけじゃヒーローは務まらない。自分が不利な状況だとしても、俺はお前らを守るために真正面から先陣切っていた」
「はっ、さすがプロヒーローは違うな」
思い出すのはヘドロ野郎に捕まった時のこと。あの時のヒーローは、個性が不利だからと立ち向かいもしなかった。なのにこのセンコーは立ち向かうと言った。これがアマチュアとプロヒーローの差か。
「俺はモブどもより強ぇ。最初に敵の対処したおかげで処理はだいぶスムーズだったんじゃねぇか?」
「………確かに爆豪の初手で敵どもの数は大幅に激減した。各地で飛ばされた敵の数も少なかったと聞く。確かにお前の判断は正しかった。クラスの誰よりも飛び抜けて強いし判断能力も高い。だがな、お前はまだ雄英に入ったばかり。担任として、ヒーローとして、お前が危険に突っ込んで行った行動は褒めたものじゃない」
「別に賞賛はいらねぇ。俺はな、アンタらを信用してねぇんだわ」
「何…?」
「ヒーローとして、雄英教師として信用してねぇ。信用できねぇ。何故だか分かるか?」
「……ヘドロ事件とUSJのことを言ってるのか」
「あんたは知らねぇだろ、あの場にいたヒーローの発言。失望するぐらいひでぇ言葉だった。それとUSJの敵の発言に気掛かりなことを言っていた。だから、雄英にいる全員信用できねぇ」
「最もな意見だ。襲撃のことに関して俺はヒーローとしても教師としてもお前らを守れなかった。悔しいことにな。だがな、これだけは言っておく。俺は何があろうとお前らの担任だ。信用されなくても、俺はお前を守るよ」
ばかみてぇ。信用してねぇって言ってんのに。
「ッチ!」
「こら、口悪いぞ」
「うっせぇわ!元からだ!」
「それはそれで問題だ。次に素朴な疑問なんだが、お前の戦闘スキル……どこで習った」
「………」
「道具の使い方、体術もそうだが独特で変わっている。あんな体の使い方、体幹しっかりしてるのと体が柔らかくなけりゃ筋肉が痛む。数多くのヒーローをみてきたが爆豪みてぇなスタイル見たことがない。誰に教わったんだ?」
探ってんなコレ。包帯で分かりずらいが少し警戒してる。そんなに俺の戦闘スタイル変か?ゴリゴリの実践向きだろ。
「……あんたの知らねぇ人。元軍に所属してたらしいけど、大怪我をして隠居したんだと。そん人に教わった」
「軍か、何処所属だったんだ?」
「知らね。あの人は自分のことを喋らない人だったから詳しいこと知らねーし、俺も興味なかったから」
嘘は言ってない。オビトは自分のことを話してくれなかった。ただ大きな組織に所属してたんだなってことと、戦闘が多いとこなんだなってぐらい。
「もう帰っていいか?ババアから買い物してこ前へ2 / 2 ページ次へ
「そこにかけろ。楽にしてかまわねぇ」
応接室に通され、対面のソファに腰を下ろすと何故か茶を出された。反対側にセンコーが座る。
「率直に聞く。敵襲撃のさい、真っ先に突っ込んで行ったのは何故だ」
あぁ、そのことか。センコーは教師として、ヒーローとして飛び出した俺に思うことあったんだろ。まぁプロからしたら俺の行動は自殺行為。だが結果として俺が取った行動は最善だってことをこのセンコーは分かってる。
「イレイザーヘッド、個性抹消。得意な戦術スタイルは奇襲からの短期決戦。13号、個性ブラックホール。主に災害救助で活躍するヒーローで戦闘経験がほぼない。あの多対一の状況で広範囲かつ意気消沈させるのにアンタらの個性じゃ向いていなかった。俺なら広範囲で敵ぶっ飛ばせれるし、あの場にいる誰よりも先陣切った方がスムーズだと判断した。ただそれだけだ」
「一芸だけじゃヒーローは務まらない。自分が不利な状況だとしても、俺はお前らを守るために真正面から先陣切っていた」
「はっ、さすがプロヒーローは違うな」
思い出すのはヘドロ野郎に捕まった時のこと。あの時のヒーローは、個性が不利だからと立ち向かいもしなかった。なのにこのセンコーは立ち向かうと言った。これがアマチュアとプロヒーローの差か。
「俺はモブどもより強ぇ。最初に敵の対処したおかげで処理はだいぶスムーズだったんじゃねぇか?」
「………確かに爆豪の初手で敵どもの数は大幅に激減した。各地で飛ばされた敵の数も少なかったと聞く。確かにお前の判断は正しかった。クラスの誰よりも飛び抜けて強いし判断能力も高い。だがな、お前はまだ雄英に入ったばかり。担任として、ヒーローとして、お前が危険に突っ込んで行った行動は褒めたものじゃない」
「別に賞賛はいらねぇ。俺はな、アンタらを信用してねぇんだわ」
「何…?」
「ヒーローとして、雄英教師として信用してねぇ。信用できねぇ。何故だか分かるか?」
「……ヘドロ事件とUSJのことを言ってるのか」
「あんたは知らねぇだろ、あの場にいたヒーローの発言。失望するぐらいひでぇ言葉だった。それとUSJの敵の発言に気掛かりなことを言っていた。だから、雄英にいる全員信用できねぇ」
「最もな意見だ。襲撃のことに関して俺はヒーローとしても教師としてもお前らを守れなかった。悔しいことにな。だがな、これだけは言っておく。俺は何があろうとお前らの担任だ。信用されなくても、俺はお前を守るよ」
ばかみてぇ。信用してねぇって言ってんのに。
「ッチ!」
「こら、口悪いぞ」
「うっせぇわ!元からだ!」
「それはそれで問題だ。次に素朴な疑問なんだが、お前の戦闘スキル……どこで習った」
「………」
「道具の使い方、体術もそうだが独特で変わっている。あんな体の使い方、体幹しっかりしてるのと体が柔らかくなけりゃ筋肉が痛む。数多くのヒーローをみてきたが爆豪みてぇなスタイル見たことがない。誰に教わったんだ?」
探ってんなコレ。包帯で分かりずらいが少し警戒してる。そんなに俺の戦闘スタイル変か?ゴリゴリの実践向きだろ。
「……あんたの知らねぇ人。元軍に所属してたらしいけど、大怪我をして隠居したんだと。そん人に教わった」
「軍か、何処所属だったんだ?」
「知らね。あの人は自分のことを喋らない人だったから詳しいこと知らねーし、俺も興味なかったから」
嘘は言ってない。オビトは自分のことを話してくれなかった。ただ大きな組織に所属してたんだなってことと、戦闘が多いとこなんだなってぐらい。
「もう帰っていいか?ババアから買い物してこいって言われてんだ」
「あぁ、それは悪いことをした。最後にくだらないことだけ聞いてもいいか?」
「あ?なんだよ」
「お前授業以外ほとんどノイズキャンセラーつけてるだろ。健康診断で異常なことはなかったが、どうしてつけてるんだ?」
今もつけているノイズキャンセラーに触る。音楽流れていないただのイヤホンは、雑音だけを消して人の声を聞き取る。だからセンコーと俺以外の声は聞こえない。
「………付和雷同しないように」
「付和雷同って、随分難しいことを言うんだな」
「意外そうな目で見てんじゃねぇよ!俺の尊敬してる人が、流されないようにってくれたんだ。ガキの頃モブどもや周りの雑音を聞かないように付けてろって言われて半年だけ付けてた。雄英に入ってからまた付け出すようにしただけだ」
腰を浮かして扉に足を向ける。俺の行動にセンコーは咎めない。取っ手に手をかけ、まだ言いたいことあったと思い出してセンコーに目を向けた。
「俺はアンタらを信用してねぇが、あんたは少し信頼してる。USJの行動と、今日の言動にほんの少しだけだけどな!」
ガン!と叩きつけたように扉を閉めて去った爆豪に、相澤は肩の力を抜いた。
「信頼、ね。認められるよう頑張るか」
ある意味問題児である爆豪の意外な一面を見た気がする。大人びていると思っていたが案外子供らしい部分もあって安心した。まだ気がかりな部分はあったがそこはおいおい。結局口一つつけなかった茶を引き寄せて残さないように飲み干した。
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