fwhr
ご本人様に関係ありません
ちょびっと暴力表現かも
約5500字
🥂✨────────────
あの日の君の後ろ姿が
俺を不安にさせたんだ
🌞────────────
「はぁ…」
今日何度目かのため息がこぼれる。今手にはスマホ。見ては心に小指の先ほどの小さな小さな傷がつく。数時間前に不破さんに送ったメールの返事が来ない。いつもなら十分くらいですぐに返ってくるのに、2時間たった今でも来ていない。おそらくだが事故などではない。直感がそう告げてくれるが、ならば返信して欲しいものだ。どうしてしまったのだろうか。
理由は帰ってきたら分かる事だけど、一日の疲れが彼との繋がりで消えていくことを本人は知らないせいで寂しく思う。
ラップをかけられた茶碗と大皿。帰ってきたら食べるだろうけど、お風呂に入るのが先かもしれない。念の為沸かしておいた風呂も先に入り、もう全て準備は整っている。
少しソファに横になるとウトウトしてきたので、目を閉じ力を抜いて寝ようとした…その時だった。
ガチャっと玄関のドアが開いた音がする。現在時刻は午前3時過ぎ。ようやくのご帰宅に目が一気に覚める。しかし立ち上がる力まではさすがに残っておらず、何とか体を起こしてリビングに来るのを待つ。
部屋に入ってきた彼は、どこか俯き気味だったように見える。
「おかえりなさい、不破さん」
『…ただいま』
低い声に合わせようとしない目。さらには落とすように置いた鞄と、ジャケットを椅子に投げ掛ける。
ほら、不機嫌だ。これなら返信がなかったのにも合点がいく。定期的にくる彼の精神が安定しない時、大抵はお客さん絡みのことだ。たまに自分にイラついていたり同僚だったりもあるが、そういうのは稀なのでお客さんと考えていいだろう。
この時はまだ気づいてもいなかった。まさか彼が、
自分に怒っていた、だなんて。
「お疲れ様でした、ご飯できてますよ」
『…店で食ってきたからいらねぇ』
「えっ…?」
そんなことは初めてだった。食べてくることはあっても、必ずその連絡は入る。だからご飯を余分に作ってしまい余るということもなかった。その上、普段なら家でご飯を食べられるようにホストクラブで食べる酒のツマミなどもいつも控えていたのに。
静かに、でも着実に怒りの火が轟々と燃えているように見える彼の目から光が消えていた。美しいネオン街の光を凝縮したアメシストの双眸の奥で、誰に向けたものか分からない憤りが覗いていた。
「…お風呂も沸いてますけど…」
『…後で入る』
「……そうですか、…」
何となく察していたが、やはり風呂も駄目か。これは何より先ず始めに話を聞かないことには分かりそうもないな。ここまで彼が乱れること自体珍しいから、自分もどう落ち着かせたらいいのか分からず、探り探りにはなってしまっているが。
椅子にかけたジャケットを取りクローゼットにかける。鼻腔をかすめる香水の匂い。しかし今日は女性ものの香水の匂いが強くない。いつもは顔を顰めてしまうほどクン、と香るあの匂いが腹立たしいのに。今日はあまり女性とベタベタしなかったのか。しかしそんなことを彼が選択する権利などないだろう。
…もしや今日は不破さん目当てのお客さんが少なかったのだろうか。だから機嫌も損ねてしまった、ということではないだろうか。
自分にしては的を射ていそうな考えにひとりで自賛してやる。恋人に冷たく遇らわれてしまったのだし、それぐらいしたってバチは当たらないはずだ。
先程より幾分か明るくなった顔をそのままリビングに持っていったが、彼に睨み付けられてしまえば、再び体に緊張が走り、表情が保てなくなった。
チッ…
心做しか小さく舌打ちしたような音も聞こえた。彼の顔を恐る恐る見るが、僕の足元に目を落としており、一歩でも近づくことを許さなそうな雰囲気を醸し出している。
え、まさか怒りの根源は自分なのか。彼の目線がそれを物語っていることに気づけばすぐさま体は硬直した。
うそ、うそうそうそ…!脳がここ最近の自分の行動をフル回転で駆け抜ける。しかしそれでも彼の逆鱗に触れるような行動、言動は見当たらない。探し足りないだけだろうか、でも常に彼にはいつ見られていても良いように動いていたはずだったが…
『おい、』
「…え、あぐっ、…んむっ…」
目を泳がせ必死に自分の失態を探していると、夢中になっていたせいで、自分の目と鼻の先まで歩みを進めていた彼に気づかなかった。
目力だけで射殺せそうな鋭い刃で睨みつけながら、僕の首を片手で掴んだ。グイッと引き寄せられ、苦しさと痛みに顔を歪めるのと同時にキスをされた。いつもの優しく食むようなキスではなく、獲物を食い殺そうとする荒いキス。首を拘束されたまま口を塞がれると呼吸もいつもよりしづらく、ほんの数秒だったのに唇を離されると、過呼吸並に必死に酸素を吸い込もうと体が強ばる。
首輪から解放されその場にしゃがみこむと、なんの感情と無い瞳と視線が交わった。
「…げほっ、げほっげほ…な、なんですか急に…!…げほ、苦しいですよっ、」
『立て』
「ちょ、ちょっと、」
『いいから、立て』
腕を強引に引っ張られ、力が出ない足に無理やりエネルギーを送り込む。酸素が未だ足りずフラフラしながらそのまま寝室まで腕を引かれた。これではおもちゃを買って貰えず泣き喚く幼児を呆れた母親が無視して腕を掴み連れて行く、あのお馴染みの光景と何ら変わらない。
引っ張られる力も握る力もまた強く、血の巡りが止められてしまうのではないか、と思わされるほどに痛かった。もちろん杞憂に終わったとはいえ、ジャケットを椅子に投げたように雑にベッドに放り込まれる。ぼふん、とキングベッドが小さく悲鳴をあげた。
「不破、さん…?」
僕の恐怖を隠しきれない声と顔を見聞きしても何も言わずに見返しながら、ただ自身に巻き付くネクタイを強引に緩めるだけだった。彼がやると一層映える仕草も、今は怒りで物に当たっているようにしか見えず、焦りなんだか興奮なんだか分からない鼓動が速まる。
腰に跨り、シャツのボタンも外す。顕になった鎖骨や立派な胸筋、白い繊細な肌が僕に覆いかぶさり、反射的に背中に手を回す。頭を撫でながら耳を舐められ、もう片方の手は無遠慮に太ももを擦り始める。
「…ふっ、…ん…まっ、て、やだふわさ、」
『…何が』
「そんな、きゅ、に…どうしたの今日、… 」
『……お前のせいやろ』
「……えっ、…」
頭や脚を撫でてくれる手も耳を舐める舌も止め、覆い被さるのさえ止めて起き上がる。ようやく見えた彼の顔は、酷く歪んでいて、寂しさと侘しさに加え、憤懣やるかたないと言った様子だった。
「……僕のせい?」
『…お前が誰のものか、分からせてやる』
僕の首めがけて顔を近づけ、首元に唇を密着させる。その時香ったのは大好きな彼の香水の匂いで、包まれると彼のことしか考えられなくなる。まあ、端から彼しか頭には居ないのだが。
ぢゅ…と痛みを伴いながら吸われ、痕が付いたことを確認すると、更に彼は顔を歪めた。
にしても、分からせてやるなど訳の分からないこと言う人だ。僕だって彼のものになった自覚をしていないほど阿呆ではない。彼は何か勘違いをしているのか…
「ど、どういうこと…?…何にそんな怒ってるんですか、」
『……分からないフリか』
「ち、違います!本当に分からないから聞いてるんでしょ!」
『ああ、悪い事をした自覚がねぇのか』
「だから…違うって!なんの誤解してるか知らないけど、はっきり言ってくれないと分かるものも分からないよ!!」
『…だったらなんで……!!』
目を見開いて胸ぐらを勢いよく掴まれ、激怒していることを隠そうとしない彼に恐怖を感じ、反抗してみた体は一気に縮こまる。
しかし、すぐにまた悲しそうな、辛そうな、心配になるほど下がる眉尻を見て、さては彼を傷つけてしまったのか、と冷や汗が浮き出た瞬間だった。
『……なんで…浮気なんてしたん、…』
ひねり出すように零れ出た、掠れた小さな声。打って変わった静かな空気に、僕はポカーンと彼を馬鹿みたいに見つめる。予想外のセリフに思考が突然活動を辞めてしまった。
浮気など、するはずもないから。
「え、いや…してませんが」
『…ふざけんなっ!しらばっくれるつもりか!!』
「いやほんとに!ほんとにしてませんよ!」
『あーいくらでも嘘をつけよ、俺はちゃんと自分の目で見たんだからな』
「知りませんって!それ僕じゃないです!」
『絶対にお前だった!俺が見間違えるわけねぇだろうが!!』
「…そ、そんなこと言われても…浮気なんてしてないよ…」
『……白のカーディガン着た女と歩いてただろ!スマホ一緒に覗き込みながら、2人で笑ってんの見たんだよ!!』
有力な情報を頂き、またまた脳を急いでフル回転させて似たような光景があったかどうか探りを入れる。
するとすぐに見つかった、白いカーディガンを着た女性と自分が本日話した情景。
次々と巡る当時の様子がフラッシュバックし、心の底からほっと息をつく。よかった、彼は絶対にあの事を言っている。それがただの道案内だったと知る自分は、本当に安堵した。深く息をつき、胸ぐらを掴む、怒りで赤くなった手にそっと自分の手を重ねる。
「不破さん、それは3時頃の話ですか?」
『時間なんて覚えてねーよ…でも明るくて、人はたくさんいた』
「ならその時ですね。あの人は浮気相手じゃなくて、ただの道が分からなくなって聞いてきただけですよ」
『…は?』
「ほら、あそこら辺って道が入り組んでて、なおかつ人通りも多いから、どこに何があるか分かりづらいじゃないですか。それで、映画館の入口がどこか分からなくなってしまった、って尋ねてきたんです」
『……』
彼は唖然としたように僕を見つめる。でもその目から疑いの色はまだ晴れず、仕方ないのでもう少し語ることにしよう。
「僕に、この映画館に行きたいんだけど場所が分からない、ってマップを見せてくれて、口で言っても難しいから入口まで一緒に行ったんですよ。
無言っていうのも気まずいかなって思ったんで、なんの映画見るのか聞いたら、これです、ってスマホ見せてくれて。それが来週僕らが一緒に見に行こうって言ってたのと同じだったんですよ。
だから嬉しくて、僕も今度恋人と見に行きます!って伝えたら、私も彼氏と見るんです!ってはしゃいでて。それできっと笑ってたんですよ」
なるべく分かりやすく言ったつもりだ。説明することには自信がある方だが、伝わっただろうか…。その心配はいらず、彼は僕の胸ぐらから手を離した。でも目線を下に落としたままで、本当に信じて良いものか、と葛藤しているみたいに見えた。
不安に包まれ出口が見つけられずに行き詰まっている彼がどうしようもなく愛おしくて、可愛くて、頬にそっと手を伸ばした。気づいたら触れていた。
「…知ってますか?女性は…地図が読めないそうですよ」
仕舞いに微笑んでやると、諦めたように涙が零れた。僕の頬に落ちてきて、拭ってやるがとめどなく溢れる。両手が伸びてきたと思えば首に回され、グイッと引き寄せられる。
『…、っ…よかった、…』
その言葉が聞けて安心した、と言いふわふわな髪の毛を優しく撫でる。えぐえぐと珍しく涙する姿に密かに優越感を覚えた。ホストの客も、黒服も、他のライバーも、専属のマネージャーも、誰もこんな情けない不破湊を知らない。
今後も僕だけが知る、僕だけを頼ってくれる彼が狂うほどに愛おしい。
縋るように僕の服を握り、肩に顔を埋めて強く抱擁する。優しく包んでくれるいつもとは何もかも違う今が、申し訳なくて、だけど嬉しい。
ベッドに倒れるように導き、枕に2つの頭が落とされる。すぐ目の前に現れた美しい泣き顔にひどく魅せられ、勝手に目が細められた。ゆっくり開眼した彼のアメシストの瞳は光沢を取り戻し、はっきりと僕を映し出す。
『…ごめん、疑って……なんか、…怖くなってもうて…』
「ううん、大丈夫。僕も不安にさせちゃうようなことしてごめんなさい」
『…にしたって強く言いすぎたわ…首も絞めちまったし…』
「あぁ…確かにあれはちょっと苦しかったけど、」
『…ほんまに悪かった』
バツの悪そうに顔を顰め、両手を擦り合わせられれば、許してくれ、という意思が嫌でも伝わってくる。しかし僕も、滅多に泣かない大切な恋人を泣かせた、という前科がついてしまった。これは時間をかけて払拭せねば。
どちらからでもなく顔を近づけ、唇を重ねた。舌を絡ませない、ただの唇が触れ合うだけのキス。付き合いたての頃によくしていた感触を久々に思い出す。そういえば初めてキスをしたのも、言い争った日だったっけ。彼がホスト業なのは知っておきながら女性とのスキンシップに耐えられず、泣いて怒鳴ったんだよな。
宥められた恥ずかしさの逃げ場を探し、勇気をだして抱きついたら、顎を持ち上げられてキスをした。驚き以上に嬉しかったし、スマートにこなす彼には今だって適うとは思えない。
でも今夜だけは、僕が一枚上手だったかな。
『飯さ、ほんとは食ってないんだよ。だからちょっと寝たら、あとで俺が食うから』
「分かりました、一緒に食べましょっか」
『うん、ごめんな』
額を擦り合わせて、2人してえへへ、とはにかむ。カーテンの隙間から覗く月明かりを纏いながら、共に夢の中へ吸い込まれていった。
コメント
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やばいほど好き🤦♀️大人っぽい書き方大好きです︎🫶💕浮気疑って怒っちゃうの可愛いぃぃ.....現場を生で見たい🥺不破さんの泣き顔みたいぃ😭ほんまに大好きです︎🫶💕ずっと応援してます🔥これからも色々頑張ってください💪
えぐいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!! 語彙力と作品のセンスと口調と、全部が天才です!!!!(((o(*゚▽゚*)o)))なんでこんなすごい人に私なんかが応援されてるんだかわかんない🤷♀️他の作品も楽しみ!🫶(*´꒳`*)
神