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翌朝、いつも通りの時間に起きて支度をし、家を出た。
佐野『 暑っ …………、』
春とはいえ、この暑さは異常だ。
汗ばむシャツの襟元を掴んで風を入れると、少し楽になった気がした。
教員室に入ると涼しい風が一気に体を包み込み一息つく。普段なら無意識に机に向かうが 、この日は思いかけず先に先客がいた 。
吉田『 おー、勇斗おはよ 。珍しく早いな。 』
「 おー 。 」と軽く手を上げる。
その人は、吉田仁人で 。俺の従兄弟でこの春から同じ高校に勤務することになった。
佐野 『 はよ 、 仁人 。』
吉田 『 うぃー、てかさ、お前舜太に懐かれてんね。』
佐野 『 舜太 …、?? 』
吉田 『 “曽野” 舜太 。 俺のクラスの 。 』
佐野 『 あ ーーー、 お前んとこの 。 』
曽野の名前が出た途端、脳裏に昨日の出来事が映る。無邪気にノートを差し出すあの姿。そして、
どこか挑発的な笑顔。意識していないつもりでも、どこか印象に残る生徒だ。
吉田 『 おん、お前、なんかしたん? まぁ、確かに舜太て懐きやすいタイプだけど 。』
佐野 『 なんで? なんもしてねぇよ、笑笑 』
佐野 『 まぁ 、 してるとしたら挨拶。 』
吉田 『 笑笑 それは当たり前だろ、笑 』
佐野 『 てかさ、 曽野ってそっちのクラスでどんな感じなん? 俺さ、授業でしか関わんないから。』
吉田『 あーね。俺もまだ一ヶ月くらいしか関わってねぇけど。まぁー、結構グイグイ系??笑』
佐野『 “グイグイ系”??笑 なんだよそれ、笑』
吉田『 いやほら、とにかく俺に話しかけてきてさ。最初はさ? なんか懐かれてんなとか思ってたけど。』
佐野 『 え、何。 懐かれてねぇの?笑』
吉田 『 いやー、だと思ったんだけどさ。なんか、勇斗狙いっぽいわ。』
佐野『 え、 は、 ??』
仁人からの「突拍子もない一言 」に、俺は思わず目を白黒させた。
佐野 『 いや、何言ってんだよ。俺が狙われる??? …笑 』
吉田 『 いやー、それがさ。舜太、意外と本気っぽいんよねーーー、』
言葉を濁しながらも笑う仁人を前に、俺は何ともいえない感情に襲われた。それが焦りなのか困惑なのかは自分でもわからない。
ただ、昨日の曽野の態度と、その「好き」という言葉がどうしても頭から離れない。
佐野 『 ま、まあどうでもいいだろ。別に気にすることでもないし。』
吉田 『 ふ~ん、そう?まあ、お前がそう言うならいいけど。』
話題を強引に終わらせ、俺は自分の机へ向かった。しかし、ノートを開いても目の前の字がまったく頭に入ってこない。気付けば窓の外をぼんやり眺めていた。
やっぱり何かが引っかかる…。なんなんだよ俺…。
そんな時、職員室のドアがノックもなく開いた。その声は、やはり ―― 。
曽野 『 せんせ ~ !今日も来ました!』
佐野 『 …はぁ、…だからノックぐらいしろって
言ってるだろ。』
やれやれと息をつくが、曽野は全く動じる様子もなく例の悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
曽野 『 んでさ、今日も先生にちょっと癒してもらおうと思て!!』
佐野 『 だからなぁ、何で俺がお前を癒す役目なんだよ…!』
そう言いながらも、曽野のペースに巻き込まれている自分がいる。
何だか今日はさらに調子が狂いそうだ――。