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ある名家の当主は国の頂点に立つお方に呼び出された。
桜が咲き乱れ、風に揺られ花びらが舞う季節だった。
高い天井。異国の高価な調度。高貴な色である赤と紫をふんだんに使った部屋。
緊張で息を飲みながらその部屋に立ち入る。
「お呼びでしょうか。」
「あぁ、急にすまぬな」
部屋の正面にどっかり構えてある椅子に座る四十路の美丈夫。
彼こそがこの国の頂点に立つお方、皇帝だ。
男は頭を下げ、片手を床につき、跪く。
失礼のないように少しでも低い姿勢を取るのが常識だからだ。
「お前にやってもらいたいことがあるのだ」
皇帝の言うことはとても残酷なものであった。
「しかし」
「逆らう気か?」そう言われると足も手も出ない。
男に残された選択肢は1つしか無かった。
「承知致しました。」
皇帝は満足そうに微笑していた。
その晩の夜、男は久しぶりに自宅へと帰った。
今までは仕事で使う自室で寝泊まりすることが多かったからだ。
広く塀に囲まれた屋敷に住んでいるのは男とその妻子だけ。
名家と呼ぶには粗末な屋敷からは、皇家に次ぐ名家だとは誰も思うまい。
「お帰りなさいませ。」
「あぁ、ただいま」
美しい愛する妻の顔を見て安心して笑みがこぼれる。
厳しく冷たいと言われ恐れられる普段の男とは考えられないくらい暖かな笑みだった。
「父上!!!」
娘が男に飛びつく。男は咄嗟に抱き抱え力強く抱きしめた。
「夜月よ、元気か?」
「うん!」
父の問いかけに対して元気よく答える娘。それを見て微笑する母。
この瞬間だけを切り取るとなんと幸せで平和な家庭だろうか。
だが男はしばらく家を開けていた。帰るのはもう久方ぶりだ。
「申し訳ない。家を空けてしまって」
娘を下ろし、靴を脱ぎながら謝る。
「いえ、お仕事大変だったでしょうに。お風呂、準備出来ておりますよ」
「ありがとう」
大変できる妻だ。心の中が暖かい何かで満たされていくのが分かる。
それを口に出し表現するほど男は器用ではなかった。
でも心の中では彼女たちを大切に思っていたのは確かだった。
「寝てますね」
「疲れてるんだろ、寝かせとけ」
学年会議の最中に国語科担当・天馬先生が寝てしまった。
それもうたた寝とかではなくがっつり机に突っ伏して寝ている。
彼女はまさに天女と呼ばれるのに等しい人物で、顔が凶器レベルだ。
しゅっと高い鼻に透き通りそうな白い肌、嫋やかな黒髪。
横顔も正面から見る顔も全てが美しい。
それに加え様々な特異力が使える名家出身であり、とてもよく気が利く。
俺が体調悪い時など何も言わずとも授業を変わってくれたり、
お茶やひざ掛けを用意してくれたりした。
生徒たちにも慕われ、その見た目から天馬先生を守る同盟とかいう
天馬先生が好きな人の集まりすらあるみたいだ。
「次の合戦は私、天馬先生、原田先生でいいですね?」
反対もなくすんなり決まった。
水瀬先生、天馬先生、原田先生はほかの先生とは比にならないくらいの
様々な種類の特異力を使うことが出来る。
通常、2つくらいしか使えないのに対し彼らの家系は名家であり、
ありとあらゆる力を使うことが出来るのだ。
黒瀬家は火と風を操る家系である。
これが普通なのに俺が劣っているように感じるところは
少し悔しいけれど尊敬しているので全然気にしてもいない。
「夜月、そろそろ起きろ、授業だぞ」
「やだ、あと100時間だけ」
「何日寝るつもりなんだ。行くぞ」
「ぬぇぇぇぇ」
いつもはしっかりしているのに眠い時は子供になってしまうらしい。
なんだそのギャップ。反則だろ。
水瀬先生に叩き起されてぷんぷん怒っている。
「黒瀬?何見てんだ?」
「特に何もないです、はい。」
絡み方が不良みたいで怖い水瀬先生を適当にあしらい授業へ向かう。
水瀬先生は天馬先生の育ての親らしく、相当な親バカだ。
こうやって俺がちょっと見てただけでこれ。
でもまぁ普段は優しいし、面白いから良き上司ではある。
あ、でも部屋を直ぐに散らかすのはやめて欲しい。
シェアハウスしてる人の中で1番散らかすのは彼。
それを片付けるのはほとんど俺だから迷惑もいい所だ。
何故なのかこの学校の教師は学年ごとにシェアハウスするという決まりがある。
絆を深めるためなのか、よく分からないけれどまぁ相手のことが知れるので嫌いでは無い。
会議室を出て、自分の机に向かう。
書類を机に置いて、次の授業の教材を用意していると
「あ」
「どうしました?!」
隣の席の原田先生が何かを思い出したみたいだった。
原田先生の“あ”はいつも何かやらかす時が多いからびっくりする。
「鍵閉めたっけ今日」
「どうせ盗られるものもないんで大丈夫でしょう」
「はぁぁ?」
「なんで俺にキレるんですか!」
「うふふ ごめんごめん」
この人の顔もまた凶器だ。
小さい顔に白い肌、整った顔は横で見ても正面から見ても国宝級だと思う。
そして高い身長に細いのにしっかりした体、広い肩幅。
天馬先生と原田先生が並ぶともう神々しくて見てられない。
実際にはガン見してしまうほどの美しさなのだが。
この2人が付き合っているという噂があるけれど、
2人と1緒に住んでいる俺でさえよく分からない。聞けないし。
彼は天馬先生同様、生徒からよく好かれている。
原田先生が好きな生徒が多いのは顔だけでなはいと思う。
この先生は42歳なのに対し、中身が釣り合っていない。
よく廊下を生徒と一緒に走ったり、寝ている生徒にいたずらしたり、
生徒と一緒に噂話や恋話で盛り上がったりしている所をよく見かける。
珍しく水瀬先生も彼のことを認めていて、少しそんなことをしても咎めない。
それ相応の学力と特異力、細かな心遣いがあるからだろう。
そしてそれのお陰で生徒たちの様子がよく把握出来るというのもある。
俺にはとても敵わない、憧れの人の1人だ。
「頑張れよーー」
「はい」
笑顔で手を振る彼は神ではなかろうか、と心の中で疑ってしまった。