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ずっとずっと叶わないって知ってた。だから気づかれる前にこの心に蓋をして忘れてしまおうと思っていた。
ずっとそれで、やっていけてたはずなのに。
____ひば?
笑って自分の名前を呼ぶその顔にどうしても涙が溢れそうになるんだ。
なぜだかボンヤリとする意識でただ水流に手を晒す。
「へぇ、じゃあお見合いってことだ」
「そー、まぁじで気乗らないんだよね」
「話を聞いてると会ってしまうとそのまま行かなくても、暫くは続けなければならないようですしね」
「それ!それがめんどくさくてさ…そもそも僕好きな人いるし」
カチャカチャと食器の泡を落としながら、三人の話を右から左へ流す。けれど俺の耳は中々に厄介で一番流れて欲しかった単語は、ピタリと足を止めてしまった。
好きな人…そんなん、知っとるよ
前家で酒飲んだときポロッと言っとったし。
洗い終えた食器を乾いたガーゼ生地の布で拭いていく。当たり前に洗い立ての皿は濡れていて、震える手では落としそうで困る。
「……ふぅ」
「…大丈夫?」
「っ?!?…ぁ、え…かな、と」
急にヒョコリと現れたソイツに思わず腰を抜かしそうになりながら後ろに半歩引く。
皿を落としそうになったが何とか掴んでいる、大丈夫。
「俺は大丈夫よ?お前こそどしたん?」
「大丈夫って…さっきから呼んでんのに反応無かったからさ」
顔色悪くない?なんて頬に手を伸ばされてギュッと体に力が入る。
平気だと、距離を置くべきなのに。
なぜだか足に力は入らなくてさっきの影響か心臓がうるさい。
「ぉ、おれへーき、」
「逃げんな」
皿を置いて空いた両手で元気アピールをしながら距離を置こうとしたら、グンっと引っ張られる。
力が上手く入らない、視界がクラクラする。
するり、触れた手がなぜだか酷く冷たく感じた。
「あ、やっぱお前熱あるでしょ」
「……ね、つ?」
ねつ、熱。舌っ足らずにそう繰り返せば奏斗が座っているらしいアキラとセラフを呼ぶ。
雲雀はこの暗くなりがちな思考やクラクラする視界。確かに熱があることなんて気づけたはずなのに。
足から力が抜けてそのままズルズルとしゃがみこむ。
「ひば?!」
きもちわるい。
はは、あほらし…なん?嫉妬して熱出したとか
なん、で…
「雲雀すぐランドリー行くから」
優しくて、
「タライ、私の手にぎれるか?」
あったかくて、
「ひば」
大好きな仲間で…相棒で居れんかったかなぁ
暗くなり始める視界で離れていくその背中に手を伸ばした。
好きになって、ごめんなさい。