この作品はいかがでしたか?
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それから数日、リハビリをする日々が続いた。
最初に比べてだいぶ身体も動くようになった。
だが、先生の話によるとどうやら僕は半年ほど気を失っていたそうで、まだ長い間身体を動かし続けるのはきつい。
『今日はこのくらいにしておきましょう』
先生のその合図で身体の力が抜け、その場にへたり込む。
『あまり無理をしない方が良いと思いますが…今日もかなり無理をしていたようですね。」
確かに無理をしすぎているとは思うけど、
『あの子を長い間待たせるわけにはいかないので、』
先生は笑顔を見せると、
『あの子をここに呼ぶこともできますが、君が会いに行った方が良いでしょう。ですが、身体を壊してしまったらもっと待たせることになりますよ?』
その通りだと思った。
『そうですね。』
僕はそう答えた。
しかし、昔のことを思い出そうとした時になるあの頭痛については、まだ先生に伝えられずにいた。
『やはり…』
先生がつぶやいた。
『えっと、今何か…』
先生は何かを考えている。
何か問題でも起きたのだろうか。
少し怖くなる。
先生はこちらを向くと、
『やはり、君は半年眠り続けていたのに対して、それほど筋力が落ちていないように見える。これは人狼ということが関係しているのか…』
これでも筋力はそれほど落ちていないのか。
この疑問について訊いてみよう。
『まだ長い間身体を動かすことは難しいのですが、これでも筋力はあまり落ちていないのですか?』
『あぁ、普通なら半年ほど眠り続けていた場合、身体を動かすことはかなり厳しく、ほとんど動けないはず…』
続けて先生が話す。
『筋力が大きく落ちないようケアはしていましたが……それにリハビリでも上達速度が速いようですし…』
筋力があまり落ちていないこと、上達速度が速いことは嬉しい。だが反面、それは僕が人狼である意味にもなり複雑だった。
目を覚ましてから約10日がだった頃にはほぼ普通に歩けるようになった。
『もうこれくらいなら私生活でも問題はないでしょう。』
時計を確認する。
今は15時過ぎ。
『あの子のこと、気になりますか?』
あの手紙を見ればね…気になりますよ、
『17時に蛍の星通りで待っているそうで…気になりますね。』
先生は何かを考えているようだった。
『今日もそこに来られますか?』
『多分ですが、今日も来られると思います。』
先生はまた何かを考えているようだ。
『もう少し様子を見ておいた方が良いのですが…大丈夫でしょう。ではその前に、』
なんだろうか。
『少し待っていて欲しい、』
そう言って引き出しから何かを取り出した。
『これを君に返そう。』
『え?』
取り出されたものを見て驚いた。
そこにあったのは所々錆びているが銀色に輝くものとと黒いブーメランのような形をしたものがあった。
これが何かは分かっている。
『ナイフとハンドガン……』
『これは君が記憶をなくす前に使っていたもの。これを使って君は悪人から多くの人々を守っていたのです。』
僕はナイフとハンドガンを見つめる。
記憶をなくす前のことはまだ全く思い出せていない。
僕がこの武器を使って人々を守っていた…
信じがたい。
僕はまずナイフを手に取る。
刃を折りたたむことができるようになっているタイプみたいだが、錆びており動かない。
重さがあり見れば見るほどそれが本物であることを実感する。
ナイフを元の場所に置き、次はハンドガンを手に取る。
ずっしりと重さを感じる。こちらも本物のようだ。
『それは君のものですよ。』
先生はそう言った。
その後、少し話をしたあと出発する準備をする。
ナイフは錆びていて結局たためず、持つのが大変だったため処分した。
ハンドガンはどうしよう、
とりあえずポケットにしまう。
重いなぁ。
他に、特に準備をすることはなかったが、先生は服や日用品などをバッグに入れている。
『ある程度の物はここに入れています。』
『それは…』
『これは甘君が琥珀さんの所で使えるよう準備したものですよ。』
たくさん入っていた。
いつの間に、準備をしていたのか。
あれ?
この感じ、
『どこかに泊まるみたい…』
『琥珀さんの家に泊まらないのですか?』
!?
そういえば僕の家はどこだろう。
『僕の家はどこにあるのでしょう?』
しかし、
『君の本当の家がどこかは分かりません』
と、返ってきた。
予想はしていた。
『安心してください。琥珀さんには事前に伝えておきました。』
僕が琥珀さんの家に泊まることを琥珀さんは知っているのか。
にしても、
『こんなにたくさん…良いのですか?』
バッグを見て言う。
先生は頷く。
『遠慮はしないでください。』
『あ、ありがとうございます。』
そう言って手を伸ばすが。
『あぁ、このバッグは私が持って行こう。』
そう言って先生はバッグを持って行く。
と、
『あ、あと』
と、先生が棚から何かを取り出した。
『これは、…カメラ?』
『古いものだけど、これも君にあげよう。大切なことを忘れないためにね。』
優しい笑みを浮かべ、そう言ってバッグにカメラを入れた。
『さて、もうそろそろ向かった方が良さそうですね。』
僕と先生は階段を降りる。
すでに16時30分前、
『そういえば、蛍の星通りってどこにあるのでしょう?新田先生、知っていますか?』
どこに何があるのか、その場所がわからなかった。
今から行って間に合うのかさえわかっていない。
『はい、ここから10分ほどで着きますよ。』
10分なら間に合いそうだ。
少し安心しながら出入り口を出る。
あの日目覚めてから初めて病院の外に出た。
眩しい光が照らす。
太陽は沈み始めていた。
ふと何かが髪を揺らした。
冷たい風だった。
外に出てみれば初めて感じるもの、見るものがあった。
『甘君、こっちだよ』
先生が僕を呼んだ。
僕は慌てて先生について行く。
それから少し歩くと、先生が1台の車の前で歩みを止める。
『これが私の車です、乗ってください。荷物は、後ろに乗せますね。』
先生が外までバッグを持って行った時から少し違和感があったけど、車で送ってもらえるとは思っていなかった。
『申し訳ないです……』
『お気になさらず。』
先生はそう言って、後ろにバッグを乗せ、車に乗る。
僕も車に乗る。
先生は車のエンジンをかけ、車が動く。
『そうでした、この島についてまだ話していませんでしたね。』
この島、今はどうなっているのか、まだ知らなかった。
『この島の実験施設に人狼を閉じ込め、実験されていたことは話しましたよね?』
確かそのことは聞いた記憶がある。
『はい、聞きました。』
先生は話し始める。
『その後、実験体にされた人狼たちが暴走して、多くの人々が殺害される事件がまた起こりました。生き残っている人々は救助船などで島を離れ、暴走した人狼は自衛隊等により殺されたそうです。』
実験がどんなものなのかはわからないけど、また人狼による殺人事件が起こったのか。
『その後、この島はしばらく誰も近づくことがなかったけれど、ある人物達がこの島を訪れ、心の弱く、傷つき、苦しんだ人々が集まる島として生まれ変わりました。』
弱い立場にある人々が集まる島、
良い事だと思う。
『だがそんな弱い人々を狙って、悪いことを企んでいる人々も多く潜んでいます。君も琥珀さんも人狼であることを忘れてはいけません。君たちの命を狙う人々も多くいるでしょう。』
僕や琥珀さんなどの命を狙う人々がいる。
想像するだけでゾッとする。
先ほどのナイフやハンドガンも自分の命を守るために持っていたのだろうか?
『うぅむ、渋滞がひどいようだ…』
そういえばしばらくの間ほとんど進んでいなかった。
『渋滞なんて滅多にないのに…』
すると前からサイレンが聞こえる。
サイレンはどんどん大きくなり、やがて救急車が走ってくる。
そして、横を通り過ぎる。
『事故だろうか。』
救急車は僕がいた病院に向かっているようだった。
その病院の医師として、
『大丈夫ですか?』
『あ、あぁ大丈夫ですよ。』
と言ったがあまり大丈夫そうではなかった。
すぐ横に、コンビニがある。
『ここで降ります。』
と言った。
コンビニに入れば早く病院に戻れるだろう。
『いえ……はい、すみません、』
そう言ってコンビニに入って車を駐車場に止める。
そしてここからの道のりを教えてくれた。
『ありがとうございました。助かりました。』
とお礼を言って、
『気をつけてくださいね。』
と先生が言った。
『大変お世話になりました。』
と、お辞儀をして向かう。
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