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omr side
僕が悪いんだ。
こんなにも「好き」だという感情が初めてだったから、と言い訳を重ねて、自分の弱さを正当化していた。
─客観的に見れば、ただの意気地なしの馬鹿じゃないか
自分に呆れて、思わず笑いが漏れる。
今はスタッフに連れられて楽屋を出て、マイクの調整を終えてひとり楽屋へ戻るところだ。番組開始までまだ時間があるせいか、廊下には人影がほとんどない。
このフロアには先ほどの男性アイドルたちと僕たちしかいないのかもしれない。認めたくはないが、あの出来事は彼らのおかげで僕の心を少しだけ前向きにしてくれた気がする。
もう、うじうじするのはやめよう。これで終わりにしよう。
離れてほしくないのなら、自分の言葉で伝えればいい。
『僕は、あなたのことが好きです。』
ただ、一文、そう言えばいいんだ。
りょうちゃんならたとえ僕の気持ちに応えられなくても、偽りだとしても、きっと傍にいてくれるだろう。信じたい。信じよう。
男子トイレの横を通り過ぎようとしたとき、声が聞こえた。
「まさかお前が男狙うなんてなー」
「いやいや、男っつっても、アレは別格だろ笑。それに男はいいぞ〜、どんだけやっても子供出来ないからな笑」
「確かに笑。藤澤涼架だっけ? 実物の方がイイわ。酒でも入れれば簡単に転がりそうじゃね?」
「それ、今夜にでもできねぇかなー」
「うーわ最高!俺も誘ってよ」
「いいぜ笑」
声の主は、つい先ほど連絡先を交換したあのアイドルたちだ。言葉は軽く、笑いは低俗で、吐き出される音だけが廊下の静けさを切り裂く。
「…っ”。」
──気色が悪い。
吐き気がした。臓物が煮え返るように熱く、全身の毛が逆立ち、視界が揺れた。
彼らの会話は低俗で野蛮で、見下す調子だった。信じられなかったのはりょうちゃんではなく、彼らだ。りょうちゃんへの信頼は揺るがない。僕が信用できないのは、周りの連中。
りょうちゃんのそばに寄り添うには、普通の人間では耐えられないのだろう。何を犠牲にしても、どんな手段を使っても彼を守る、そんな人間でなければいけないのだろう。
そんな断言が、冷たい確信となって腑に落ちる。
ごめんね、りょうちゃん。
僕は、君に向けられる純粋な笑顔に見合うほど綺麗な人間じゃないみたいだ。
でもね、りょうちゃん。
僕は君のことを、誰よりも深く愛している。
ごめん、許して。愛してるよ。
踏みとどまっていた足が、動き出した。
声が遠ざかり、廊下の空気が戻ってくる。けれど、身体の奥に残った熱は引かない。怒りと嫉妬と、守りたいという希求が、ひとつの音符のように胸の中で繰り返し鳴る。
僕は作詞作曲をする人間だ。言葉と音を積み上げ、情景や感情を旋律にのせる作業に慣れているはずなのに、今日はその感覚が音楽ではなく思考そのものに波及している。怒りはドラムのリズムになり、嫉妬は低音のベースラインとなって胸を揺らす。守りたいという欲は、静かな旋律が徐々に何層もの和音へと折り重なるように、確かな構造を取り始めた。
そこにあった「作戦」という名の「音」は、自分から生まれているとは思えないほど狂気じみている。
ただひとつを手に入れるために考えられたシナリオ。だがそれは、酷く居心地がよく、暖かく感じられた。
いつの間にか楽屋の前に着いていた。
僕は自慢の唇に弧を描き、子犬のような純粋な作り物の笑顔を貼り付ける。
楽屋の扉を開けて、「ただいま」と、いつも通りの調子で、いつも通りのテンポで挨拶をする。
「おかえり」
複数の声が重なって聞こえる。スタッフの声、関係者の声、大親友の声、そして何より、身体が一段と欲する愛しいただ一人の声。
彼は酷く綺麗に笑い、誰より純粋で、何色にでも染まってしまう存在だった。
僕が見つけて、僕が一目惚れして、僕が捕まえた、僕だけの彼。
愛してる。何に変えても、君といたい。君の一番でありたいし、誰にも君を取らせたくない。
ねえ、いいでしょ? りょうちゃん。
これだけ君を想う僕がいれば、君は僕だけでいいはずだ。
ねえ、そうだよね、頷いてくれるよね。
優しい君なら、笑って、あの時みたいに抱きしめて、大丈夫って繰り返してくれるよね。
離れたりしない、そうだよね?
好き。大好き。愛してるよ。
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\ 5話後記 /
更新遅れてごめんなさい。
完全なるスランプです。
屑みたいな未完成品はいくらでも書きためれるものの、皆様の目に写せるほどのものが一生出来上がりませんでした。
というわけで今回自信一切ありません屑をかき集めて握り固めたようなものです。
大号泣。
♡ 1000 = next story move
コメント
4件
ㅋㅋちゃぁん🌚🌚スランプに負けるな🫶🏻🫶🏻
愛重大森さんも最高です…!