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「 木洩れ日の奥で 」
もりょき
文化祭が終わって数日後。
空気は一段と冷たくなり冬の気配が街を静かに包み込み始めていた。
教室の窓から見える夕焼けに、元貴はぼんやりと目を向けていた。
手のひらに残る微かな痛み。あの日の点滴のあとが、まだ消えない。
──急激な寒さのせいか、元貴の体調はまた不安定になっていた。
「 …涼ちゃん、ごめん。今日も一緒に帰れそうにない、… 」
放課後。机に突っ伏すようにして弱々しく笑う元貴に、涼架は黙って上着を脱いで彼の肩に掛けた。
「 いいんだよ。謝らないで
僕はこうして傍に居れるだけで充分だよ 」
そう言ってくれるのがいつも嬉しくて
でも、胸の奥では、ずっと怖かった。
体が言うことをきかない日が増えていく。
眠れない夜が増えて、食事も喉を通らない。
医者にだけこっそり告げられた “余命” の話ももうずっと前のことみたいだ。
それでも
「 僕さ、冬までにはちゃんと涼ちゃんに
ありがとう って伝えたくて 」
「 …冬って、すぐそこじゃん、笑 まだまだ先のつもりでいいでしょ 」
「 ううん…涼ちゃん知ってるでしょ。僕…もうあんまり長くないって、 」
その言葉に、涼架は唇を強く噛んだ
「 でもさ…さよなら、なんて言わないで。僕今が一番幸せだから 」
震える声で、元貴が言った。
ふたりで文化祭の夜空 あの時の灯りが今も胸の奥に灯っている。
涼架は、元貴の小さな手を握りしめた。
「 僕も、さよならなんて言わない。元貴が居なくなるなんて絶対に考えない。」
夕陽の中、教室の片隅でふたりはただ そっと手を重ねていた。
まだ終わりじゃない。
この時間が続く限り きっと希望はそこにある───
#9.「 教室の片隅 」
なんか秋って感じ…、早く秋こないかな