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ー注意書きー
“売れない”小説家の太宰治×一般企業に務めている中原中也 の物語です。
自由奔放なファンタジー。 人によってはキャラ崩壊と感じるかもしれません。解釈不一致な部分があれば、そっとストーリーを閉じてください。
誤字脱字 有
最初の冒頭部分はモブ視点です。
夜中に目が覚める。時刻はちょうど1時。
仕事のせいか最近はどうも眠りが浅い。近所のヤンチャな小学生から「幽霊の住んでいるボロアパート!」と噂を流されても言い返せる言葉もないほど壁の薄い部屋に、ほんの少しだけ飲み残しが残っている1Lのペットボトルは、部屋のゴミにまみれた床の隙間を埋めている。
眠りにつく前、網戸にして窓を開け、カーテンを締めるのを忘れていた。アパートの3階とは言えど、いつどこで誰が見ているのかは分からない。睡眠中だと分かった強盗が寝ている間に部屋に侵入してくるかもしれない。取られて困るものも、取られるようなものも、私には持ち合わせてはいないが。
窓に目を向けた瞬間、夜中の静かな空気に1つ、バイクのアクセルのデカイ騒音が耳に入る。
──なんだ、ただの不良か
肩をビクつかせてしまった自分が情けない。
一息ついたと共に、これじゃあ寝ようと思っても騒音で寝れじないじゃないか。と言う思考が頭をかすめる。全く、迷惑な人達だ。学生時代にもそんなやつが2人ほどいたかな。よく校舎をめちゃくちゃにして授業が短くなり、自分にとっては好都合だった。
懐かしみの記憶を辿っていると、地元に帰りたい衝動に駆られる。都会に出てから夏も冬も関係なく満員電車に揺られ、暑さも寒さも辛さを増すただの道具としか思っていなかった。
蝉の鳴き声がうるさく、周りを見回しても緑しかないあの田舎の夏を今になってもう一度感じてみようか。地元に戻ったら昔の友達と卒業アルバムでも見返して大笑いをしてみようか。 いつの間にか瞼が重くなり、脳が回らなくなってきた。嗚呼、眠いのか。いや、眠気とは別の──もう、考える気力もなくなった。
視界は真っ暗なはずなのに、なぜか菖蒲色がこちらにグルグルと迫ってくる。まるで夢のようだ。違う、夢なのかもしれない。
真っ暗な部屋に、暖色の灯りがパッとつく。窓から見える180のある大柄な男だと思えたシルエットは、静かな夜を一回り見た後、カーテンを締めた。
◇
インターホンが鳴った。
日常化しているその音を無視した次に、扇風機とクーラーの贅沢使いをし、地べたに敷かれた座布団に座る。
──随分と暑くなったものだ
万年筆を片手に、空いている方の手には原稿用紙を。太宰治という青年は頭に”売れない”のついている小説家である。亡くなってしまった友人が小説を書いていると知り、自身も興味を持ったようだ。だが、小説だけを売りにして生きていけるなんてことはほぼ不可能に浸しい。1階から玄関の鍵が開く音がするが、太宰はただ黙々と筆を進めていた。
「邪魔すンぞ」
綺麗な橙色の少し乱れている髪に、平均より少し低い身長をした人物の名前は中原中也。高校生のようだが、れっきとした成人済み男性であり、何を言うも酒好きだ。容量を間違えるほど飲んでしまうほど酒好きだ。
中也は鍵が閉まっているこの家に何故入れたのだろうか、答えは義務教育中の子供でもわかるほど簡単なこと、合鍵を預かっているから。
ある日突然、中也は太宰に合鍵を押し付けられた。本当に突然、前触れもなく。最近になってまた連絡を取り合うようになった中也に『久々に会おう』と連絡をしたのも太宰だ。仲のいい昔の幼馴染だから ではなく、むしろ顔を合わせれば喧嘩ばかり。目が合えばお互い悪口を言い合い、他の学生も担任の教師も日常茶判事だった。
「いらっしゃい」
「ん、てか!!出迎えぐらいしろよ、返事も!もし居なかったらわざわざここに来たってのに帰らなきゃ──」
「私が帰ってくるまでここに入ればいいじゃないか」
言葉を交わした後、中也はため息をつきながらボフッと言う音と共にベッドへ腰をかける。字を書く時に立つ音は扇風機に掻き消されたが、太宰の後ろにいる小さな人影は、部屋中にある全ての音を感じているようだ。
「今書いてんの、恋愛小説か?」
急に当てられ、一瞬太宰の手が止まる。振り向くことはしない。いや、できない。床に散らかっていた原稿用紙のひとつが、しかも中也の近くの原稿用紙が、主人公の初恋を書かれたものだった。
「…文句は受け付けてないよ」
「ふはっ、文句じゃねえよ ただ、あの太宰が恋愛小説を書くなんて珍しいだろ?」
──珍しい。
中也の瞳に、太宰はどう映っているのだろう。毎晩のように家へ上がり込み、太宰の背中を何時間も見つめている中也の瞳に。考えるだけ無駄なのかもしれない。だが、つい太宰は考えてしまう。そのようなものを恋だと知らず
中也がサラリと紙を手で優しく撫でる。その音は、扇風機をも超えて太宰の耳に届いた。緊張のせいか手はまだ止まっている。太宰の心境も気にせず、文章を指でなぞりながら読み上げる。主人公が初恋について語る場面はレモンソーダのように甘酸っぱい。すっかり太宰の耳は真っ赤に染っていた。気を紛らわそうと手を動かしても、中也の子守唄を聞かされているような、優しい声に脳内が埋め尽くされてしまう。
「太宰てめえ、飽きたってわけじゃ──」
手を止まらせている太宰を見かけた中也が先程とは全く別の声を口に出す。ある意味元の声に戻った、とでも言えば良いだろうか。
「そんなわけないでしょ、君が声に出して読むから思考がごちゃ混ぜになったの」
目を丸くし、パチリ、パチリと瞬きをしたあと、中也は良いものを見たかのように、嬉々とした声で 「──そりゃあ」
「すまないことをしちまった」
ケラケラと笑う中也の瞳には、耳を真っ赤にした太宰が映されていた。
***
この世界は汚れている。 風景は綺麗だ。弱肉強食の中、必死になって生きている動物も、皮肉めいており大変美しい。だが、どこまでが自然で、どこまでが人工物かも見分けがつかない。汚れてから美しさが魅了されるこの世界に、本物の美を持っているものはいるのだろうか。一つの屋根の下、男2人が話す内容はとても浅い。量産性のない話をして、満足したら帰って、時には朝まで静かな会話をこともあった。
「──傷つくほど、汚れるほど、秘密が増えるほど、世界は美しくなっていく。だから惹かれないんだ」
紅茶に小さな波ができる。暖色の灯りが映し出され、宝石に見えた紅茶は天国と地獄の境目のようだった。
「なら聞くが、手前にとって何が美しい」
「さあね、分かっていたらとっくに──」
畳み掛けるように、間もなく答える。
小説を書いているこの夜はつい素直な口になってしまう。
綺麗なもの、所謂美の基準は人によって変わる。自分自身が美しいと感じ取ったものも、相手には伝わらないこと、汚らしいと思われること、変な目を向けられること、例えば愛のカタチも人それぞれだ。愛し方が似ていても、完全に同じというわけではない。
「……ま、どうでもいいが」
ギシリ、ベッドの軋む音に耳が反応する。足が冷たい床に触れる音、服が手足に擦れて立つ音、バニラ系の香水の甘い香りに紛れて微かに感じるふわっとした柔軟剤の香り。
──うるさい心臓の高鳴り
熱が体全体に通り、扇風機の風を直接浴びてるはずだが、頬を蔦る汗が止まらなくなる。暖色のライトでも感じるほどの顔の赤さ。
「へぇ」
耳元ですぐ声がした。橙色の髪が耳をくすぐる。中也には太宰の心臓の音は聞こえていないようであった。
「──ちょっと、近いよ 中也」
指摘するとありのように小さな声で「あっ」と言い、後ろに1本下がる。香水の匂いが空中に纏い、気が気でない。
「すまねぇ、つい、同僚と話す時の癖で」
──職場でもそんなことをしているのか
ふとそう思った。いつもの太宰なら「その同僚は可哀想だね」と揶揄うことに突っ走る。だが、なぜだろうか。嫉妬ではない。嫉妬ではないと思い込みたい。そんな太宰を放って中也は瞬く間にベッドへ戻る。ふかふかとした白い、雲のような新品のベッドに。
太宰は基本ベッドでは寝ない。寝れない。机に向かい、寝落ちすることがほとんどだ。一階にいる時は無駄に広い床に転がって朝を迎える。それが原因か、いつも寝つきが悪く、朝起きても疲れは取れないままだった。なのにどうしてベッドを買ったのか、ただの気まぐれなのか、ソファを置いていても中也は変わらず遠慮なく座っていたであろうに。
いやらしい気持ちでは決してない謎の感情。後ろを振り向くと天界で遊び、疲れ果てた神の子供のごとく寝っ転がる中也が視界に入る。
なんとも思わなかったわけではない。だが、人に伝えるほどの感情でもない。コンコンと音がするのを左から感じた。まるで誰かが叩いているようだ。
今の時刻は丑三つ時、真夜中。それに、ここは2階の部屋。本当に天使が来たわけでもあるまい、無視して原稿用紙に再度目をやる。 その瞬間、カーテンをさっと引く音とついでに窓が優しく開き、冷たい風が太宰の頬を撫でる。
「中也……」
酔った中年が石ころを投げて嫌がらせをしているのかも知れないのに、本当に君はお人好しだ。そう思ったのは体感1秒ほど。
太宰の視界からはカーテンがかぶさって見えなかったが、物陰で分かるほどの十分な大きさの鳥が中也の口元と同じ高さに浮かんでいた。レースカーテンが中也の髪にサラリとかけられる。風の悪戯のようだった。中也の瞳に映った鳥は、純白を表すかのように白かった。人の目を通してでもわかるその美しい白は、まるでこの世に染まる前の汚れを知らない幼き子供の心を想像させる。
中也の手に5cmほどの小さな紙が立派なクチバシにより渡された。
「おいっ、ちょっとまて!」
中也はガタッ、と勢いよく上半身を外に出す。
反射的に座布団から腰を持ち上げ、机に振動が伝わる。紅茶のほとんど溶けた氷がカランとぶつかった音は太宰の声に遮られた。
「なっ…にしてるの、危ないだろう」
1粒の汗が中也の首筋を蔦る。太宰の瞳孔が少し大きくなったのを、少し不思議な色をした夜空は見逃さなかった。中也が振り向き、太宰に小さな紙を渡す。意図的でなくとも、身長差で無意識に上目遣いになってしまう。
「幻想的だな、とても現実とは思えねぇ…これは夢か?」
「…さあ」
片手でレースカーテンを振り払う中也の言う通りだ。どこの童話なのか、またはどんな悪戯好きの神の仕業なのか。
「クソっ、初めて見た夢が太宰と一緒なんてここ数年で1番の不幸だ」
そっぽを向いてため息を着く。眉頭にシワが寄っており、まるで谷と山の様だ。チクタク、時計の音が妙にデカく感じる。
「それはこっちのセリフさ 初めてでも初めてじゃなくとも、君が私の夢に顔を出すなんて不愉快極まりないことだね」
「チッ 相も変わらず、気に食わねェ野郎をしているようで」
「そりゃどうも」
今更そんなことを言われたってなにも感じやしない。中也もわかっているからこそ横暴に扱える。ただそんな関係。特別なんてものは私達の関係には掠れてもいない。そうだろう。
太宰は中也を家に上がらせる本意は何なのか、嫌いあっている相手になぜこのような感情を持ってしまうのか。愛なんて知らない、わからない。人を愛したことがないならば愛のカタチすらわからない。嫌悪している相手を好きになるなどという矛盾が働けば、より一層困惑が頭を支配する。
「…『夢』か、所詮こんなもんなんだな 俺が読んだ──いや、なんでもない」
──本には、と言う言葉を飲み込んだ気がする。普通の人間なら1度ならば夢を見た事はあるだろう。それが中也は経験をしたことがない。病院へ行ってわざわざ「夢を見ないのですが」というのは控えたいらしく、本人の意思ならば他人である太宰は口出しをするべからずだと思った。中也は夢を見ない自分の身体を気にかけていたのだろう。
隠れてコソコソ調べていたのは知っていた。飼い犬の行動は把握しとかなければいけない、立派な飼い主の役目(笑)として学生時代は中也の視覚に隠れて付きまとい、放課後はもちろん休日まで。悪戯か、学校で毎週のように配られる「”今週”の負け惜しみ中也」のためにかは誰にも分からない。妙に嫌いな相手に関わることが好きな男、それが太宰だ。
今となっては昔のこと、思い返すと同級生にも会いたくなる。だが、同窓会には欠席を決め込む。気が知れないような男だ。
「まぁ、もういいじゃないか。なにかのバグだったのかもしれないよ?ちゅーや”くん”」
君付けで呼ぶと面白い反応をしてくれる。数秒経つと中也の顔は冷や汗でダラダラになり、青ざめ、いかにも不快だという顔をしながら深夜に近所迷惑なほどの大きな声を出す。
「キッッショッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
◇
薄い小さな紙にはこう書かれていた。
拝啓 太宰様、今夜は予想外のことが起きるでしょう。それと後もう1つ、早めに気づかなければ捕えなければいつか遠くへ逃げられますよ 敬具
ー
Mysterious Night、終
◆アトガキ◆
もう少し書きたかったのですが時間が……言い訳とかではありません。断じて。
次は掌編になりそうなのでなるべく早めに出すかと思われます。ここまで見て頂きありがとうございました