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#ご本人様には関係ありません
兎雪。@新連載始動
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ねこうさ きつね@❣️🎆🌟
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コメント
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うわあ…すごく繊細で、胸に沁みるお話でした。 「海で生きられない」と分かっていながらも、海に近づきたいという主人公の切なさが、孤独な鯨の話と重なって、じんわりと心に残りました。 いふくんの「俺にはお前の声が届いてる」っていう台詞、本当に優しくて…誰かに声を届けたい、受け止めてほしいって気持ち、すごく分かります。 えのきさんの描く海の情景と、そこに映る人の心情、もう少し深く潜って味わいたくなりました。続きがすごく気になります🤍
透明な泡沫が飛び交っている。
息はできない。海の温度に解けている自分の口からは泡がぶくぶくと出ていて。
そんな中でも確かにあの声は、果てしない大海原に轟いていた。
もう少しで届くような距離なのに。
僕は、鯨に、触れられない。
その夏は、少々疲れが溜まっていた。
思うように出ない声。
発声の仕方を変えても、色々な人に相談をしてみても、なかなか良くならない。
そのせいで、満足いくコンテンツを提供できないこともあった。
全力でやっているからこそ、それがどうしようもなく悔しくて、虚しくて。
ライブ、楽しかったんだ。普段見えないリスナーさんの笑顔が間近で見られる喜びは変わらない。それでも、思ったように歌えないこともある。
喉の不調が主な要因で起こる小さなズレや妥協。
それが、少しずつ溜まっていく。
(⋯いつまで、続くの、これ。)
何ヶ月経っても、良くなったり悪くなったり。完全には治らない。
(良くなったって思ったら、そうじゃなくて。)
(もう、あと何ヶ月経ったら治るの?不調なんかで片付けられない。)
(このままずっと。)
(行き詰まるごとに”前なら”って、そんなことばっかり考えるの?)
(そんなの)
「⋯…だめ、だめ。そんなこと考えたって、治んないし!」
ネガティブ思考は、体にも心にも良くない。
うまくいかないことがあっても、ネガティブになる時間は少ないほうが良い。
それより、解決策を考えなければ。
「うん!…うん。大丈夫。」
「何ヶ月経ったら、とかじゃないよね…!僕の行動次第で、治るまでの期間はどうにでも…」
あぁでも。
喉の調子だけじゃない。
他にも、考えなきゃいけないこと、やらなきゃだめなこと、たくさんあるっけ。
「…大丈夫。」
「大丈夫。」
やけに澄んだ青空を見上げた。
今日は猛暑になるらしい。40度を超える暑さは、もう異常としか言いようがない。
まぁ今日は結局エアコンが効いた家で作業するだけだけど。
そんな中で僕はパソコンを開く。
『海?』
「そうそう。行きたくない?6人で。」
そんな、行き詰まった夏。
しょーちゃんが間延びした声で言った。
忙しい長期休みが来ると、同時に取っていた僕らの休暇。
各々実家に帰ったり、好きなことをする貴重な時間ではあるが、その間に6人で出かけることも少なくなかった。
普段嫌というほど一緒にいるといったらそうだけれど、この6人で活動とは関係なく遊ぶのはかなり良い気分転換になるしね。
『いーじゃん。僕行きたいかも。』
僕としょーちゃんの間に座っていたりうちゃんに頭を預けながら同意する。
そこからみんなが口を開き出した。
「まぁ行くとしても俺はパソコン持ってくなぁ」
「たまには休めよ仕事バカ」
「お願いやから海でもずっと仕事してるとかやめてな」
「終わりが決まんないんだよ〜凝ろうと思えばいくらでもできるし」
いふくんとアニキにお小言を言われているないちゃん。不服そうに口を尖らせている。
みんなが騒ぎ出した中、僕は1人考える。
(海か。近くのホテルで一泊って話だけど、作業には影響ないかな…?)
(…って、何僕遊ぶのに作業のこと考えてるわけ?僕らしくなさすぎでしょ。)
漠然とした焦燥感が背中に張り付いて離れない。
そのせいで、なにか、色んなことに神経質になっているような、そんな感じがする。
(それはダメだ。…僕らしくない。)
そんな風に活動をして行ったら、きっといつか、苦しくなってしまう。
(….あれ。)
(なんだか、僕だけ、引っ掛かって進めていないような。)
(なんで、こんなところで躓いてんの?)
みんなは、前に進んでいるのに。
(それでも…活動休止とか、本当に嫌なんだから。)
(リスナーさんのことも、活動も、本当に、大好きだから。絶対に、嫌なんだ。)
進まなければ、いけない。
置いていかれてはいけない。
喉の不調も早く治さなければ。
このまま悪くなれば、活動休止も視野に入れなければならなくなる。
新しい目標だって決まった。
だから、ここで足並みを揃えていかなきゃいけないのに。
「…いむ?」
しょーちゃんと話していたりうちゃんの声で気がつく。
『へっ、え、なに!?』
「いや驚きすぎやろ」
しょーちゃんが笑いながらそう言った所で、もう周りにはメンバーが全員集まっていたことに気づいた。
どうやら海に行く日にちを決めるらしい。
「…なんかアホ面でボーッとしてたけど。どしたん?」
『アッアホヅラ!?』
と、思案も束の間。いふくんがまた煽りに来た。…素直に心配すればいいのに。
また喧嘩始まる〜なんて言葉が飛んでくる。
いやそうなったとしてもそれはいふくんが原因だ。なんだよ急にアホ面て。アホ面て。
先制攻撃してきたのはあちらだったので僕からも攻撃させてもらおう。
『僕がアホヅラならあんたは酒に酔った酔っぱい面ですばかばかばーか!!』
「はぁ!?てか酔っぱらい面ってなんやねん…。」
そんなこんなで喧嘩が始まり、アニキによって両者成敗されそうだった所から、やっと話し合いが始まった。
灼熱がジリジリと体全体を容赦なく照らしている。
流石夏、としかいいようがない気温だ。
だけれど、そんなことも気にならないほど。
「おお〜!!」
メンバー全員が感嘆の声を漏らすほど、その海は美しかった。
「都内からそこまで時間かかんないくらいの場所選んだけど、こんなに綺麗だとは思わんかったわあ…!」
『…….うん。ほんとに、綺麗。』
そう、美しかったんだ。
どこまでも広くて、青くて、透明で。
(あんな場所に、海に、その色に。)
(僕も、一緒に)
「おーい、みんな?」
ハッと意識が海から外される。
(…あれ、今、僕、何考えて……)
「6人全員だし、ライブとかで顔覚えてる人もいると思うし、海じゃお前ら絶対騒がしいし」
「だからないくんが一応人があんまいない方に行こうだってさ」
「まー確かに騒いでたら声とかでバレそうか…?」
「だからお前らこっちこーい!!!!!!」
先に遠くの方へ行っていたないちゃんの声で周りが騒めく。
(あんたが1番うるさいわ…!!)
僕らは愛想笑いしながら、そこから逃げる様にして走っていった。
☆
海で散々遊び騒ぎ倒した僕らは海沿いの旅館に来ていた。
6人で泊まるにしては少し狭い一室。6人のうち2人はソファで眠るしかない。
また、他4人のうちの2人は床に布団を敷いて眠って、残りの2人はベッドで眠ることができる。
僕はベッドに狙いを定めて目を光らせた後、スマホを弄り始めた。
「……暑くない?」
誰かがそう言った。
「……..まじで、それ」
「……エアコンつけたよね….?」
「…….壊れとるんやない?」
そんなこんなでフロントの人に助けを求めるも、直すのには少し時間がかかるみたいだった。
「……アイス食いたい……。」
静まり返った。
暑くなると、話す気力もなくなる。
けど、みんなが考えていることは分かる。
「漢気で負けた2人!!アイス買ってこい!!!」
「漢気ジャンケンジャンケン___」
プテラノドン、そして赤ん坊のような断末魔が鳴り響いた。
『ただでさえ暑いのに……みんな酷すぎ…。』
「だからさっさと帰るで…もうなんか蒸し暑くなり始めてるし…。」
近くにあるコンビニで買った、もう溶けかけのアイスを食べながら言ういふくん。
1人1本しかないので、僕は旅館の冷蔵庫で冷やしてから食べるつもりだ。ふん、これが計画性ってやつだね。
そんなことを考えていると、海がすぐ歩いた場所にあることに気づく。
『……海行きたい。』
意識せずとも溢れたその言葉。
「はぁ?暑いから早く帰ろって今話したばっかりだろ」
『別に、いいじゃん。』
反抗するようにそう言い捨てた僕はただその方向へ歩いていく。
砂に足を突っ込む前にサンダルを無造作に脱ぎ捨てて、ただ走っていく。
なんでこんなに、取り憑かれたかのように足を動かしているのか、自分でも分からないけれど。
海水で泥のようになっている砂に足が入ったところで、走るのをやめて。
一歩、二歩、三歩、…四歩歩いて。
少し顔を上げれば、それは。
「…海」
広い大海原。夕日が反射して、きらきらと輝く水面はどうしようもないほど美しい。
でも、それだけしか僕は見れない。
海は、もっと深くて、広いのに。
それがなんだか、酷く切なくて。
(僕だって、海で)
あの深さに、飲み込まれてしまえば。
誰にも知られず見られず比べられずに。
(仰向けで目をつぶってしまえるのかな)
(そう、なれたら)
意識せずとも、僕の足は海に吸い寄せられるように動いていた。 美しいオレンジだけじゃ、足りない。
「おい、ほとけ。あんま深くまで行ったら______」
小さく聞こえるいふくんの制止の声を振り切って、僕はただただ進んでいく。
その瞬間。
「…っ!?」
足元が、急に重たくなった。 海へ引き込むような流れに足をとられる。
「わッ!?」
ダンスで培った体幹でも耐えきれずに、バランスは崩れる。どんどん沖の方に体が動く。
そして、一瞬。
ざぶん、と音がして、息ができなくなった。
突然現れた深い海に入ってしまったのだ。
息ができない。目に潮水が染みて痛い。
視界が霞む。
目の痛みのせいか、息ができないせいか、分からない。
(ああ。やっぱり、僕は、海じゃ生きられないんだ。)
このまま、死ぬのかな。
それが、僕の求めた海の深さ?
自由で何にも悩まされない静かな居場所?
死が?
(そんなわけ無い)
(死にたくなんてない⋯)
確かに、思った。
生きたいって思えたんだ。
それがなんだか僕は、嬉しくて。
黒が頭を埋め尽くす。
視界に暗幕がかかった。
意識が、遠のく。
(⋯なに?)
目の前に、黒い影が見える。
それがなんなのかは分からない。ぼかしが入ったようなそんな光景が広がる。
でも、それは、確かに。
(⋯生き、物?)
限りなく、生を感じさせていた。
まっさらな頭は働かなくて、ボーっとその影を見つめる。
でも、その瞬間。
『__ホオォォォォォッ』
鯨の、鳴き声が聞こえた。
(あぁ)
(なんて、恐ろしく)
(それでいて美しい)
世界が、広がるような、覆われるような。
そんな音。
手を伸ばせば、触れられるような距離なのに。
僕の手は水を掻き切るだけ。鯨には、触れられない。
(やっぱり)
今度こそもうすぐ無くなる意識の中、思う。
(海は、
遠い。)
「ほとけっ!」
手が伸びてきた。
ちょっとだけ角ばってて、大きくて、でもあったかい手。
(…地上に、引っ張られる)
それが僕のいるべき場所なのに。
なんで、こんなにも…。
☆
「おい、起きろ、起きろって、」
「ほとけ!!」
『っげほ、げほ、ッ』
「っほとけ…!」
薄く開いた目に映るのはいふくん。
ああ、そっか。2人でアイスを買いに行っていたんだっけ。
段々と現実に引き戻されるような感覚が、少し不快で。
脳はやっぱりまだ霧がかかっている、ようで…。
『鯨、いたの。』
『うつくしくて、恐ろしくて、それでいて』
「…おい、ほとけ?」
僕の様子に違和感をもったのか、
本気で心配するかのように僕の顔を覗き込もうとするいふくんの言葉を遮るように僕は口にしてしまった。
『海って、遠いね⋯っ』
『僕、もっと海に近づきたいのに。陸においていかれたくないのに。』
(ぼく、なにいってるの。)
ぼくは人間だから。海でなんて、生きていけないのに。
さっき死の淵に立って、痛いくらい理解したでしょ?
変なこと言わないでよ。いくらいふくんだって、困らせちゃダメだよ。
『…ご、め』
謝って、うまく誤魔化して。
いつもみたいに軽い調子で笑って、必死な形相のいふくんを揶揄ってみせなよ。
そう思うのに。
『…。』
何を言えばいいのか分からなくなって、僕は口を閉ざしてしまう。
「⋯。」
「52ヘルツの鯨。」
『…へ?』
急な馴染みのない単語にそれこそアホ面をしてしまう僕を弄りもせずにいふくんは言う。
「鳴き声が高すぎて、仲間に届かないんじゃないかって言われてる鯨。世界で最も孤独な鯨って有名になったんやって。」
聞いたことが、あるかもしれない。
孤独だから有名になったなんて、なんだか皮肉な話。
それでも、鳴き続ける鯨の話。
『⋯⋯返事が、ないのに。それでも、鳴き続けるの?』
「そうだ、とは言われてるな。なぜかは分からんけど。」
「…お前は、なんで俺にそれを言おうと思った?
「……。」
いふくんが言う『それ』はきっとさっき僕が溢した本音のことなんだろう。
なんでなんて、自分でもよく分からなかった。
それでも、一つだけ、思うのは…。
「誰かに、受け入れてほしいから、かな。」
「誰かに聞いてもらったって、僕が海で生きられるようにはならないけれど。
理解どころか受容もされずに、本当は、何言ってるの、って言われて終わっちゃうような内容なんだろうけど。
それでも」
「声にしなくちゃ、絶対に伝わらないと思ったから。」
いふくんは、目を見開いた後、少し笑う。
(…なんというか、ほとけのそういうところ好きやわ。)
いふくんは、もうすっかり暗くなったあたりを眺めて、両手を後ろにつきながら言った。
「海には生きれなくても、俺にはお前の声が届いてるよ。本当は届いていなくても、俺はいつでもお前の声を聞きたいと思う。」
「だから…また聞かせろよ、ほとけ。」
『…!』
(お前の声を聞きたいとか、また聞かせろとか…なに、いふくんらしくもない。)
(でも…そっか。また、話してもいいんだ。)
『…ねえ、いふくん』
『その鯨にも、いつか…。同じ鯨じゃなくても、声が届く仲間ができるかな。』
「さあ、それは誰にも分からんよ。でも…できたら、俺も嬉しいと思うわ。」
そんな返事を聞いたのを最後に、僕らは砂浜で座って、暫くの間水面に映る月を見ていた。
大海の深淵にも響くような鯨の声が、聞こえた気がした。