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エピローグ
田中実は黒いノートを手に取り、ページをパラパラとめくった。
「……やばいもん貰っちゃったな」
しかし特に動揺するでもなく、あっさり肩をすくめる。
「ま、いいや。メルカリで売れるかもしれないし」
数日後──
家の扉をノックする者があった。田中実が恐る恐る開けると、そこにいたのは白髪で人形を手にした奇妙な人。
「……初めまして。私は“N”です」
田中実はギョッとして数歩下がる。
「……N!?──NHN(日本悪徳回収機構)の集金か!? うちは払わないぞ!?」
「……?」
Nは首を傾げる。
「違います。ただ……その黒いノートに、少し興味があるだけです」
田中実はノートを抱きかかえながら、汗をにじませた。
(やばい……俺はただの一般人なのに……なんか取り返しのつかない奴に目をつけられた気がする……)
こうして、“借金ノート”を持つただの一般人・田中実と、興味本位で動き出したN。
世界が再び揺れ始める予感──
¥¥¥
さくらTV前。
正午を告げるチャイムが鳴り、清美はコンビニで買ったサラダとおにぎりを手に、小さなベンチに腰を下ろしていた。
──その時。
黒塗りでもない、ただのボロボロのワゴン車がギギィと横づけされる。
窓から、ゴーグルをかけた青年が顔を出した。
「よぉ〜……高田様〜久しぶりー」
軽い調子だが、語尾には妙な圧。
清美は顔を上げて、じろりと睨む。
「……あなた、誰?」
青年はゴーグルを頭の上に掛け、顔を出した。
「俺? “マット”。これから世界一の成功者になる男だ」
後部座席には金髪ショートヘアの青年。
清美はため息をつく。
「ごめんなさい。私は今、休憩中です。あなた方と遊ぶ気はありません」
「つれねぇなぁ〜」マットは窓枠に肘をかけ、じっと彼女を舐めるように眺めた。
「でもな……世の中、休憩してるだけじゃ勝ち組にはなれないんだぜ?」
(……最悪。絡まれた。私の休憩時間、返してほしい……世はタイムイズマネーよ)
¥¥¥
ワゴン車の後部座席──
ガタガタのシートに足を投げ出し、銀色の銃を片手で弄ぶ金髪の青年──メロ。口にはチョコを突っ込んだまま、にやりと笑う。
「……弥海砂。どうせ夜神月なんて小銭しか持ってねぇ男より、俺にしとけよ」
カチリ、と軽く銃口が彼女の肩に向けられる。
隣で座っていた弥海砂は、目をぱちぱちさせてから、大げさにため息をついた。
「はあ? こんな“おもちゃ”に金かけるとか有り得ないんだけど」
「おい、これが“おもちゃ”に見えるのか?」メロは鼻で笑い、銃をくるりと回す。
「高級チョコを食いながら引き金引けるやつなんざ、俺しかいねぇよ」
だがミサは引くどころか、むしろ苛立ちを隠さず睨み返す。
「チョコにいくらかけてるのか知らないけど、私ならその分もっと賢く使うよ。服とか、化粧品とか、株とか!」
「へぇ……価値観がまるで違うな」メロはニヤリと笑い、再びチョコを噛み砕いた。
「……金のかけ方は生き方だ。俺は弾丸に賭ける。お前はネイルにでも賭けてろ」
「言われなくてもそうしますー!ミハエルさん」
「っ!」
銃口を握る手に力がこもる。
(……俺の本名を、軽々しく呼びやがって──……キラの嫁?だからなんだ。絶対に俺のモノにしてやる)
目の奥に獰猛な炎が宿る。
「女なんざ、結局“金”で買える。愛だの運命だの、全部幻想だ。札束の分厚さで繋ぎ止めてやる」
チョコを噛み砕く音が、銃声の予兆みたいに車内に響いた。
「ふんっ!お金ならミサの方が持ってるし。買われるより買う側──裁く方だから」
¥¥¥
SPK本部。
会議室に集まったのは──南空ナオミ、レイ・ペンバー、そしてワタリ。
ナオミは椅子にふんぞり返り、ため息を吐いた。
「……まったく、ニアって子は……。Lの言うことはまだわかるとしても、ニアの理屈っぽさにはうんざり……。しかも全部タダ働き前提で言ってくるんだから」
リドナーが腕を組み、冷ややかに言った。
「そんなの、前からよ。Lに従ってる時点で“給料”なんて最初から出ないって覚悟するものよ」
ナオミはムッとしながらも反論する。
「でも、こっちは生活もあるのよ? 毎日カップラーメンばっかりで、レイだって昼ご飯抜きの日が増えてるし……」
レイは俯き、ゼロキロカロリーのコーラが入った紙コップを震わせながら小声で呟いた。
「……事実だ……昨日なんて、氷と水道水で済ませた……」
その時、ペンバーの背中をレスターが摩った。
「おいレイ、大丈夫か……? 顔色悪いぞ……」
レイは力なく笑った。
「……カロリー不足です……」
レスターは額に手を当て、深いため息を吐いた。
「だから言っただろ……嫁に財布を全部握らせるなって。結婚したら、まず口座は死守しろって忠告したのに……!」
レイは床に突っ伏し、必死にナオミへ縋りついた。
「なあ……頼む……今度だけでいい……僕にドーナツを買ってくれ……!」
「……はあ?」ナオミが眉をひそめる。
レイは切実な声で言葉を重ねた。
「ドーナツは……真ん中が空いてるからゼロキロカロリーなんだ……! 僕はそれで一週間は戦える……!」
会議室の全員が沈黙した。
ナオミは額を押さえ、深くため息を吐いた。
「……レイ。あなた、頭までおかしくなったの?」
リドナーは小声で、「いや……もしかして“ゼロカロリー理論”にすがるほど、末期なのかも」と呟く。
レスターは椅子を蹴飛ばす勢いで「もう限界だ!買ってくる!」と立ち上がる。
会議室の隅。
ジェバンニは青白い顔でパソコンを睨みつけていた。
「……僕は……ドーナツじゃなくて……予算をください……!」
キーボードを叩く手が震えている。
「このままじゃ……設計図すら描けません……! 無給でトラックをアイストラックに改造しろって……頭おかしい……!」
立ち上がったのはジェバンニ。目の下にはクマ、髪は乱れ、シャツのボタンも掛け違えている。
「無給で働いて……徹夜で機材組んで……もう限界なんです……! 僕だって人間なんです……!」
ナオミとリドナーは顔を見合わせた。
(……やばい、ジェバンニ完全に病んでる)
ワタリは静かに立ち上がり、紅茶を机に置く。
「……ジェバンニさん。大丈夫ですよ」
ゆっくりと歩み寄り、その肩に手を置いた。
「……無給で病んでいるあなたを、私は見捨てません」
ジェバンニは涙を浮かべて叫ぶ。
「ワタリさん……僕に必要なのは……給料なんですッ!」
「ええ、わかっています……」
ワタリはまるで介護士のように優しく頷き、彼の背中をさすった。
「……もうすぐ、Lが懸賞金を稼いで戻ってきます。それまでは……持ちこたえてください」
「Lが……?」と、リドナーが眉をひそめる。
「はい。あの方は必ず成果を持って帰られます」
「…………」
一同の沈黙の中、ジェバンニの目だけがギラリと光った。
「……なら……あと数日だけ頑張れます……!」
ワタリはジェバンニの手を握り、介護師のように静かに頷いた。
「そうです……。私たちの生活は──すべてLの“賞金”次第です」
ジェバンニをなだめ終えたあと、会議室の空気が妙に重くなった。
リドナーがテーブルに肘をつく。
「……ワタリさん あなた、いったいどんな子供たちを育てて来たんですか?」
ナオミも冷ややかに腕を組み、ため息をついた。
「ほんとですよ……。Lも、Bも、メロも、ニアも……みんな変人で、借金まみれで、人の生活ぶっ壊すような奴ばっかりじゃない」
ナオミの目は怒りで光り、拳を握りしめた。
「育てるなら、もっとまともで、せめて投資に強い子供とか、株で勝てる子供とか育てられなかったんですか!」
リドナーも腕を組み、冷ややかに頷いた。
「そうね。あなたの“教育方針”の結果がこれなら、家庭裁判所にでも提出したいくらいだわ」
「…………」ワタリは顔を曇らせ、口を噤む。
ジェバンニが涙ながらに同調する。
「そ、そうですよワタリさん……! せめて僕に給料を払えるリーダーを育てて欲しかったです……!」
「…………」
その場の女性陣の鋭い視線に、ワタリは背筋を丸め、まるで児童相談所に呼び出された保護者のように、小さく「申し訳ありません」と呟くしかなかった。
そのやりとりを、会議室の隅で小さくなって聞いていた人物がいた。
──Lだ。
山盛りのドーナツを前に、白い顔をさらに青くしている。
ふいに、Lの肩がぷるぷると震えた。
「……大人って……怖いです……」
潤んだ瞳でぽつりと呟くL。
ナオミとリドナーは一斉に振り返り、冷ややかな視線を送った。
「……あなたも“子供”を言い訳にできる年齢じゃないでしょ、竜崎」
「そうよ、もうおじさんなんだから」
カチン、とLの耳に何かが刺さった。
指先でドーナツを持ったまま、ぎこちなく瞬きをする。
「……じゃあ……あなた方は“おばさん”ですね」
「「……ッ!?」」
会議室の空気が一瞬で凍りつく。ナオミの頬がピクピクと震え、リドナーのこめかみには青筋が浮かんだ。
「竜崎……あなたねぇ……」
Lの後頭部に冷や汗。ワタリは頭を抱え、深いため息をついた。
「……L……どうしてわざわざ火に油を……」
Lはドーナツを指先でくるくると回しながら、かすかに震えた声で返した。
「冗談ですよ。私はブラックジョークを言える大人です……」
その瞬間、二人の女性の視線が、鋭い刃のようにLを突き刺した。
Lの背中を伝う汗は、ドーナツの糖衣よりも冷たかった。
ワタリは深々と頭を下げ、必死に取りなす。
「Lはまだ……精神的に成長の余地があるだけです。どうか寛大なお心で……!」
──それでもLの心には、ただ一つの恐怖がこだましていた。
やはり……大人の女性は、死神よりも怖い……。
¥¥¥
夜の路地裏。
魅上照は振り返った。背筋を撫でる寒気──また、あの気配だ。
「……またか……」
低く吐き捨て、声を張る。
「そこにいるのはわかっている。……出てこい」
暗がりの奥から、影がにじみ出るように歩み出た。
ギラリと赤い瞳。奇妙にゆがんだ笑み。
「……ようやく、目が合いましたね。魅上さん」
その声は、不気味に甘やかで、耳にまとわりつく。
魅上の瞳が大きく見開かれる。
「──ッ! そ、その顔……その名前……!」
彼の視線の奥に刻まれる “Beyond Birthday™” という本名。
汗がつっと流れる。
「……BB連続殺人事件™ の犯人……! 捕まったはずでは……!」
赤い瞳を細め、B™は小首をかしげる。
「捕まって? いいえ、魅上さん。──B™は“釈放”されたんですよ」
「な……!」
「今の世の中、“キラの力”は公になり、“目”の存在も証明された。そうなると──死神の目を持っていたB™は免罪。すべては自然現象だった、という判決」
魅上の拳が震える。
「……ふざけるなッ! あの事件、どう考えても計画的犯行だろう!」
B™はにたりと笑みを深めた。
「……では、なぜ私があなたを狙うかわかりますか? 魅上照さん──」
魅上は息を呑む。
Bは不敵に笑った。
「理由は単純です。あなたの名前はTeru Mikami──イニシャルを取れば──“TM”だからです」
「……っ!」
「だからあなたが──“1人目の被害者”だ」
ぞくりと背筋を凍らせながらも、魅上は怒りに任せて黒いノートを引き出した。
「削除してやる……貴様の存在ごと……!」
B™はその仕草を見て、口角を吊り上げる。
「……いいんですか? 殺しても」
魅上の手が止まる。
「──“Beyond Birthday™”は商標登録済みです。私を殺したら、その瞬間……夜神月の口座に“巨額の違約金”が請求されますよ。著作権侵害、肖像権侵害、商標権侵害、セットで」
「……ッ!」魅上の額に汗が噴き出す。
B™は笑い声を押し殺しながら、囁きを続けた。
「魅上照、あなた、正義の検事でしょ? ──でも、“違約金”までは裁けませんよね?」
魅上の手が震え、歯を食いしばる。
「くっ……! 何としてでも、こいつを“削除”する……!」
検事としての知識が脳裏を駆け巡る。
(商標? 著作権? 私は検事だ……こんなのしょっちゅう見てきた。打開策は必ずある……!“無効審判”を申立てれば……あるいは……!)
赤い瞳が、にらみつけるように細められる。
B™も負けじと、口角を吊り上げたまま、一歩にじり寄った。
「──魅上照……」
「──Beyond Birthday™……」
お互いの“本名”を呼び合った瞬間、空気がピリリと凍りつく。
次の瞬間、二人の瞳がギラリと光を帯びた。
死神の目──互いの目は赤く光り、寿命と残高を映し出しながらぶつかり合う。
額から汗を滴らせ、声を張り上げたのは魅上だった。
「──この勝負、神の勝ちだッ!!」
その言葉をかき消すように、B™の喉から狂気じみた笑い声が漏れる。
「……ふふ……ははははッ……!」
赤い瞳を爛々と輝かせ、彼もまた吠えた。
「──いいや、この勝負B™の勝ち!──Lの勝ちだ!!」
死神の目と、正義の執念。
二人の叫びは夜空に反響し、勝者なき“商標戦争”の幕を切り裂いた。
¥¥¥
夜神月の手が震えていた。だが、その震えは恐怖からではない。狂気と高揚に満ちた笑みが顔をゆがめる。
机に叩きつけるように、例のノートを開いた。
「……フフ……L。お前の本名を──“借金ノート”に書き込んでやる……!」
ページには“残高・債務・金利”と無機質な罫線。
「……これで、お前の口座は凍結される。どんな天才も、金がなければ何もできない……ッ!」
月の目が狂おしいほどに細められ、口角が引きつる。
対するLは椅子から身を乗り出し、強く言い放った。
「……夜神月。あなたを何としてでも捕まえる。……“あの時”──私たちが交わした答え合わせを、しないまま釈放するわけにはいかない。私は、あなたの正体を暴く。その瞬間までは……たとえ口座がゼロになろうとも、決して諦めない」
借金ノートを握る月と、真実を追うL。
──運命は、再びこの二人を対峙させる。
返済か、解答か。勝利か、破滅か──
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
放送局前。
マットのタバコの火が風に揺れ、今にも消えそうに赤く瞬いた。
「動くなッ!」
護衛たちが一斉に銃を突きつけ、円を描くようにマットを取り囲む。無数の銃口が彼を狙っていた。
だがマットは眉一つ動かさず、火の消えかけたタバコをくわえたまま口角を吊り上げる。
次の瞬間、高田清美の腕を乱暴に引き寄せ、首元に銃口を押し当てた。
「……おいおい。こいつが撃たれてもいいのか?」
護衛たちの表情が一瞬で凍りつく。
(……まずい。完全に囲まれてる。この女を盾にするしか……)
冷たい空気の中、マットの声だけが妙に静かに響いた。
──後部座席。
メロの指が引き金にかかった。銃口は弥海砂の頭を捉えている。
「第2のキラ──俺のものにならないなら、ここで死ね」
低い声が車内を満たし、銃のハンマーを下ろすと、ふっと宙に銃が浮かんだ。
「……なッ!?」
メロが目を見開き、歯ぎしりする。
弥海砂は唇を吊り上げ、わざと甘ったるい声で笑った。
「ふふ……残念。レムがいる限り、ミサを殺せるはずない」
銃は宙を舞い、メロの手から完全に離れた。
彼は舌打ちし、両手をゆっくりと上げる。
「……わかった。殺すのは諦めてやる」
諦めを装った声。その目だけがギラギラと光っている。
「代わりに──俺に協力しろ」
メロは顎をしゃくり、高田清美を指さした。
「お前、あの女が気に入らないんだろ? だったらチャンスだ。護衛どもを殺してくれ。そしたら俺が“あの女”を確保して、Lに売ってやる」
弥海砂は一瞬きょとんとした後、鼻で笑った。
「はぁ? そんなことしたら月に迷惑がかかるでしょ。私にとって月が一番なの。協力なんかできるわけない」
メロは口の端を歪め、さらに煽る。
「……しかし、もし高田清美が捕まれば? 夜神月の“女”は一人消えるんだ。あんたにとっちゃ好都合だろう。……キラの“正妻”の座を奪えるチャンスじゃないか」
ハッと弥海砂の赤い瞳が光り、静かに細められた。
彼女の背後では、レムが再び重々しい息を吐いている。
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
清美は顔をしかめ、歯を食いしばって小さく合図した。
「──撃って!」
「っ!?」マットが目を見開いた次の瞬間、護衛のひとりが胸を押さえ、呻き声を上げて倒れた。
「なっ……!?」
続けざまに二人、三人と崩れ落ちる。
銃を構えていた護衛たちが次々に痙攣し、死んでいった。
マットは清美を抱えたまま硬直する。
「……キラ……!? 今、ここで!?」
全員が絶命したとき、清美の顔は蒼白に染まった。
「そ、そんな……!」
──車の中でミサは冷たく笑い、彼女を睨みつける。
「バカ清美。──これで、私の勝ち」
その声に呼応するように、メロがチョコを噛み砕き、車の窓を開けた。
「よくやったな、マット。予定通りだ」
「メロ……」
その一瞬を狙って、ミサの指先がノートを滑り、ペン先が「Mihael」という文字に近づく。
──だが。
「……ッ!? えっ!?」
ミサの手からノートがひったくられた。
虚空に現れた巨大な手。
包帯に巻かれた異形の存在が、そのノートをひらりと掴んだのだ。
「シ、シドウ……!? な、なんでここに……!」
レムの声にミサは硬直する。
(し、死神!? 別の……!)
シドウは愚鈍そうな顔でノートを抱え、細い長い指でページをめくっている。
メロは鋭い声で釘を刺した。
「……弥海砂。死神がついてるのはお前だけじゃない。俺にも死神がいる」
「っ!?」
「お前が俺の名前を書けば、シドウがお前の名前を書く。お前の死神にも言っておけ。死にたくなければ、俺を殺すなって」
ミサは息をのむ。
メロは挑発的に微笑んだ。
「俺はお前の目が欲しい。──大人しくしてくれたら、殺さない。悪くないだろ? 手を組もうって言ってんだ」
宙に浮かぶデスノート。
2体の死神がにらみ合う中、弥海砂の赤い瞳が歪む。
その隙に、助手席では腕を縛られた高田清美が押し込まれる。
「動くな」マットが低く言い放ち、銃を押し付ける。
携帯を出し、数秒の呼び出し音の後、声が応答した。
『……Lです』
マットはタバコをくわえたまま、煙を吐き出し、淡々と告げた。
「──確保した。例の女だ」
間を置き、口元をわずかに歪める。
「……ああ、それと。弥海砂もいる」
沈黙が走る。電話口の向こうでLが目を細める気配がした。
その時、メロの手が無造作に伸び、カチリと音を立てた。
「……っ!」ミサの手首に冷たい金属が噛みつく。
「手錠……!?」
メロはチョコを噛み砕き、鋭い笑みを浮かべる。
「悪いな、弥海砂。──あんまり動かれると困る」
赤い瞳がギラリと光る。
「これからは俺が、お前を監視する」
「……ッ」
拘束された女たちと、笑う青年たち。
死神が2体、闇の中で不気味に見守る。
──その車は、確実に“Lとキラ”を結ぶ、新たな火種を運んでいた。
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
「……お前も“目”を持っているのか?」
魅上照の声は低く震えていた。
Bはにたりと笑い、赤い瞳をギラリと光らせる。
「ええ、持っていますとも」
「ならば、私の寿命も見えているだろう」
「……はい。はっきりと」
魅上照は眉一つ動かさず、黒いノートを広げる。
「デスノートは、寿命が尽きる前の人間でも殺せる。ならば──今ここで、お前を削除する」
「削除……?」
Bの口角が、にやりと吊り上がる。
「私は検事だ。罪を犯した者は許さない。──Beyond Birthday、お前は“BB連続殺人事件”の犯人!今ここで削除してやる……!」
ページにペン先が走った、その瞬間。
「──そこまでよ!」
背後から鋭い声。
次の瞬間、南空ナオミの回し蹴り──カポエイラが炸裂。デスノートが宙を舞い、魅上の手から弾き飛ばされる。
「……ッ!」魅上が目を見開く。
華麗に着地したナオミは、すかさず魅上の手首をねじり上げ、拘束した。
「検事だろうと誰だろうと、勝手に“死刑執行”は許されないわ」
「ありがたい……ナオミさんの踊りはいつ見ても華麗ですね」
そう言って地面に落ちたデスノートを拾うB。
「……魅上照、あなたを拘束します」
ナオミは素早く彼の両腕を締め上げる。
背後からは、拳銃を構えたレイ・ペンバーが歩み出る。
「動くな……!」
すぐにイヤホンへ声を飛ばした。
「L、こちらペンバー。──デスノートを回収!」
しかし、Bは首を傾げ、ゆっくりと立ち上がる。
「……ふふ……」
ノートをひらひらと掲げ、無邪気に笑った。
「残念。──ただの“偽物”です」
「……ッ!?」
レイの額に汗が流れる。ナオミが目を見開き、魅上は口を歪めた。
Bは肩をすくめ、爪をガシガシと噛んだ。
「やられましたね。──さすが“正義の人たち”だ」
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
ニアは相変わらず、玩具の人形を指で弄びながら、無表情に告げた。
「……田中実。デスノートを私に渡してください」
「えっ……えぇぇ……」
実は冷や汗をだらだら垂らし、両手をぎゅっと握りしめた。
(わ、渡したいよ!俺だって、こんなヤバいモン抱えてたくない!……でも……!)
その背後。
死神リュークが、にやにやと笑って実を覗き込んでいた。
「渡したら──お前、死ぬぞ」
「ひっ……!」
実は思わず声を上げ、慌てて口を押さえた。
ニアはまぶた一つ動かさず、淡々と人形を積み上げながら呟く。
「……やはり。渡せない理由があるのですね」
「ち、ちがっ……ちがうんだ! ほんとに……渡せないんだよ……!」
(渡したらリュークに殺される……!クソッ、どうしろってんだ……!)
リュークはゲラゲラ笑いながら肩をすくめた。
「クックック……さぁ、どうする? 田中実。──渡すか、死ぬかだ」
ニアの瞳が、無感情に細められる。
「……興味深い。やはり“死神”が背後にいるのですね」
ニアは小さく息を吐いた。
「……分かりました。ここは一旦、引きましょう」
実は安堵の表情を浮かべ、胸をなでおろす。
「ほ、ほんとに……?」
「はい。ですが──必ず、あなたからデスノートを手に入れます」
ニヤつくリュークの影を一瞥し、ニアは人形を指ではめた。
「できれば……分かりやすいように、そのノートを手放してください。そうすれば、私が必ず回収する」
その声は淡々としているのに、背後に燃える執念が確かにあった。
「そして──今度こそ、“初代キラ”を捕まえる……!」
ニアはふっと視線を後ろへ向け、死神を見据えた。
「……それでどうでしょう? 死神さん」
田中実の心臓が跳ねる。
(ま、まさか……!? この人、リュークが見えるのか……!?)
リュークは目を細め、不気味に口を吊り上げる。
ニアの白い指先に、指人形がはめられるたびに、空気が不気味に震えた。
「……L」
「……メロ」
「……マット」
「……ワタリ」
「……魅上照」
「……弥海砂」
「……高田清美」
「……南空ナオミ」
「……レイ・ペンバー」
「……ビヨンド・バースデイ」
両手の指がすべて埋まった瞬間、ニアはゆっくりと十本の指を高く掲げた。
その小さな人形の群れが、まるで無数の瞳となってじっとこちらを見返してくる錯覚に、田中実は息を呑む。
次の瞬間──ニアは一気に両手を振り払った。
指人形がカランと散らばり、音を立てて転がっていく。
「そして──」
ポケットに指を突っ込み、ゆっくりと取り出したのは──ただひとつ。
その胸に刻まれた文字は、誰もが知る名。
「──KIRA」
この物語の王……神──夜神月。
ニアの声は低く、だが確信に満ちていた。
「これが最終決戦になります。どうですか……死神さん。こっちの方が、よほど“面白い”でしょう?」
ニアは表情を崩さず、最後に一言、静かに告げた。
「──最高の“デスノート対決”が見られますよ」
リュークはニヤッと笑うと、嬉しそうに舌を鳴らした。
「……人間ってのは、やっぱり面白ぇな」
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
夜神月」
十一本目が、ニアの手に加わった。
「今度こそ“初代キラ”を捕らえる。そして……全員が揃って挑む決戦が始まる」
リュークの肩が小さく揺れる。低く、喉の奥で笑いが響いた。
「フハハ……!」
ニアは表情を崩さず、最後に一言、静かに告げた。
「──最高の“デスノート対決”が見られますよ」
田中実の手から、汗で滑ったノートがわずかに落ちかける。
リュークはそれを長い指で軽々と掴み取り、嬉しそうに舌を鳴らした。
「……人間ってのは、やっぱり面白ぇな」
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
シャンデリアの光が反射し、金色の輝きが天井から降り注いでいた。
Lはマカロンを皿に残したまま、膝を抱えて座っている。
ニュースは連日、死者の報道を重ねていた。──また、罪ある者が命を落とした。しかも、今度は規模があまりにも大きすぎる。
「……再び、キラ捜査本部を立ち上げる必要がありますね」
その声は、深い静寂の中に溶け込むように低く、しかし確かに強かった。
「借金は返せる。財産も取り戻せる。名誉も、地位も……人間の作ったものならいくらでもやり直せる。……しかし──命だけは、決して戻らない」
Lはゆっくりとマカロンを一つ手に取る。
「命は金で買えません。金で動く者は、金に囚われる。権力で動く者は、権力に支配される。財産も契約も、国の法律ですら揺らぐ時がある。しかし、命の尊厳は揺るがない。命は買えず、借りられず、奪われてもなお輝きを残す、尊いものです」
マカロンを皿に戻し、Lは立ち上がった。
「だから私は、もう一度立ち向かいます。必ずキラを──夜神月を捕まえます」
その声は、部屋のシャンデリアよりも──金よりも──鮮やかに光を放った。
「正義の名のもとに。私がLである限り──法の正義を守ります」
𝐃𝐄𝐀𝐓𝐇 𝐍𝐎𝐓𝐄
犯罪者がいる。腐った人間がいる。
──その存在ひとつで、誰かの人生は意図も簡単に途絶える。
幸せは奪われ、愛も希望も、すぐに潰される。
「だから僕は──人間のために世界を作り変える」
夜神月の瞳には迷いがなかった。
「弱者が虐げられず、誰もが安心して眠れる世界。そこでは誰もが優しくなれる。人を信じ、人を想い、疑う必要すらなくなる。そうだ……そんな“優しい世界”こそ、僕が目指す正義だ」
声は静かだが、熱を帯びていた。
「法で罪を裁けない。法は“弱い”。だから僕が──この手で世界を変える。腐敗も犯罪も、すべて消し去って。人類を“本当の幸福”へ導く」
月は微笑んだ。
「……それが、僕の正義──」
これから──死の戦いが始まる。
命を賭けた、決して後戻りできない闘争。
Lとキラ。
南空ナオミ、レイ・ペンバー、ワタリ、ニア、メロ、マット、Beyond Birthday。魅上照、高田清美、弥海砂、そしてリューク。
すべての者が立ち上がり、
すべての正義がぶつかり合う。
「僕が──」
「私が──」
──正義だ!!
こうして借金ノートの戦いは幕を閉じた。
だが──本当の最終決戦。
デスノートをめぐる、命と正義の究極の戦いが始まるのは、また別の話──
END