ぼくだけの人なのに
ぼくはモーデュ・オリーブ。ハーツラビュル寮2年だ。NRCに入れて浮かれて1年をすごしていた。そんなぼくには好きな人がいる。
2年B組2番 ラギー・ブッチ。夕焼けの草原のスラムのハイエナ。
なぜ好きになったのかはもう前提だ。サバナクローでは小さいのに実際は171cmもあること。好物はドーナツで、甘いものが好きなら苦いものが嫌いなのかと思えば嫌いな食べ物は腐ったもの。料理ができて、あのサバナクローの寮長のお世話をしていて、面倒見が非常に良いこと。細い手首、首、足。吊り上がった眉と、タレ目。あの独特な笑い方も、あの笑顔も、笑った顔の裏にある曇った目も。
あれらを守るためにはぼくはなんでもしてあげるよ。
思う。
こんな細い手首で何を持てるのだろうか。
こんな細い足でどうやって歩いているのだろうか。
こんな細い首でどうやって頭を支えているのだろうか。
こんな細い腰で、どうやって男のブツを、入れるの、だろ、───
いや、待て…コイツはれっきとした男で、芯のある男で。
でも、
あぁ
あぁ、
こちらを睨んで威嚇しているのに不安が見えるその瞳やはり
おいしそう
「……ッあ゛……ォ 、!!」
何故こんなことになったのだろうと、ラギーは真っ白になった頭で考える。いつも通り授業が終わり、バイトのためモストロへ行こうしているといきなり後ろから何かの匂いがついたハンカチを口元に覆われ、思わず吸って、気づいたら暗い空き教室で寝かされていた。……身に纏うのはワイシャツのみで。
「…ッふ!…っは…は……ッア…!」
おかしい。思うように、というか自分で自分の身体が動かせない。
「……ッ、ッな、んでっ」
もがこうとしてもピクピクするだけで変化はない。相手のユニーク魔法だろうとすぐ見当はつくが、解除方法などにまで頭が回る訳が無い 。下はなんも敷いていないただの冷たい床だ。でも、今はそれが理性を保つものとなっていることを薄々気づき始めていたのは言うまでもない。
「んん……ッ…」
身体は拘束され、弄ばれ、どうする事もできないまま。素直に反応する自身に呆れる反面…………興奮していた。
これが薬の影響なのかと、どんな効果があるのかというのは…考えたくもなかった。
「……はぁ…も、やめっ」
制服は赤。ハーツラビュル寮の生徒だ。ハーツラビュルというと赤い暴君が頭に浮かぶが、あの寮長がこんなものに耐性があるとは思えない。誰かに助けを呼びたいところではあるが身体が動かせない以上無駄だと助けは切り捨てた。
諦めるしかないと判断したのは早かった。ばあちゃん、みんな…ごめん。
目の前の男が顔を赤くさせて懸命に腰を振っている。それをオレは冷めた目で見ていた。
ジャックから連絡があった。どうでもいいとスマホを投げ飛ばしたが、何度も繰り返されるコールに鬱陶しくなり仕方なく出ることにした。
「…なんだ。」
『レオナ先輩!!どこにいるんですか!?』
「チッ…るせぇな。もっと静かに────」
『レオナ』
「……あ?なんでお前がいるんだ、ヴィル。」
『アタシの寮生がアンタの部下に色々やっちゃってたみたいね。』
『ちょっとした薬が出てきたのよ』
「そうか。で、なんでそこにラギーが入ってくる。ラギーはモストロでバイト中なはずだ。」
『そのモストロにいなかったの。アズールの方から、「ラギーさんが来ていません。あの人はお金が絡むと…いえ、絡まなくてもですが、損をしたくないタイプですので連絡もなしに休むとは思えないんです。ラギーさんを知りませんか?」って話してきたのよ。』
『レオナにも連絡したようだけど、生憎見もしなかったみたいね?それで近くにいたアタシ達に報告した。』
『アンタもラギーを見てないの?』
「あぁ…。授業出なくて単位落としたらオレに注意来るんスからちゃんと出てくださいって言って以来だ。」
『アンタは……はぁ。』
『まぁ、アタシが言いたかったのはそれだけよ。まだラギーが被害を受けたって決まったわけじゃないわ。』
『でも、何か嫌な予感がするの。……気をつけなさいよ。』
「…あぁ。分かった、こっちでも探す。連絡ご苦労だったな」
ブツッ
通話を切って、ふぅと息を吐く。ヴィルが言ったのだから、嫌な予感を感じるのは気のせいではないのだろう。
すっと立ち上がり、どこかの狩人の様に敏感にラギーの気配を追い始めた。
「全く…。あの玉子には手間をかけさせるわね」
「…うす。ラギー先輩、どこに行ったんでしょう。」
「何もなければいいわね、憧れの先輩に。」
「……そう、スね」
目が覚めれば、暗い天井をぼーと見つめる。下半身どころか全身痛くて痺れていて…とてもじゃないが動くことはできなかった。今自分がどうなっているのか分からないほどには感覚がない。
………いや、快感は、残っている。
「いやあ…こうしてみればあのハイエナもオちるもんなんだなァ…!」
「あぁ…だろう?僕のつくった薬に失敗はないのさ」
「すごいな…だが、最初に抱いたのはぼくだからな。壊すなよ」
「っハ!わーってる」
いつの間にか人は増え、上の口も下の口も塞いでくる。はじめにいたハーツラビュルのやつ。今もずっと薬を入れてくるポムフィオーレのやつ。これ以上奥は開かないのにガツガツ突いてくるサバナクローのやつ。
あーあ、今日はバイトあったのに。アズールくん怒ってるかな。
「……ひゅ…ッ……ッ…!!!!!」
あぁ…痛い、苦しい、気持ちいい?、怖い、吐きそう、気持ち悪い、痛い、痛い。
怖い。
助けて
誰か、 たすけて
こわい
ガコンッ!!!!!
バンッッ!!!!!
「…………あ」
き て く れ た
何度目かの意識を飛ばした。でも、今回はゆっくり眠れそうだ
連絡を入れて、アズールにはラウンジに務めるように言った。迷惑料としてあとでいくらか巻き上げられそうだ。
その後そこら辺を歩いていたヴィルとジャックとリドルに、レオナにしては珍しく話しかけ、共に行方不明者(仮)を探すことになった。
ハーツラビュルに1人、ポムフィオーレに1人、そしてサバナクローに2人。それぞれ寮長に話がまわり捜索することになったようだ。
「珍しいですね、レオナ先輩が直々に動くなんて」
「アタシが電話で言ってやったからかしらね。ラギーを見つけたいんでしょ」
「馬鹿言え。世話係が勝手にいなくなったから部屋が汚ねーんだよ」
「先輩………」
「…ジャックが引いた目をしているじゃないですか」
そんな雑談をしながら気配を探していた。
「それにしても、ラギーたちはどこに行ったのだろうか。」
「ッスね。…先輩はやられたら意地でもやり返す人なので、簡単にやられる訳ではないと思いますが、。」
「やり返すんじゃなくて倍返しじゃない?」
「倍返しどころか骨まで砕きそうなのは僕のフィルターのせいだろうか…」
「はぁ、俺もそう思うから安心し……!!」
「…!!!」
「?……えっと…先輩方、どうかしたんすか?」
急に止まった3人の先輩に戸惑ったのか、ジャックも立ち止まり、そう聞いた。
「……ジャック、この先の廊下に意識を向けてみろ」
「廊下…?」
「魔法、……?!」
魔法の気配なんてそこまで驚くものではなく、魔法士養成学校でに魔法の気配なんて日常茶飯事どころかそもそも日常なのだが…。
「認識阻害、視覚阻害、扉ロック、その他諸々…それら魔法を認識させまいとするさらなる認識阻害魔法。」
「…逆に疑いを深めるものだね」
「わかりやすくていいじゃねぇか」
まぁ、砂にすれば全部ぱぁだがなそう呟いたレオナの顔は、笑っていた。
「はぁ、手間をかけさせる」
「………すいません」
無事、とは言わずともラギーを取り返すことができ、今は保健室だ。
「…お前を暴いたヤツらは全員学園長に報告しといた………ヴィルが。」
「そうすか」
「ジャックが心配してたぞ。でけぇ尻尾垂れながら。」
「シシ…あとでお礼しないと、ヴィルさんとリドルくんにも」
「あぁ」
昼寝の時間はなくなったが、使える世話係が戻り、もういいだろとベッドに寝転がる。
「…………」
ラギーが何か言いたげな視線を送ってくるも、知らん振りして構わずベッドに入った。
「…あの、ありがとうございました」
「……」
「……オレ、どうしようもできなくって…ずっとやられっぱなしで…もういいやって思ったけど、レオナさんが浮かんで…」
「……」
「あぁ、洗濯干してない、とか…宿題教えてもらいたかった、とか…部活、今日はなくてよかったとか、アズールくん怒ってるかなとか…」
「……」
「くだらない事がうかんで、考えても、からだはまだ動かなくて、」
「…ラギー」
「怖くて、っ…昔汚い男にレイプされてすてられて死んだねぇちゃん思い出したらなんか、すごいこわくなって」
「ラギー?」
「すてられる、って思って…っ……おれらしく、ないけど…たすけてほしいって、思って…っ」
「……」
ラギーの声は震え、レオナが呼びかけても気づけていないようだった。レオナはラギーの近くにいくと、ラギーのベッドへ腰掛けた。そして、不器用ながら頭を撫でるとそこへ寝っ転がった。
「……れおなさん?」
「…いいから、ぶちまけちまえばいいんじゃねぇの」
「…………ッ」
一瞬息を詰めるとラギーは顔を伏せて肩を震わせ、嗚咽を漏らした。
弱った姿を他人に見せたくないのは “獣”人 としての性なのかもしれない。それでもライオンの前で弱音を吐き泣いてくれるラギーを見ると、彼の中では俺は気を許せる、安心できる存在なのだと思う。そう1度感じてしまえば、自分の腰付近で体育座りしてぐすぐすと泣いているハイエナの背中は小さく、そして愛おしく思えてきてしまう。
泣きやみ振り返った先にいるわるーい顔をしたレオナにまた別に意味で怖がることに、今のラギーは考えもしていないだろう。
俺だけの人にする
あの後モーデュ達がどうなったかは、彼らのみが知る。