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5.決意
「あ、ネス君。昨日ぶりやな。」
「ですね、蘭世は?」
「黒名くんなら今潔君と作戦会議中。ふふっ」
あれから本音を打ち明けた黒名とネスは互いの距離が縮まっていた。
「もう隠さんようになってきはったね笑」
「僕ですか?そんなに顔に出てます、?!」
「割とでてはるわ笑」
黒名はこの状況に満足しているらしい。
ネスも前よりも明るくなった気もする。
けどカイザーとは別々になった。
誰も口には出さないけど気になりすぎる!
「じゃあ僕も確認したいことがあるのでまた」
「うん、ほな。」
背中を向けて走り出したネスに小さく手を振ると黒名たちの方へと向き直る。
すると潔が僕に向かって手招きをしていた。
黒名のほうは気まづそうに他所を向いている。
バレたらしい。
「それでネス君が潔君のこと好きなんじゃ?ってことやね。」
潔から聞いた話をまとめると軽く頷く潔。
「…勘違いだったらハズいんだけどさ、最近ネスがカイザーと別行動してんのって俺のせいだったりするのかな〜って。」
潔は俯いて太ももに顔を埋めた。
言葉に困り、黒名と目を合わせる。
「潔、例えそれに潔が関わってたとしてもそれは潔のせいじゃないだろ。」
黒名が潔の肩に手を置いた。
僕もすかさず反対側の肩に手を置く。
「そんなに悩まんとき。真相を知ったところで潔君にはどうにもできへんやろ。」
「…だよな。でも…それでも気になるよ。」
潔は顔を上げなかった。
ノアから名前を呼ばれてやっと立ち上がると無言のまま立ち去ってしまう。
「間違ってへんよね、ここで本当の事を言ったところで悩むのがネス君に変わるだけやろ。」
「うん、間違ってないと思うぞ。でも潔があそこまで悩むんだ。ネスのことを大事にしたいのは確かだろ。」
黒名は問いかけるようにしてノアと話す潔を振り返って見つめている。
何も言えずにその日の練習が始まった。
「クソカイザー…俺がお前を喰ってやるよ。」
「世一に喰われるなら本望だな。」
カイザーと潔はボールに向かっていつも通りの調子で喰らい付いていた。
心配になりネスの姿を探す。
ネスは軽く走りながらも潔とカイザーとは距離を取っていた。
普段通りにカイザーにパスは送るし、手は抜いていない。
でもカイザーと言葉を交わすことも潔をからかう事もしなかった。
練習終了_
「ネス。」
汗をタオルで拭いながら荷物をまとめていると後ろから自分の名を呼ぶカイザーの声がした。
「カイザー…」
彼の名前をこんなにも重く呼んだのはいつぶりだろうか。
カイザーは走ってきたのか息が乱れている。
整った顔から吐き出す言葉が怖い。
「さ、先に戻ってますね。試合映像も流れるのでマークする選手は見つけときます。それじゃあ、また明日…」
カイザーが口を開くとその言葉を遮るようにして言葉を発した。
急いで荷物を手に取ると背中を向けて歩く。
カイザーは手を伸ばして僕の腕を掴んだ。
今まで聞いた事もないような声量で名前を呼んだ。
「ネスッッ…!!」
カイザーの声に驚いたのは自分だけじゃない。
その場にいた潔を含めるチームメイト、ノアでさえも目線を向けられる。
「カイザー、喧嘩なら外でやるんだ。」
ノアがカイザーに近づいてそう告げると舌打ちをしながら強引に手を引っ張られる。
「あ、カイザー…!」
僕の声が聞こえていないのか、無視をしているのかカイザーは止まらない。
部屋から出る間際に振り向くとノアの後ろに立ち尽くす世一と目があった。
廊下に出て少し歩くとカイザーは止まった。
「…カイザー??」
「お前は俺に失望したか。それとも興味がなくなったか。」
「いえ、ちゃんと見ています。失望なんか絶対にしません。」
いつもより余裕のない焦ったカイザーの正面に立って強く断言した。
「前にお話した事を覚えていますか。」
「あぁ、潔が好きだって事だろ。それなら俺は応援してやると言っただろ。何故俺を避ける??」
カイザーは強く、至って冷静にそう問いた。
「…潔に想いを伝えてしまう事で貴方の望むサッカーの邪魔をしてしまうのは嫌なんだ。」
カイザーは潔とのサッカーを楽しんでいる。
互いに喰らい合うことでゴールを決めた時の快感をより深いものに変えている。
潔に想いを伝えたいのは変わらない。
でも自分の勝手な告白でカイザーの今のサッカーを奪ってしまうのは嫌だ。
僕のそんな考えにカイザーは溜め息をついた。
「いつまで経ってもお前は俺を理解できないな。俺はお前の恋愛なんかで自分のサッカーを壊されたりなんかしねぇよ。」
やっといつものカイザーが見えてくる。
自然と体の力が抜けて開放感に包まれた。
認めてくれた…なんて言い方だと都合が良すぎるだろうか。
「僕が間違ってたよ、カイザー。また僕を使ってくれる??」
そう首を傾げるとカイザーは頭を撫でた。
乱暴そうに見えて優しく頭を包み込むように。
こんなカイザーの無意識な優しさに惹かれる。
この憧れは潔とは別のものだ。
「氷織さん、無事カイザーと話せました。僕が悪い方に捉えすぎていたんですね。」
「良かったなぁ…まぁこっちはこっちで偉い事になってもおとるんやけど。」
風呂上がりの頭にタオルを乗せた氷織と偶然にも会った。
氷織に今日の練習後の出来事を話すと申し訳なさそうに苦笑しながら言った。
「ネス君の気持ち、潔くんにバレてもうたんよね。今日の話の内容、聞こえてたみたい。」
「それって、好きバレ…って事ですよね。」
静かに氷織が頷いた。
顔が燃えてしまいそうなほどに熱くなる。
頬を両手で覆うと目を閉じた。
「頑張らないといけないんですよね、神がそう告げているんでしょうか。」
「やね、協力はするよ。けど、結末を作るのはネス君と潔くんやで。」
「ええ、わかってます。近いうちに世一とも話をしようとは思ってたので良い機会です。」
手を顔から遠ざけて手の平を見た。
今逃げて後からカイザーと顔を合わせられなくなるのは嫌だ。
わがままばっかりでも嫌だ。
蘭世とも約束したんだ。後悔しない選択をするんだ。
ネスが向き合うことを決意した日、潔が足を怪我して療養室へと運ばれた。