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なんも言うことないっす。
スタート
ーーーーー
歩いても歩いても…走ってみてもどこにも光は見えなくて、諦めかけたときに君が応援してくれて…また走り始めて…でもいくら走ってもずーっと先は真っ暗。また諦めかけたとき、少しだけ光が見えた。
その光をただただ追って、やっと辿り着いた。
そんな夢をみた。
目を開けたら、真っ白な天井と、心配そうに顔を覗き込む君が見えた。
真っ白な部屋に、閉められたカーテン。
そして、ベッドに横になったままピクリとも動けない俺。
目は開けられたのに、体が動かない。
カーテンを開けて入ってくる、医者のような人。
とても驚いた様子で、とても喜んでいた。
君は口をパクパクさせているのに、何も聞こえない。
医者のような人も、口を動かすだけで、何も喋っていない。
何があったのか…ここはどこなのか…なんで動けないのか…
今僕は喋っているのか…
何も分からない。
ただこちらを微笑みながら見つめる君に胸が騒いだことだけは今の僕でも分かった。
君の名前も…声も分からない僕に微笑んでくれる君を好きになってしまったのだろう。
突然一気に顔が赤く染まる君。
どこからどこまで口に出てたのかも分からないが、「好き」だけは伝わったようだった。
少しずつ動けるようになった頃、未だ耳だけは聞こえなくて、リハビリをどんなに頑張ってもよくなるのは体だけで、耳だけはどうしてもよくならなかった。
こんなんじゃ歌い手も続けられないし、何より君に迷惑をかけてしまう。
俺がこんなだから、みんなに迷惑かけてしまう。
不甲斐ない自分に嫌気が差して、君に会う度謝って…謝って、グループを抜けることも考えた。
でもそれを伝えたら君は、青ざめた顔で必死に止めた。
そんな君の優しさにつけ込むようで心苦しかった。
数週間後、やっと退院できるようになった。
君はまるで自分のことのように喜んでくれた。
ただ、退院してからも君に迷惑をかけそうで俺は素直に喜べなかった。
そんな僕に気づいたのか、スマホを手に取り、
「いくらでも俺に頼って」
と打った文字を見せてにこっと笑ってくれた。
自分は普段からあまり泣かないのに、この時だけは堰を切るように泣いてしまった。
そんな中君は優しく僕を抱きしめてくれて、
大丈夫と言ってくれた。
いや…正しくは、そう聞こえたと言うのが正解だろう。
聞こえるはずのない声が脳に響いて、驚いたのもつかの間。
途端に頭がズキンズキンと痛くなり、
僕の知らない…
俺の覚えていない記憶が勢いよく流れ込んでくる。
君のことや、メンバーのこと…今までの思い出すべてにかかっていた霧が綺麗に消えたかのように思いだす。
君…桃への感情もすべて、
意識を失う前のことも。
その後俺は、耳は聞こえないが強く強く桃を抱きしめ、記憶を失っていた期間の分の好きを言葉にして伝えた。
背中をぽんぽんと叩かれ、抱きしめる力を弱める。
桃は目に涙をためながらもスマホに文字を打ち、
「こういうのは家に帰ってからね。」
と打ったものを俺に見せる。
俺は小さく頷き、片付けを再開した。
家に着きドアを開けたら、俺と桃を除いたメンバー全員が手にクラッカーを持って出迎えてくれた。
もう既に使ったあとのものだったけど。
みんなは俺の顔を見るなり、少し悲しそうな顔をしていた。
それは桃も例外ではなかった。
医者からは、
補聴器をつければ少しは聞こえるようになるかもしれないと言われていた。
それで結局聞こえなかったら金の無駄だから買うつもりはなかったが…
みんながこんな顔になるぐらいなら…買ってみるのも考えた方がいいかもしれない。
そんなことを考えていたら、桃が俺の手を握って、リビングの方に引っ張っていく。
目は見えるからエスコートは必要ないんだけどな、なんて思いながら桃についていく。
リビングに入った途端、まるで何かの記念日かのような飾り付けに驚いてしまった。
壁には
「まろちゃんおかえり」
と並べられた風船がくっつけられていた。
ここまでしなくていいのに、なんて少しは思ったが、それ以上に嬉しさが勝った。
桃が活動休止中に使っていた読み上げアプリを使い、お礼を言う。
自分で言う言葉は目に見えず、おかしなことを言いそうで怖いから。
全員がびっくりしたようにこっちを見つめたあと、一気に笑顔になる。
一瞬文字を打ち間違えたかと焦ったが、そのようではないみたいだった。
「それ俺が使ってたやつじゃんw」と打った文字を見せる桃。
「使ってみたかったんよな〜」と読み上げを使い、返事をする。
少し暗かったみんなの顔が明るくなったことに安堵し、俺自身も表情が緩くなる。
1週間後ついに補聴器を買ってつけてみることになった。
あまり期待はしていないが、メンバー全員が付けろとうるさいので仕方なくつけてみる。
桃「ぁぉ、ッ!……? 」
…聞こえる…本当に少しだけど…
「少しだけなら聞こえる」…と、読み上げアプリで伝える。
みんなとても喜んでいた。
だが桃は、泣きながら抱きしめ、耳の近くで
「少しでもいいんだよ、」
と言ってくれた。
本当、最近涙もろくなったな。俺…
このぐらいで泣いてしまう自分が情けない。
久しぶりに聞いた音や、メンバーの声。
少ししか聞こえないはずなのに、静かだった時より賑やかで、幸せだなぁ…と感じる。
これからもこの幸せが続きますように__