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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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デリバリーヘルス元経営者、菊野恵子の協力により、西村裕人がデリバリーヘルス元店員、山下朱音・源氏名・|金魚《きんぎょ》を加賀市から金沢市まで定期的に送迎していた可能性が出て来た。随行して来た警察官を乗せたパトカーは小松署に向かい、”川北大橋”上下流近辺の防犯カメラ、河川水位カメラの解析状況を確認する事となった。久我の運転する捜査車両は山代温泉街を抜け、延々と続く田畠の景色を横目に加茂交差点を目指す。




「やはり、112号車と106号車でトラブルが有ったんでしょうか?」

「《《金魚》》の奪い合いか?」

「分かりません」

「そうなると西村が太田の頭をスパナで殴ったのか?」

「西村は返り血を浴びては居ません」

「SDカードを抜いたのは西村じゃないか?」

「何の為に」

「そりゃあ、犯人を隠す為だろ?」




目の前に広がる加賀平野が海風を運び、助手席のサイドウィンドに頬杖を突く竹村の鼻をくすぐった。陽が傾きかけた北陸高速道路にはマッチ箱の様な長距離トラックが行き来している。交差点が黄色信号に点滅し、牛丼加茂店の駐車場にはパトカーが2台、大聖寺警察署の捜査車両が並んで停車していた。




「有益な画像、残って居ますかね」

「タクシー会社のSDカードなんざ3日か4日で上書きされちまう役立たずだ」

「店舗の防犯カメラは」

「優秀だぞ。お宝がザクザクだ」




シルバーグレーの捜査車両は駐車場の一番手前、いつにも無く、駐車スペースの白線を踏んでかなり斜めに停めた。ズカズカと店舗正面から入店しようとする竹村の腕を久我が引き留める。




「ちょ、竹村さん。牛丼食べに来た訳じゃないんですから」

「あぁ、すまん。腹が減った」

「は、はぁ」

「俺は牛丼中盛りが好きだ。覚えておけ」

「はい」




2人は裏手の勝手口のドアノブに手を掛けた。確かに腹の虫が鳴る、香ばしい牛肉とつゆの匂い。その厨房の左脇に事務所らしき場所が有ったがそこは男臭さが漂う地獄だった。6人の警察官が小さな画面に釘付けになり、隣では痩せ型で背の高い店長と思しき男性がぼんやりと手持ち無沙汰で立っていた。竹村が手を挙げ、久我が深々とお辞儀をする。




「いやぁ。すんませんねぇ、営業に差し障りはないですかねぇ」

「いえ、大丈夫です」

「申し訳ございません、ご協力感謝します」

「は、はぁ」




防犯カメラの映像を映し出すパソコン、マウスをクリックする音がカチ、カチカチと響く。店先では「ありゃーとやんしタァ」と如何にもバイトの男子高校生が気の抜けたサイダーみたいな声で客の背中を見送っている。




「どうだ?」





竹村が大聖寺署の警察官に耳打ちすると首を大きく縦に振った。お宝がザクザク出て来た様だ。久我と竹村が顔を見合わせて頷く。




「店長さん、これお借りしますよ」

「は、はい」




菊野恵子の証言に嘘偽りはなかった。西村裕人は隔日勤務、公休日以外は必ず 24:25〜24:30にこの店の出入り口で真っ赤なワンピースを着た小柄で華奢な女性を乗せ、ウインカーを左に出している。その姿をアルバイト店員たちは《《親密な間柄》》の様に見えたと皆、口を揃えた。




「竹村さん、西村の”何と無く”は微妙になって来ましたね」

「そんなもん、最初から微妙だよ」

「はい」

「意図的に抜いてるんだろうよ」

「SDカード」

「そうだ」




ただ暴風雨の深夜、この時ばかりは状況が違った。牛丼加茂店出入り口に北陸交通の行灯が到着した時刻は24:10といつもより数十分早く、タクシーの号車番号は112、後部座席のドアを開けたドライバーは横長黒縁眼鏡を掛けた太田和彦だった。そしてそのタクシーに乗り込んだのは《《白いワンピース》》を着た山下朱音。次に24:40を前後して加茂交差点をUターンし、牛丼加茂店駐車場に進入し停車する106号車、店内をキョロキョロと見回す西村裕人。同時刻、加賀市内方面に走り去る北重忠が運転する124号車が録画されていた。




「久我」

「はい。」

「持ってるな」

「はい、持って居ますね」




白いワンピースを着た山下朱音の手には色、形状は不鮮明だが袋らしき物が握られている。現場検証で見つけ出す事が出来なかった物証だ。

金魚のため息 欲望と偏愛の果てに

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