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椛夜
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矢野 蒼(やの あおい)
橋本 湊(はしもと みなと)
太陽の光がリビングの大窓から湊の目元に降り注ぐ。手元のスマホが10:23を示している。おそらく、昨日はアラームを設定せずにテレビを見ながらそのまま寝てしまった。
そして、2件の不在着信。 通知を少し見つめ、スマホを布団に雑に置いて立ち上がる。 どうせ同じクラスの生徒会長さんからだ。眠い目をこすりながら シャツのボタンを留め、ネクタイをしめる。
「橋本!」
扉を開けた瞬間に会長の大声が耳に飛び込む。
「…うす」
俺のかすれた小さな声はマスク越しだとさらに聞こえづらい。それでもさすが会長は笑顔で「おう!」とこたえてくれる。クラスメイトの注目が集まるだけだからそろそろやめてほしい。
治安の悪い中学に通っていた湊は、ただ攻撃されないために言葉遣いを荒くしたり目つきを鋭くしたりとしていくうちに 茶髪にピアスという見るからにもな不良になってしまった。
そんな自分に嫌気がさし、偏差値60強の岬中央高校を受験し、合格したはいいものの勉強についていけず同じ雰囲気の同級生もおらずぽつぽつと学校に行けない日が増えていた。
自己嫌悪の毎日。日に日に小さくなる声、胃、脳。
…そんな日々に無理やり生徒会長さんが割り込んできた。しつこいぐらいに俺に関わろうとしてくる。宙ぶらりんになっていた俺に歩き方を教えてくれる、一緒に歩幅をあわせて歩こうとしてくれる。会長、矢野蒼、蒼。いつの間にか蒼の顔を見るためだけに遅刻してでも学校に行くようになったり、蒼がカッコイイと異常なくらいに褒めてくれたので、茶色の髪の毛は染めないことにしたり。
簡単に言えば矢野蒼のことが好きだ。サラサラの黒髪、ちょっとタレ目気味な目が好きだ。匂いも、犬のアイコンも、豪快な笑い方も、ビックリマークばかりでうるさいメッセージも矢野らしくて好きだ。愛おしくてたまらない。いわゆる、キュートアグレッションを起こしそうになる。夢に現れることもあるし、自慰のとき頭に浮かぶことさえある。矢野からしたらこんなに迷惑な話はないだろう。不登校を立場上気にする必要があったから話しかけたらいつの間にか好きになられてさらにはオカズにされている。酷い話だ。しかも男に。
…弁当忘れた、朝も食 ってない。茶髪の半不登校は浮くに決まっている。一緒に学食に行ける人もいなければそもそも話しかけてくれる人がいない。会長には印象が悪くなると申し訳ないから話しかけるのは最小限にしてくれ、とお願いした。それでも挨拶はしてくれるのだから勘違いしそうになる。俺に興味があるわけではないと肝に銘じておきたい。
蒼の特徴的な大きな笑い声が聞こえる。ゲラゲラという擬音語がピッタリだ。自然と口角が少しあがる。まだこの日常が続きますように。