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WT ホテペト 短編集

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WT ホテペト 短編集

1 - shk 探し物

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2025年02月18日

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shkさん正社員設定です










無くし物をした。青い傘だ。

場所は分からない。会議をしている時に無くしていたことに気づいた。


shk「天気予報は…雨じゃないしなぁ、」


毎朝、テレビをつけ、流れているニュースを見ながら朝食を食べる。これが俺の日課だから、毎日の天気はそこでチェックをしている。

だから傘を家から持ち出した記憶はない。だが、家にも置いていなかった気がして、どこにしたんだと朝の流れを思い出す。


すると、耳元でザーっと水が地面を打ち付ける音が聞こえた。


shk「は、っ!? 雨!?」


今日の天気は晴れなはずだし、その上傘も持っていない。

スーツには既にシミができていた。


shk「最悪っ!どこか雨宿りできるところ…」


周りを見渡すと後ろに大きなホテルがあった。さっきまでこんな建物の前を通っていただろうか。

体に服が張り付く感覚に気を戻され、急いで足を動かす。


shk「ここでいいや、!ちょっとだけ休ませてもらおう」


小さな屋根の下まで入る。辺りには多くの青い紫陽花。中にはほんのり赤色に染まっているものもある。見たことがなかったから新築なのだろうが、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気だった。

そんなことを考えていると、ガチャと後ろからドアを開ける音が聞こえた。


Na「おや?お客様ですか?」


雨色の正装と帽子に身を包ませたオーナーらしき人に声をかけられ言葉を詰まらせる。


shk「あっ…すみません、少し雨宿りさせていただいてて…、」


詰まらせながらそういうと、「あぁ、そうでしたか」と優しい声色で返す。


Na「ここだと寒いでしょうし、中へどうぞ。」


ドアをさらに開き、中へ誘われる。


shk「えっ、」


流石に室内に入るのは気が引けて、手を前に出して断る。それでもオーナーは笑顔で誘い続ける。


shk「大丈夫です、ほんとに…もう帰るので…」


これ以上雨には濡れたくないが、面倒事に関わる方が嫌なので必死に断る。

とりあえずこの場から離れようと、ホテルに背を向けると、ぱしっと腕を掴まれる。


Na「中には着替えもありますよ。どうか雨が止むまで中でお休み下さい。」


Na「あなたの探し物も見つかるかもしれませんよ。」


不穏に笑いながら続けた言葉に息を飲む。

なぜ俺が探し物をしていることに気づいたのか。目の前にいる人物に違和感を覚える。


shk「、じゃあ…、少しだけ…」


これ以上断るのは危ない気がして素直に中に入る。後ろで閉まるドアの音が重く聞こえた。



Na「ようこそ、HOTELPETRICHORへ。まずはチェックインから行いましょう。」


少しだけ、と言ったが泊まることになっているのか、と心の中の不安がさらに波を打つ。

目の前に出された書類にサインをし終えると、部屋の番号が書かれた鍵を渡された。緑に染まった半透明のナンバープレートをじっと見つめ、「意外と普通のホテルなんだな」と少しほっとする。

このホテルに泊まるのは1日だけにしよう、と階段に向かって歩き出すと、ぽんっと肩に手を置かれた。


Na「お着替えは別の部屋に準備してあります。着いてきてください。」


…前言撤回。まだオーナーに目をつけられていたと理解してさっきまでの安心がどこかへ行ってしまった。もう抵抗することすら諦め、小さく返事をしてオーナーの後ろを着いていく。


無言の空気が流れる。他に客は居るのかすら疑うほど静かな廊下に響くのは自分たちの足音だけ。こういう空気が苦手な俺はなにか話題を…と内容を考えずに口を走らせる。


shk「あ、あの…オーナーさん…」


後ろから声を掛けると、ふっと少し笑いながら言葉を返した。


Na「私はオーナーではありません。ただの従業員です。」


いかにもホテルのまとめ役のような服装と姿勢なのに、そうではなかったことに驚く。


shk「え…そうなんですか…、じゃあなんてお呼びすれば…、?」


これから話しかける予定もないが、ただの話題提供として会話を続ける。


Na「そうですねぇ…、ならベルマンとでもお呼びください。」


イギリスっぽい名前に現実味を感じる。この意味がわからない状況を少しでも夢としておきたかったため、もう逃げられないのか、と気持ちが沈む。


Na「さぁ、着きましたよ。この部屋です。」


前を歩いていたベルマンさんが足を止め、くるっと振り返って手を正面の部屋に向ける。壁全体が白い石で作られている、どこか無機質さを感じる部屋。上を見ると、ボートには「KITCHEN」の文字がある。つまり厨房だ。この文字に引っかかり、少し戸惑いながらベルマンさんに目を合わせる。


shk「あの…、ここって厨房じゃ…、?」


こんな所に着替えもあるはずがないだろうし、そもそも客として入った俺がこんなホテルの裏に近い場所に立ち入れるわけもない。だが、ベルマンさんは表情を変えず笑顔で対応を続ける。


Na「はい。そのままの服では嫌でしょう?中に代わりの服があるので着替えてきて下さい。」


質問とは違う答えが返ってきて何も考えられなくなる。この状況から今すぐ逃げ出したいが、恐怖に押しつぶされそうになり足が動かない。すぅっと目を開けたベルマンさんがさらに口を開く。


Na「そのままでは風邪をひきますよ?」


言葉の割には心配してなさそうな声で問い詰める。その目にはハイライトが入っておらず、体に冷や汗が流れる。


shk「…分かりました、着替えてきます、」


今は少しでもベルマンさんといる時間を減らしたくて、大人しく部屋に入っていく。後ろを振り返るとベルマンさんはにこにこした顔で俺を見送り続けていた。


部屋の中も一面、白い石で作られており、周りには1つの机と1枚の扉しかなく、その寂しげがある部屋はどこか病院を思い出させる雰囲気だ。正面にある机に向かうと、俺が来ることを想定されていたようにきれいに畳んである服と、脱いだスーツを入れるようの紙袋が置かれてあった。この服を着ると、ホテルの一員になる気がして気が引けたが、長い時間この濡れた服を着続けることの方が抵抗があり、黙って着替えていく。スカーフや装飾のためのチェーンなど、日頃で着ることの無いものに少し胸が高鳴る。


着替え終え、もうあの人の所に戻らないといけないのか、と暗い感情を抱きながら部屋のドアを開ける。


shk「…着替えてきました、」


ベルマンさんは両手を合わせてパチンと鳴らし、


Na「いいですね!似合っていますよ。」


と俺を褒めた。

なんだ、怖くないじゃん、と胸を撫で下ろして体の力を抜く。


shk「あの…それで俺は何をすれば…、?もう部屋に戻ってもいいんですか…?」


顔色を伺いながらそういうと、さっきまで俺がいた厨房に入って、さらにその奥にある扉に向かって歩き出す。


Na「こちらです。中へどうぞ。」


扉を開け、ベルマンさん自身も入っていく。それに吸い込まれるように自分も部屋に入ると、目の前には調理するのに必要な器具や台。その後ろには野菜や肉と言った食材が並べられてあった。


リアルでは見たことのなかった営業の裏側に釘付けになっていると、ベルマンさんが口を開いた。


Na「これからシャークんさんにはこのホテルのシェフになっていただきます。」


shk「…え、?」


まさかの言葉に耳を疑った。シェフになる?俺が?なんで?と理解しきれない状況に質問が多々浮かぶ。


shk「えっ…、なんでですか、?俺、誰かに振る舞える程の料理作れないですし、そもそも今までそんな話されてないし…」


1度空いてしまえば塞がらなくなった口から案の定、多く質問が零れていく。


Na「ああ、失礼いたしました。正しく言えばバレぬよう、紫陽花を料理に仕込んで欲しいのです。」


紫陽花を料理に、なんて聞いたことも無い言葉にさらに状況が理解できなくなる。しかもそれくらいならわざわざ一般人である俺にじゃなくて自分でやればいい話だ。


shk「なんで紫陽花を…、?」


その中でも1番気になったことを問いかける。紫陽花なんて、食べるものじゃないだろうに。


Na「紫陽花には毒の効果があります。そして当ホテルに来る方は皆様、亡くなることを望んでいる方々なのです。」


予想の斜め上を行く答えに頭が真っ白になる。「毒」「亡くなる」なんて言葉が次々に出てきた上、自分はそんな物騒なホテルに居るのかと全身がぶるっと震える。


shk「それは…俺に人を殺せと言ってるんですか…、?」


ただの正社員として生活していた俺がシェフで人殺しに転職、なんて漫画でしか有り得ないことだろう。いや、もう内容が深刻過ぎて仕事なんて器には収まらないが。


Na「大丈夫ですよ。お客様は自分の意思で来ているので。貴方は捕まったりなどしません。」


確かに、それで捕まっていたら今更このホテルは経営されていないか、としてはいけないような内容を理解する。この部屋に来る際、廊下で何も音がしなかったのはみんなそういうこと…だったのだろうか。


Na「してくれますよね?シャークんさん。」


ずいっと顔を近づかれ目が見開く。したくない。本当はこんなお願いなんかに承諾したくない。でも今まで見てきたあの不穏な、どこか精神をえぐる顔を見るのも嫌で、こくっと小さく頷いてしまった。



あれ、俺が 探してたものってなんだっけ。




目を覚ますと、ここは厨房の中。周りを見渡し、立ち上がろうとすると手に何か持っていることに気づく。その物に血の気が引いた感覚がした。包丁だ。ぎらりと自分の震えている瞳が反射していて、赤い液体が付いているような。これ以上、このことを考えることをやめ、さっと大きめのポケットに包丁を入れる。こんなものが他の人に見つかってしまったら通報されるかもしれない。

出口を見つけるために周囲を見渡すと、1つの緑色の傘がぽつんと置いてあった。何か探し物があった気がするが、この傘ではないような気がして、傘を手に取る。

すると頭の中にある文章が響いた。



『部屋を脱出してGROUND FLOORへ向かえ』



外には強い雨が降っていた。

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