「レウ君。少し来てくれないか」
「はい、何でしょう?」
仕事中、突然の上司からの呼び出しに少し体がこわばる。
上司から呼ばれた時点で大体のことはは察している。
「レウ君。ここの資料のここが分かりにくいのと、この誤字と………あと君が面倒見ていた〇〇って奴が……。」
「すみません、後で資料の方は訂正し」
「すみませんじゃないんだよ。第一、あの新人君はとても優秀で将来有望だったのに!なぜ君にあの子を………あと資料はもういいから。新しい資料作成の仕事を……。」
「ふはっ、やつれた顔してやーんの」
「しょうがないでしょ、資料に一文字の誤字とあの新人君が結婚して引っ越すから辞めたってことに対して2時間も説教って…あいつ頭イカれてるんじゃねぇの?」
2時間に渡る上司の説教から解放され、自分のデスクに戻ると、同僚のきょーさんがコーヒーを渡してくれた。
「確かにあのオジサンの説教は長いよな」
「本当だよ…。でもきょーさんはオキニだからどんなけミスしても怒られなくていいよね」
「そうか?あんまりアイツに対して媚び売ったりしてないんやけどな」
「周りもみーんな言ってるよ。きょーさんだけには対応が違うよねって」
「ふーん。あんま嬉しないな」
「まあそうだよね。あんな上司…って 」
前方から鬼のような形相でこちらにやってくる上司。
間違いなくその目は俺を捉えている。
「叱られたあとなのに呑気におしゃべりって。ずいぶん度胸があるね、君」
「いや、これは俺が話しかけたからレウは…」
「今は君のことなんかどうでもいい。レウ君、もう一度来てもらえるか?」
もう、本当になんでだよ。なんで俺だけこんなに嫌われてるんだよ。
きょーさんが必死に何かを言って庇ってくれているけれど、上司は聞く耳を持たず、最終的には無理やり俺の腕を引っ張っていった。
もうなんで説教されたのか覚えていない。
毎日毎日理不尽に怒られて、それですみませんと謝る日々。
そんな生活にはもう慣れたが、意識をしていないだけでもう体は限界を迎えているのだろう。
「あ、レウおかえ…」
きょーさんの声。途中で途切れたけど何があったのだろう。
しばらくしたら他の社員も俺らの周りに集まっている。普段はそんなに心配もしてくれないのに。
誰かが慌てて誰かに電話をしているけど、これはまた上司から説教を受けるのだろうか?本当に怖くて仕方がない。
「レウ、聞こえるか、レ」
「意識は……目が開…気…か?」
必死に俺のことを揺さぶったりしているけど、普通に視界が揺らいで気持ち悪くなるからやめてほしい。
気持ち悪さに耐えていると、次に現れたのは救急隊員の人で、俺を担架に乗せてどこかへと運んでいく。
ドン、という音とともに、車の走行音が聞こえる。
あれ、これもしかしてやってしまった?と思った時にはもう手遅れで。
制作中の資料も、今日提出期限の仕事も、全て放ったまま俺は会社から逃げてしまったようだ。
明日言う言い訳を今のうちに考えておかないと、今度こそ俺の命はないだろう。
目が覚めると、真っ白な部屋にいた。
横には黄色髪の彼。
「レウ?」
「何、きょーさん」
「よかった、今回は起きとるな。お前目ぇ開けながら気絶してたっぽくてな…大変だったぞ?ほんまに」
「…ごめん」
「お前が謝る必要はない。…それほど限界やったってことや」
「そっか」
あ、そういえば、明日上司になんと言おうか。
途中で倒れて病院へ運ばれました、なんて言えば体調管理がなっていないと言われそうだし…。うーん。
「レウ?」
「…ん?あぁ、ごめん。考え事してた」
「そういえば…お前の仕事、昨日提出のやつが何件かあったから、何人かで終わらせておいたで。そこは安心しな」
ああ、あの提出物、全部やってくれたんだ。
結構な量残しちゃってたけどみんな大丈夫なのかな。自分らも仕事多いだろうに…申し訳ないことしちゃったな。
「本当?ならやってくれた人たちの分の仕事を…」
「やめろ。お前はしばらく仕事をするな」
「え?」
仕事をするなって何?仕事をしないと給料も貰えないし、何よりあの説教が待っていると思うと怖くて仕方がない。
「お前は無理し過ぎなんだよ。少しは休め」
「でも」
「お前の仕事は俺らで分担してやることにしたんよ。俺らいっつもそんな仕事もらってないし、こんくらい平気やから。」
「でも、そしたら俺が」
「しばらくは仕事のことから離れろ。いいな?」
「…わかった」
きょーさんの圧が怖くてつい承諾してしまった。
だけどやっぱり職場の人に迷惑をかけてしまうから、明日くらいに無理やり退院させてもらって、明後日には仕事に戻ろう。
「明後日には戻れるよう努力する」
「再来週くらいに戻っておいでな。明後日来ても帰れって言われるだけやで」
頭にぽん、と大きな手を置かれる。
温かい。安心するような手。何でも守ってくれそうな手。
でも、俺はそんなものに頼ってたら駄目になってしまう‥から
「いや、明後日戻るよ。やっぱり迷惑かけてるし」
「明後日来られたほうが迷惑なんよなぁ…」
「じゃあ明々後日」
「だめ。迷惑」
「俺ってそんなに迷惑?」
「違う。俺がお前と遊べる期間がなくなるから」
「は?」
「再来週まで、俺とゆっくり休もうな。退院したらまずカフェに行って甘いもんでも食べようか」
「…うん」
俺にそう語りかける彼はとても輝いていて、落ち着いていて。
『この人の隣にいたい』
なんて初めて思えた瞬間だった。
このアカウントで®️なしの、このような作品をあげられたらなと思っております!
®️をあげるとすれば本垢で没にしてしまった作品、とかですかね。
こちらの偏頭痛も何卒よろしくお願いします。(このアカウントでは♡指定はありません)
コメント
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社畜レウゥ…きょーさんと、他の同僚さんが優しくて良かったねぇ…!後普通にレウさんの性格が◎過ぎて泣きそうだよ…