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昼休み。 購買で買ったチョコパンを手に、りいなは校舎裏へ向かっていた。 そこは、海とよく話す“ふたりだけの場所”。 でも今日は、海より先に誰かが待っていた。
「ちょっと、話あるんだけど」
声をかけてきたのは、美羽。 女子グループの中心で、ずっとりいなに冷たい視線を向けていた子。
「海と付き合ってるって、ほんと?」
りいなは、パンの袋を握りながら、少しだけうなずいた。
「うん。海が、私を選んでくれたから」
その瞬間、美羽の顔が歪んだ。
「ふざけんなよ……! あんたみたいな天然バカが、なんで海に選ばれるの? 男子にばっか好かれて、女子には媚びないで、 それで全部手に入れてるつもり?」
りいなは、言葉が出なかった。 でも、目だけはそらさなかった。
「私、全部なんて手に入れてないよ。 怖かったけど、海を選んだだけ」
その言葉に、美羽が叫んだ。
「だったら、選ばれなかった私の痛み、分かるわけないじゃん!」
そして—— 美羽の手が、りいなの頬を打った。
衝撃で、パンの袋が落ちた。 りいなは、何も言えずに、ただ涙がこぼれた。
その時だった。
「……何してんだよ」
声が、空気を裂いた。
海は、りいなが遅いことに気づいて、校舎裏へ向かっていた。 遠くから、女子の怒鳴り声と、りいなの泣き声が聞こえた。
走った。 心臓が、怒りで爆発しそうだった。
校舎裏に着いた瞬間、りいなが頬を押さえて泣いていた。 美羽が、拳を握って立っていた。
「……何してんだよ」
その言葉は、震えていた。 怒りで、拳が勝手に握られていた。
「りいなに、何してんだよ……!」
海は、美羽に向かって一歩踏み出した。 殴る。そう思った。 でも——
りいなが、泣きながら首を振った。
「……海、ダメ。 殴らないで……」
その言葉で、海は拳を止めた。 りいなが、痛みの中でも“選んだ強さ”を見せていた。
だから、海は拳を開いて、 美羽の頬に、平手打ちを一発だけ。
「……これで終わりにする。 俺は、りいなを守るために怒った。 でも、誰かを傷つけるために怒りたくない」
美羽は、何も言えずにその場に立ち尽くした。
海は、りいなのそばにしゃがんで、 そっと涙をぬぐった。
「ごめん、遅くなった」
りいなは、震える声で言った。
「……怖かった。 でも、海が来てくれて、 ほんとに、よかった」
海は、りいなの手を握った。
「俺、殴り返すこともできた。 でも、それじゃ何も変わらないって思った。 りいなが“選んだ”強さを、俺も選びたかった」
りいなは、海の手をぎゅっと握り返した。
「ありがとう。 海が、そうやって選んでくれるから、 私も、ちゃんと選び続けられる」
放課後。 りいなと海は、校舎裏のベンチに座っていた。 夕焼けが、ふたりの影を長く伸ばしていた。
「ねえ、海。 私、殴られたことより、 美羽の言葉の方が痛かったかも」
「……分かる。 言葉って、拳より深く刺さることあるよな」
「でも、私、選んだこと後悔してない。 海を選んだこと、ちゃんと誇りに思ってる」
海は、りいなの頭をそっと撫でた。
「俺も、りいなに選ばれたこと、誇りに思ってる。 だから、これからも隣にいる。 痛みがあっても、揺れても、 ちゃんと向き合っていく」
りいなは、海の肩にもたれながら、 小さく笑った。
「……ねえ、海。 次は、もっと楽しい話しようよ。 パンの話とか、くだらないことで笑いたい」
「いいよ。 でも、俺はチョコパンより、りいなの笑顔の方が好き」
「……バカ」
ふたりの笑い声が、夕焼けに溶けていった。
校舎裏の一件から数日。 りいなは、いつも通り明るく振る舞っていた。 でも、教室の空気は、少しずつ変わっていた。
「りいな先輩って、男子にばっか好かれてるよね」 「海先輩、なんであんな天然な子選んだんだろ」 「憧れてたのに、なんかガッカリ……」
そんな声が、廊下や階段で聞こえるようになった。 りいなは、聞こえないふりをしていたけど、 心の奥では、少しずつ痛みが積もっていた。
昼休み。 りいなが屋上へ向かおうとしたとき、 1年生の女子・すずかが声をかけてきた。
「りいな先輩、ちょっといいですか?」
すずかは、可愛らしい見た目とは裏腹に、 目だけは鋭く、感情を隠さないタイプだった。
「私、海先輩に憧れてたんです。 ずっと、遠くから見てて。 りいな先輩が海先輩と付き合ってるって聞いて、 正直、すごくショックでした」
りいなは、静かにうなずいた。
「……ごめんね。 でも、私も海のこと、すごく大事に思ってるから」
すずかの目が、少しだけ揺れた。
「でも、りいな先輩って、男子にばっか好かれてて、 女子からは嫌われてるって噂もあるじゃないですか。 それって、ちょっとズルくないですか?」
りいなは、言葉に詰まった。 でも、逃げなかった。
「私、ズルいって思われても仕方ないかもしれない。 でも、海を選んだのは、 誰かに勝ちたかったからじゃない。 ただ、海の隣にいたかったから」
すずかは、声を荒げた。
「でも、私みたいに憧れてた人の気持ちはどうなるんですか? 先輩が“選ばれた”ことで、 私の憧れは、ただの片思いになったんですよ!」
その言葉に、りいなの胸が痛んだ。
「……すずかちゃんの気持ち、分かるよ。 でもね、選ばれるってことは、 誰かを傷つけることじゃなくて、 誰かを信じることなんだよ」
すずかは、何も言えずにその場に立ち尽くした。
次の日から、すずかの“攻撃”が始まった。
・りいなの机に、無記名のメモが置かれていた。 「男子に媚びるのやめたら?」 ・SNSの裏垢で、りいなの写真が晒されていた。 「天然ぶってるけど、計算高い」 ・すずかの友達が、わざと海の前でりいなを無視した。
りいなは、何も言わなかった。 でも、心の中では、少しずつ揺れていた。
「私、選ばれたことで、誰かを傷つけてる……?」
放課後。 りいなは、校舎裏で海に会った。
「ねえ、海。 私、選ばれたことが、こんなに痛いことだなんて、知らなかった」
海は、りいなの手を握った。
「でも、選んだことは間違ってない。 俺は、りいなを選んでよかったって、 今でも思ってる」
りいなは、涙をこらえながら笑った。
「ありがとう。 私も、海を選んでよかったって思ってる。 痛みがあっても、ちゃんと向き合っていくから」
海は、少しだけ黙ってから言った。
「すずかのこと、俺も知ってる。 憧れてくれてたのは、嬉しかった。 でも、俺が選んだのは、りいなだから。 それは、誰が何を言っても変わらない」
りいなは、海の言葉に救われた気がした。
数日後。 すずかが、再びりいなに声をかけてきた。
「……先輩、強いですね。 私だったら、あんな噂に耐えられない」
りいなは、静かに答えた。
「強くなんかないよ。 ただ、海の隣にいたいって思ったから、 逃げないって決めただけ」
すずかは、少しだけ笑った。
「……悔しいけど、 そういうところが、憧れだったんだと思います」
りいなは、すずかの目を見て言った。
「ありがとう。 でも、憧れって、誰かになることじゃなくて、 自分の“好き”を信じることだと思うよ」
すずかは、何も言わずにうなずいた。
その日の帰り道。 りいなは、海と並んで歩いていた。
「ねえ、海。 私、選ばれたことに責任を持ちたい。 誰かを傷つけたくないけど、 それでも、海の隣にいるって決めたから」
海は、りいなの手を握りながら言った。
「俺も、選ばれたことに応えたい。 りいなの隣にいるってことは、 その痛みも、全部受け止めるってことだから」
ふたりの影が、夕焼けに溶けていった。
どうだった? すずかとの衝突、噂の渦、りいなの揺れ、海の支え。 “選ばれる”ことの痛みと、“選び続ける”ことの強さを、 しっかり描けたと思う。
次はどうしようか? すずかがりいなに謝る日? それとも、りいなが“選ばれた自分”を肯定する独白の夜?
どこまでも描けるよ。りいなの“今”と“これから”。
昼休みの中庭。 りいなは、パンをかじりながら空を見ていた。 そのとき、制服の袖を引かれる。
「りいな先輩、ちょっといいですか」
振り返ると、そこには1年生の蓮。 爽やかな笑顔、整った顔立ち、そして何より—— 周囲の女子がざわつくほどの“モテ男子”。
「蓮くん……どうしたの?」
蓮は、少しだけ息を整えてから言った。
「俺、先輩のこと、ずっと好きでした。 海先輩と付き合ってるのは知ってます。 でも、それでも言いたくて—— 好きです。付き合ってください」
りいなは、パンを落としそうになった。 周囲の空気が一瞬止まる。
「え……私、海と……」
「分かってます。 でも、俺は“好き”って気持ちを止められないんです。 先輩が笑ってるとこ、走ってるとこ、男子と話してるとこ—— 全部、目で追ってました」
その言葉は、まっすぐで、痛いほどに純粋だった。
蓮の告白は、校内に瞬く間に広まった。
「え、蓮が告白したってマジ?」 「りいな先輩、男子人気トップなのに、海先輩いるじゃん」 「すずか、絶対複雑でしょ……」
蓮は、告白だけで終わらなかった。 彼は、毎日りいなにアピールを続けた。
朝、昇降口で「おはようございます!」と爽やかに挨拶
体育の授業で「先輩、走り方めっちゃ可愛いっすね!」と声をかける
りいなが落としたペンを、誰より早く拾って「これ、先輩のですよね?」
そのたびに、りいなの心は少しずつ揺れた。 海と付き合っているのに、蓮の真っ直ぐさが眩しくて。
すずかは、蓮の友達だった。 蓮がりいなに告白したことを知って、何も言わなかった。 でも、りいなとすれ違うたびに、目が冷たくなる。
ある日、すずかは蓮に言った。
「……あんた、ほんとに告白したの?」
「うん。 でも、先輩は海先輩を選んでる。 それは、ちゃんと分かってる」
すずかは、何も言わずに歩き去った。 でも、その背中は、少しだけ揺れていた。
放課後。 りいなは、校舎裏で海に会った。
「ねえ、海。 私、蓮くんに告白された。 しかも、めっちゃアピールされてる」
海は、少しだけ黙ってから言った。
「……知ってる。 でも、俺は何も言わない。 りいなが、どうするか見てるから」
りいなは、海の目を見て言った。
「私、揺れたよ。 蓮くん、すごく真っ直ぐで、 “好き”って気持ちを隠さないの、すごいなって思った」
「でも、私は—— 海を選んだ。 だから、揺れても、戻る場所は決まってる」
海は、りいなの手を握った。
「それだけで、十分だよ。 揺れるのは、悪いことじゃない。 でも、戻ってきてくれるなら、 俺は、何も怖くない」
りいなは、涙をこらえながら笑った。
「ありがとう。 私、男子人気トップって言われても、 海の隣にいるって決めたから。 それだけは、変えない」
次の日。 蓮は、りいなに声をかけた。
「先輩、昨日のこと……ごめんなさい。 俺、先輩が海先輩を選んでるの、分かってる。 でも、好きって気持ちは、嘘じゃなかった」
りいなは、少しだけ微笑んだ。
「ありがとう。 蓮くんの気持ち、ちゃんと届いたよ。 でも、私は海を選んだ。 それは、揺れても、変わらない」
蓮は、少しだけ目を伏せてから言った。
「……先輩がそう言ってくれて、嬉しいです。 俺、先輩みたいに、誰かに“選ばれる”人になりたい。 でも、ちゃんと“選び続ける”人にもなりたい」
その言葉に、りいなは胸が熱くなった。
夕暮れの帰り道。 りいなは、海と並んで歩いていた。
「ねえ、海。 私、選ばれるってことが、 こんなに揺れることだなんて、知らなかった」
海は、りいなの手を握りながら言った。
「でも、選び続けるってことは、 揺れても、戻るってことだよ。 それが、いちばん強いことだと思う」
りいなは、海の肩にもたれながら、 小さく笑った。
「……じゃあ、私、もっと強くなるね。 海の隣にいるって、ちゃんと誇れるように」
ふたりの影が、夕焼けに溶けていった。
昼休み。中庭のベンチで、りいなは友達と笑いながら話していた。そこへ、風のように現れる蓮。
「りいな先輩、これ昨日のプリントですよね? 落としたって聞いたから、職員室でコピーしてきました!」
「え、ありがとう……でも、そこまでしなくても……」
「いえ! 先輩のためなら、なんでもします!」
蓮の声は、周囲にも届いていた。「また蓮くん、りいな先輩にアピってる」「海先輩、どうするんだろ……」
その瞬間、後ろから海が現れる。無言でりいなの頭をポンポン。そして、自然に手をつなぐ。
「りいな、購買行こ。メロンパン、今日あるって」
「うん、行こっか」
蓮は、その背中を見つめていた。拳が、少しだけ震えていた。
放課後。蓮は、校舎裏で海を呼び止める。
「海先輩。 俺、りいな先輩のこと、本気で好きです。 だから、勝負させてください。 サッカーで。 勝った方が、りいな先輩の隣に立つ資格があるってことで」
海は、少しだけ笑って言った。
「蓮。 俺は、もう隣に立ってる。 でも、勝負なら受けるよ。 りいなが見てる前で、俺の“好き”を見せる」
蓮は、目を逸らさずに言った。
「俺は、先輩の隣に立ちたい。 それだけです」
夜。りいなは、スマホを見ながらため息をついていた。蓮からのメッセージが届いていた。
「明日、海先輩とサッカー勝負します。 先輩の隣に立ちたいから。 見ててください」
りいなは、スマホを閉じて、窓の外を見た。月が静かに浮かんでいた。
「……私、選ばれてるのに、揺れてる」
海の手の温もり。蓮の真っ直ぐな目。どちらも、嘘じゃない。
「でも、私は——」
昼休み。グラウンドには、海と蓮。周囲には、ざわつく生徒たち。
「え、海先輩と蓮くんが1対1?」「りいな先輩のためってマジ?」「青春すぎる……」
りいなは、少し離れたベンチで見ていた。心臓が、ドクドク鳴っていた。
海は、りいなの手を握って言う。
「見てて。 俺が、どれだけりいなのこと好きか、走って証明する」
蓮は、真っ直ぐな目で言う。
「俺も、先輩のために走ります。 負けません」
試合開始。海のプレーは、冷静で力強い。蓮は、スピードと情熱で攻める。
1点目は、海。フェイントで抜いて、ゴール。
2点目は、蓮。全力疾走でシュート。
最後の1点。海がゴール前で止まり、りいなを見て言う。
「俺は、りいなを選んだ。 そして、選ばれたことに甘えない。 だから、最後のシュートは—— “好き”の証明」
シュート。ゴールネットが揺れる。
試合後。蓮は、息を切らしながら言う。
「負けました。 でも、俺の“好き”は、本物です」
海は、蓮の肩を叩く。
「分かってる。 でも、りいなの隣は——俺が守る」
りいなは、海の手をぎゅっと握る。
「海が隣にいてくれるから、私は揺れても大丈夫。 “選ばれた”ことに、ちゃんと向き合ってくれるから」
海は、りいなの頭をポンポンして、笑った。
「俺は、堂々と好きって言う。 だから、堂々と隣にいる」
蓮は、少しだけ笑って言った。
「先輩、幸せになってください。 俺も、いつか誰かに“選ばれる”ように頑張ります」
りいなは、涙をこらえながら笑った。
「ありがとう。 私も、選び続ける。 揺れても、迷っても、海の隣にいるって決めたから」
放課後。 教室の窓から夕焼けを見ていたりいなは、 明日が“転校の日”だという実感が、まだ胸に落ちてこない。
「明日、制服着てこの教室に来ることもないんだ……」
友達が「寂しくなるね」と言ってくれる。 でも、りいなの心は、海のことでいっぱいだった。
その時、スマホが震える。 海からのメッセージ。
「今日の夜、空いてる? 制服で来て。 場所は、俺に任せて」
りいなは、胸が高鳴る。 制服で? 夜に? 海の“サプライズ予告”はいつも突然で、でも絶対に外さない。
「……行くしかないじゃん」
夜7時。 りいなが着いたのは、学校の裏にある小さな丘。 そこには、制服姿の海が立っていた。 手には紙袋、足元には小さなキャンドルが並んでいる。
「来たね。 今日のデートは、制服限定。 “最後の放課後”ってことで」
りいなは、笑って言った。
「海って、ほんとにドラマみたいなことするよね」
「だって、りいなとの時間は全部ドラマだから」
海は、紙袋からキャンドルを取り出す。 一つずつ火を灯していく。
「これ、全部手作り。 “君の隣にいた時間”ってタイトルのキャンドル。 一個ずつ、思い出が詰まってる」
りいなは、目を潤ませながら言った。
「……そんなの、泣いちゃうじゃん」
海は、キャンドルを指差しながら語る。
「これは、初めて手つないだ日。 これは、購買でメロンパン争奪戦した日。 これは、りいなが風邪ひいて俺がプリント届けた日。 これは……俺が、りいなのこと好きだって気づいた日」
りいなは、ひとつひとつの灯りを見つめながら、 その時の空気や匂い、海の表情を思い出していた。
「ねえ、海。 私、転校するのが怖い。 新しい学校とか、友達とかじゃなくて—— 海の隣じゃなくなるのが、怖い」
海は、りいなの手を握って言った。
「俺は、隣にいるって決めた。 だから、離れても隣にいる。 それが、俺の“好き”の形」
キャンドルの灯りの中、二人は並んで座る。 制服の袖が、少しだけ触れ合っていた。
海は、りいなの髪をそっと撫でる。
「制服って、なんか特別だよな。 りいなが制服着てるだけで、俺の青春って感じする」
「じゃあ、明日からは青春じゃなくなる?」
「違う。 制服じゃなくても、りいなが隣にいれば青春。 俺の青春は、りいなだから」
りいなは、涙をこらえながら笑った。
「海って、ほんとにずるい。 そんなこと言われたら、転校したくなくなるじゃん」
「じゃあ、転校しても好きでいて。 俺は、ずっと好きだから」
海は、りいなの頭をポンポン。 そして、そっと額にキスを落とす。
「これ、転校前の“お守りキス”。 離れても、俺が隣にいるって証明」
りいなは、海の胸に顔を埋めて言った。
「私、選び続ける。 どこにいても、海の彼女でいるって決めたから」
帰り道。 二人は制服のまま、手をつないで歩く。 街灯が、二人の影を並べて伸ばしていた。
「ねえ、海。 今日のこと、忘れないでね」
「忘れるわけない。 むしろ、毎日思い出す。 “最後の制服デート”って、俺の宝物だから」
りいなは、立ち止まって言った。
「じゃあ、私も。 “最後の制服で隣にいた海”を、ずっと思い出す」
海は、りいなの手をぎゅっと握って言った。
「次会うときは、制服じゃなくてもいい。 でも、隣にいるってことだけは、変えない」
家の前。 りいなが玄関に向かう前、海は言った。
「りいな。 好きって言って」
りいなは、少し照れながらも、真っ直ぐに言った。
「好き。 海のこと、ずっと好き。 転校しても、好きでいる。 だから——」
海は、りいなの言葉を受け止めて、笑った。
「俺も、ずっと好き。 離れても、隣にいる。 それが、俺の“堂々彼氏力”だから」
りいなは、涙をこらえながら笑った。
「じゃあ、私も“堂々彼女”になる。 どこにいても、海の隣にいるって決めたから」
そして、二人は最後のハグを交わす。 制服のまま、夜風の中で。
新幹線のホーム。 りいなは、制服のまま乗り込んだ。 最後の制服。 最後の街。 最後の“海の隣”。
席に座って、窓の外を見る。 発車のベルが鳴る。 ドアが閉まる。 景色が、ゆっくりと動き出す。
「……ほんとに、行っちゃうんだ」
制服の袖を握る。 昨日、海と並んで歩いた時に触れていた袖。
「昨日まで、隣にいたのに」
りいなは、スマホを取り出す。 海とのメッセージが並ぶ画面。 その中に、昨夜の写真が一枚。
キャンドルが並ぶ丘。 制服姿の海。 そして、自分の笑顔。
「……楽しかったな」
海が言った言葉が、耳に残っている。
「俺は、隣にいるって決めた。 だから、離れても隣にいる」
りいなは、スマホを胸に当てて、目を閉じる。
キャンドルの灯り。 海の手の温もり。 額に落ちたキス。
全部が、昨日の夜の“宝物”。
新幹線は、街を抜けて、田園風景の中を走る。 窓の外が、どんどん知らない景色に変わっていく。
「海のいない街って、どんな感じなんだろ」
不安が、少しだけ胸を締めつける。 でも、制服の袖を握る手に、力が入る。
「でも、私は選んだ。 海の隣にいるって、決めた」
スマホの画面に、海からのメッセージが届く。
「今どこ? もう寂しい。 でも、俺は隣にいるから」
りいなは、笑って返信する。
「まだ出発したばっか。 でも、もう海に会いたい。 隣にいてくれてありがとう」
新幹線の窓に、昨日の空が映る。 夕焼けじゃない。 でも、昨日と同じような雲が流れていた。
「昨日の空、海と見たな……」
りいなは、制服のポケットから小さな紙を取り出す。 海がくれた、手書きのメッセージ。
「りいなへ。 俺の青春は、君です。 離れても、ずっと隣にいる。 だから、笑ってて。 俺の彼女は、世界一かわいいから」
りいなは、涙をこらえながら笑った。
「ほんとにずるい。 でも、そんな海が好き」
新幹線は、目的地に近づいていく。 りいなは、制服のまま、少しだけ背筋を伸ばす。
「新しい学校でも、私は私でいる。 海の彼女として、堂々と」
スマホに、海からの最後のメッセージが届く。
「次会うときは、制服じゃなくてもいい。 でも、隣にいるってことだけは、変えない」
りいなは、返信する。
「私も。 制服じゃなくても、海の隣にいる。 それが、私の“好き”のかたち」
そして、窓の外に広がる新しい街を見つめながら、 りいなは、静かに呟いた。
「楽しかったな。 でも、これからも楽しくなる。 だって、海が隣にいるって決めたから」
朝。 新しい学校の昇降口。 りいなは、制服のまま立っていた。 昨日と同じ制服。 でも、空気が違う。 匂いも、ざわめきも、全部が“知らないもの”。
「……緊張する」
靴を履き替えながら、ポケットの中の紙を握る。 海がくれた手書きのメッセージ。
「りいなへ。 俺の青春は、君です。 離れても、ずっと隣にいる。 だから、笑ってて」
その言葉だけで、少しだけ背筋が伸びた。
担任の先生が案内してくれる。 「じゃあ、ここが新しい教室ね。緊張しなくて大丈夫よ」
教室の扉の前。 中からは、知らない声、知らない笑い声。 でも、りいなは制服の袖を握って、深呼吸した。
「私は、海の彼女。 堂々と、私でいるって決めたから」
先生が扉を開ける。 教室が、静かになる。
先生が言う。
「今日からこのクラスに転入する生徒を紹介します。 じゃあ、自己紹介をどうぞ」
りいなは、前に出る。 教室の視線が集まる。 でも、海の言葉が胸にある。
「……はじめまして。 葵りいなです。 前の学校では、吹奏楽部に入ってました。 ちょっと天然って言われることもあるけど、 仲良くしてもらえたら嬉しいです」
少しだけ笑って、頭を下げる。
教室がざわつく。
「かわいい……」 「天然って言ってるけど、しっかりしてそう」 「吹奏楽部ってことは、表現力あるタイプ?」
りいなは、席に向かいながら思う。
「私は、ここでも私でいる。 海の隣じゃなくても、私の“好き”を続ける」
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