コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ダンジョンに入ることを前提に得物を何にするのか悩んでいた茂 (しげる) さんだが、
「じゃあ、矛なんてのもあるのかい?」
「えっ、『矛』ですか? どのような矛ですか。見本とかあれば何とかできるかもしれませんから」
矛と言われると素潜りなどで使う3叉のヤツ? いや、あれは銛になるのかな……。
「ゲンさんは青龍偃月刀を知っているかい? できればあんなヤツがいいかな~、なんてね」
――青龍偃月刀――
あぁ――っ! 矛ってそっちかぁ。
あれだろ、長刀 (なぎなた) を大きくしたような……。これまた豪快なものを言いだしたよなぁ。
でも、矛って基本的に馬上で使うものじゃないの?
草原や砂漠フィールドならいけそうだが、洞窟フィールドや遺跡通路のフィールドでは取り回しに苦労しそうだぞ。
でも……、それもイイのかな!
男ならロマンだよね。
「いわゆる偃月刀ですよね。関羽が使っていたやつが欲しいわけではないんですよね?」
「勿論だよ。三国志の関羽はまったく関係ないよ。僕はあの形が好きなんだよ」
「そうですか……。じゃあ、今からネットで見てみることにしましょう。そしてイメージに近いものをあちらの鍛冶職人に作ってもらうという手もありますので」
「作ってもらうって、オーダーメイドだろ。すごく高いんじゃないの? 大丈夫なのかい?」
「そのくらい全然平気です。言いましたよね、家は上級貴族の伯爵ですから」
それからは男二人、あーだこーだと言いながら写真をネットからダウンロードしたり、実際のシルエットをイラストに起こしてみたりした。
軽量化を図るために持ち手 (シャフト) にはチタンを使おうとか、刃渡りはこのぐらいが良いとか……。
えっ、ああ、もちろん向う (サーメクス) にはチタン合金なんてないよ。
それこそ鍛冶屋になんて頼んでたら、半年かけたって出来やしないだろう。
現物がない状態だと何年かかることやら……。
俺が向こう (サーメクス) に居るなら、こういう事に慣れているデレクにお願いしているところなんだけど、今は日本に居るからね。
せっかくだから、今回はカンゾーに頑張ってもらいましょうかね。
紗月 (さつき) が学校から帰ってきたので、今日のところはお開きとなってしまったけど、お互いに色々なことを言い合って楽しい時間を過ごすことができた。
茂さんはこういった刃物や武具に興味があるみたいだね。
この前、『お近づきの印』として渡した苦無は、ときどきテーブルにあげてはじっくり観察していたりするのだ。
昔ながらの武具が本当に好きなんだね。
そのうち、また二人で武器談義をしてみたいものだ。
「今日は何が食べたいですか?」
紗月から聞かれたので、 ”おでん” が食べたいといってみた。
すると紗月はうぅ~んと唸りながら、
「いろいろ仕込みもありますから おでんは明日ですね。この時期は筋肉の串なんかお店には出てないし、ゆでたまごも用意しないといけないから……」
あらら、真に受けちゃったよ。ほんと言ってみただけだって……。(汗)
冬場であればコンビニでも売ってるんだけどね。あぁ、肉まんもおいしいよね。
結局のところ、今日のおかずは ”ご飯がすすむ麻婆茄子” となった。
長なすをレトルトソースで炒めるだけのやつだな。
残った時間は明日のおでんの仕込みにあてられるようだ。
やばってん、これがなかなかうまかっちゃん!(博多弁)
ついついご飯のおかわりをしてしまいましたぁ。
シロにはご飯の上にかけた麻婆茄子丼になっている。
しゃくしゃくと相変わらず旨そうに食べるよなぁ。
最後はお口のまわりをぺろんとひと舐め、とても満足そうである。
………………
お風呂をいただいたあと居間へ戻ってくると、夕食の後片付けをすませた紗月がお茶を飲んでいた。
「紗月おつかれ、もうすぐ期末テストなんだって? こんな時期に変なもの頼んでしまって申し訳ない」
「ん~ん、いいですよ。手間のかかるものならともかく、おでんはダシさえあれば簡単ですから」
「そういう事ではないような気もしないでもないのだが……」
「夏場でも石焼ビビンバ食べたりするじゃないですか~。それと一緒ですよぉ」
「まったくごもっともで……」
「話は変わるけど、紗月は得物は何がいいの?」
ダンジョンを発見したことは夕食時に既に話してある。
う~~~ん、しばらく考えたのち、
「この前見せてもらった中に細めの槍があったじゃないですか。私はあれがいいかな」
おおっ、ガンツの短槍パワーアップバージョンか。
うんうん、あれはメアリーも使っている本格派の短槍だからな。
ガンツが試作していた槍がベースなのだが、
それをメアリーの成長に合わせて2回作り直しているものなのだ。
「じゃあコレな。あと何か欲しいものとかある?」
「グローブとかあった方がいいとおもう。手になじむやつで」
「なるほど、手の保護は大事だからね。わかった、用意しておくよ」
「あっ、そうだ、異世界ならマジックバッグとかないんですか?」
「うん、あるよ。コレだな」
インベントリーから短槍に続いてマジックバッグを取りだした。
「試しに、この槍を入れてみてもいいですか?」
「うん、いいけどちょっと待て! 剣や槍を入れる際は必ず刃の方から入れるんだ。そうしないと出すときに手をザックリやられるから」
すると紗月は槍を穂先から恐る恐るマジックバッグの中に入れていた。
「すごーい! 物を入れても重くならないよー。なにこれ~」
「そのマジックバッグはあげるよ。短槍でも持ってまわると捕まるだろう。それとマジックバッグを持ってることは誰にも内緒だぞ」
「えっ、ええー、もらっていいの! マジでヤバーい、どうしよ~!」
マジックバッグを両手に持ち、足をふみふみしながら喜んでいる紗月。――可愛い。
「えっ、ちょっとゲンさん。それってめちゃくちゃ高価なやつだよね?」
「そうですね、高価といえば高価ですかね。これは内部が2×2×2空間のやつだから魔道具屋で買えば20万バースほどはしますかね」
(20万バースは日本円で200万円ほどです。ざっくりですが)
「んん? 20万バースといわれてもどのくらいの価値なのか分らないけれど、すごく高価なモノなんだよねぇ。本当に貰ってしまってもいいのかい?」
「はい、遠慮なくどうぞ。これでも俺、向う (クルーガー王国) ではお金持ちですから」
ただ、気をつけて欲しいのは、この世界にはまだ存在しないモノなんだよね。
世界のオークションなんかに出品すれば軽く億は超えるんじゃないかな。言わないけどね。
そして晩のこと。
魔力操作の訓練を終えた俺は、カンゾー (ダンジョン) と念話でやり取りをおこなっていた。
そう、偃月刀を試作させていたのだ。
どのように作ろうかと考えていたら、楽しくなってしまって我慢できなくなったのだ。
カンゾーに尋ねてみると、[お安いご用でござる!]とのことだったので任せてみたのだ。
5回程の試作をへて、なかなかのモノができあがったと思う。
やはりネットの画像やイラストなんかがあるとイメージが楽で指示もしやすいなぁ。
刃物なんかの画像をたくさんダウンロードして向こうに持って帰ることにしよう。もちろん実物もね。
結局のところ、偃月刀は2種類作ってしまった。
一本は全長1.8m。
矛は刃渡りは35㎝のミスリル合金製。
持ち手はチタンを使ってしあげている。総重量は7㎏。
もう一本は全長2.2m。
矛は刃渡りは42㎝のミスリルマジック合金製。
持ち手も中空のマジック合金で仕上げてみた。重量はかなり増えて11㎏と結構なものになってしまった。
感覚的にいうと、一般的なバーベルの何も付いていないシャフト。あれが10㎏だったな。
ちなみにだが、三国志に登場する関羽が使っていたとされる青龍偃月刀は18㎏もあったそうな。
いかにも豪壮な武具だといえるのだが、
実際に関羽が使っていたかというと……、
――おそらくない。
偃月刀が出てきたのが11世紀以降。
その700年前にあたる、『三国志』の時代で使われていたというのは、いささか無理のある話なのだ。
青龍偃月刀の凄まじき豪壮さに、
『これは関羽が使ったとしても過言ではない!』
そういう事だったのではないだろうか。
しかし、どうしたものか……。
昨日の話で茂さんには『向こう の鍛冶職人に頼んでみるから』と言ってしまったのだ。
まあ、茂さんがダンジョンへ潜るのはもう少し先のことだろうから、しばらくは内緒にしておこうか。
そして翌朝。
今日は朝から慶子 (けいこ) が来ている。
何てことはない、俺が昨夜のうちにメールしておいたのだ。
何をするのって?
ダンジョンだよ。パワーレベリングするんだよ!
まあ、いくら見た目が若いからって慶子は70歳だから、身体が心配になっちゃうよね。
そこで無理のない程度にレベル上げをして、健康な老後を送ってもらおうかと考えたわけさ。
そんなわけで、今日はシロと慶子を連れてダンジョン・カンゾーへ突入だー!
――行っくよ~♪