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梅雨が明けそろそろ暑くなってくるだろうとういうある日。
事件が起きていた。
いつものように朝の8時頃、兄のバルトットはお弁当を忘れるほど焦って家を出、妹のサーラが母のシャットから兄の分のお弁当も受け取り、その姿を父のブルテッドがコーヒーを啜りながら眺める。
子供たちが出発した後、シャットとブルテッドが仕事へ出かけた。
普通の日常だ。
そう、ここまではね。
それはサーラがお昼休みをしていた時だった。
教室の窓際に席があるサーラはお弁当を食べ終え、梅雨明けを感じるような暖かい日差しにうたた寝をしていた。
それを邪魔するかのように廊下からドタドタと足音が聞こえてくる。
「(どうせ隣のクラスの男子が騒いでいるのだろう)」
そう思いながら眠りにつこうとしていたが、足音はサーラのクラスの前で止まり、次に聞こえてきたのはバルトットの焦った声とガラガラっと教室の扉の重なった音だった。
バルトットの放った言葉はうたた寝しているサーラを1発で起こすのには十分であった。
「母さんが高いところから落ちた!意識はしっかりしてるから救急隊なんて呼ぶ必要ないって父さんと言い合ってる!」
そう。シャットは料理教室の近くにある大きな階段から転げ落ちたのだ。
その階段は村でも有名な大きな階段。
学校にある階段の2倍以上の大きさであった。
サーラとバルトットは駆けつけたい一心だったが、ブルテッドの電話で、くる必要はない。安心しなさい。と言われていたのだ。
午後の授業は後3コマ分ある。
だが、サーラもバルトットも母親が心配で残りの3時間分が集中ならなかった。
「ママ!!!」
急ぎ足で帰ってきたサーラとバルトット。
サーラは家に帰っている時にモヤモヤとした気持ちで走っていた。
ママが頭から血を流してないだろうか
身体が変な方向に曲がっていないだろうか
家のドアを開けるまでサーラは最悪なことを想像していた。
だが、家に帰るとシャットは頭に包帯を巻いて台所に立っていたのだ。
「おかえり!」
いや、おかえりじゃない。
なぜそんなに呑気なんだろうか。
そう思ったバルトットはブルテッドに問い詰めた。
「怪我をして帰ってきた母さんを台所に立たせるなんて!!父さんおかしいよ!!」
確かにその通りだ。
だが、その怒りを止めたのはシャットだった。
「いいのよ。大丈夫。さ、ご飯食べましょう?」
シャットの「大丈夫」。
家族はそれを信じたのだ。
そしてまた直ぐ。
恐れていたことが起きた。
シャットが自転車にはねられたのだ。
これを機にシャットは家で寝込むようになり、家事はサーラが全てすることになった。
そんな日が続くようになったある日、バルテッドが不安に思い大丈夫と言い張るシャットを無理やり連れて村外れにある大きな病院に行くことになった。
夏休みになったバルトットは学校で勉強合宿があったため、サーラだけが家で留守番をしていた。
お昼頃出掛けて、夕方には帰ってくると言っていたはずだったが、時刻はもう22時になっていた。
サーラは不安になり、シャットに連絡をした。
だが帰ってくる返事は、「大丈夫」「先にご飯食べてて」「今検査待ちなの」「今から検査だからもう直ぐ帰れるよ」とサーラを安心させる言葉ばかりだった。
「(今日はいつもより美味しくしたんだ。この間買ってきたお惣菜と一緒に食べてよう、、)」
シャットに食べてもらおうと思っていたサーラ。
シャットからの「大丈夫」という返事を信じて心配せずにご飯を食べていた。
そレでも心配だったサーラ。ブルテッドに電話をした。
「パパ。ご飯先に食べちゃった。」
「え?ママが大変だって時になんでそんなに落ち着けるんだ!!」
一度も父親に怒られたことのなかったサーラ。
その時、ご飯を食べてはいけなかったということよりも、母親が只事ではないということを感じ取ってしまったのだ。
「ごめんなさい」
その後、シャットから検査が終わり診察が終わったら帰ると知らせを受けウキウキしていたサーラ。
シャットのためにご飯を用意しよう!そう決めていたのに、帰ってきた母親を見てサーラはショックを受けた。
「びょういんに、、行ったんじゃないの?」
シャットの容体は朝、家を出かける時よりも悪化していたのだ。
サーラは病院に行けば少しは元気になって帰ってくるって思っていたのだ、まさか容体が悪化してるなんて思いもしなかったのだ。
「ごめんね?サーラ。ご飯食べられないや。用意してくれたのにごめんね?」
「だ、大丈夫だよ!」
そう。シャットはご飯も食べられない、そして、一人で歩くこともできなくなっていたのだ。
寝室に行くことすら出来なくなってしまったシャットのためにリビングの直ぐ目のつくところにシャットは寝ることになり、不安だったブルテッドもシャットの元にしばらくいることになった。
サーラは寝室に行き、お人形を抱きしめながらなぜか悲しい歌を歌い始めた。
空はなぜ曇るの いつ晴れる?
いつかはバイバイ それが今なの?
幸せってなに さよならってなに
そう歌っていた時、寝室にある内線がなった。
サーラは出たくなかった。
嫌な予感がしたから。でも、そういう訳にいかなかった。
「サーラ!!!!サーラ!!!!」
リビングから聞こえるブルテッドの声。
只事じゃない。
急いでリビングに行ってみると嫌な予感は的中した。
シャットは顔を青白くさせ布団の上で痙攣していたからだ。
「キュ、救急車!!」
サーラは震える声で救急車を呼び、ブルテッドは必死に愛する妻の名前を呼ぶ。
「私、夜も遅いからサイレン止めてもらえるように救急車誘導してくる!」
すぐに救急隊がやってきて、シャットの容体をみる。痙攣は治ったが意識は混濁していた。
救急隊がきて、救急車に乗せてもシャットは目を覚さない。うー、うー、と唸るだけ。
搬送先が決まってサーラが同乗することになったが、その時シャットが救急隊に向かって、「腰が痛い」といった。
それがサーラが聞く最後の声になるとは思いもせずに…