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瞳さんが気だるげに体を起こす。
ベッドの上でぺたんと座り、目をこすりながら俺を見てきた。
「いいでしょ? ここで寝たってさー。もはや私の部屋みたいなものなんだし」
「瞳さんの部屋はちゃんと上にあるだろ?」
「えぇん寂しいー! 人肌感じたい~!!」
「そう言われても……」
「そ・れ・に」
瞳さんが俺の掛布団を手に取り、そして顔を押し付ける。
「すぅーはぁー! やっぱり、りょうちゃんの匂いが恋しくってさぁ? 落ち着くんだよねぇ」
「勘弁してくれ」
呆れながら言うが、この人が俺の言うことを聞かないなんてことは、これまでの経験で身に染みてわかっていた。
この人は壇上瞳だんじょうひとみさん。
現在二十六歳で、三年前に出会って以降こずえのスナックで住み込みで働いている。
ちなみに瞳さんが住んでいるのはこの上の三階。
しかし、度々二階の九条家を根城にしている。
見ての通り、とにかく自由奔放な人だ。
「もう俺、十七歳なんだぞ? いつまでも子供だと思われたら困る」
「あ、そっか。りょうちゃんももう“大人”の男なんだもんねぇ。ふふっ、でも私はちょっと刺激的すぎるかなぁ?」
「そういう意味じゃないんだけど」
「まぁまぁ。とりあえず……ほれっ」
瞳さんが俺の首に腕を伸ばし、ベッドに引きずり込んでくる。
さらには両手を背中に回し、抱きしめてきた。
「瞳さん⁉」
「スキンシップはね、幸福度をすごく上げるんだよ?」
「だからって……」
ただでさえ無防備な格好をしているのに、こうも密着されると動けない。
柔らかいものがめちゃくちゃ当たってるし……。
それに大人の女性特有の色気のある匂いがするし……。
「あーむっ」
「っ⁉」
立て続けに、瞳さんが俺の耳を咥える。
「はむはむ」
「瞳さん! 耳はやめてって言ってるだろ?」
「りょうちゃん耳弱いもんねぇ? ふふっ、可愛いなぁ。あむあむっ」
この人は本当に距離感がバグってる。
さらには背中に回した手を艶めかしく動かしていき……。
「ねぇりょうちゃん? そろそろ……ね?」
「瞳さん?」
瞳さんの顔がすぐ目の前に来る。
顔にほんのりかかる、生暖かい吐息。
大人の女性の色気が、俺の体全体を包み込む。
「私たち出会ってもう三年でしょ? そろそろいいんじゃないかなぁって」
「何がだよ」
「もう、女の子に言わせるのぉ? ま、そういうところも私は大好きなんだけどね?」
瞳さんが柔らかく微笑む。
そしてズボンとシャツの間に手を入れ、直に背中を触ってきた。
柔らかくてほんのり温かい感触が背中に伝わる。
「瞳さん⁉ 何してんの⁉」
「何って、そういうことだけど? ふふっ、ほんとは期待してるんじゃない? 年齢的にはそろそろそういう“お年頃”でしょ?」
「そういうって、よくわからないんだけど」
「じゃあ私が教えてあげるよ? りょうちゃんの“嫁候補”として、手取り足取り……ふふふっ♡」
瞳さんの顔がだんだんと近づいてくる。
「ちょっ……え⁉」
これ以上はと思い、力づくで逃れようとする。
しかし、瞳さんに足でもしっかりホールドされ、身動きが全く取れなかった。
さすがと言うべきか……って、感心してる場合じゃない。
「りょうちゃんの“初めて”、いただきまーす♡」
瞳さんがそう言って、迫ってきた――そのとき。
がらりと部屋の扉が開く。
「ちょっと二人とも? 避妊はするんだよ~」
「こずえ⁉」
こずえが眠そうに頭をかきながら俺たちを見てくる。
金色の長い髪が、昼の太陽にあてられてキラキラと輝いていた。
「大丈夫だよこずえさん。私はりょうちゃんの子供を責任もって育てる覚悟あるし」
「ほう、ならいっか! 初孫だな~ん」
「素直に受け入れないでくれ」
俺がツッコむと、こずえは楽しそうにニヒヒと笑う。
「あ、というかそろそろ買い出し行かないといけない時間じゃない? 瞳も今日は一緒に行くんでしょん?」
「ってもうこんな時間か。急がないと」
「ちぇ~お預けかぁ~」
「そんなこと言ってないで準備して」
「準備完了! ぴーすっ」
「その恰好で外出れるわけないだろ? ほら、服着て」
「えへへ、はぁ~い」
瞳さんはふわふわとした顔で返事すると、ふにゃりと笑うのだった。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
「ここがアイツの家か……」
物陰から奴の家を見る。
繁華街の路地裏を進んでいったところにある小さなビル。
その二階にあのクソ野郎は入っていった。
まさかこんなアングラな場所に住んでいたとは……ますますあのクソ野郎のことがわからない。
「ケビン、ブラッディ。気をつけろよ。万が一があった時、お前らが頼りだからな」
「わかってます、ボス」
「もちろんです」
この尾行に当たって、万が一の可能性を考えてボディーガードを二人用意した。
認めたくないがアイツの戦闘能力はただ者じゃない。
……ただまぁ? 俺が本調子なら五秒で仕留められるんだけど? でも最近調子悪いし?
ま、この二人がいれば安全なのは間違いない。
なにせケビンとブラッディは裏格闘技で名を轟かせた最強のファイター。
ちょっとかじってる程度のヒョロガキに負けるわけがねぇwww
「あ、出てきましたよボス」
「おっ」
奴の家のドアが開く。
しかし、出てきたのは――
「チッ。ちげぇじゃねぇか」
出てきたのは顔のいいイケメン。
背丈はあいつと同じくらいだけど、ここまで顔が整っていない。
つーかイケメンだな……ま、俺には当然劣るけどなwww
となるとこいつは誰だ?
兄貴……にしては雰囲気が似てなさすぎるだろwww
マジで誰なんだ?
「まぁいい。とにかくあいつを監視して……」
言いかけたところで、後を追うようにもう一人出てくる。
「りょーちゃんっ。待っててくれてさんきゅーねー」
「早く行くよ、瞳さん」
「あいよぉー」
男と腕を組んで歩いていく。
俺はこの女の顔を見て、面を食らっていた。
体に電流が走る。
あの女から目が離せない。
そしてどんどんと体の内側が熱くなってくる。
「か、可愛すぎんだろォ……!」
も、もしかしてこれが……一目惚れってやつかァッ⁉⁉⁉