第1話 優等生の仮面を完璧に
(優等生の顔だけを見せる_。)
朝、校舎に差し込む光の中を、私は歩く。
「おはようございます、生徒会長!」
「紗英先輩、おはようございます!」
私はいつも通り、柔らかい声で返す。
「おはよ〜!今日も一日頑張ろうね。」
笑うと、相手も笑ってくれる。
廊下が少しだけ明るくなる。
私はそれだけで満足だった。
(今日も、優等生の私でいられますように。)
そう願いながら、
私は生徒会室へ向かっていった。
——誰も知らない。
——この笑顔の裏に、
——かつて“学校を破壊しかけた怪物”がいることを。
私は、早田紗英。
生徒会長で、校内の“顔”といわれている。
ホームルーム前の廊下。
声をかけられるたび、私は丁寧に返す。
「紗英ちゃん、今日も可愛い〜!」
「生徒会長ってほんと頼りになるよね。」
「困った時は紗英ちゃんに聞けばOKって思ってる〜!」
「そんなことないよ〜!
私でよかったら、なんでも言ってね?」
みんなの言葉、好意、信頼。
全部、私はきちんと受け取る。
だって“そういう人間”でいると決めたからだ。
生徒会室へ向かうと、
先生がにこにこしながら寄ってきた。
「早田、生徒会会議の資料ありがとう。
本当に助かるよ。君がいると学校が回るね。」
「いえいえ!お役に立てて嬉しいです!」
優等生の口調。 優等生の笑顔。 優等生の姿勢。
私はそれを一瞬たりとも崩さない。
放課後、校門の近くで後輩たちが話していた。
「生徒会長ってさ、昔から優等生なんだって〜!」
「成績も超いいし、性格も完璧だし!」
「怒ったところ見たことないよね?」
私はそっと笑って手を振る。
「ありがとう〜。みんなのおかげで頑張れてるよ?」
後輩は顔を赤くして 「かっこいい……」と言った。
(……ふうん。何も知らないくせに)
内心では冷たく笑った。
——ここからが本題だ。
読者のあなたにだけ、私は本当のことを話す。
さっきからの優しい言葉、 柔らかい声、 丁寧な笑顔。
全部、嘘だ。
私は“優等生”なんかじゃない。
本性は——
その真逆。
中学時代の私は、
成績は学年最下位、 遅刻とサボりが日常
、教師への反抗は毎日、 喧嘩売られたら秒で返す、 周りが勝手に“触れたら死ぬ”と言い出した問題児
廊下でぶつかられたら、
「どこ見て歩いてんだよ。」
と胸ぐら掴んで壁に押しつけ、 教師に注意されたら…、
「黙れ。お前に言われる筋合いねぇよ。」
と言い捨てていた。
生徒からは恐れられ、 教師からは放置され、 保護者同士の会議では
“名前を出すことすら禁じられたレベル”。
私は、
本当にどうしようもないヤツだった。
——いや。
——“だった”じゃない。
“今も変わってない。”
ただ隠しているだけ。
そう、私は。
学校で最も信頼されている生徒会長。
そして…。
学校史上最悪の元ヤンだった人間。
この二つを、
たった一つの笑顔で共存させている。
それだけ。
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