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最悪。超なんてよりもメガマッハがつくくらい最悪。
なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのよ…!
そう思いながら玄関の前で半泣きしながら今日のことを思い出す。
まず最初に電車に乗り遅れ、会社に遅刻。
しかもその途中で痴漢にあう。ほんっとキショすぎる。
上司にはバリバリに怒られる。でも痴漢にあったって言ったって聞かないだろうから血管を浮きだたせながら黙っておいた。
お昼の時間にお弁当を食べようとして鞄の中を漁ったらお弁当が無い。忘れた。
今頃家で腐ってんだろうな。
その後階段でずっこけ、恥ずかしい&痛いのダブルパンチ。
なのに最初あんな怒鳴り散らかされた上司に飲みに誘われ、同期の人達とも共に12時まで飲み会。
無理やり二次会、三次会に誘われ今の時刻は午前4時。もう朝になるって。
ようやく帰れる…と思ったがなんと彼氏からLINEで別れようと告げられた。これが過去1番私が立ち直れなくなりそうな原因だ。終わった。3年付き合ってたんだよ??????いい調子だし私も彼も20代後半だからそろそろ結婚も考えたいとうきうきしてた頃に別れようなんて。は???どうかしてる。私の3年間を返してくれ。
色々な複雑な気持ちをかかえながらどうにかこうにかヘロヘロな足で帰ってきたのだ。
もう私のライフは0と心が音を上げている。
しかし我慢できず、玄関の前で大人気なく号泣してしまった。
涙腺のダムが崩壊したのか????と問いかけたくなるくらい私の目からは次々と大粒の涙がこぼれる。
「ぅ…ッ、うぁぁぁぁあん!!」
迷惑かけたっていい。今日くらいは泣かせてくれ。
そうマンションの人達に思った。
すると隣の部屋のドアが開く音がした、と思ってふいにそちらの方向を向いた
「…ッわ、…」
「え、…」
時が止まったみたいだった。
私はメイクもボロボロの姿で部屋から出てきた彼を見つめる。
頭のてっぺんから足のつま先まで。
…イケメンすぎる。
最初に私が思ったことがこれだ。
初対面で失礼だとは思うが見れば見るほど美形。顔が整りすぎている。
体型もスラッとしていて高身長。
これがまさにイケメンの手本と言えるのではないだろうか。
「…えっと…」
部屋から出てきた彼は自分を凝視する私に困ったような笑みを浮かべた。
「大丈夫、ですか…?」
え、なに私の泣き声を聞いて部屋から出てきてくれたの??
好き。優しすぎる。
「ぁ…ごめんなさ い大きな声出して…!!早朝に…ってまだ暗いか」
「ふ…ははっ 」
私の言い間違いにふわっと優しく笑った彼。
私の心臓がギュンッッ!とすごい音を立てた気がした。
もう刺されたと言っても過言ではない。
とてつもないオーラを放っている。
その後彼はハンカチも貸してくれた。
こんないい男、付き合ってる女のひとりや2人くらいはいるだろう。
イケメン中のドイケメンだ。
何度もお礼をして私はようやく部屋の中に入った。
びっくりした。隣の部屋にあんなイケメンが住んでるなんて。
まだ心臓がドッドッと波打っている。でもそれはトキメキなんて可愛いものじゃない。
ただのしがないOLがイケメンのオーラに圧倒された、緊張感に近いもの。
でもなんか明日から頑張れそう。
自然と口角が上がって、上機嫌でシャワーを浴びた。
彼の名は神代類と言うらしい。
ちなみに22歳。若い。若すぎる。
もう28歳の私には眩しすぎる。
「…!」
「あ!おはよう!!」
家を出るなり彼とはよく視線を交わすことになる。
後々だんだんと敬語を外して話せるようになった。
生活リズムが似ているのか最近は少し会話をしてから出勤したり、ゴミ捨てに言ったりとよく喋るお隣さん、という関係になっていった。
あぁ見えて神代くんは結構気さくな話をしてくれる。
「この前新しく作った装置をステージで使ってみたんですよ、そしたら屋根が飛んじゃって!」
「あははっ!もうそれはヤバイよ!そのあとどうしたの?」
彼は私のいろんな傷を癒してくれた。
そう、なんていうか好きっていう恋愛対象よりも癒し系で日常に欠かせない感じだった。
どうやら神代くんは演出家を務めているらしく、そういう界隈に詳しくない私でも名を知っているほどの大きい劇団の一員だった。
そういえば名前聞いたことある気がする。
なんか、毎日がキラキラしてる。
これが充実ってやつか!!!!()
そんなある日、一緒にゴミ出しに行く時彼の手の左指がチラッと見えて私はその左指に目が釘付けになった。
「…それ…」
「あ…これ?」
彼は早朝の澄んだ青く高い空と、眩しく輝きを放つ太陽にその手を掲げた。
「…僕、この前結婚したんだ」
「…っ!」
「あ、でも日本じゃなくて…、なんていうか、籍を入れただけ、という感じ。相手が今海外にいるから、そこで入れたんだ」
彼、神代くんは今までにない、愛しい者を見るような、優しくて暖かくて熱が籠っている視線を指輪に向けた。
…すごい。愛されているんだな。
なんかしみじみと実感しちゃってしんみりとした気持ちになった。
「でも、海外にいるからあんまり一緒に過ごす時間が少ない、というか。離れないか心配なのもある、フラフラ危なっかしくてそりゃもうすごい心配になるけど、けどそれと同じくらい、いつか超えられたら、って思ってて。本当にすごい人なんだ。スターよりも遥かに絶大な輝きを持っているんだ。同じ舞台にも立ちたいし、超えたい…そんな気持ちも持ってるけれど、やっぱり、好き…なんだよね…」
強い、眼差し。
つい見惚れてしまうようだった。でもやっぱり、好きなんだなあって私でも分かる。目が蕩けてる。ッカ-相手の子、幸せもんだなぁ…溺愛されてるわ…
…でも
「大丈夫!!!離れないか心配なんて、こんな良すぎる男そうそういないから!私だったら絶ッッッッッ対手放さない!!!電話はしてる!?後は長期休み家に行きあったりしてる!?」
「え、っ!?え…っと電話はまぁ毎日で…家にもたまに…」
「おっし大丈夫!!!人生の先輩が言うんだから絶対に大丈夫!!何回も言うけどこんないい男、そんな簡単に手放すわけが無いからね!?こんな見る目ない私でも手放さないと思うから!!」
はぁはぁと息を切らして叫ぶ。
「ふ、はは」
出た。イケメンがさらにイケメンになるふわふわな笑顔!!!!あーもう笑ってくれるとか優しすぎて。私の彼氏もこんな感じだったら良かったけど。いやまあそれなりに優しかったけど…。いやまて振るとか最低だぞあんな男優しいもクソもないわ。
「あ、あっという間にマンションに着いちゃったね。じゃ、また!」
「うん、またね」
お互いひらりと手を振って自分の部屋へと入る。
今のところ私の人生は最高潮に幸せな時かもしれない。
幸せ。
イケメンのパワーってすごい。すごすぎる。
一生ここに住みたい。
そんなことを考えながら私は2度寝した。
「うぇ…っ、…」
はぁ…最悪Part2。
今日は祝日で休み。と思い存分に休日を楽しんでた矢先。午後2時頃に上司から連絡が。
至急出勤してくれとのこと。いやふざけんじゃねえよ。
と言ってやりたいところだが口を噤んで渋々出勤した。
その後はよく頑張ってくれたな!!とか散々お世辞だと思われる褒め言葉を浴びさせられながら居酒屋へ。お前ら出勤してないだろ、っていうメンバーもなぜか来ていて帰る頃には午後12時だった。さすがに今回は二次会を断った。前みたいにはなりたくない…っと思って死にものぐるいで帰ってきたもののやっぱりお酒が腹にクる。吐き気が一気に押し寄せてきて、もつれそうな足でエレベーターに駆け込み、自室へと急いだ。
…のだが。
私は咄嗟にすぐそこの物陰に隠れた。
これは吐き気がしてトイレに行きたくても一刻にシャワーを浴びて寝たくても私の中のサイレンがダメだダメだと警告を鳴らしている。
「ん、…ちょっ、類!ここ外!」
「…誰もいないよ 」
「とりあえず中に!!入るぞ!!」
1人は神代くんらしき人の声、もう1人は…同じ歳の男の子かな?知らない人の声だ。
なんだろうお泊まりかな?こんな時間だしそうだろう。
年下の男子がわちゃわちゃしてんのは微笑ましい。
2人が入ったことを確認してササッと早足で自分の部屋へ駆け込む。
吐き気はさっきので収まった。とホッとしていたら今度はどっと睡魔が押し寄せてきた。
ダメだ。まだ風呂に入ってないしメイクも落としていない。スーツだって着たままだ。
寝たら負けだ。ダメダメ。いやそんなこと私の身体はもう聞いていない。まぁどうせ明日有給とったからいけるいける。そう思って私はソファに身を預けた。
そうやって どんどん夢の中に引きずり込まれていったが、隣の部屋から漏れた声は私の耳にしっかり届いた。
『…ぁ、ッ』
はっきりと聞こえた。
…喘ぎ声???????
いやそうだよね。でも長年ここに一人暮らしをしていてよその部屋の情事が漏れるなんてことはなかった。
でも確実にどこかから聞こえた。
どこかっていうより確実に隣の、神代くんがいる部屋。
だって私の部屋はマンションの隅にあって隣という隣はもう神代くんの部屋しかない。
…ん?ちょっとまってさっき入っていったのは男子2人…だったよね。
…てことは????
私は過去1神経を尖らせて部屋の真ん中で耳を澄ます。
はたから見たら物凄い変人と言えるだろう。
『…は、ッ、ん、る…』
『つかさ、く…』
ッきた!!!!!!
耳を壁に貼っつける。今後私の人生でこんなに壁に耳をくっつけることはもうないだろう。
高くて何かを抑えてるような声と甘く低い声。
完全に2つとも男性の声だ。
これは………ッ!!
ちょっと、っていうか結構イケるぞ!!!!!
なんかすごいダメな事してるみたいだけど。
てか声ダダ漏れですよ…^^これ教えた方が良いんか…
でもこのマンションに引っ越してよかった。ありがとう大家さん。ありがとう過去の自分。
その日はたまに聞こえる声に悶絶しながら風呂に入って念入りにスキンケアして寝た。
ちなみに久々に快眠した。
𝙉𝙚𝙭𝙩▸︎▹︎▸︎▹︎