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京都の夜は、静と妖が共存していた。朧月が雲間に浮かび、石畳を照らしている。
時折、風が桜を舞わせ、ひとひらが闇に消えていく。そんな夜、陰陽師・安倍晴明はひとり、北野天満宮の境内に立っていた。
「晴明様!」
駆け寄ってきたのは、弟子の源博雅。顔には緊張が走っている。
「どうした?」
「この近くで妖の気配がします。式神を放って探りましたが…ただならぬもののようです。」
晴明は頷くと、扇を広げ、呪を唱えた。瞬間、足元から白狐の式神が姿を現し、風とともに夜闇へ消える。
「しばし待とう。」
やがて、白狐が戻ってきた。その口には、髪がくわえられていた。博雅は顔を強張らせる。
「これは…人の髪?」
「いや、怨霊のものだ。強い執念を感じる。」
晴明は髪を掌に乗せ、呪を唱えた。次の瞬間、空気が変わった。風が吹き、桜が渦を巻く。
そして、闇から影がゆっくりと姿を現した。
「我を…呼ぶは誰ぞ…」
かすれ声とともに現れたのは、かつての貴女の怨霊だ。美顔に歪んだ憎の表情を浮かべ、黒髪が風に揺れている。
「汝の名を問おう。」晴明の声は穏やかだが、鋭さを秘めている。
「名など…不要。我があるは、ただ恨みを果たさんため…」
女の怨霊は両手を広げると、黒き煙を纏った妖刃を生み出した。
「来るぞ、博雅!」
次の瞬間、怨霊は疾風のごとくかかる。博雅は笛を構え、音の呪を奏でる。晴明は扇をひと振りし、結界を張った。
刃が結界に弾かれる音が響き、怨霊は悔しげに叫ぶ。
「汝の恨みは深い。だが、それを解く術がある。」
「黙れ!人の言など…信じぬ!」
その瞬間、怨霊はさらなる力を解放した。しかし、晴明は静かに印を結び、最後の呪を唱えた。
「破邪顕正、清明なる光よ…!」
眩い光が境内を包み、怨霊の叫びとともに闇は消えた。風が止み、桜の花びらがゆっくりと舞い降りる。
「…終わったのですか?」
博雅の問いに、晴明は静かに頷いた。
「だが、またいつか、闇は現れるだろう。そのときも、我らが光を灯さねばならぬ。」
京都の夜は、再び静寂を取り戻していた。