コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
善悪のお陰で復活を遂げたアヴァドンの応援を受けてすぐ上のお兄ちゃんシヴァは自信を漂わせながら答えたのである。
「戦い方を教えてやる良い機会だからな…… ふふふ、しかとその目に焼き付けよ弟よ、これが格別の魔王の戦いだっ!」
回復には向いていない事を、今回の事で思い知ったコユキが聞いた。
「んで具体的にはどうすんのよ、シヴァ君?」
「は? どうするって、いつも言っていたでは無いですか? この腕の封印を解いてくれるのですよ!」
コユキは頭の上にハテナを浮かべたのである。
確かにちょいちょい発言の中に見え隠れしていた中二病的な言葉がある、この腕の封印、とか何とか言っていた筈だった。
只の悪ふざけだと思っていたのだが……
今目の前にいるシヴァの青紫な六本の腕を目にしても封印的な包帯とか、呪印(じゅいん)の類は見当たらないが、ブラフに思えたコユキは問う。
「封印とかアンのん? これ実戦なんだよシヴァ君? ふざけてるとあんた死ぬわよ、マジで!」
コユキの震える問い掛けに答えたシヴァの声には、既に迷いを捨てた純粋魔王の覚悟と矜持(きょうじ)だけが乗せられていたのである。
「とくとご覧あれ、封印解除、シヴァ! トリャンバカ形態ぃ!」
叫んだシヴァの額に縦に裂けた第三の目が出現する、続けて声を上げたシヴァは肌を青黒く変じていつもの中二病風味は鳴りを潜める、所か悪化の一途をたどっていたのであった。
「来たれ! 我が槍、トリシューナよ! グナ変更、ラジャスっ! これより封印を解除するうぅぅっ!」
「あわわわ!」
コユキが思わず狼狽え(うろたえ)た声を漏らしてしまったのも仕方が無い事だろう。
いつも口ばっかりで大した事無いとさえ思っていた中二病のシヴァが、三つ目に変じて三叉(さんさ)の禍々しい(まがまがしい)槍を構え、形相を怒りそのものに変えて、更に嘘だとばかり思っていた封印解除を宣言してしまったのである、そりゃビックリするよね。
見た感じはまんま闘神(インドラ)である。
つまり、いつもの中二病的発言は嘘では無く真実、オリジナル『僕出来るもん!』状態のシヴァを表現する言葉であった事が白日の下に曝されたのである、となると…… 果たして封印とは何なのであろう?
ビビりつつも見つめるコユキの目の前でシヴァ、世界有数のトップクラスの悪魔は、えっと、自分の六本の腕の内二本を躊躇なく引き千切ったのであった。
コユキは過去最大の驚きを込めた声で叫ぶのであった。
「えええっ! 腕の封印ってぇぇっ! まんま腕、その物だったのおぉぉぉぉ?」
コユキの驚愕の声には答えず、千切った二本の腕を投げ捨てたシヴァ。
流れ出る青紫の血など一切気に掛ける事も無く、たった一人で薄ら笑いを浮かべて骨、王様っぽい格好をしたベル・ズール・イーチに向けてズンズンと歩を進めていく。
打ち捨てられた二本の腕は、太鼓と奏者に姿を変え、煽情的(せんじょうてき)なリズムを打ち出し奏で続けている。
「ほう、引き上げぬか、蛮勇よのぉ! 目覚めよ、『闇(ストラトス)の(トゥ)軍勢(スカトウス)』よっ!」
言葉に応えるように周囲の荒れ地が盛り上がり、ボコボコと地面から現れたのは、所謂(いわゆる)スケルトン、人骨でありながら生きた人間の如く動き回る、不死、いいやとうの昔に死に絶えた骸(むくろ)を依り代とした、怖じぬ軍団の姿であった、その数、またもや万を数える。
荒野を埋め尽くした死者の軍勢を前にして、たった一人で向き合うシヴァは恐れを抱くどころか、美しく残忍な笑みを湛えながら、踊り始めたのである。
独特のリズムで足を大地に打ち付け、両手を天と地に感謝を告げるかの様に左右上下に滑らせながら、残された四本の腕に振られるままに腰と肩を揺らめかせ、自ら引き千切り生んだ奏者の奏でる太鼓のリズムにピタリと合わせ、戦いに赴く喜びを体全体で表現し続けているのである。
ドンドンドンドンドドドドドドドン、ドンっ!
タンタンタンタンタタタタタタタン、タンっ!
太鼓のリズムとピッタリ合わせたステップ、踏み込みが止まり、次の瞬間、早打ちの連打の音に合わせる様に、シヴァはその身を跳躍させて体を捩じり(ねじり)込みながらスケルトンの群れに躍らせるのであった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!
激しく鳴り響き続ける太鼓の響き。
その音に合わせる様に青紫の小さな体を躍らせて、自身の十数倍もあるスケルトンの体を踏み潰し、砕き続けるシヴァ、その姿は正に破壊神、その物であった。