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ある夏の日

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ある夏の日

1 - ある夏の日

♥

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2023年07月08日

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ふわぐさ学パロ、こんな青春したいですね。


クソ長いです、6300文字。





















「あっっぢぃ……、、」




黒いアスファルトに、真夏の太陽がジリジリと照りつける。

ちら、と目を移せば、左手には木造の家屋が建ち並び、右手には絵の具をぶちまけたみたいに碧い海が光っている。絵に描いたような田舎の風景。


高校2年生の夏、嘘みたいに暑い帰り道をひとりで歩く。




眩しすぎる光に目を細め、青い青い、空を見上げた。




「……うざいなぁ、、」




嫌味なくらいに降り注ぐ陽光は、翳した指の隙間からサラサラと零れ落ちるようだった。





















「あきなーーーっっ!!!」




しばらく歩いた頃だろうか、聴き慣れた朗らかな声が耳に届いた。


熱すぎる太陽を遮るためにブレザーを頭に被せていたせいで、どちらから声がしたのか一瞬分からなかった。


が、次の瞬間……、




「どーーーんっ!」




バカ丸出しのセルフ効果音と共に、背中に何かが直撃した。ある程度加減されているから、痛くはないけれど……、




「……ふわっち、いつも飛びついてくんなって言ってんでしょ……、、」


「あっ、やっぱりあきなだった!」




ブレザーの隙間から、文字通り、太陽みたいに眩しい笑顔が覗いた。


よく目立つ銀色の髪、紫と、そこに映えるネオンピンクのメッシュ。

そして、整った顔立ちから鮮やかに発される関西弁。


同じクラスの、不破湊。




「やっぱり……って、俺じゃなかったらどうするつもりだったの。」


「ん〜?そんときはそんときやろ、!」




そんときはそんとき、まさにその言葉を体現するような男だ。


彼は俺が中学2年生の時に、こちらに引っ越してきた。転校初日から学ランは着崩し、派手な髪の隙間からはちらりと見えるピアス。おまけにあの関西弁。

田舎の中坊どもを湧かせるには、もってこいの問題児だった。

……いや、中坊どころか町中の特ダネ。色んな人に色んなことを好き勝手騒がれてた。

俺の隣の家のおばさんには、不良とは付き合うなってよく言われたっけ。


でも、それはさほど問題にならなかった。

困っている人がいれば助け、町の人に会えば明るい笑顔で挨拶する。

裏表のない彼の態度に、みんな『不良』なんてレッテルは忘れ、比喩ではなく、今は町中に可愛がられている。




そんな彼が、何故俺の隣を歩いているのか。それは転校してきて間も無くのこと……、






















「ねー、大阪ってどんな感じ?」


「やっぱりでっかいビルとかあるの?」


「え、ピアス自分で開けたの!?勇気あるね……、」




またやってる……。

不破湊、が転校してきて1週間。初めはみんな近寄り難そうにしていたけど、時間が経てばそんな感情も忘れる。男も女も寄ってたかって大盛り上がり。


さすが大阪出身、と言ったところか。話も面白いし弁が立つ。外交的な性格だし、なにより……、

誰であろうと、きっと二度見してしまうほど綺麗な顔。イケメン、というよりは美人。

気を抜くと思わず見惚れてしまいそうになる。かく言う俺も、初見の感想はそれしかなかった。




「んは、そんなに痛くないで、やってあげよっか?」


「やだ、怖いよ、!」




田舎の中学校にそんな奴が突然現れたら、そりゃあみんな話したくもなるよな。別にそれは結構。だけどさ、




「……どいて、そこ俺の席。」




なんで俺の隣なわけ?




「あぇ、ごめんな間違えたわ!」


「……。」




申し訳なさそうに笑う君とは目も合わせず、退かれた席に静かに座った。

転校生に靡かない。そんな俺の態度に、少しだけ周りの奴らの反感を買っていたことは、自覚していた。




「は、?ちょっと、言い方キツくない?」


「転校生なんだからもっと優しくしてあげなよ。」




いくらでも言えミーハーども、間違える方が悪い。


何も返さない俺を見て、取り巻き達は呆れた様子でコソコソと愚痴を吐いている。




「なにあれ、自分はお前らとは違うんだよ、的な?」


「馴れ合わない気なのかな、感じ悪。」




聞こえてる……というかわざと聞こえるように言われている。やることが幼稚だ。


そうこうしているうちに始業のチャイムがなり、囲っていた奴らはワラワラと散っていった。





















(だる……、)




1限は言語文化、既に逃げ出したい気分だ。理解できない古文が頭に入っては流れていく、つくづく無駄な時間。


窓側の、いちばん後ろ。アニメみたいな理想の席だけど、隣があの転校生くんじゃテンションも上がらない。




(どうせなら可愛い女の子が良かったな……。)




なんて、窓の外を眺めながらぼーっと考えていた。その時、











トントン











肩を、叩かれた。

先生によそ見しているのがバレたのかと、ギョッとして後ろを振り向くと……、




「なぁ、今何行目ぇ?」




面白いくらいにわかりやすく右側だけが乱れた髪の毛と、溶けかけたような目の隣人。




(こいつ、寝てたな……、)




やっぱ不良だ、問題児だ。なんでこんな奴が隣なんだまったく。


……それでも、流石にこの状況で教えないわけにはいかない。

気づかれないくらいの小さなため息をついて、渋々自分の教科書を指差して言った。




「ここ、16行目。」


「あ、ありがとぉ、」




にへ、と、お礼と一緒に緩んだ笑顔を向けられた。

なるほど、確かにこれはあざとい。

だけど俺は、こういうタイプはきら……、




「じゃあ次、不破くん。ここ訳してくれる?」


「っえ!!??……ッスーー、わかりません。」




(……ふ、聞いてきたくせに分かんないのかよ。)




悪びれもせずに堂々と言う彼に、クラスのみんながくすくすと笑う。


その中で、俺も無意識に笑みが溢れた。











………は、?











学校でも無愛想な俺が、たったこれだけのくだらない事で、自分でも無意識に笑いが出た。

その事に心底驚いた。


そして、なんか悔しい。




「じゃあ隣の三枝くん。」


「あ、はい、_____…、、」


「はい、そうですね。」




……いや、くだらない事に笑っている場合じゃない。今のは少し危なかったぞ。




(ふーーー、)




気合いを入れ、ペンを持ち直した。





















お昼休み、いつもひとりで屋上で食べる。別に友達がいないわけではない。ただひとりの時間が好きなだけ、特にお昼は。


屋上と言っても、人はいない。みんなが使う、西校舎と東校舎のものではないからだ。

南校舎、本校舎とは少し離れているが、唯一、海が綺麗に見える場所。


ここは俺の特等席、誰も邪魔しない。俺みたいな陰キャにはお似合いの場所。




「はぁーーー、早く出たいな、こんな町。」




でかい独り言を言っても、誰にも聞かれない。誰にも……、











「あ、やっと見つけたぁ!」











……誰にも聞こえない、誰もいないはず。なのになんで、


キィ、と錆びれたドアが軋む。

開いた先には、少し汗ばんだシャツの腕を捲ったあの転校生が、息を切らして立っていた。


こんな展開、俺は望んでない。まるで漫画じゃないか。




「……なんでここにいるの。」




そう聞くしかないだろ?

なんでわざわざこんなところに足を運んでいるんだ、こいつは。




「いやぁ、追手巻くの大変だったんよぉ?嬉しいんやけど、ずっと一緒ってのはちょっとなぁ…、」


「質問に答えて、」


「……う〜〜ん、」




わざとらしく考えるポーズをとって、そのまま停止している。めんどくさ……、


しばらくして、ぱっと顔を上げて、ご丁寧に思いついたポーズまで付けてくれた。早く答えろよ。











「……君に逢いたかったから、かな?」











……、




……は?











「は?」


「ええっ!?反応冷たいなぁ、!」




何言ってんだこいつ、揶揄うのも良い加減にしてほしい。




「でも嘘じゃないよ、俺、君と話したかったんよね。」


「クラスのアイドル様が、わざわざ俺なんかと?」


「んは、トゲのある言い方やなぁ、」




全く心のこもっていない、乾いた笑いを返される。なんとなく、頭に残る笑い方。


しばらくの沈黙の後、彼は徐に持っていたメロンパンの袋を俺に差し出してきた。




「これ、あげる。」


「え?いや俺は自分のあるから……、」


「あんま腹減ってなくてさ、あげる!」




半ば強引に持たされた、困ったな……。


どうすれば良いか分からなくなった俺は、仕方なくバリ、と袋を開けて、メロンパンを半分に千切った。


千切るのが下手でパンの屑がパラパラと学ランに落ちる。最悪だ。




「……ん、じゃあ半分だけ貰う、君も少しは食べなよ。」




流石に何も食べないのは良くない、横で食べてるこちらが居た堪れなくなる。


ついたパン屑をはたきながら、ため息混じりに返した。




「ぇ、あ、ありがと。」


「いや、お礼言うのはこっちだけど……、」











これ以上、話すこともない。もらったメロンパンを口に運んだ。

風が気持ちいい、とても涼しかった。遠くには、綺麗な三角形の海が見える。




(あ、意外と美味いなこれ。)




転校生は、返されたパンも食べず、海も見ず。ただ、俺の顔をじっと眺めていた。


変な奴……、











「あ、と。そやそや、君の名前なんてーの?」


「……三枝、」


「下の名前も教えてやぁ。」


「…明那、三枝明那。」


「あきな…な。おけ、覚えた、!」






「これからよろしくな、あきな!」




手を差し伸べてくる、眩しいくらいの笑顔で。


そんな顔、無視できないじゃないか。




「まあ、しばらくの間だけ、な。」




それしか言葉が出てこないなんて、俺も素直じゃないな。




「しばらくじゃなくて、ずっと一緒にいようやぁーー!」


「暑い、離れろ。」





















それが、不破湊との出会い。


俺は本気で「しばらく」、半年後のクラス替えまでの仲だと思っていた。クラスが替われば、きっと違う人と一緒にいるようになる、だから「ずっと」なんて無理。


なのにこいつは、3年生になってクラスが離れても懲りずに会いにきた。

階すら違うのに……。




「あきなーーー!お昼食べよーーーー!!」


「声でかいよ、抑えて!」




この男、何もしなくても目立つのに、何かする度に目立つ。ついでに隣の俺まで目立つ。




「ほんと、なんで一緒にいるんだろうな、」




なんて、周りから何度言われたことか。

俺にだって分からない。


昼に限らず、毎時限ごとに会いにくる。朝は家まで迎えにくるし、帰りはわざわざ遠回りしてまでついてくる。他に友達いないのか?


いや、いないわけない。男女問わず超人気だし。じゃあなんで……、




「俺があきなのこと好きだから!」




聞いてもそれしか返ってこない、あっけらかんとした笑顔と一緒に。

だから途中から、聞くのはやめた。




それからまた半年後、もう高校に向けての進路を考える時期。


流石に高校は離れるだろう、とたかを括っていたが……、




「なんか、受かっちゃった。」




じゃねぇよ。

俺はクソ真面目な優等生だったし、そこそこ成績も良かった。だから学力には差があると思ってた。それなのに……、




「ん〜、俺成績は散々やからなぁ…、当日点が良かったんかな?」




勉学までやってのけるのかこの美形は。天は物を与えすぎている。




「……ちなみに、勉強はしたの?」


「してない!入試は鉛筆コロコロで乗り切った!」




神よ、人生は不公平だ。






















そんなこんなで、腐れ縁。中2の夏から高2の今まで、3年間ずっと一緒にいる。そのうちの高1と高2は同じクラスだなんて、こっちが吃驚する。




「……ふふ、」


「あれ、あきなご機嫌やなぁ。」




あ、今笑い声出てた、?


この3年で、俺もだいぶ変わった。初めは余所者に対しての警戒心しかなかったけれど、今では馬鹿なことで爆笑できるような、所謂「普通の友達」の関係になれた。




「そ、かな?」


「うん!だっていつもなら、暑いから離れろーーって言ってくんのに、」




確かに。こんなクソ暑い日にひっつかれても、何も思わなかった。




「……そういえばふわっち、なんかひんやりしてない?」


「あゃ、バレちゃったか〜〜、」

「実はな、焼け死にそうになったからそこで涼んでた、!」




そう言って、ふわっちが来た方向を指差した。見ると、ちょっと古ぼけた駄菓子屋。


よく言えばレトロ、悪く言えばボロ屋。奥にはザ・駄菓子屋の店主らしいお婆ちゃんが座っているのが見えた。




「あそこ、めっちゃ冷房効いてたんよー!あきなも涼みに行く?」


「あー、子供の頃はよく行ってたけど、俺らもう高校生だし……w」


「えぇ、俺さっき堂々と入ったんやけどぉ、」


「ふわっちは大丈夫でしょ。」


「なに、俺が子供っぽいって??あきなの方がチビのくせに。」


「喧嘩売ってんなら買いますよ。」




なんの中身もない会話。だけどこの時間が、いちばん楽しい。




「あ、じゃあさ、これ!」

「さっき買ってきたアイス、溶けちゃうから今食べよ、!」


「いいの?マジ助かるわ、ありがとぉ」


「あきなこれこれ!パ○コやる!」




久々に懐かしいものを見た。ふわっちからそれを受け取り、パキ、と半分に割った。




「ほい乾杯、」


「かんぱーい!」




アイスを咥えながら歩き出した。

潮風がそよそよと髪を揺らす。陽が落ちてきて、少し涼しい。


ちら、とふわっちの方を見た。相変わらずの整った横顔。

透き通るような白い肌、日焼けも汗も感じない爽やかな。

長いまつ毛は横からだとより強調されて見えた。

少し暗い、夏の夕焼けのような瞳と、奥に見える空が重なる。

きっと映画ができるような1枚だ。


なんて、しばらく目が離せずにいると……、











パチ











「……ん、なぁにそんなに見て、えっち。」


「えっち、、!!?」




不意に目が合い、そんなことを言われてしまった。確かに、ちょっと見過ぎ……?











でも、それも仕方がないじゃないか。

だってこうして見ていないと、いつか君が隣からいなくなってしまうような気がして。


この町よりも、遥か広い世界を知っている君には、ここは窮屈なんじゃないかと、

いつも遠い目をしている、君の手を掴んで離したくない。ずっと一緒にいたい。











(なーんて、)











真夏の夕暮れ、綺麗な赤と紫の空の境界線がぼんやりと浮かんで見えた。


遠い空の下でふたり、他愛もない会話と共に帰路に着く。そんな夏の日、





















END?

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