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リハーサルを終えたスタジオには、まだ湿った音の残響が漂っていた。ギターを手放した若井滉斗が、壁にもたれてこちらをじっと見ている。
その視線に、大森元貴は思わず息を呑んだ。
「……何、見てんの?」
元貴が無理に笑いながら言うと、若井はゆっくり歩み寄ってくる。
逃げようとしても、すぐに腕を取られた。
「何って……」
若井の声は低く、耳を撫でるように響く。
「お前が悪いんだろ。さっきから、無防備すぎる」
ぐい、と背中を壁に押しつけられる。
その瞬間、肩から腰まで、びりびりと電気が走ったようだった。
「待てって……ここ、スタジオ……」
声が震える。だが若井は、ニヤリと笑っただけだった。
「誰もいねぇよ。鍵もかけた」
「っ……!」
若井の指が、ゆっくりと首筋をなぞる。
ぞくりと身体が震えるのを、本人は楽しんでいるようだった。
「もっと、俺だけに見せろよ。お前の、そういう顔」
囁きと同時に、首筋に甘噛みされた。
軽く歯を立てたあと、熱を帯びた舌で柔らかくなぞられる。
たまらず、元貴は小さく喘いだ。
「若井……や、だ……」
「やだ、じゃねぇだろ。こんなになってんのに」
若井の手がシャツの裾から潜り込み、素肌をなぞる。
指先が冷たくて、肌が跳ねた。
「もっと素直になれよ、元貴」
「や、めろ……!」
必死に言葉を紡いでも、若井は全く引かない。
むしろ、面白がるように追い詰めてくる。
「逃げんな」
そう言って、腰をきつく押さえつけた。
「俺から逃げられると思ってんの?」
耳元で囁かれるたびに、心臓が壊れそうに脈打った。
熱が上がる。呼吸が浅くなる。
「お前、俺に飼われるしかないんだよ」
若井の声が、甘く、強く、支配的に響く。
そしてまた、柔らかな場所に噛みついた。
「っ……あ、あぁっ……」
痛みと快感がないまぜになって、足に力が入らない。
若井はそんな元貴を見下ろしながら、さらに言葉を重ねる。
「大人しく、俺に全部預けろよ」
「若井……」
抗う力は、もう残っていなかった。
目を潤ませながら、元貴はそっと若井の胸に手を伸ばした。
その瞬間、若井は満足げに笑い、彼の唇を深く塞いだ。
強引で、熱くて、どうしようもなく、
それでも元貴は、若井の支配から逃げたいとは思わなかった。
若井の唇が離れると、元貴は細く息をついた。
唇は赤く腫れ、体中に若井の熱がまとわりついている。
「ほら、声、我慢してみろよ」
若井は耳元で囁きながら、さらにシャツの中へ手を這わせた。
指先が乳首に触れると、元貴はびくりと震えた。
「……っ……や、若井……」
「やめてほしいなら、ちゃんと言葉にしろ」
低い声が、脳までしびれさせる。
だが、もう素直になれるはずがなかった。
若井の手は執拗に、じわじわと元貴を追い詰めていく。
甘噛みした痕を何度も指でなぞり、息を吹きかけ、わざとらしく楽しむ。
「お前、こんなに感じやすかったんだな」
「ちが……違う、そんな……っ」
言葉を繋ぐ間もなく、若井は腰を押しつけてきた。
密着した体温が、さらに元貴を縛り上げる。
「逃げんなって言っただろ?」
耳たぶを軽く噛まれ、甘い痛みに耐えきれず声が漏れる。
若井の手は執拗に敏感なところを探り当て、力強く撫で上げる。
「ほら、声、我慢できねぇくせに」
舌でなぞられるたびに、意識が溶けていく。
身体は敏感に反応しているのに、プライドだけがかろうじて抗っていた。
「だめ……こんな、誰か来たら……」
「来ねぇよ。……来たって、止めねぇけどな」
若井は悪戯っぽく笑う。
その無邪気な残酷さが、さらに元貴の奥深くを熱くする。
「もっと、見せろよ。俺にしか見せねぇ顔」
若井の手が、ベルトに触れた。
カチリ、と小さな音がして、元貴の心臓は跳ねた。
「……若井っ……!」
必死で止めようとする腕も、あっさりと押さえ込まれる。
若井はゆっくり、慎重に、そして意地悪くベルトを外した。
「安心しろよ。ちゃんと優しくしてやるから」
囁く声とは裏腹に、手つきは強引だ。
だが、不思議と怖くなかった。
若井の指先には、確かな温もりと愛情が宿っていたから。
「元貴、好きだよ」
その一言で、抵抗は完全に溶けた。
涙ぐんだ目で若井を見上げると、彼は優しく微笑んだ。
「お前が全部、俺のもんだって、ちゃんとわからせてやる」
そして若井は、まるで大切なものを扱うように、
それでいて絶対に逃がさないという強い意志を込めて、元貴を抱きしめた。
ふたりだけの世界。
扉の向こうには誰もいない。
境界線なんて、とうに越えてしまっていた。
熱が、溶け合う。
痛みも、快感も、全部若井がくれるものなら──
元貴はそれでいいと思った。
何度も呼吸を奪われ、
何度も名前を呼ばれ、
自分が「若井滉斗のもの」だと、体の芯まで刻み込まれる夜だった。