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「スマイルさん、そろそろ寝ませんか」
日付もとうに変わった頃、ピヤノは自身と向かい合う形でパソコンに向かっているスマイルに声をかけた。
「ん〜……あと30分」
「絶対ですよ」
難しい顔をして時々手元の手帳になにやら書き込んだりしながら仕事をしているスマイルに、本当に集中し始めたら止まらない人だ、と胸中で苦笑する。ふとその手がマグカップを手繰り寄せて、口元に持っていったところで動きを止める。小さく溜息を吐いて立ち上がる様子を見るに、珈琲を飲み終えてしまったのだろう。
「僕淹れますよ」
「ぇ……ありがと、」
マグカップを受け取るついで、自分が飲んでいたラテを飲み干してキッチンに向かう。しかしこの時間にカフェインを摂るのは本来よろしくない。今日は昼間からずっと作業をしてきてこれで四杯目だ。
少し悩んだ末に、引き出しからココアスティックを二個取り出して色違いのマグカップに開け、お湯を沸かす。何も言わずに渡したら気付かずに飲むだろうか、と考えてひとり唇の端を緩ませながら、片手鍋の底から気泡が出てきたところで火を止めた。
「どうぞ。熱いのでお気をつけて」
「ありがとう……」
椅子に座り直しながら、紫色のコースターの上にカップを置く。猫舌だから少し冷ますところまでは想定内。視線はまだパソコンに注がれたままだ。
「……っあま、ッ!?」
「っふ、」
自分も作業に戻ってしばらくした頃。思っていた通りのリアクションが聞こえてきてピヤノはくすりと笑った。
「ちょ、え?……えぇ、なに……?」
「ピヤノ喫茶はお客様のカフェインの摂りすぎを検知すると提供するメニューを変えるので」
「それは……ありがたいサービスだね」
困惑を滲ませつつもまた一口ココアを含む様子を見ていて、おや、と思う。案外甘いものも好んでくれるのだろうか。それならこれからは積極的にココアを出そう。ココアスティックも買い足さなければ。まだ知らない部分もたくさんあるな、と思う。
「お味はいかがですか」
「……おいしい」
「ふふ、よかった」
それからお互いに作業に集中していれば、約束の時間となった。
「ほら、30分経ちましたよ」
「……ん」
スマイルは不服そうな顔でパソコンを閉じると、立ち上がり伸びをする。と、パキパキと人体からはあまり聞こえてほしくない音がして、ピヤノは眉根を寄せた。
「繁忙期はずっとこんな感じですか?」
「うん。向こう二ヶ月くらいは」
なんでもないように言うと洗面所へ向かうスマイルに続いて廊下を歩く。朝から出社して、帰ってきたら撮影をして、終わったらまた仕事をして。ピヤノが見ている限り、この一週間ほどで彼がゆっくり取れている休息の時間はほぼゼロに等しい。
「……ん、そういやこないだ言ってた企画のプログラム、大筋だけ書き出しといたから後頼んでもいい?」
「え、ほうおわったんでふか?」
先に歯磨きを終えたスマイルにそう声をかけられ、思わず歯ブラシをくわえたまま返事をしてしまった。その話が出たのはつい数日前のことで、まだ当分は誰も触らないだろうと思っていたのに。
「くちゅくちゅぺーしてから喋りな」
本当にいちいち語彙がかわいいな。ピヤノが歯磨きを終えるまでスマイルは隣でぼんやりと立っていて、また何か考えごとをしてるんだろうな、と思いながら声をかける。
「スマイルさん、終わりました」
「ん、あぁ。ベッド行こ」
「はい」
仕事のことかはたまた別のことかはわからないけれど、ずっと難しいことを考えていることだけはわかる。きっと自分が聞いたって役には立てない、とピヤノは思っていた。同時にその一端くらい担わせてくれたらな、とも。
「あー……」
ベッドに寝転ぶと、枕に顔を埋めるスマイル。疲れた、とは言わないんだよなぁ、とその様子を見ていて思う。まったくどこまでも勤勉なひと。
「お疲れ様です」
「……ピヤノもお疲れ様。ずっと作業してたっしょ、明日はちょっと休みな」
それでいて、本当に無意識に自分のことに疎いひとでもある。昨日も今日も明日もピヤノが起きるより前に家を出て夜遅くまで仕事をするくせに、目の下のくまも日に日に濃くなってきているくせに、いつもの無表情で飄々と振る舞って。
「……スマイルさんが頑張らなきゃいけない時期は、僕も同じだけ頑張りたいんで」
「えらいね、ピヤノは……でも無理はダメだよ」
くしゃりと頭を撫でられたのち、ぽんぽんと優しく背中を叩かれた。けれどピヤノの胸中には次第に苛立ちに近い感情が広がっていた。
「……無理してんのはどっちすか」
「、え、?」
「そうやって自分を蔑ろにして。正直見ててあんまり気分良くないです」
つい語気が荒くなった。スマイルは対応に困ったように視線を右往左往させたのちに、上目遣いにピヤノを見やる。
「……ぴやの、怒ってる、?」
「……怒ってます」
なんだかいじめているようで少し胸が痛むけれど、いつかはちゃんと言い聞かせないといけないから。
「無理してるの本当は自分でもわかってますよね」
「無理とかじゃない。やりたいことをやってるだけ」
「それで体壊したら元も子もないでしょ」
「壊してないからいいじゃん」
「……本気で怒りますよ」
す、と琥珀の双眼が細められたのを見て、さすがのスマイルも言葉を詰まらせた。ピヤノがこれほど怒っているところをはじめて見たから。正直な話、本件はさして大きな問題ではないと思っていた。忙しい日々を過ごしている自覚はあっても、毎年そうだから今更特別な感情はなかったけれど。
はたと、そうか、今年の春からはピヤノがいるんだな、と思って。それは一等特別なことだ。心配してくれる人がいるのだ。
「……ごめん。反省した」
「謝って欲しいわけじゃないんですよ。ただ今後無理はしないって約束してください」
「具体的には?」
「帰ってきたら仕事禁止、繁忙期の間モノパスの方の仕事は僕に任せること」
「えぇ〜……」
不満が滲んだ声に、ピヤノが再度睨みを聞かせるとわざとらしく視線を逸らす。
「悪いことしてるって自覚あるなら本当にいい加減にしてください」
「ごめんって、……守ります、守りますから」
「ならよし、……は〜もうスマイルさんに怒るの精神的に無理すぎる、あんま怒らせないでくださいよ」
「悪かった。逆の立場だったらどうかなって考えたらそうだね」
その言葉を聞きながら、ピヤノは目を伏せる。自分が言うことには特別積極的に耳を傾けてくれるし考えてくれている気がする、というのはただの思い込みだろうか。
「……スマイルさん。僕のこと好き?」
「えっ」
そんな気持ちから生まれた純粋な問いかけだったが、スマイルからしてみれば怒っていたかと思えば急に愛を確かめられ困惑するしかなかった。
「そんなに悩みますか」
「いや、ちがう、……その、……好き、だけど、」
「だけど?」
「ゃ、……はずかしい、じゃん」
数秒の沈黙の末、ピヤノが深々と溜息を吐くから何か間違えたかもしれない、と慌てて言葉を紡ぐ。
「や、本当に思ってるよ?思ってるけどさ、」
「いやそこじゃなくて。マジでかわいいなって」
そう言われると、返す言葉に非常に困る。スマイルからしたらピヤノのほうがかわいいのにな、と都度思うけれど気恥ずかしくて口には出せずにいた。
「ありがとうございます、おやすみなさい」
「え……?あ、うん、おやすみ……」
「僕は悩むまでもなく好きですよ」
皮肉を込められた返答からピヤノが若干拗ねていることを悟って唇の端が緩む。ほら、そういうところがかわいい。
「……おれもすきだよ」
もう一度ちゃんと口にしたらいっそう強く抱きしめられて、スマイルは満足げに瞳を閉じた。