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「え、ちょっと、何で?」
百子がキョロキョロとしたところで、目の前の青い闇は霧散しない。だが自分の後頭部に僅かに締め付けられる感触と、衣擦れの音が耳に入ったことで、百子は陽翔に何をされたのかがようやく飲み込めた。
「東雲くん! 何を……んんっ!」
そして青い闇の原因を振りほどこうと両手を後ろに持っていったのだが、それを察した彼に両手首を捕まれ、彼の手で押さえつけられてしまう。抗議しようとした百子が口を開くも、彼の唇が塞ぎにかかった。そのまま彼の舌が百子の舌を、歯列を、上顎を這いまわり、逃げ腰になっていた舌を熱心に絡める。
「だめったら! 東雲くん!」
彼の舌の熱が、唾液が絡むと百子はふわふわとした心地に身を委ねそうになったが、今回ばかりは彼に乗せられるわけには行かなかった。唇が離れた隙をついて、百子は陽翔の額に自分の額をぶつける。骨と骨のぶつかる小さな音が鳴ると、百子の両手の拘束が緩んだので、陽翔の手を振りほどく。そして青い闇に手をかけた。
「……そんなに嫌だったのか? 目隠し」
青い闇が取り去られると、陽翔が肩を落として自分の額をさすっているのが目に入った。大した威力ではないが、彼を驚かせるには十分だったらしい。
「違うわよ! そっちじゃないわ! 目隠しするならこのネクタイはだめよ! だってこれ絹じゃないの! 絹は摩擦に弱いから、こんな扱いしちゃだめなのに! しかも東雲くんが今履いてるそのスラックスだって、その辺の安物でもなさそうだし! シワになったらどうすんのよ!」
百子の思わぬ剣幕に、陽翔は額から手をどけて目をぱちくりさせた。
「……すまん、百子……」
「謝る相手を間違ってるわよ! 謝るなら乱雑な扱いをしたネクタイとスラックスでしょう!」
彼女がここまでガミガミしたところを陽翔は見たことが無いのでたじたじとしていたが、陽翔はネクタイとスラックスに謝罪の言葉を述べる。そしてズボンを吊るすために立ち上がり、部屋のクローゼットの前に立ち、ベルトを外してズボンを脱ぐと、背中に柔らかく温かいものが触れた。そして彼女の両手が腰に回される。そして回された両手はシャツ越しに腹筋を、胸筋をゆっくりと撫で回しており、彼は彼女の手と背中に当たっている2つの柔らかい感触を認めて全身の血潮が滾るのを感じた。
「百子?」
「……さっきは怒ってごめん」
気落ちした声がぼそりと聞こえたので、陽翔は気にしていないと首を振る。彼女をどれだけ愛しているかを行動で示そうとした陽翔だったが、彼女の発言で状況も考えるべきだと感じたからだ。
「いや、助かった。確かにそんなに安物でもないからな。スーツは微妙だがネクタイは確かに絹だし。ご挨拶に行くのに安物をつけていくのは変だろ。でも高いものはそれ相応の扱いがあるんだったよな……百子のおかげで思い出せたよ」
そう言いながらも陽翔は彼女の両手が脇腹を這っている間に素早くズボンを吊り下げ、彼女の方に体を向けてその体を抱き締める。ちょうど顔を上げた彼女と目が合うと目元を緩め、どちらともなく唇を合わせた。
「んっ……」
百子の両手が陽翔の首の後ろに回り、陽翔は思わず彼女を腰を抱きとめる手に力を込める。そして彼女の唇を軽く食みながらやわやわと背中や頭を撫でた。陽翔が唇をついばむようにキスするので、百子は彼の唇にそっと舌先を這わせた。陽翔が驚いたのか、わずかに口が開いたのでそのままゆっくりと彼の肉厚な舌を舐める。そして彼女は陽翔が絡ませようと蠢く舌をするりとかわし、彼の舌を軽く吸う。吸い終わった後に力が抜けてしまい、主導権を奪われた百子は陽翔の舌が口腔を這い回るのを許してしまった。逃げ腰になっていた舌を彼に絡めとられ、吸われてしまい、二人の唾液がどちらのものかも分からないほど混ざり合い、くぐもった声は陽翔の口に吸い込まれた。口の端を唾液がつたいそうになったと感じた百子は、陽翔に舌を絡められ、自らも絡めながら唾液を飲み込んだ。
「エロいな、百子」
銀糸が束の間二人を繋いでふつりと切れた。くったりと百子が体を陽翔に預けるので、陽翔はすぐそばのベッドに彼女を誘導する。ベッドに腰掛けた二人は、向かい合って再び唇を重ねた。
「んんっ……」
陽翔の大きな手が耳をやわやわと撫で、首筋にそっと触れる。彼の唇が離れたと思えば、今度は耳にキスを落とされた。リップ音にびくっとした百子だったが、陽翔が百子のTシャツの中に手を入れたのですぐに注意が逸れた。
「可愛い下着着てるんだな」
彼女のTシャツを脱がすと、桃色のブラジャーに包まれた胸がゆるく上下していて、陽翔は生唾を飲む。いつもはお風呂あがりに肌を合わせているので、これはこれで新鮮であり、陽翔の情欲を昂ぶらせていた。
「なんでよ……洗濯干す時とかに見てるから知ってるでしょ」
「そりゃそうだが、やっぱり百子が着てるから可愛い。着てない下着なんてただの布だ」
百子は彼の言葉に首を傾げたが、そんな疑問は彼の耳元のリップ音と、自らの悩ましげな嬌声に隠れてしまった。