テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
今回、血やらなんやらの表現があるのでセンシティブ付けさせていただきます
van×may 後片付け
キャラ崩壊注意
息ができない。
ただ、それだけしかわからなかった。
視界に映るのは、コンクリートと震える自分の手だけ。
この状態になって、どれくらい経っただろうか。
つい数分前まではただの個人医として過ごしていたのに。
通知が来て、警察に追われて怪我をした半グレがいた。
いつも通り治療を済ませると、向こうは治療費にいちゃもんをつけ始めた。
気にせず請求したら、今度は怒鳴りながら掴みかかってきて。
そこから揉み合いになって、殴ろうとしてきた相手を咄嗟に押し退けた。
鈍い音がした。
目を開けると、そこには動かなくなった半グレが居ただけだった。
最初は気絶しているだけだと思った。
だが、半グレから広がっていく赤い水溜まりがその考えを否定する。
血だとわかっていた。
なのに脳はそれを赤い水溜まりとしか処理できなかった。
医者として血は見慣れているはずだった。
なのに、この時はそれがとても恐ろしく見えた。
その途端、胃液が込み上げてきた。
喉が熱い。
慌てて口を押さえた手の隙間から吐瀉物が漏れ出る。
口の中に溜まった胃液の熱さに堪えきれず、全て吐き出す。
汚れた手のひらの震えは、止まらなかった。
そこからは、あまり記憶が無い。
とにかくその場から離れようと、ふらふらとどこかを歩いた事だけは覚えている。
気が付くと、見知らぬ路地でうずくまっていた。
か細く途切れ途切れの自分の呼吸音と、跳ね続ける心臓の音だけが聞こえる。
賑やかな街の音が遠のいて、まるで世界から切り離されてしまったようだった。
どうにか動こうと手をついた。
体を起き上がらせた瞬間、また吐き気に襲われる。
胃の中は空っぽなのに、それでも体は吐かせようとしてくる。
呼吸が浅く、速くなっていく。
視界が白く明滅し始める。
吐けないまま、嗚咽だけが漏れた。
その時、俺の体を誰かが支えた。
大きな手が、背中をゆっくりと擦る。
「落ち着いて、ゆっくり息を吸うんだ」
遠のいていく意識の中で、その声だけがはっきりと聞こえた。
その声に従うように、大きく息を吸った。
吸って、吐いての繰り返し。
じわじわと、気持ち悪さが引いていく。
「……気分は良くなったかい?」
顔だけを声の方向へ向けると、そこには見覚えのある人物がいた。
「ゔぁ、んさ……っ、ゲホッ」
「無理に喋ろうとしなくていいから、落ち着いて」
俺は酷い有様だった。
自分の胃液で汚れた顔。
倒れたおかげで汚れきった衣服。
そんな俺だと知ってか知らずかヴァンさんは静かに口を開いた。
「……どうしてこんな所に?」
「そ、れは」
本当は、言っていいのか迷っていた。
これでヴァンさんからどんな目を向けられるのか怖かったからだ。
今まで真っ当な人間として見てもらっていた。
それが崩れるのが怖かった。
だけど、他に縋るものも無かった俺は、これまでの経緯を全て話した。
660
コントニックス
「俺は、そんなつもりじゃなくて、でも」
ヴァンさんは何も言わなかった。
ただ、俺の背に置いた手を、ゆっくりと動かしてくれた。
「俺、どうしたら」
ヴァンさんと目が合わせられなかった。
「マイキーくん」
ヴァンさんの静かな声が耳に残る。
「この件は儂に任せてくれ」
「……え」
「君は何も見なかった。いいね?」
任せてくれ、と言われて何をするのか聞けるわけもなく。
優しい瞳に微笑まれ、ただ頷く。
罪悪感だけが、胸の奥でくすぶっていた。
──────────
血の匂いでふとあの夜を思い出す。
あの後、ヴァンさんが何をしたのか聞かなくても分かっていた。
だから何も言わなかったし、何も聞かなかった。
これで良かったのだと、今では思う。
何故だろう。
あの時はとても恐ろしく見えた血溜まりが、今ではただの水たまりにしか見えない。
慣れというのは簡単に人を狂わせる。
血の匂いを煙草でかき消すように火をつける。
今日の処理はどうしようか、なんて考えていると、転がった人間が血を吐き出した。
まだ生きていた。
「おにーさん。起きちゃった?」
さっさと諦めれば良いものの、人間は死ぬ手前になると必死に足掻き始める。
このまま意識を失っていれば更に苦しくならなかったろうに。
「な……ッ、んで」
「俺らも生きるのに必死なもんでね。バレたら国外追放らしいんで」
思ったより図太い。
死ぬ間際に理由を聞いてくる人間など、そうはいない。
「情報が漏れたら俺も、この街の個人医も生きていけない。だったら漏れないように道を潰していけばいい」
そもそも、個人医の情報を漏らそうとしたこいつが悪いのだ。
煙草の火を静かに押し付けた。
「次は裏と関わらない人生をお勧めするよ」
「バイバイ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!