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放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
「バイバイ花野井さん!」
「じゃあね~!!!」
「また明日~!!」
花野井が教室を出ていくクラスメイトに声を掛けられる。
「ばいば~いっ!」
花野井は満面の笑みで手を振り返すと、鞄を肩に下げてトコトコと俺の席にやってきた。
「じゃ、良介くん。一緒に帰ろっか!」
「おう」
俺も鞄を肩にかけ立ち上がる。
「それにしてもいいのか? 最近俺とばっかり帰ってるみたいだけど」
「え? なんで?」
「だって前まで瀬那とか葉月とかと一緒にいただろ?」
「あぁー! 大丈夫!! 二人にはお話済みだから!」
「お話? なんの話したんだよ」
純粋な疑問で訊ねる。
すると花野井は顔を真っ赤にさせて、急に慌て始めた。
「そ、それは秘密!! 絶対にダメっ!!!」
「そうなのか?」
「そうなの! 乙女には言えない秘密なのっ!!!」
「そ、そうか」
そこまで言われてしまえばこれ以上は聞けまい。
それに人には言いたくないことの一つや二つ、当然あるだろうし。
「それはそうと」
周囲を見渡し、大丈夫なことを確認してから顔を花野井の耳に寄せた。
「ひゃっ⁉ りょ、良介くん⁉」
「“あのこと”、瀬那たちには話したのか?」
「っ! ……一応それとなく話したんだけど、あんまり信じてもらえなくて」
「そりゃそうだよな」
学園一人気者な須藤の裏の顔がヤバいなんて、言ったところで信じてもらえるわけがない。
須藤に好意を寄せているあの二人ならなおさら、だ。
例えそれが花野井の口から聞いた話でも。
これには段階がいる。
その段階だが……。
「ひとまず、花野井からも注意深く見てあげてくれ。俺ももちろんそうするけど」
「うん! わかった!!!」
耳打ちでコソコソと話をしていると、不意に強烈なオーラを背後から感じる。
気づいたときにはすでに遅く。
「二人とも? ちょっと距離が近いんじゃない?」
「い、一ノ瀬……」
振り向くと、一ノ瀬が仁王立ちして睨んできた。
「良介? ダメよそんな距離感で話しちゃ。それも私がいないところで……ね? わかった?」
「えっと……」
「わかった?」
「……はい」
この場合、俺はどうするのが正解なんだろう。
全くわからない。
「ほら、早く帰るわよ。用事あるんでしょ?」
「あぁ。帰るか」
「そうだね!!!」
三人並んで教室を出た。
♦ ♦ ♦
※須藤北斗視点
「えへへ~! 良介くんっ!」
「なんだよ花野井」
「ふふっ、呼んでみただけ~!」
「ちょっと良介。乳牛じゃなくて私を見なさい。ほらっ」
「ダメだよ良介くん! 私の方見て! ね!!!」
「えっと……」
騒がしい。実にクソ騒がしい。
それにべたべたとくっつきやがって……あァ、クソッ!!!!
今すぐに飛び蹴りを食らわしてやりたいッ!!!
しかし、その衝動をグッと堪えて陰から奴らを見守る俺様、須藤北斗。
この世界の主人公である。
俺は今、あのクソ野郎を叩き潰すために奴をつけていた。
もちろん完璧な変装をしている。
特注のカツラにメガネ、そしてマスクの三種の神器だ。
奴らはおろか、他の生徒にも俺があの須藤北斗だとバレていないだろう。
つーかそもそもアイツ、デレデレで誰かに尾行されてることすら気づいてないだろうけどwww
ハッ! クソ童貞臭いしな、アイツwwwww
とにかく、今はアイツの弱みが必要だ。
それか徹底的に潰せる手がかりが見つかればいいが……。
「私だけ見なさい? じゃないと……ふふっ♡ 呪っちゃうかもしれないわね」
「良介くん? 私のことだけ見てよ。ね、ね? ふふっ、いいでしょ?♡」
あの野郎ォオオオオオオオオオオオ!!!!!!
雫と彩花にベタベタくっつかれやがって!!!!
マジでムカつく! 元々そのポジションは俺のモンだったんだぞ!!!
なのに横取りしやがって……クソがァッ!!!!!!!
……ふぅ、落ち着け俺。
大丈夫だ。いずれアイツにこの屈辱を倍で返す。
そして雫と彩花を取り返す。
これは決定事項だ。
今はあのクソ童貞野郎にいい夢見させて……。
あぁあああああああああああああッ!!!!
ちょっとでもムカつく!!
イライラするゥッ!!!!!!
マジで何なんだよアイツはァッ!!!!!!
絶対にぶっ潰してやる……!!!
……それにしても。
雫と彩花、あんな目してたっけ?
俺の知ってる二人じゃ……。
ま、まぁいい。
すぐに取り返してやる!
待ってろよォ……グフフフフ。
♦ ♦ ♦
一ノ瀬と花野井に結局家まで見送られ。
店がある一階ではなく二階に上がり、扉を開く。
「ただいま」
家に上がり、いつも通りこずえの部屋を確認する。
「うへへへ……スクリュードライバーって、鉄の味するんだねぇ……うへ」
こずえは今日も平常運転だ。
昨日も朝まで店で働いていたし、もう少し寝かせておこう。
さて、今日は買い出しの量も多いし、早めに準備を済ませるとするか。
ガチャリと部屋のドアを開ける。
すると俺のベッドの上でもぞもぞと動く、布団にくるまった“何か”が視界に飛び込んできた。
「んぅ……」
寝息がかすかに聞こえてくる。
「……またか」
小さくため息をついて、ベッドに近寄る。
そして勢いよく布団を取り上げた。
「おはよう」
声をかけると、少しずつ目が開いてくる。
ボブくらいの髪の長さに、白くてもっちりとした肌。
服装はホットパンツにゆるゆるとしたタンクトップで、下着がちらりと見えていた。
人様には見せられないほどに、無防備な姿。
そんな“彼女”はいつも通り気だるげにあくびをすると、半分くらいしか開いていない目で俺を見てきた。
「あ、りょうちゃんだ。おはよー」
そう言ってふにゃりと微笑む彼女。
「いい加減自分の部屋で寝てくれよ、“瞳”さん」