百合と気持ちを確認し合い、彼女が俺のものになった翌週、俺はこれまでの生活からの変化を感じていた。
今まで寄ってきた女性の中から後腐れがない相手とテキトーに遊ぶことはあったが、こうして好きな女性と付き合うのは初めてだ。
たかが女なのに、それがこんなに違いがあるとは思わなかった。
何が違うのか。
まず、百合が俺のことを好きでいてくれてそばにいる状態であるということ自体が俺を満足させ、精神的に満たされるのだ。
安心感、安定感という言葉がしっくりくる。
それに週末に百合に会えると思うと力がみなぎり、より仕事にもやる気が出て、パフォーマンスが上がるのだ。
好きな女の存在で男は変わると言うし、実際俺の周囲でもそういうやつはいたが、まさか自分がそうなるとは思いもよらなかった。
「本日の亮祐常務はいつもと雰囲気がどこか違われますね。週末に何かあったんですか?」
「そう?いつもと一緒だと思いますよ」
ふいに担当秘書の中野早紀に言われ、態度や表情にも出ていたかと少しバツが悪くなる。
(俺も単純だな。年甲斐もなく浮かれてるな)
しかし浮かれる気持ちは治らず、週末の百合の可愛い姿や反応を思い出しては気分が良くなった。
だが、それも月曜日の午前中までだった。
その日の午前中にイントラにアップされた例の社内報の記事が原因である。
もちろんあの記事自体は百合が仕上げただけあって素晴らしい出来だ。
だがあれをきっかけに、ここ最近は落ち着いていた女性社員からの猛アプローチが再熱したのだ。
入社直後の時のように、様々な女性社員からやたらめったら声をかけられ、なんとか俺と接点を持とうと誘われる。
「亮祐常務、記事拝見しました!お酒召し上がるのがお好きなんですね。私も好きで美味しいお店知ってるんで一緒に行きませんか?」
「亮祐常務、私最近彼氏と上手くいってなくって‥‥。大人な亮祐常務なら良いアドバイスしてくださいそうですし、お酒飲みながら相談に乗っていただけませんか?」
「亮祐常務、私今度ニューヨークに旅行に行きたいと思っているんですけど、おすすめの場所など仕事終わりに食事しながら相談に乗ってもらえませんか?ニューヨークにお住まいだった亮祐常務にしか頼めないんです!」
次々にもっともらしい理由を添えて誘われて、面倒なことこの上なかった。
社内で人気のある女性社員もいて、数々の男を落としてきたであろう潤んだ上目遣いや笑顔で迫ってこられても全く何も感じない。
中にはタチの悪い女もいて、わざとぶつかってきて飲み物で自分の服を汚して、やんわりお詫びを要求してくるものまでいた。
まるで海外でよくある詐欺の手口のようだ。
もちろんそれらすべては隙なく断った。
そんなことが一週間ずっと続き、俺は心底ウンザリだった。
そして待ちに待った週末。
ようやく百合に会えることが嬉しかった。
ただ、マンションで迎えた百合は、どこか元気がなさそうに見えた。
心ここに在らずといった風で、俺の話へも生返事を繰り返す。
気になって逃げ道をなくしつつ問い詰めると、堰を切ったように一気に白状した。
ーー亮祐さんが声をかけられたのって女性社員なのかなって思って‥‥。みんな亮祐さんを狙いに行くって言ってたし、既成事実作ってしまおうってしてる子もいたし。
ーーそうなったら亮祐さんはそっちに行っちゃうのかなって‥‥。だって私なんて亮祐さんにふさわしくないし、分不相応だし‥‥。だからただモヤモヤしてただけです。
俺は口を挟まず黙って聞き入っていたが、内心は歓喜の声が上がっていた。
(つまり言ってることは、俺が好きだから、俺を盗られたくなくて百合が他の女に嫉妬してるってことじゃないか!しかもこんな恥ずかしそうに頬を染めてこんな可愛いこと言うなんて、俺を煽るにも程がある。俺が他の女に揺れるなんてありえないのに‥‥本当に可愛い)
こんな可愛い百合のヤキモチが見られるんだったら、ウンザリだった女からの誘いも今週一週間耐えた甲斐があったなと思った。
まるでこの一週間の疲れが一瞬で癒されるようだ。
言うだけ言って逃げようとする百合を捕まえて、強引に唇を押し付け百合を静かにさせると俺は百合の心配を拭い去るように事実を話した。
反応を見ていると、そもそも百合が思っている以上に俺は百合が好きだと思うのだが、それが伝わっていないように感じる。
(もうこれは本当の意味で百合を俺のものにしてしまって分からせてしまおう。こんなに俺の方から抱きたいと思った女も初めてなんだけどな)
完全にスイッチが入った俺は、そのまま畳み掛けるように言葉を紡ぎ、百合の逃げ道を塞いで、寝室へと百合を掻っ攫った。
寝室での百合は、それはもう可愛く、色っぽく、淫らだった。
そのとろけるような顔も、艶かしい白い身体も、快感に喘ぐ姿もどれも俺の視覚を刺激する。
視覚だけではない。
俺が触れるたびに漏れる声や、肌と肌がぶつかる情事の音は聴覚を、百合が纏う花のような香りは嗅覚を、手で触れる柔らかくて滑らかな肌は触覚を、そして舌で堪能する百合のすべては味覚を。
五感すべてが百合に反応して、俺の昂りを高めた。
百合に俺の気持ちをぶつけるように肌を重ね、百合を感じ、お互いの気持ちを交じらせ合う。
俺は行為による性的な満足だけでなく今まで感じたことのない精神的な満足感が広がるのも実感した。
(これが好きな女を抱くということか。ヤバイな、これは。一度経験すると、もう色んな意味で百合を手放せないな‥‥)
行為の後、ぐったりとした百合を抱きしめながら俺はそう強く感じた。
しばらく2人とも軽く眠っていたようだ。
どちらともなく目を覚ますと、そのままベッドの中で裸のまま抱き合った。
しっとりと触れ合う百合の肌とその体温が気持ちが良い。
「俺が百合を好きだってこと、ちゃんと身体で分かった?伝わった?」
俺は少しからかうように百合にそう問いかける。
「うん、伝わりました。私の気持ちも伝わった?」
百合がいつもより砕けた口調で答える。
俺のリクエストに答えて敬語をやめようと努力していていることが伺える。
身体を重ねてさらに距離が近くなったように感じより嬉しく感じる。
「伝わったよ。そうやって敬語をやめようと努力してるところも」
「それなら良かった」
「百合は自分の思ってることを隠しがちだし、素直に言わない時があるけど、今後もちゃんと言ってほしいな。言わないなら無理やり身体に聞くことになるからね?」
そうちょっと脅し気味に言ってみる。
「分かった。頑張って言葉で伝えるように努力するね。‥‥でも、口で伝えても身体に聞くのもたまにはして欲しい‥‥」
「!」
そんな予想外に可愛くて俺を煽るに言葉が返ってきた。
言い終わったあとに自分が何を言ったのか察したのだろう、みるみる顔が赤くなる。
「えっと、その‥‥」
「やっぱり俺はまだ百合の気持ちが十分に感じ取れなかったみたいだから、もう一回聞いてみようかな」
「えっ‥‥!?」
百合の戸惑いの言葉は無視して、俺はもう一度百合に覆いかぶさる。
そしてまだまだ足りないと言わんばかりに、そのまま百合を貪った。
こうしてこの週末は、ほとんど俺のマンションで時間を過ごし、飽きることなく何度も何度もお互いを求め合ったーー。
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