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しばらく私の言葉の続きを待ってくださった塚田さんだったけれど、私が先を言えずに躊躇っているのを知ると、ややして話し始められた。
「僕はね、歓迎会が始まってからずっと、心の片隅で貴女がこんな風に酔っ払ってくれたらいいと願っていました。だから……林くんたちが貴女に酒を勧めたときも、キミが困っているのを知りながら、なかなか止めに入らなかったんだ。ずるい男でしょう? ――なので」
そこで一旦言葉を区切ると、塚田さんが私を抱く腕にほんの少し力を込める。
「僕に関して言うならば、キミが引け目に感じることなんてひとつもないんです」
僕に関して言うならば、というところに……私は塚田さんが自分以外の誰かを想定しているのを感じた。
多分それは――。
(……健二さんのことだ……)
告げられた塚田さんの言葉の重みに、私は思わず立ち止まる。
そんな私に合わせて歩みを止めると、塚田さんは私の頭を優しく撫でてくださった。それから、何の声かけもなくいきなり私をお姫様抱っこなさる。
「きゃっ」
突然のことに驚いて、私は思わず彼の首筋にしがみ付いた。
(わわわ、どうしましょうっ。塚田さんのお顔が、ものすごく近いのですっ)
それはもやもやとわだかまる許婚への罪悪感を束の間吹き飛ばしてしまうほどの衝撃で、私は不覚にも健二さんのことを失念して、またしても塚田さんへの想いにソワソワと溺れてしまう。
抱き上げられた驚きで思わず彼にしがみ付いてしまってから、ふと我に返って自分の余りに大胆な行動が恥ずかしくなった。それで、かえって塚田さんの肩口に顔を埋めたまま視線を上げられなくなってしまって。
「大丈夫ですよ。落としたりしません……」
でも、塚田さんは私の照れ隠しのそれを、落っことされる恐怖からのしがみ付きだと思われたみたいで。
(い、いえ、そういことじゃないのですっ、本当にすみません……)
それに……それに……この体勢は必然的に塚田さんに全体重を預けていることになるわけで……。
「あ、あの、塚田しゃん……。わ、私、重いれすのれっ」
必死に訴えたその言葉を小さく笑って黙殺すると、塚田さんはそのまま寝室の先にあるリビングを抜けて、お手洗いの前まで私を運んでくださった。
そこで私をそっと床に下ろしてから、
「一人で、行けそうですか?」
さすがに個室までついていくのはどうかと思うので……と笑う。そんな塚田さんに、私は真っ赤になってうつむいた。
「僕はリビングにいますので、転ばないように気をつけて。――何かあったらすぐに呼んでくださいね」
言って踵を返されたのを、私は半ば呆然と見送る。
塚田さんがリビングの扉を閉めるのを確認してから、私は壁にすがるようにしながら前進して、どうにかこうにか個室に入った。
そうしながら、さっき塚田さんに「私には許婚がいるんです」とちゃんと言えなかった自分のズルさに落ち込んでしまう。
許婚の存在なんて、塚田さんは父たちから聞いてとっくにご存知なんだろうな、と思いつつも、自分の口からは……健二さんのことを話したくない、と思ってしまった。
鷹槻れん

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#契約結婚
鷹槻れん

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コメント
2件
両思いପ(⑅︎ˊᵕˋ⑅︎)ଓ
塚田さんの「僕に関して言うならば」の言葉、重かったです……。彼が最初から全てを承知した上で、それでも真っ直ぐに向き合おうとしているのが伝わってきて胸が熱くなりました。お姫様抱っこからの「落としたりしません」の台詞に、ドキドキを通り越してクラクラしてしまいましたね。一方で、健二さんの存在を引きずったままの主人公の罪悪感もリアルで、このもどかしい三角関係の行方が気になります。