病院から帰ると、なぜかすごく体が疲れていて、ソファに座り込んでしまった。
「あー寒っ」
コートを脱ぐと冷たい空気が体に触れた。思わず身震いするほどで、急いで暖房をつける。
コートをハンガーにかけて、暖房がきくまでとブランケットをはおる。ここまでがいつもの私のルーティンになっている。
「もう6時か…」
結局あの後病院を出たのが3時で、色々用事を済ませていたらこんな時間になってしまった。
帰り際に寄ったコンビニの袋をたぐりよせ、ガサガサと適当に買った夕飯を取り出す。
「もうソファで食べていいよね」
そういえば颯介はソファで物を食べるのを嫌っていた。私ももちろん椅子に座ってご飯は食べるけど、1人のときのご飯や、お菓子はソファで食べてしまう。
小さい頃からの教育で、それが根付いてしまっていて、どうも今もそのままらしい。
「育ちがいいんだな」と颯介が言い、「育ちが悪くてごめんなさいね」と私が軽くにらんで返して、2人で笑ったのを思い出した。
こんぶのおにぎりと唐揚げのパックを開けて、膝の上に置く。
テレビをつけるとクイズ番組がやっていて、別に好きなわけでもないけれど、チャンネルを変えるのは面倒なのでそのままにした。
こんぶのおにぎりと唐揚げは、安定の味がした。嫌われることがなさそうで、今日は冒険していつも買わないものを、と思っても最後には買ってしまいそうな、そんな味。
ご飯を食べると何だか眠たくなってきて、そのまま横になってしまった。
「コンタクト外さなきゃなぁ…、あーメイクも落とさなきゃ…」
口に出しながら、体は全く動かない。いや、動こうともしていない。そのまま多分、眠りについていた。
寒いなぁとマフラーに顔をうずめると、目の前がキラキラっと光った。
「…え?」
目線をあげると、無数の白い光がきらめいていて、イルミネーションだと気がつくには少し時間がかかった。
遠くを見ると、赤や青など、さまざまな色があるようだった。周りにはイルミネーションを見ている人がたくさんいる。でも、顔はぼんやりとしていてよく分からない。
足元は石畳で、道の端っこには少し雪も積もっていた。
「は?え、雪?全然寒くないのに…。ど、どういうこと?」
ここはどこだ。いや、分かってる。もしかして、多分、ここは。
「寒いね~。ねえごめん、ココアがもう売り切れてて、カフェオレにしたんだけどいい?」
後ろから聞こえた声に、私の喉がひゅっとなった。その声に、反射的に振り向く。
「え…?ちょっと、どういうこと」
そこにいたのは、颯介だった。紛れもなくそこにいて、息をして、笑って、聞きたかった声で私に話しかけている。
何でここにいるんだろう。ていうか、なんで立っているんだろう。それより、なんで、なんで前みたいに…。
当たり前なのに奇跡としか言い様のない光景に、感情よりも先に涙が溢れた。
「どうしたの芙優ちゃん。ココアがよかったの?いやそんなわけないか。え、そうなの?だったらごめん!」
慌てふためく様子も、やっぱりおっとりしているところも、そうだ。間違えるわけない。
私は分かっている。多分これが夢だということも。さっきから寒さも何も感じないから。
でも、喜びを噛み締める以外に選択肢はなかった。
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