赤色矮星のあった星系を後にした私たちは、次の目的地を目指してゲートを潜った。もちろんその前にいまの星系で得られたデータを本星へ送信するのを忘れない。お仕事は大事だからね、ちゃんとやらないと。
「アリア、次の目的地までどのくらい掛かる?」
『トランク』に入った私は、リビングにあるソファーに座ってアリアに聞いてみる。
確か、今回より遠方にあったはず。すると、目の前に画面が現れてアリアの声が流される。
『到着まで十時間掛かりますよ、ティナ。それまでゆっくりと身体を休めることを推奨します』
うっわ、やっぱり時間が掛かるんだ。こればっかりはゲートを使ってもどうにもならない。数百光年を一気に進むんだから、恐ろしく速いのは間違いないんだけどね。
「じゃあ、私は休ませて貰うよ。アリアも緊急時以外は休眠してて」
『分かりました。到着する前にお知らせしますね。お休みなさい、ティナ』
「うん、お休みアリア」
娯楽文化に乏しいアードでは、暇潰しは読書か昼寝くらいしかやることがないんだよね。
娯楽に溢れていた地球が懐かしい。もし上手く交流できたら、地球の娯楽をアードに持ち込むのも面白いかもしれないね。
まっ、私は昼寝を選択するけど。おやすみなさーい。
『ティナ、ティナ。起きてください。間も無く目的地へ到着します』
「ん……おはよー、アリア。直ぐに準備するね」
手早く身なりを整えた私はリビングにある椅子に座り、“トランク”を出てコクピットに戻った。
ちなみに、私が乗ってるX型スターファイターに名前を付けたよ。“ギャラクシー号”!安直すぎるのは自覚してるけど、何もないよりはマシな筈。
『間も無くゲートアウトします』
「了解!次はどんな場所かなぁ」
ちなみにわざわざ調査する理由は、宇宙開発が低調になって長い年月で失われたデータが多いから、だよ。
宇宙開発局が保有してる技術って今じゃオーパーツ扱いだからね。
そう考えてると、極彩色の空間が途切れて満天の星の海に……って!
「デッカっ!?赤色巨星!?」
私の視界いっぱいに広がる巨大な恒星を前にして、私はつい叫んじゃった。いや、デカ過ぎるっ!
赤色巨星って言うのは、分かりやすく言えば燃料を使い果たして重力の関係なんかで膨張を続ける恒星のこと。どんどん大きくなって、星系にある星を飲み込んだり軌道を無理矢理変化させてしまうんだ。まあ、恒星のお爺ちゃんって感じかなぁ。
厳密には違うけど、白鳥座のリゲルが大きな恒星として有名かな。明るさは太陽より12万から27万9000倍。半径は太陽半径の79倍から115倍。訳分かんないよね。
観測する限り、目の前にある赤色巨星も太陽の8倍はあるんじゃないかな。ちなみに赤色矮星と違って大きな恒星は短命なんだ。燃費が悪くて、大体数千万年の寿命だと言われてる。
宇宙のスケールから見たら、短い時間なんだよ。想像も出来ないけど。
ついでに、今話したリゲルだけどそれより巨大な恒星。赤色超巨星何てものまであるからね。地球に居た頃はロマンで胸がときめいたよ。もちろん、今もね。
『ティナ、調査を開始しますよ』
「ん、了解。アリア、重力圏に入らないようにね」
相対性理論かな。重力の違いは時間の進むスピードにまで影響を与える。だから、重力圏に入らないように注意しないといけない。
『もちろんです。では、スキャンを開始します』
私は星系にある惑星の周りをくるりと一周して観測する。この作業を惑星の数だけ繰り返した。
まあ、でも予想通りかな。四つの惑星があったけど、水もないし生命活動も確認できなかった。
太陽の8倍。当然放出される熱エネルギー何かもそれに比例するから、まあ干上がっちゃってるよね。
早々に調査を切り上げた私は、次の目的地を目指そうと思った。
「これくらいで良いかな。アリア、次の目的地へ行こう」
『ティナ、問題が発生しました』
「うん?」
なんだろう?
『目的地751ゲートからの応答がなく、ゲートを接続できません』
「故障かな?観測できない?」
『現地から20光年離れた観測機による映像があります。20年前のものになりますが』
アリアは私に合わせてパースではなく光年を単位として使ってくれてる。
それと、ゲートを使わないから20光年離れた映像は20年前の姿になる。光として届くまでに20年掛かるからね。紛らわしいけど、それが宇宙なんだよねぇ。広い。うん。
「良いよ、映して」
そしてモニターに観測機から送られた映像が写って……あっ……。
「そっかー……あははっ、やっぱり宇宙って凄いや」
ゲートのあった星系は綺麗な星雲になってた。つまり、星間ガスの集まりだね。
……これってつまり。
『ゲート751の恒星は、赤色超巨星でした』
「だろうねぇ……そっかー……寿命かなぁ……綺麗だなぁ……」
赤色超巨星は、今居る赤色巨星より更に巨大な恒星で、寿命を間近に控えた恒星の姿でもあるんだ。
そして、寿命を迎えた巨大な恒星はとんでもない大爆発を起こす。
これが“超新星爆発”だね。
自分に付き従った惑星全てを飲み込む大爆発は無数の塵とガスを周辺にばらまき、これが周りの恒星の光に映し出された姿が星雲って呼ばれるものなんだ。
地球だと、“かに星雲”とか“イータカリーナ星雲”が好きだったなぁ。星の残骸。これが圧縮されてまた星が形成される。そのサイクルにロマンを感じる。
「アリア、観測データをそのまま保存してて。超新星爆発を起こしたなら、ゲートも吹き飛んでるだろうしね」
彗星が直撃しても大丈夫なんて謳い文句だけど、流石に超新星爆発は無理だよ。惑星を吹き飛ばしちゃうんだから。
『了解しました、レポートにはゲート751は超新星爆発によって消滅したと記録しておきます』
「お願い」
うん、星雲はいつ見ても綺麗だ。これが圧縮されてまた新しい星が産まれる。もちろん気の遠くなるような年月が掛かるから、その過程を見ることは出来ないけどね。
それでも、超新星爆発と星雲は宇宙を彩るロマンだと思う。星の海にはたくさんの魅力があるんだ。改めてそれを実感できるし、転生して良かったって思うよ。
しばらく感激していた私だけど、まだまだ旅は長いことを思い出した。
「よし。じゃあ次に行こっか、アリア」
『はい、ティナ。ゲートオープン。次の目的地へ向かいます』
今度はどんな出会いがあるのかな。どんな天体が私を迎えてくれるんだろう?
私は期待に胸を膨らませながらゲートを潜った。星の海の旅は、まだまだ続くんだから。
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