「僕が莉世さんを選んだ一番の理由は、一緒に居ると、心が休まるからです。マネージャーとして支えてくれていた時から安心感を感じていて、彼女が俺の恋人として傍に居てくれたらいいのにと考えていました」
「……けど、君と莉世とじゃ、年齢も離れているよね? ましてや君はまだ若いし、人気の芸能人。この先そういう女性と出逢う可能性だって十分にあるだろう?」
「いえ、それは絶対にありません」
「……何故、そこまで断言出来る?」
「僕が莉世さん以外の女性に興味が無いからです。莉世さんは女優やモデル、アイドルよりも魅力的だと思っているし、彼女以上の女性がいるとも思えません。もし、僕たちが駄目になるとすれば、それは莉世さんが僕の事を嫌いになるか、愛想を尽かすか……それだけです」
雪蛍くんの言葉に、お父さんは勿論、お母さんと私ですら呆気にとられていた。
そこまで断言されるとは思ってなかったし、何よりも、雪蛍くんの本音を聞けた事が嬉しかった。
「お父さん、心配してくれるのは嬉しいよ。でもね、私も雪蛍くんの事が本当に大切で、誰よりも素敵な人だって思ってる。私が雪蛍くんを嫌いなる事も、愛想を尽かす事も無いから、絶対大丈夫! 私たちは何があっても、二人で乗り越えていけるから」
私の言葉を聞いても相変わらず仏頂面のお父さん。
次はどんな質問をされるのか、内心ハラハラしている私の横に座っていた雪蛍くんが突然立ち上がると、
「相手が僕のような芸能人で、未熟者だから不安に思うのは無理も無いと思います。ですが、莉世さんを想う気持ちは誰にも負けません。これから先、出来る限り苦労はかけないつもりでいますし、何よりも、僕と一緒になって良かったと思ってもらえるよう、精一杯彼女を幸せにします。ですから――どうか、莉世さんとの結婚を許していただけないでしょうか? お願いします」
真っ直ぐ前を見据えてお父さんとお母さんに思いを伝えた彼は、深々と頭を下げた。
頭を下げ続ける雪蛍くんに倣って私も立ち上がると、
「お父さん、お母さん、私、雪蛍くんとなら幸せになれるって信じてる。やり甲斐のあったマネージャー業は引退しちゃうけど、それ以上にやりたい事が見つかったの。私は雪蛍くんと幸せな家庭を築きたい。その為にも、これからは家族として、傍に居たいから……だから、お願いします、私たちの結婚を許してください」
雪蛍くんとの未来を両親に訴えかけるように伝えて頭を下げた。
「――二人共、頭を上げなさい」
お父さんの声に私と雪蛍くんはほぼ同時に顔を上げる。
「二人共、座って?」
そして、お母さんからは座るように言われた事もあって、私たちは再び腰を下ろしてお父さんの方へ視線を向けると、
「二人の想いは分かった。渋谷くんも、本気で莉世の事を想っていてくれていると知って、私は安心したよ。大切な娘だからね、ついつい意地悪な事を言ってすまなかった。君のような誠実な青年が相手で私も安心したよ――こちらこそ、娘をよろしく頼みます」
これまでの不機嫌な表情から一変、いつもの優しい表情を浮かべたお父さんが、私たちの結婚を許してくれた。
「お父さん……」
「莉世、これからも彼をしっかり支えてあげなさい」
「うん、私、頑張るよ」
「それにしても、何だか実感が沸かないわねぇ、あの人気俳優の雪蛍くんが莉世の旦那さんになるだなんて」
「全く、母さんはそればっかりだな。ところで莉世、相手のご両親への挨拶は済んでいるのか?」
「あ、その、雪蛍くんのご両親は亡くなっていて、親代わりのお祖父様は事務所の社長だから、話はしてあるよ。お祖母様にはお会いしていないから、後でご挨拶に伺う予定だけど」
「そうか……知らなかったとは言え、申し訳ない」
「いえ、お気になさらず。両親は僕が物心つく前に亡くなっているので殆ど覚えがなくて、祖父母が両親みたいなものなので」
「それじゃあ、近い内に彼のお祖父様やお祖母様にお会いしないとな」
「うん、話しておくね」
「籍はいつ頃入れる予定なの?」
「まだ詳しくは決めていませんが、僕としてはなるべく早く入籍したいと考えています」
「そう。それじゃあ式なんかも、早いのかしらねぇ?」
「式の方は、社長と話し合ってみて……という感じになるかと思います」
「そうなのね。あら、それじゃあ式には芸能関係者も来るのかしら! やだわ、どうしましょう」
「お母さんったら……もう、ミーハーなんだから」
「ごめんなさいね。でも本当、嬉しいわね、莉世が結婚なんて」
「ああ、そうだな」
私たちの結婚を心から喜んでくれたお父さんとお母さん。
笑顔の二人を前にした私は嬉しくて泣きそうになった。
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