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65.
It Might Be Endless Loope. 終わらないループ ①
胸に痛みを感じた俺が涙目で顔を上げると驚いたことに
当時の部屋にいて側には由宇子がいた。
えっ?
俺は夢を見ているのか?
脚を抓ってみた。
イタイっ!!
元妻が言った。
「ねぇ、会社からの強制じゃないなら単身赴任は止めてもらえない?
私も子供たちを連れて一緒に行ければいいけれど、こちらで
自営(税理士)のお客様もたくさんついてるし、子供のこともあるし
何年で帰ってこれるかだけでも確定していれば、策も練らられる
けれど、それも分からないでしょ?
中途半端でまたこちらに帰って来ることを考えたら、就学時期を
跨ぐ形になる子供たちにも大きな負担を強いることになるし
だからってあなたにすぐにひとりで行かれたら私、不安だわ。
いろいろと……」
あの日と同じ台詞だ。
夢か幻か……エエイっ、夢幻でもいい元妻が俺に不安だと言ってるんだ。
ちゃんと答えろ、オレ。
「分かった、わかったよ。
仕事も大事だが君と子供たちが一番大切だからね。
俺も家族とは離れたくない。
すまない、この話しは忘れてくれ。
これまで仕事優先にしてきて申し訳なかったな。
これからもよろしくお願いしたい」
65-2☑
「あーっ、よかった」
元妻は涙目で言った。
「あなたが単身赴任決めちゃったらどうしようかって思った。
私たちのことを一番に考えてくれてほんとにうれしいわ。
ありがとう。
力一杯お仕事させてあげられなくてごめんなさい。
私のほうこそ、これからもよろしくお願いいたします」
俺たちの間には暖かい空気が流れていた。
どうなってるんだ?
俺は時空の違うふたつの世界を行き来したのか?
それとも単なる夢で、ずっと夢なのか。
そのまま俺は元の家族との夢の中? での生活が続いた。
会社でも俺は単身赴任しておらず、別の者が内定
単身赴任先へと旅立っていた。
◇ ◇ ◇ ◇
月日は流れ8年後
そして会社の件の同僚女子は独身のままだ。
このままだと以前というか別ワールドで単身赴任先から
帰って来た後の彼女との会話も勿論ないのだろう。
66.☑
It Might Be Endless Loope. 終わらないループ ②
夢なのか何なのか、とにかく単身先の俺の8年はなくなり
本来失くしてしまったはずの家族との生活が8年を過ぎて
いった。
とにかくどちらが現実でどちらが夢なのか
タイムスリップというヤツなのか、いろいろ考えうる思考を働かせて
みたが全く見当もつかない。
俺自身の気が変になったって可能性もあるのかもしれないが
俺はこちら側の妻や子供たちと暮らしている世界にずっといたいと思う。
あのぞっとするような地球上で独りボッチになったような感覚に陥った
苦しい現実世界には戻りたくなかった。
由宇子のあの時の呟きを思い出そうとした……
思い出した俺へのご褒美なんだきっと、と俺は考えた。
俺の意思が反映しているのか、そのまま俺は家族と一緒にいる世界で
ずっと過ごせている。
今では単身赴任先へ行ったほうの生活こそが夢だったのかと
思うほどになっている。
◇ ◇ ◇ ◇
夏になって妻の従姉弟が遊びに来た。
相変わらず綺麗な男だ。
昼食の後、子供たちにせがまれた妻が子供たちを連れて
近所のロー○ンまで出かけた折、従姉弟の薫くんが言った。
「大倉さん、こちら側の世界に来れたんですね、残念。
俺折角由宇子ちゃんと結婚できたのに、フフっ」
「えっ?」
「大倉さん、あちらの世界のこと覚えてますよね?」
「えっ、君は……」
「……っていうか、あっちでは由宇子ちゃんと結婚して幸せに
やってるので僕はこちらでは我慢しますよ?」
「君、何を……その知ってるんだ?」
シレっと恐ろしい? ことを囁いた薫くんは俺の質問に
答えることはなかった。
さっきの囁きは聞き間違えで幻聴だったのかと思えるほど
今まで通りの彼で先ほど俺に意味深なことを話しかけてきた時の顔つきは
もう彼の表情のどこにも見ることは出来ず、それ以上の会話は望めなかった。
67.☑
There ia not an Endless Loope. ループしない
いや、確かに彼が自分に(単身赴任を8年し、帰宅してみたら俺の妻が
元妻になって彼の妻になっていたという、あの別ワールドとしか言うことの
できない、)あのコトについて話しかけてきたのは現実のことだと思う。
そっか、やっぱり。
あちらの世界も続いているんだ。
あっちで寂しい生活を送っている俺のことは気に掛かるが
どうしようもない。
また日常の忙しさにかまけて妻に寂しい思いをさせたり蔑にしたりすれば
あちらの世界に戻されそうな気がする。
もうすでにあちらに俺が存在するのなら、こんな言い方は変だが。
とにかく俺は今ある幸せを大事にしようと思った。
当たり前にある幸せは、当たり前じゃないのだから。
それなのに、やっぱりこちら側でも気が付くと俺は妻から離婚を
突きつけられ、独りに戻った。
喧嘩などなかったじゃないか。
家族サービスも頑張った。
出来る時は、ちょっとした家事なども手伝ったし。
それなのに何がいけなかったというのだろう。
結局はこちらでも離婚されてあちら側と同じに
なってしまい、笑うしかなかった。
68 (最終話)
最初離婚された時は、幸いなことに由宇子の不満とその呟きを
思い起こしたことで、こちら側に飛んでこれた。
だが、今回は原因が分からない。
どこが不満なのか教えて欲しいと俺は由宇子に問うた。
今回も由宇子は聞こえるか聞こえないかの声音で呟いた。
「蛇の生殺し。
あなたといると蛇の生殺しなの。
だからもう耐えられない」
「どういうこと? 何のこと?」
だが、元妻は頑として口を割らなかった。
理由が分からないので修復のしようがない。
そのせいか? もう俺は2度と由宇子や子供たちと暮らす
新しい別ワールドへ飛んでいくことはできなかった。
その後俺は誰とも再婚しなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
還暦を迎えたある黄昏時、散歩がてらに寄った公園に腰掛けていると
子供を遊ばせながら話している小さな子連れの女性ふたりの会話が
聞くともなしに聞こえてきた。
片方の女性が放った言葉が胸に刺さった。
それはずっと長年どういう意味だったのだろうと
苦しい思いで胸に抱えていた元妻の言葉と同じだったから。
「私離婚しようと思うの」
「ついに決心したのね。
まだ若いものね。
このまま健康な夫婦がずっとレスだなんてあんまりだものね」
「好きな夫といるのに、性生活がないなんて毎日が
蛇の生殺しだわ」
「……」
「……」
「……」
――――――――― おしまい ――――――――――
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。