テラーノベル
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瓦礫に沈んだ怪獣の亡骸を背に、第三部隊はようやく息を整えていた。出力100%を一瞬解放した神楽るりは、口元の血を拭いながらも、鉄扇を畳んで腰に差し込む。
「……ふぅ。なんや、命が削れた気ぃするわ」
そう呟くと、次の瞬間、彼女の瞳がぎらりと輝いた。
「――せやけど今は……甘いもんが欲しゅうて堪らんのどす」
仲間が怪我人を搬送している最中、るりはふらふらと瓦礫の間を徘徊し始めた。
髪は乱れ、白い顔は土埃で真っ白。口元には血の跡。
そして低い声でぼそぼそと呟き出す。
「……大福……どこや……大福……」
まるでホラー映画の亡霊のように。
「ひっ!? な、なんやあれ!?」
「おい、るり姐が……こ、怖ぇ……」
若い隊員たちは青ざめて後ずさる。
薄暗い瓦礫の隙間から現れるその姿は、まるで貞子そのものだった。
「……うちの団子……返してぇなぁ……」
ぞわぁっと背筋に冷気が走り、隊員たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
その時。
「――こら、神楽」
低く鋭い声が響いた。振り返れば、保科副隊長が腕を組んで立っている。
その眼差しは呆れ半分、怒り半分だった。
「戦闘直後に怪談じみた真似すなや。部下が泣き出しとるやろ」
「……えぇ? うち、ちょっと甘いもん探してただけやのに……」
るりは頬を膨らませ、不満げに鉄扇をぱたんと閉じる。
保科は溜息をひとつ。
「……しゃあないな。後で大福でも買うたるさかい、もう人を脅かすんやめぇ」
その言葉に、るりの表情は一瞬でぱぁっと明るくなる。
「ほんま? さすが副隊長、話が分かるわぁ♪」
――かくして、第三部隊の隊員たちは「怪獣よりも怖いるり姐の甘味探し」を、この日忘れられないことになるのだった。
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