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落ち着こう。まず、尻尾を元に戻せるかどうかを試さないと。
尻尾を身体の内側に引っ込める感覚で引き戻すと、尻尾は徐々に縮み始め、最終的には元の長さに戻るどころか、足の一本半ほどの長さにまで縮まった。だが、これ以上は短くならないようだ。
元に戻せることが分かったので、もう一度尻尾を伸ばしてみる。
すると、特に勢いを付けたわけでもないのに、さもそれが当然のように尻尾はするすると伸び、再び四十歩ほどの距離まで伸ばすことが出来た。
今度は、素早く尻尾を縮めてみると、私が瞬きするよりも早く一番短い長さまで縮まった。
これは本当に、我ながら頼もしくも恐ろしい。ただでさえ危険視していた尻尾なわけだが、その危険度が一気に跳ね上がった。
出来てしまう以上は仕方がない。
危険だからと目を背けて使わないようにしていても、元から備わっている上に、排除することもできないのだ。
それはつまり、何らかの要因で無意識の内に使用してしまいかねない、と言うことでもある。
その時に傷付けたくない者を傷付けてしまっては目も当てられない。
ならば、十全に扱えるようにして咄嗟に使用しても、被害を最小限に抑えられるようにするべきだ。
あらかた私の能力の検証は済んだと考えていいだろう。これからは力の制御を完璧に行えるように訓練することにしよう。
そう言えば今朝から何も口にしていないことを思い出し、この場から動かずに果実のある場所まで尻尾を伸ばし、ヘタを切り取る。
果実が落下するより早く鰭剣《きけん》を横に倒して果実を剣の腹に乗せる。
そのまま果実を落とさないように尻尾を縮めていき、私の手元まで鰭剣を手繰り寄せて鰭剣の腹に乗った果実を右手で掴み取り、そのままかぶりつく。
うん、やはり、美味しい!
昨日の時点で移動の際に二十個ほど食べたが、まるで飽きる気配がない。
果実の味をじっくり楽しみながら、先ほど作った石でできた果実のオブジェクトを尻尾を使い、一つずつ私のところへ投げ飛ばす。
傷付けてしまわないように力を調節して左手の甲で上にはじき上げ、これを後十一回繰り返す。
計12個のオブジェクトを打ち上げたら、落下してきたオブジェクトを傷付けないように左右の膝で交互に蹴り上げ、再び左手の甲で砕かないように弾き上げる。
この動作をしばらく繰り返そう。オブジェクトを傷付けたり砕いてしまったらその都度、尻尾を操り新たに追加しておく。
数が足りなくなってきたら、壁からくり抜いて同じ大きさのオブジェクトを作るとしよう。
果実を食べ終わり右手が開いたので、三つ数を増やしてみた。
オブジェクトを破損させずに十周したら、その都度オブジェクトを一つずつ増やしていくことにしよう。
はて、これもジャグリングといえるのだろうか。ジャグリングということにしておこう。
尻尾を操り、通常時、縮ませた時、伸ばし切った時、縮ませながら、伸ばしながら、上下左右、右回転、左回転、それぞれ考えうるあらゆる動きを試してみる。
何でも無いことのように出来てしまっているが、これはかなり異常なことなのではないだろうか?
力加減を誤って何度かオブジェクトを破壊してしまっていることは置いておき、両手足を使いながら尻尾まで操るには、相応の情報処理能力が無ければまともにできないだろう。
それを容易に行えているのだ。私の情報処理能力は相当なものではないだろうか?
日が落ちて暗くなるころには、私は三十個のオブジェクトを安定してはじき上げ続けることが出来るようになっていた。
なお、それまでに破損させてしまったオブジェクトは五百個以上になる。まだまだ訓練は必要だ。
ふと、私は今日まともに飲食をしていないことに気づいた。
力の制御の訓練を始める際に尻尾を用いて手繰り寄せた果実一個だけだ。
匂いを頼りに尻尾を伸ばして三個の果実を採取し、さっそくそのうちの一つを手に取りかぶりつく。
…尻尾が伸びるという絵面に最初こそ気持ち悪さを覚えたが、慣れてくるとこれが便利で仕方がない。
なにせ離れた場所に手が届くようなものなのだ。この尻尾に頼り切ってグータラになってしまわないか、別の意味で危機感を覚えた。
そういえば、私は最初に意識を覚醒させてから今まで飲食はしたが、排泄行為は一切していないな。
今も排泄の欲求は無い。それに、昨日食べた二十個以上の果実はどこへ行ってしまったのだろうか?
そもそも、果実を食べているのはあくまでそれがとても美味いからであり、今まで空腹感と満腹感、そのどちらも抱いた覚えが無い。
ひょっとして私は、排泄の必要はおろか、食事の必要すらないのだろうか?
もしそうだとしたら、自分のことながらつくづく謎めいた存在だな、私は。
力の制御に関しては今はこのぐらいで満足しておくとしよう。果実も食べ終わったので、そろそろ今日は眠ることにする。
訓練をやるとしても、朝起きた時に今日一日中やっていたジャグリングを、オブジェクトの数を増やさずに百周するぐらいにとどめておこう。
明日からは森を散策してみようじゃないか。
生活環境を整えるためにも水が欲しいのだ。水の流れる音を頼りに川を探してみるとしよう。
それと並行して、森で生活しているであろう動物達を探すことも視野に入れておこう。
動物、ふさふさ、もこもこ、もふもふ、ふわふわ…。触れたらいいなぁ…。
まどろみに身を委ねて意識を手放す。
…身体に、温もりを感じ、閉じた瞼越しに明かりを感じる。どうやら日が昇ってきたらしい。
瞼を開けて身体を起こし、クレーターの外へと飛び出す。
伸びをして身体を慣らしている間に、尻尾を操って果実を一つ採取してこよう。
では、果実を食べながら、昨日行っていたジャグリングを行おうか。
片方の手は果実を持ちながらのため少々やり辛いが、できないことではない。
オブジェクトを投げ終わり、尻尾に暇ができたので、体重を尻尾に預けて、尻尾だけで立ってみる。
…意外と造作もなくバランスを保つことが出来ているな。
これで両足を同時に動かすことが出来るようになった。気が向いたら、膝ではなくつま先を使ってジャグリングをしてみるのもいいかもしれない。
昨日の就寝前に決めていたように、百周させた所でジャグリングを終わらせる。
寝起きで気が緩んでしまったのか、今回は十一個のオブジェクトを破損させてしまった。
ゆくゆくは、寝ぼけながらでもこの数のオブジェクトを完璧に回せるようになりたいものだ。
それでは、水を求めて川を探すとしよう。
果実を一つ、尻尾を使い手繰り寄せて齧りつく。うん、今日も変わらず、良い味だ。
耳に入ってくる水の流れる音に向かって歩を進めていく。今更になって気づいたことだが、川には魚がいるかもしれない。
今食べている果実以外の食料を得られる可能性を考えると、俄然やる気が溢れてくるな。力の加減を間違えないようにだけ注意するとしよう。
耳を澄ませながら二千歩ほど歩いたところだろうか?小さく樹木を削る音が聞こえてくる。
遠くから大きな何かが動いているらしく、小さな振動が私の足に伝わってくる。
この樹木を削る音はひょっとして、何かしらの動物が爪を研いでいる音ではないだろうか?
意識が覚醒してから、初の動物との邂逅の機会かもしれない。自然と鼓動が早くなる。だが、焦ってはいけない。ここで私が無駄にはしゃいで相手を驚かしてしまったら、警戒されて逃げられてしまうかもしれない。
ここは慎重に、音を立てずにゆっくりと樹木を削る音へと向かうとしよう。
水の流れる音からは若干遠ざかってしまうが、水が流れる音のする場所へは、後からでも行くことができる。
だが、動物の場合はそうもいかないだろう。それに、動物に会いたい私にとっては、こちらが優先されるのは至極当然といえるのだ。
もしかしたら、果実を渡してあげることで友好的になってくれるかもしれないと思い立ち、近くに実っていた果実を二つ取ってくる。
いや、ホントに便利だなこの尻尾。とりあえず、果実は二つとも左腕で抱えておくとしよう。
爪研ぎはもう十分なのか、木を削るような音は聞こえなくなっている。
だが、代わりに大きな動物が移動しているであろう四足歩行と思われる足音が聞こえてくる。
僥倖なことに、足音はこちらに近づいてきてくれている。
足音の大きさと地面から足に伝わる振動から、間違いなく私よりもずっと大きな体躯を持つ動物だ。
いよいよ動物に会えると思うと、興奮で鼻息が荒くなっていることが分かる。
冷静になろう。静かに深呼吸して呼吸を整える。
仲良くなれたらどうしようか?撫でさせてくれるだろうか?背中に乗せてくれるだろうか?毛皮にうずくまって頬擦りさせてもらえるだろうか?
この上なく楽しみだ。
だからこそ、この機会を無駄にしないよう、慎重に、落ち着いて行動しよう。